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鈴音響けば  作者: 秋本そら
約束の場所で
18/18

春の日

 ――あれから数ヶ月が経ち、春が来た。

 今日も、私は約束の場所に行く。

 ちりちりん、一歩踏み出すたびに鈴の音が鳴る。

 髪の毛につけられた、赤い紐と金色の鈴。みいやんがくれた、おくりもの。


『これがあたしにできる、せめてものおくりもの。この鈴をつけておけば、悪さをする妖の悪戯は減ると思うわ』

 その言葉の通り、あれ以来、謎の痛みに襲われたりするなどの現象は起こっていない。

『……あとこれは、あたしと優妃が友達だっていう、しるし』

 ぼそっ、と小声でみいやんが呟いたのを、私は聞き逃さなかった。

 彼女が私の髪に赤い紐を結びつけたあと、私は顔の向きをくるりと変え、コーヒーを彼女に差し出した。

『ちょっと冷めちゃったけど……これ、飲もうよ』

 私が差し出したそのカップを、みいやんはそっと受け取った。

『あたしたちが初めて会った日みたいね』

 そう言って、くすくすと笑いながら。


 ――ちりちり。

「おーい、みいやーん」

 コンビニの前、ベンチに腰掛ける彼女に向かって叫ぶと、彼女はぱあっと明るい表情になって立ち上がり、手を振ってくる。

 二つあった三つ編みは、一つになっている。それは多分、二本あった赤い紐のうち、一本を私にくれたから。

「会えて嬉しいわ、優妃」

「私もだよ」

 黄昏ていく空を見上げながら、今日も語らう。

「ねえ、今日は何があったの?」

「えーっと、今日はね……新しいお友達が出来たんだ」

「あら、どんな子なの?」

 興味津々な目で見つめてくるみいやんに、ついつい笑いがこぼれる。

「おーい、ちいちゃーん」

 新しい友達の名前を呼ぶと、私の横に、ふわりと小学生くらいの女の子が降り立った。

 ちいちゃんの、腰ほどまである真っ白な髪の毛が揺れる。

「まさか、この子って……」

「あの、はじめまして! 妖狐のチイです。ミヤさんとお友達になりたくて、それで呼んでもらいました」

 ぺこり、と元気よくお辞儀をする彼女を見て、みいやんは目を丸くする。

「……優妃、どういうこと?」

「道を歩いてたら、目の前でちいちゃんが転んじゃったから手当てしてあげたんだ。それがきっかけで仲良くなって……妖狐だってこともその時教えてくれたんだ。で、私、みいやんと仲がいいんだよって話をしたら、最初はびっくりしてたけど、ちゃんと説明したら会ってみたいって言ってたから」

 みいやんは呆れたようにため息をついた。

「……えっと、チイさん。あたし、みんなに怖がられてる妖だけど、それでもいいの? お友達に避けられるかもしれないわよ?」

「大丈夫です。そもそも、お友達はここにいるお二人しかいませんから」

「あたしのことも既に数に入れているのね……分かったわ。

 ――もう知っているかもしれないけれど、あたしは化け猫のミヤよ。優妃にはみいやんって呼ばれているの。よろしくね」

 呆れた声で、でも嬉しそうに笑いながら、みいやんは口にする。


 どこからか吹いてきた優しい風が、私とみいやんの髪につけられた鈴を鳴らして、消えていく。

 ――ちりちり。ちりちりん……。

 黄昏時の空に、鈴音が響く。

これにて「鈴音響けば」は完結となります!

いかがでしたでしょうか?

ブックマーク、評価、感想等頂けますと幸いです。


この小説は、冬の童話祭2020「おくりもの」参加作品です。


***


2021/01/05 追記

姉妹作として、最後に登場したチイちゃんの話を書きました。


「ちいさなチイちゃん」

https://ncode.syosetu.com/n1519gs/


気になる方は是非覗いてみてください。

こちらは冬の童話祭2021「さがしもの」参加作品です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 優しい気持ちになれる少し不思議な素敵なお話でした!
2023/12/27 19:48 退会済み
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