『始末屋』
「えっ?」
大丈夫だった? なんて訊かれても……。
「えっと、あの……どなたですか?」
「あっ、名乗るの忘れてたね。うちが中村顕子だよ。それで……もしかして、黒縁眼鏡の子に何かあったからうちを探してたのかな?」
確かにその通りだけど、黒縁眼鏡の子って……まあ、合ってるけど。
「私、優妃っていいます――はい、そうです。どうして分かったんですか?」
尋ねてみると、先輩は耳にかかっている焦げ茶色の髪をかき上げ、ひそやかにため息をついた。
「……優妃ちゃん、ちょっと後ろ向いてくれる?」
「え、あ、はい」
言われるがままに後ろを向く。少しの間の後、パチリ、と指を鳴らす音がした。
「もういいよ。……悪い妖の悪戯だね。悪戯にしては、ちょっとたちが悪いけど……」
再びため息をついて、先輩が教えてくれた。
どうやら私には、悪さをする妖による呪いがかかっていたらしい。そのまま放置しておくと、不幸に見舞われやすくなってしまうのだとか。それを、私が後ろを向いているうちに解いてくださったそうだ。ちなみに、会ってすぐに「大丈夫だった?」と訊いてしまったのは、呪いにかかっていることが一目で分かってしまったからだと言っていた。
「じゃあ、あの赤い痕も、呪いのせいなのかな」
「え? ちょっと待って、それ、詳しく訊かせて」
波津子の言葉に、真剣な顔、焦りの隠しきれない声で問い詰める先輩。
戸惑いながらも、三人でさっきのことを説明すると、先輩は参ったように、手を頭に当てた。
「――それは呪いのせいじゃないよ。別の、これもまた悪さをする妖の仕業だね……本来なら、複数の妖が一人に集中して悪戯を仕掛けるなんて起こらないのに……」
「そんなにたくさん、悪さをするのがいるんですか?」
彩ちゃんが尋ねると、「けっこういるよ」と答えが返ってきた。
「でも、もちろん妖たちも対策をとってる。人やほかの妖とかに悪さばっかりする奴は『始末屋』が倒す決まりになっててね。だから『始末屋』は、結構ほかの妖に恐れられてたりするみたいだよ」
『始末屋』――悪さをする妖を倒す妖のこと、ってことか。
「そんなのがあるんですね」
素直に面白い、と思った。どうしてかと訊かれても困るけど。
「うちも最近知ったから驚いたよ。しかも、今の『始末屋』のリーダーは女の子なんだって」
女の子……ってことは、まさか、人間?
「噂でしかないけどね。年齢不詳で、琥珀色の目をしてるって聞いたよ。尾提髪のその子は、いつも着物を着てるらしいの。赤い紐で髪を結んでて、それには鈴が付いているって」




