専門分野
「――中村、顕子先輩に?」
思わず聞き返すと、波津子はうなづく。
「さっき、優妃自身が言ってたでしょ。
――『不思議』がいつも、あなたにいいことをもたらすとは限らない。黄昏時は逢魔が時。何が起こるか分からない――って。
それ聞いて、もしかしたら赤い痕は、悪い『不思議』のせいなのかなって思って。だからあーやを呼んだんだ。あーやならきっと治せるだろうし、もしかしたら原因も分かるかもって思ったから」
「なるほど……」
波津子の発想力に感心していると、気まずそうな表情になった彩ちゃんが頭をかきながら「実は」と話を切り出した。
「あれ、何か魔法とは違うものが原因だな、とは思ったんだよね。魔法のせいなら原因も分かるけど、全然分からなかったから。……うちはあくまでも魔法使い。他の『不思議』――例えば妖とかのことは、よく知らない」
「あーやに原因が分からないなら、妖に詳しそうな人に聞くしかないかなって」
なるほど。うんうんとうなづきながら話を聞いていたけど、ふと、あることに気付く。
「それはいいと思うけど……先輩がどこにいるか、分かるの?」
「中村顕子先輩って、確か吹奏楽部員でしょ? なら、まず音楽室に行けば手掛かりは摑めるかなって」
――確かに。そういえば私も、吹奏楽部の友達から先輩の話を聞いた覚えがある。
「じゃ、音楽室行ってみようか!」
そう言った彩ちゃんは、唐突に私と波津子の手を取るなり「いくよっ!」と叫ぶ。
その瞬間、眩しすぎて目の前が真っ白に染まる。思わず目を閉じると、何処かに引っ張られていく感じがして、何も分からなくなった。
「なんで突然瞬間移動の魔法使うの! 日常的にあーやと一緒に瞬間移動してた私らならともかく、優妃はそんなことに慣れてる訳ないじゃん!」
「ご、ごめんって……」
波津子と彩ちゃんの言い争う声で、現実に引き戻される。目を開けてみると、そこは音楽室の前だった。
「……え?」
言い争いの内容からして、多分瞬間移動したんだろうけど……でも、何だか現実味がない。
「まあ、とりあえず、中に入ろうよ。ここにいても、どうしようもないしさ」
話を切り替えようと、半ば強引に言う彩ちゃん。
「そうだね」
話の持っていき方が強引だとしても言っていることは間違ってないし、言い争いがこれ以上続いても困る。私はうなづきながらそう答えて、ドアノブに手をかけようと一歩前に出る。
その瞬間、キイッと扉が軋みながら開き、中から女の人が出てきた。
「――わっ! びっくりした……って、吹部の子じゃないね。どうしたの?」
鳥のさえずりのような、高く澄んだ声だった。
「あ、あの、中村顕子さんって――」
「――えっ、ねえ、大丈夫だった?」
波津子が要件を言い終わる前に、突然女の人はそんなことを言い出した。
「……え?」
「今しゃべってた子じゃなくて……黒縁眼鏡の子」
女の人が見つめていたのは……私、だった。




