魔法の種明かし
いったん深呼吸して、頭の中を整理してみる。いろいろなことがいっぺんに起こりすぎて、頭がパンクしそうだ。
唐突に、謎の熱を持った痛みに襲われたこと。
痛い部分は赤い痕ができていたこと。
波津子が何故か、耳を澄ませるようなしぐさをしていたこと。
扉が開いたわけでもないのに、突然彩ちゃんが現れたこと。
彩ちゃんが、恐らく魔法で赤い痕と痛みを治してくれたこと。
そして彩ちゃんの見た目が、波津子の友達、舞ちゃんにそっくりだったこと。
それは、舞ちゃんの体に、舞ちゃんと彩ちゃん、二人の精神が同居しているからだということ。
それが『二重人格の魔法使い』の名の由来だということ。
……うん。とりあえず、言ってることは分かった。
「えっと……彩ちゃん、さっきはありがとう。今はもう、なんともないよ」
「それならよかった!」
私のことなんてそんなに知らないだろうに、彩ちゃんはそう言って嬉しそうに笑う。
さて、改めてちゃんとお礼も言ったことだし、気になったことをいろいろ訊いてみることにしよう。
「……ところで波津子、さっき耳を澄ませてたのって、あれ、何だったの?」
「ああ、あれ? 実はあれも、あーやの魔法なんだ。普段は目に見えないようになってるんだけど、ここ」
波津子はそう言いながら、右手の人差し指、その付け根を指した。
「ここにね、実は指輪をつけてるの。そこに息を吹きかけると――」
「――その感覚が、うちに伝わるようになってる」
彩ちゃんが波津子の言葉を引き継いだ。ピン、と右の人差し指をあげているから、もしかしたらそこに伝わるのかもしれない。
「そしたら、うちが心の中でなあちゃんに話しかけるの」
「その声を聞くために、耳を澄ませるしぐさをしていたんだ。ちなみにこの指輪、伝えたいことを念じれば、こっちの言葉をあーやに届けることもできるんだよ」
「そうそう」
二人の息の合った説明に、その内容に、私は驚くことしかできない。
「そうなんだ……。彩ちゃんが部屋に入ってきたとき、扉が軋む音がしなかったけど……それってもしかして、瞬間移動みたいなことしたの?」
私の問いに、うなづく彩ちゃん。
「うん、したよ。その方が早く着くからね」
扉の開く音がしなかったことについては、少し考えれば簡単に分かった。直接ここに移動してしまえば、扉を開ける必要がないから。
「あと、少し気になったんだけど……彩ちゃんと舞ちゃんの関係って、なんなの? どうして精神を同居させることになったの?」
「うーん……うちと舞の関係は、双子だよ。舞が姉で、うちが妹。どうして精神を同居させてるかは、話が長くなるから、時間があるときになあちゃんから聞いて」
「え、なんか責任重大な役を押し付けられた気がするんだけど」
突然名指しされたのもあってか、不機嫌そうにそう言う波津子に「なあちゃんも当事者の一人でしょ」と、彩ちゃんはあっけらかんと一言。そのやり取りがなんだか面白くて、笑いを堪えるのに苦労する羽目になった。
「ところで、うちも訊きたいことがあるんだけど……いいかな?」
彩ちゃんが……訊きたいこと?
「うん、いいけど……何?」
「あの赤い痕って、なんなの?」
「……分からない。出来るなら私が知りたいぐらいなんだよね」
そう答えると、明らかに残念そうにする彩ちゃん。なんだか申し訳ないけど、本当のことだ。
「ねえ、そのことについて、ひとつ提案があるんだけど」
突然そう言い出したのは、波津子だった。
「何?」
「なあに?」
見事に私と彩ちゃんの声が見事にハモる。
「――妖の血を引いてるって噂の、中村顕子先輩のところに行ってみない?」




