今日も、あの場所で
「――あ、いた」
私は今日も、あの子に会いに行く。
高校の帰り道、最寄駅から自宅に向かう途中にあるコンビニの、小さなベンチ。
そこに必ず、あの子はいつも座っている。
「おーい、みいやーん!」
私が呼べば、尾提髪の少女はこちらを振り返る。赤い紐で結ばれた黒髪は今日もつややかだった。
右に二つ、左に二つ。髪を縛る紐に付けられた鈴が、ちりちりと歌う。
「優妃、来てくれたのね!」
ふわり、と着物の袖を揺らしながら、手を振ってくる。
今日の着物は、紅、黄、橙——暖色系の色で染められた、落ち葉の柄だ。帯は青々とした葉の色をしている。
「みいやん、今日の着物もきれいだね」
「そういう優妃は、相変わらず制服よね」
「仕方ないじゃん、高校帰りなんだもん」
私が膨れると、みいやんは「あら、そうだったわね」と言うなりころころと笑う。
「いいわねえ、私も学校というものに行ってみたかったわ」
「え? 学校、行ったことないの?」
「……まあ、諸事情あって……ね」
猫のような釣り目が、すっと細い眉が、少し下がり、困ったように微笑む。
「……そっか」
ちりん、三つ編みの鈴が鳴る。
琥珀色をしたみいやんの目は、黄昏時の空を映して煌めいていた。
みいやんが学校に行ったことがないといわれても、なんとなく納得できてしまった。どうしてだろう。
もしかすると、彼女がどこか不思議な感じのする人だったからだろうか。
例えば、その琥珀色の目。外国人とのハーフなのかとも思ったけど、顔立ちは日本人そのものだから多分違う。カラーコンタクトかな、と思っているけど、未だにみいやん本人には確認が取れていない。
あと、みいやんはいつも着物を着ている。洋服を着ているところは想像もできない。
それに、今時髪をゴムではなく紐で結ぶ人もなかなかいないし、みいやんのように髪飾りに鈴をつける人は見たことがなかった。
口調もどこか書き言葉じみているし、こんな風に話す人に会ったことがない。
さらに言うと、私はみいやんのことをほとんど知らない。
例えば、本名を知らない。初めて会った日、私が名前を聞くと『あたしはみいやんと呼ばれているの』とだけ言った。『それって本当の名前なの?』と問うと『愛称よ。でも、いいでしょ?』と答えられ、何も言えなくなってしまった。
他にも、年齢を知らない。いつだかに『みいやんって何歳なの?』と訊いた時は『内緒よ。あたしの歳は勝手に想像してくれればいいわ』と言われた。けれど、みいやんは私と同じくらいにも、年下にも、年上にも見える。要するに、年齢不詳なのだ。
彼女がどこに住んでいるのかも聞いたことがないし、連絡先の交換もしていない。というか、連絡先に関しては、携帯を持っていないというので出来なかった。
そんな、ちょっと変わっているともいえる彼女と、このコンビニのベンチで語らうのが最近の楽しみだった。




