第四十七話 三神のお礼
その日は味噌田楽の準備をしていると、慈空が家を訪ねてきた。
(慈空さんが訪ねてくるなんて珍しいね)
「どうしたんでえ、慈空さん。勧進帳を廻しにきたのけえ」
時空が苦笑いで切り出した。
「寺の台所のやりくりにはいつも頭を悩ませています。だけど、今日は違いますよ。今日は、虎之助に頼みがあって来ました。今晩の計画が空いていたら、暮六ツに回向院に来てください」
「なんでえ、口入屋に仕事の依頼けえ。御住職の依頼ならいつでも、喜んで引き受けまさあ」
「宴の接待役を頼みたいのです」
「わかりやした。薪割か、湯沸し、配膳、なんでもござれだ」
「では、頼みましたよ」と慈空は帰っていく。
虎之助は田楽を焼いている途中だったので、味噌田楽は売り物にならなくなった。
味噌田楽は寺の小坊主たちへの土産にすると決めた。
暮六ツ前に起き出して、ひとっ風呂、浴びる。
味噌田楽の入った桶を天秤棒で担いで回向院に行く。
回向院の山門を潜って、庫裏に行く。
「ごめんくだせえ」と声を上げると、慈空が出てくる。
「ちょいと、味噌田楽を造ったんで、土産に持ってきやした。小坊主たちにでも振舞ってくだせえ」
「わかりました。心遣い感謝します。では、桶を置いて、こちらへ」
慈空は本堂へと案内する。本堂の周りには人気がなく、本堂は閉め切られていた。
(宴会の接待だが、大きな回向院を借りているわりに、ひっそりとしてらあ)
慈空が本堂の扉を開ける。中は置き行灯があるので、それなりに明るかった。
三人並んだお客を前に、円空が持て成している。三人のお客は気分がよさそうだった。
三人の客は皆、身の丈が六尺ある大男だった。三人は立派な角髪を結って、源平の頃の武士の格好していた。
虎之助の客人三人のうち一人には見覚えがあった。一人は箒神だった。
(なんでえ、並んでいる三人のうち、真ん中のは箒神だ。どういう集まりなんでい)
虎之助が本堂に入ると、慈空は退出して扉を閉めた。
客を持て成してしている円空が、虎之助に声を掛ける。
「さあ、虎之助よ。こっちに来なさい」
お客と差し向かいに座っている円空の横に座ると、箒神が話し出す。
「よく来たな、虎之助よ。まず簡単に紹介しよう。私の右側にいるのが厠神。左にいるのが竈神だ。今日は三神が集まって、回向院で接待を受けることになった」
「そうでやすか。あっしは、その手伝いをしに来たんですが、何を手伝えばいいんです」
円空がにこにこして告げる。
「手伝いは名目じゃ。三神に聞けば、それそれが虎之助を知っており、世話になった。そこで、虎之助に褒美を取らそう、という話になったわけじゃ」
「あっしは普段の行いを好き勝手にやっていただけでさあ。神様から褒美をいただくような立派な人間では、ありやせんぜ」
円空が真面目な顔をして勧める。
「以前、虎之助は自分の親が知りたいと寂しげに零していたであろう。厠神、箒神、竈神は出産やお産にも詳しい。知りたいなら、尋ねたらよい」
(そうか、御住職は俺の悩みを覚えていてくれたんだな)
虎之助は円空の横に危坐して三神に頭を下げた。
「なら、一つ、あっしの頼みを聞いてくだせえ、あっしは何者なんでしょう」
三神の眼がピカっと光った。三神は互いに顔を見合わせる。
(なんでえ、どうしたんでぇ、よくない結果が出たのけえ)
箒神が厳かな顔で告げる。
「虎之助よ。まず、わかった内容を告げる。お主は人間ではない。お主は龍宮に住む龍神の息子じゃ」
「じゃあ、俺の両親は龍だってことけえ」
箒神は真面目な顔をして語る。
「そうじゃ。で、これは神々の噂話なのだが、龍神の子は、酷く気性が荒かった。また、素行の悪さから、勘当されて人間界に落とされた、との話がある」
「俺が勘当された龍神の子? 神様の話じゃなきゃ、ちと信じられねえや」
箒神が渋い顔をする。
「すまんが、そこは噂なので、真相はわからぬ。だが、噂が真実なら素行が改まればいつか龍宮から迎えがくるやもしれぬ。もし、龍宮に戻れる日が来たら、我らも帰れるように口添えをしよう」
「ありがとうござえやす。龍神の迎えがいつ来るやわかりません。ですが。この虎之助、精一杯に生きて、その日を迎えてみせます」
円空がにこやかな顔で頷く。
「虎之助がここに来たのも何かの縁じゃ。儂もあと何年、生きられるかしれんが、加勢するぞ」
「御住職、ありがとうごぜえやす」
生きる事は旅であり、龍神の息子の虎之助の生命の旅は続く。
いつかは晴れて罪が許され、虎之助は龍宮に帰る。
その日は、まだ先だが、きっと訪れるであろう。奮闘せよ虎之助。
【了】
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【お知らせ】
口入屋江戸妖怪無頼帳にここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。残念ですが、本作品はここで一度、完結となります。
時代劇ファンタジーは初の挑戦でしたが、予想外にポイントが取れず、締めようと思いました。中身は悪くなかったとは思うのですが、江戸時代が受けなかったのかもしれません。中々思うようにいかないですね。では、また、別の作品でお会いしましょう。




