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第二十五話 狐をへこませろ

 夜になり地下御殿で鰻を売る。値段が十六文と格安のため、妖怪たちで今日も店は繁盛した。

 虎之助は山椒味噌を塗った鰻を焼く。その傍らで、家から持ってきた醤油を捌かれた鰻に塗って、上方風の鰻も焼く。


 焼きあがった上方風の鰻を食べる。

 山椒味噌で焼いた鰻より味はよかった。また、骨を取ってあるので食べ易くもあった。

(ほー、これが、上方の鰻ねえ、指摘されりゃ、こっちのほうが手軽に喰えるし味もいいや)


 感心していると、逆麻呂がまた現れる。

 逆麻呂は鰻の屋台の端で、火に掛かる醤油タレの鰻に気が付いた。

「おや、鰻屋さん。今日は鰻を裂いて売っているのかい。それに、醤油タレで味付けした鰻があるようだね。上方風の鰻だね。どうしたんだい?」

「へえ、逆麻呂さんのために仕入れておきました。一串どうでえ」


「私のために用意したというのなら、買うよ」

 逆麻呂は鰻の裏表を確認してから、口に入れる。

「ほう、これは上方風の鰻、と言いたいところだが、まず、焼きがなっちゃいない。でも、焼きの技術を屋台に求めるのは酷だ」

「焼き加減さえよければ問題ねえ、と?」


 逆麻呂が残念そうな顔をする。

「いいや。味付けが全然に駄目だね。醤油が良くない。醤油は関東のものだろう」

「へえ、そうですが」


 逆麻呂はさも得意げに語る。

「そうだろうね、やっぱり醤油は上方に限るね」

 見下した顔で自慢すると、逆麻呂は銭を払って帰って行った。

(何か、ここまで来たら、腹が立つね。どうにか、あの狐野郎に美味いと言わせたいねえ)


 江戸に戻って醤油屋を回ることも考えた。だが、醤油屋を回って解決できるなら、恵比寿屋の主人が既にどうにかしているはず。

(御府内にねえ美味い醤油か。あるとすりゃ、地下御殿か)

 だが、地下御殿は勝手がわからない。さて、どうしたものかと考えていると、豆吉がやってきた。

「こんばんは、虎之助さん。鰻の安売りをしているんだってね。評判だよ。一串、売ってくれよ」


(待てよ。醤油といえば大豆だ。豆腐も大豆から作るな)

 虎之助は醤油を塗った鰻を焼いて豆吉に出す。

「なあ、豆吉さん。逆麻呂に不味いと言わせねえ醤油って、裏御殿にあるけえ」


 豆吉はあっさりと認めた。

「あるよ。逆麻呂が地下御殿に持ち込んでいる醤油だよ」

「逆麻呂って、醤油屋なのけえ?」


 豆吉は機嫌よく鰻を食いなら教えてくれた。

「逆麻呂は最近まで船で裏当帰を積んでいって、上方から味噌や醤油を運んで売りに来ていた商人だよ」

「でも、裏当帰って盗まれた上に、転作の最中で作ってないよな」


「そうだね。だから、上方から品物を運んでくるだけだね。それで、復路の荷がないんであまり儲けがない。だから、何かを商いの種を欲しているようだね」

(うん、待てよ? もしかして、逆麻呂の醤油って湊屋の格別なやつか?)

「逆麻呂の醤油って、人間の湊屋に卸しているだろう」


 豆吉は考える素振りをする。

「誰を相手に、どんな商売をしているかは、知らねえ。ただ、逆麻呂は人間に化けるのがうまいから、人間相手に醤油を売っていたかもしれねえな」

「そうか。それで、醤油がねえと、恵比寿屋が困ったのか?」


 豆吉は鰻を喰い終わると、気のよい顔で申し出た。

「何でぇ、虎之助さんは美味い醤油が欲しいのけえ。なら、妖怪が作ったものでよければわけてあげようか」

「豆吉さん、美味い溜り醤油を持っているのけえ」


「銚子にいる親戚に、醤油小僧ってのがいるんでえ。その、醤油小僧の作った醤油だよ」

(大豆繋がりの親戚妖怪か。言われりゃ、いそうだな)

「一つ気になるんだが、醤油小僧の醤油は人間でも食べられる醤油なのけえ」


「人間が食べると腹を壊すっていうが、一度、沸かせば、問題ないそうだよ」

「わかった。なら、その醤油を分けてくれ」


 豆腐屋小僧は鰻を喰い終わると、一升徳利を持ってきてくれた。

 家に帰って鍋で醤油を沸かして、木綿で濾す。醤油徳利を綺麗に洗って乾かしてから、熱い醤油を冷まして入れる。それから、味を見る。醤油は虎之助の家で使っているものより、味も濃くも、甘みも断然に強い醤油だった。

「よし、この醤油で逆麻呂を黙らせよう」


 翌日も漁師から鰻を買って回る。

 喜平と仲間の魚屋に手間賃を払って、鰻を捌いてもらった。

 骨と内臓を取り除いた百尾の鰻の全てに串に刺す。

(よし、この鰻に醤油を塗って、今晩、大勝負でえ)


 夜に屋台を出しに行くと、気の早い妖怪たちはすでに待っていた。

「今日は、上方風の醤油タレの鰻があるよ。手間が掛っているが値段は同じでえ」

 地下御殿の妖怪たちは上方風の鰻と聞き、ちょっと躊躇う。

 だが、値段が同じだったので河童が買う。


 河童が鰻を食べて、感心する。

「上方じゃあ、鰻の骨をとって醤油タレで食べるのけえ。こいつは確かに手軽で美味(うめ)えや」

「だろう、これは逆麻呂に美味いって言わせようと思って作った鰻だよ」


 河童が虎之助の言葉を疑う。

「この鰻は美味えが、あの、逆麻呂が美味いって認めるかね」

「ねえねえ」と他の妖怪たちが噂していたが、噂がぴたっと止まる。

 妖怪たちが道を空けると、弁財入道と逆麻呂がやってきた。

(おや、弁財入道も一緒だね)


 弁財入道が大きな目でジロリと虎之助を睨む。

「しばらく見ないと思ったら、こんなところで鰻を売っていたのか」

「へえ、どうですか、弁財入道の旦那。今日は上方風の鰻を売ってやすよ」


 弁財入道はどんと構えて大物ぶって述べる。

「知っておる。逆麻呂から地下御殿内で上方風の鰻を出す屋台があると聞いてやってきた。その、上方風の鰻とやらを、出してもらおうか」

 逆麻呂が五串分の銭を払ったので、上方風の鰻を弁財入道と逆麻呂に出した。


 弁財入道が鰻を口にすると顔が綻ぶ。

「これが上方風か。鰻を腹開きにして(さば)いて、骨が除かれておる。タレも一般的な山椒味噌ではなく、醤油タレか。うむ、美味(うめ)え」

 逆麻呂が上品な態度で意見する。

「昨日より、味の改良がされていますね。上方の醤油には劣るが、この醤油は味も良い」

(素直に認めたね。やっぱり、あの醤油は美味いんだな)


「へえ、お口にあって嬉しいです」

 弁財入道と逆麻呂は鰻の五串を食べると、満足そうな顔で帰って行った。

 屋台の周りにいた妖怪が上方風の鰻に興味を持った。

「俺にも上方風の鰻をくれ」

「こっちも、一串、上方風の鰻を頼むぜ」


 注文に応えると、鰻はあるが、用意した醤油がなくなった。

 後から来た妖怪は上方風の鰻がないと聞くと、がっかりする。

 それでも、山椒味噌があるので、鰻百尾は完売した。

「よし、三日間、鰻を売り切ったぜ」


 鰻の屋台をしまおうとすると、狐の小僧が話し掛けてくる。

「虎之助さんですね。逆麻呂様から話があるそうなので、明日、夜五ツに弁財入道様の屋敷に来ていただけますか」

「明日は予定がねえから、別にいいぜ」


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