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第十八話 裏当帰の値段

 朝になったので薬問屋の尾張屋に顔を出す。

「御免よ、旦那さんに頼まれていた薬草が手に入ったぜ」

 番頭の荘左衛門が出てくる。荘左衛門は籠から薬草の束を取り出して観察する。

「茎は太いし葉の状態も良いですね。物としては充分な品ですな」

(即悪品を掴まされたわけではねえんだな)


「裏当帰なんだが、けっこう高く付いたぜ、十五斤(九㎏)で銀三十匁。あと仲介に入った奴の土産代に銀が十九匁で合わせて、銀四十九匁でえ」

 値段を聞くと荘左衛門の顔が曇る。

「銀四十九匁ですか、それはまた、よい値段ですな」


「その値段なら要らねえか?」

 荘左衛門は思案しながら語る。

「いいえ、上方から取り寄せることを考えれば、まだ安いです。それに品もよい」

(なんでえ、御府内の地下で作っているのに、人間が手に入れようとすれば上方から取り寄せになるのか。何か無駄な手間が掛かってるな)


 荘左衛門は買い付け代金と報酬として、銀六十匁を払ってくれた。

「じゃあ、品物を納めたから、あっしはこれで」

 虎之助が帰ろうとすると、荘左衛門が引き止める。

「待ってください。もっと手に入りませんかね」


「何でえ、あとどれくらい欲しんでえ」

 荘左衛門は真面目な顔をして頼んで来た。

「裏当帰は御府内では、まだ滅多に出回らない品です。今の内に手に入るなら手に入れておきたい」

「でもなあ、裏当帰の流れを仕切っている妖怪は強欲妖怪だからな。きっとまた欲しいといったら、また値を吊り上げてくるぜ」


 荘左衛門は弱った顔で頼んだ。

「それでもこれだけだと、手持ちが心許(こころもと)ない。頼みますよ」

「わかりやした。明日も買ってきやそう」


 昨日と同じ値段でも、量が三倍なら買い取りに銀九十匁は掛かる。もしかすると次は二倍を吹っ掛けてくると見て、銀百八十匁を準備しておく。

 さらに何かあった場合を考えて、二両を準備しておく。合わせて銀百八十匁と金二両を用意して地下御殿に下りた。


 おシマの名を呼んでも、おシマは現れない。

 胡蝶の名を呼んでみるが、胡蝶も現れなかった。

「何でえ、二人とも留守けえ」


 しかたなく、一人で弁財入道の屋敷の裏門に行く。裏門は閉まっていた。

「ごめんくさださいまし」と声を掛ける。

 門にあった小窓が開いて、骸骨の番士がこっちを覗く。

「また、裏当帰を売ってほしいんですが」


 番士はぴしゃりと小窓を閉めた。

(これは駄目だめ、誰か妖怪と一緒じゃねえと、門を開けてくれないね)

 おシマを探しに集会場になっている寺に行こうかと考えていると、裏門が開く。

 そこには、虎之助と同じ身長になった弁財入道が立っていた。

「また、来たのか。今度は何の用だ」


「へえ、裏当帰を売ってくだせえ。今回は前回の三倍の量をお願いしやす。銀も用意してきやした」

 弁財入道は踏ん反り返って価格を告げる。

「よし、なら、銀二百十六匁で売ってやろう」

(こいつ、露骨に足元を見てきやがった。嫌なやろうだぜ)


「それは高過ぎらあ、前回の倍以上の値段だぜえ」

 弁財入道は得意顔で話す。

「前回はおシマがいた。だから、おシマの顔で値引きしてやったのだ。今回はおシマがいない。だから、この値段だ。嫌ならいいんだぞ、買わなくて」


「なら、おシマさんを捜してきやすよ」

 弁財入道は意地の悪い笑みを浮かべて返す。

「おっと、忠告しておくが、このあとすぐに上方に薬草を運ぶ手筈になっておる。今を逃すと、おシマがいたとしても買えないかもしれんぞ、儂だって、ない物は売れない」


(露骨に売らねえと来たか。こっちは立場が弱いからやむなしか。下手に粘っても、この手の手合いは値上げしても値下げはしねえ)

「わかりやした。なら一両と銀百六十一匁で売ってください」


 弁財入道が馬鹿にした顔で告げる。

「おいおい、何を寝ぼけたことをほざいているんだ。今日の銀相場は一両で銀五十匁だ」

「それはねえでしょう。両替屋の相場は一両が銀五十五匁でしたぜ」


 弁財入道は冷たい態度で言ってのける。

「虎之助の相場は地上の相場だ。地下御殿の今日の相場は一両が銀五十匁だ」

(何か、こまかく、儲けやがって。いけすかねえが、ここでしか手に入らねえからなあ)

「わかりやしたよ。なら一両と銀百六十六匁を払いやす」


「素直でよろしい」

 弁財入道が赤鬼の下士に命令する

「おい、裏当帰を十二束、持ってきてやれ」

 弁財入道は機嫌よく屋敷の中に戻っていった。


 虎之助は裏当帰十二束を籠に入れて、担いで地上に戻る。

 夜が明けたので尾張屋に行く。

「裏当帰はもう手に入らないかもしれないぜ。独占しているやつが強欲で、値上げしてきやがった。また、買いに行けば、値上げしてくるぜ」


 荘左衛門の顔が不安に染まる。

「買い付けに、いくら掛かりました」

「一両と銀百六十六匁。四両以上の出費だよ」


 荘左衛門は腕組みして難しい顔をする。

「さすがにものがよくても、一斤で銀六匁を超えると痛いですなあ」

「これは、何か考えたほうがよいですぜ」

「そうしますね。では、これは今回の買い付け代金と報酬ですが、四両と銀二十一匁です」


 巾着に仕事料をしまうと、家に帰って眠る。

 金は貯まったので四日ほど働かずに休む。生活に余裕ができたので、料理屋に行ったり、芝居見物などをしたりして過ごした。


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