3聖女
聖女召喚。
それは異世界から聖女を召喚する儀式のことを指している。
異世界より召喚された聖なる乙女を聖女として信託を賜り世界を平和に導く役割を担う。
アラベスク国の言い伝えだった。
ただし儀式は手順を踏まずに行えばとんでもないことになる。
ましてや異世界の人間を召喚するには時空の結界を解くことになるのでとても危険な行為だった。
多くの聖職者、神官等の許可の元で行われるのだがそんな手順を踏まずに聖女を召喚してしまった所為で犠牲者が出たが王子は気にも留めていない。
聖女さえ召喚できればどうでもいいと思っていたのだ。
聖女として呼ばれた亜美はこの国の王子に手厚く歓迎されるも本人は状況が理解できていなかった。
「聖女殿に我らを導いていただきたい」
「導くって…何を」
いきなり連れこられて聖女にされた亜美は怯えた表情をしていた。
「邪悪な魔を封印し、この国を救ってほしい」
「神の信託が降りるその日まで我らがお傍に」
聖女として召喚されても何も知らない状態ではいけないと言う神官達だったが、亜美は恐怖心が芽生える。
「でも…」
「大丈夫だ、貴方が泣くことはない」
一人で周りには大人ばかりで怖くて仕方ない。
ふと、亜美は凪がいないことに気づく。
「あの…凪は」
「ナギ?一緒にいた者か?」
「聖女様と一緒に召喚された方は別の場所におります」
眉を顰める神官は特に興味のない表情をしていた。
「じゃあ私も…」
「なりません」
「どうして!」
一人では不安で押しつぶされそうになる。
せめて凪と一緒にいたいと思ったが神官が許さなかった。
「貴方は様は聖なる乙女です。聖女様が平民と一緒にいるなど許されません」
「じゃあ…ここに」
「ここは王族とそれに近しい方だけが入ることを許されるのです。聖女様の傍に相応しいもの以外は聖女様と言葉を交わすことも許されません」
「そんな…」
既に聖女として扱われ。
唯一の頼りである凪とは合うことも叶わないと言われ亜美は涙を流す。
「貴方が泣くことはない」
「うっ…ふっ!」
亜美を慰めようとするジョゼフだったが亜美は不安で震える。
「帰りたい!!」
「聖女殿…」
「うっ…ひっく!!」
昨日までは普通に学校に通い普通に友達と遊び笑い合っていた。
なのにいきなり知らない場所に連れて来られて訳の分からない状態で怯える亜美は泣くことしかできなかった。
こんなのは悪夢だ。
悪い夢に違いないと想いただ、泣くしかできなかった。
「神官」
「聖女様は動転しておられるのでしょう。しばらく様子を見ましょう」
「そうだな」
ジョゼフは侍女達に任せ一旦部屋を出ていくことにする。
「聖女様」
「‥‥‥‥」
「私は聖女様のお世話をさせていただきますシルビアと申します」
お辞儀をしながら挨拶をするも亜美はシルビアを見ることはなかった。
美亜にとって周りにいる人間は同じような作り笑顔を浮かべていて怖くてどうしようもなかった。
早く悪い夢から覚めて。
そう言いながら震えながら過ごしていた。