18不安
村に到着したと思えばスイッチが切れたように眠ってしまった凪。
「レグルス?」
「母さん、ナギが寝ちゃったんだ」
「まぁ、そうなの?」
お姫様抱っこで運んできたレグルスに笑みを浮かべる。
「何?」
「ふふっ…貴方が女の子を抱きかかえるなんてと思って」
「何言ってるんだよ」
頬を染めるレグルスにまた笑みを浮かべるレノア。
「女の子に興味がないレグルスがねぇ?」
「だから違うって!」
レグルスは自警団に所属し、正式な騎士ではないが腕っぷしもいい。
容姿も良くまっすぐな性格で隣町に女性からも好意的に見られるのだが異性に興味を持たなかった。
早くに父を亡くし母は病弱だったこともある。
何よりもレグルスに言い寄る女性は性格があまりよくなかったのだ。
貧しい村を毛嫌いし、病弱の母を持つレグルスを不憫に思っていたから。
病で寝たきりの母に近づくのも嫌そうな顔をしていた。
人の悪意に敏感なのと同時に下心にも敏感だったこともあってか必要以上仲良くしなかった。
(でも…ナギは違った)
計算なんてものはなく本能のまま進む。
かといって相手を労わる気持ちは十分に伝わり病気の母を見ても態度を変えることはなかった。
どれどころか料理を村の人達に振る舞い人を喜ばせることを心から喜ぶ優しい心根の持ち主だlと解った。
(温かかったんだ…)
凪の作ったスープを飲んだ時と同じように飾らない笑顔がとても温かいと感じた。
「ナギ…泣いてた。俺が戦場に出るんじゃないかって」
「そう…そうなって欲しくないけど。万一のことがあるわ」
自警団が戦場にでることはまずない。
ただ魔物の出現率が増え近衛騎士団や王立軍の手に負えなかった場合その可能性がないとは言えなかった。
「聖女様現れれば勇者とその仲間達も選ばれるわ。でも肝心の勇者はどこにいるか解らないのよね」
「早く表れてくれたらいいのに…哀しい思いをする人もいなくなるよ」
人がなく姿も傷つく姿も見たくなかった。
隣の村が焼かれ人々の嘆く声が日増しに聞こえてくる。
人に聞こえない声が聞こえるレグルスはいつも祈りながら眠る。
早く皆が安心して過ごせますようにと。
いつか聖女が地上に君臨し、聖女が勇者を導く。
そうすれば選ばれた仲間達がこの世界に蔓延る魔物を滅し平和に導いてくれるという伝説を信じていたがその兆しはなかった。
王都の暮らしは裕福でもその裏側は貧しく。
城下町に裏側は飢えに苦しむ人でいっぱいだった。
「これ以上失いたくない」
大切な人をもう失うのは耐えられないと心の中で涙を流すレグルスは静かに眠る凪の手をそっと握りしめた。




