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16生贄

今までテレビでしか見たことがなかった。

人が死んでいる姿を目の当たりにするのは初めてで。



(ここは私達がいた世界とは違う)



本当の意味で解っていなかった。

宮廷内にいて外がどうなっているかなんて知らずにいた。



「沢山の血…人が死んだの?」


村までに道のりに落ちている血。

すれ違いにまた荷台を運んでいる人がいる。



「また燃えてるの?」


煙が立つのを見て胸が絞めつけられる。



「私は…何も知らなかったんだ」


外の世界がどうなっていたかなんて知らなかった。



「レグルス…ジョニーおじさん!」



不安が押し寄せて来る。


もし村も同じようになっていたらと思うと気が気で仕方ない。



「キュー」


「大丈夫だよねパトラッシュ?」


パトラッシュを抱きしめる腕に力がこもる。




「レグルス…」


村に足を速め名前を呼ぶと。



「ナギ?」


「レグルス!!」



畑を耕す手伝いをしていたレグルスを見て飛びついた。



「わぁぁぁん!レグルス!!」


「えっ…ちょっ…どうしたんだ?」



いきなり体当たりをされその上しがみつかれて驚く。



「よぉレグルス!これか!」


「ヒューヒュー!!やるな!!」


「女の子泣かせるなんて罪だな!」


村の人達は女気のないレグルスにようやく恋人ができたのだと勘違いして冷やかす。



「レグルスが遺体になって丸焼きになってしまったんじゃないかって」


「ええ?何で?」



「村に来る途中遺体が遺体押し車に積まれてたの。野菜みたいに」


小さな荷台に並べられ紐で括り付けられた姿はまるで物扱いだった。



「私…動物の死体は慣れてるけど人の死体は初めてで」


(いや、年頃の女の子ならそれも怖いよ!!)


内心でツッコミを入れるレグルスだが、今は慰めることにした。



「私知らなかった…外がこんなことになってるなんて」


「あーうん。仕方ないよ。俺は王都の自警団に入っているから知ったけど」


「自警団って…」


王都の正式な軍人とは異なり小さな村や町の警護は人手不足の為自警団が行っている。



「レグルスも戦争とかに出るの?」


「俺達は自警団だから滅多に出ないけど…魔物が出たら」



ドクン!



ここは日本じゃない。


凪が生まれ育った国は未成年者で一般人が戦争に出ることはないが、この世界は違う。



「やだ…いっちゃやだ」


「ナギ?」


レグルスが死んでしまうかもしれない。



(お祖母ちゃんみたいにいなくなるなんてやだ)


唯一の肉親を亡くした凪は人がいなくなることに怯えていた。



「レグルスいなくなっちゃやだ」



この世界に来て放り出されてしまった凪にとって初めてできた友達だった。


美味しいを言ってくれた人。


孤独から救い出してくれたレグルスを失うなんて嫌だった。



「泣かないで、大丈夫だよ。俺が戦場にでることはないし」


「本当?」



「うん、自警団は主に村や町に自警だし。戦場に立つのは近衛騎士の仕事だし。それに聖女様が現れたんだ」


     ”聖女”



その言葉が引っかかる。



「魔物を封じる聖女様が現れ、勇者が現れる。だから大丈夫だよ」



「勇者?」


確かに聖女と勇者はセットだ。

ただしこの国のことは詳しく知らない。


「勇者は聖女様を守る剣であり盾なんだ。女神様の加護を与えられた存在だって言われているんだ」


ドクン…ドクン!



とても嫌な感じがした。


「数百年に一度女神様のお導きで選ばれる戦士がいる。その人達が魔を滅するって聞いている」



それがこの国の言い伝え。

亜美は聖女として異世界から召喚された。



そうなると次に現れる勇者が選ばれる。


(そんなの…)


希望だと言われているが、凪は希望だと思えなかった。



何故ならそれは生贄のようなものだと解っていたから。





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