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「私もお前に負けぬよう、立派に神主の仕事を務めましょう。さあ、いつもの掃除に行きなさい」
「はい、ありがとうございます!」
九曜は笑顔で頭を下げ、庭へ駆け出して行った。
「お祖父さまに褒められた」
厳格な祖父は決して大声で怒ったりしないものの、褒めることも滅多になかった。
今日のは励ます意味もあるだろうけど、言われたことは素直に嬉しい。
鼻歌を歌いながら、九曜は箒を動かす。
―だから油断していた。
この神社には結界が張り巡らされており、低級の異形のモノは入ることすら不可能。しかし…。
「こんにちは」
艶のある男性の声に、驚いて九曜は振り返った。
そこには黒い髪と黒い眼、そして透き通るような白い肌の美しい青年が一人いた。
「…こんにちは」
「キミ、九曜くんだよね? 久し振り」
「えっ?」
九曜は眼を丸くし、まじまじと青年を見た。
「…失礼ですけど会ったこと、ありますか?」
「うん、三年前だったかな? キミは小さくて可愛かった」
青年は思い出すように笑い、ポケットから小さな鏡の破片を取り出した。
「―覚えていない? ボクのこと」
そう言って顔の高さまで破片を上げた時、その顔が一瞬、あの異形のモノと重なった。
九曜の手から箒が落ちた。
九曜は大きく眼を見開き、震え出す。
「会いたかったよ、九曜くん。キミに会う為に、海を越えてやって来たんだ」
嬉しそうに微笑む顔を見て、背筋がゾッとした。
そして震える唇で、九曜は青年の名を呼んだ。
「魔鬼…」
【終わり】




