2.
「……ッ…!」
誰かの記憶が、激流のように流れ込んできた。
頭が痛い、なにこれ、誰、わたし?でも私はこんな場所も、人も知らない、
「…ゃ……!」
男が刃物を持って襲い掛かってくる様子が流れ込んできた。手の震えが止まらない。怖い、指先の感覚がない、寒い、嫌だ、怖い、嫌だ、どうして私が、なんで、歯の根が合わない、手の震えが、止まらない。
「リーテ?どうしたの? ………リーテ?」
心配そうに顔を覗き込まれる。
震えを止めようと強く握り込んでいたリーテの手を、少し大きな手がふんわりと包み込んだ。これ以上爪が食い込まないようにそっと広げて、優しく握り込まれる。
「リーテ、ゆっくり息を吐いて」
相手の規則正しい呼吸に合わせて息を吐き、吸い込む。
どれくらいそうしていただろうか、手の震えも止まり、もう大丈夫と伝えようとして上を見上げて、固まった。
「誰か」の記憶と自分の記憶が絵の具みたいに混ざり合って、頭の中がぐちゃぐちゃになる。あれ、いまわたしが見ているのは誰?そもそも私はだれ?わたし?私?
「、あ……」
「リーテ!?リーテ、リーテ、聞こえる?リーテ、リー…」
だんだん声が聞こえなくなっていく。同時に視界も暗くなっていく。何かハンマーみたいなもので殴られてるみたいに痛い、あれ、は、お兄様…?
▽▲▽
眩しい。
パチっと目を開く。寝起きはバッチリだ。
寝てる間に記憶の洪水も収まったらしく、頭の中はスッキリしている。自分の名前もわかる。
アシュリーテ・オルコット、弱冠11歳。
オルコット侯爵系の長女として生まれ、立派な淑女となる為、現在淑女教育真っ最中である。
そして思い当たった。
あぁ、あれは前世だ。でもあくまで前世であり、自分の意識としてはアシュリーテ・オルコットとしてが強い。
しかし、だ。
やはり11歳の少女には刺激が強かったのだろう。なんだか性格は利沙子の方に引き摺られている気がする。
コンコン
「…お嬢様?お目覚めになられたのですか?
アランです、入ってもよろしいでしょうか」
返事をしようとして、掠れた声しか出ないことに気づく。そういえば酷く喉が渇いた。
キョロキョロと周りを見渡すと、ベッドの横のサイドテーブルに水差しが置いてあった、水差しを掴もうと手を伸ばして、
ガタタッ
「!?」
「お嬢様っ!?」
慌てたような声が聞こえ、アランが部屋に入ってきた。自身の体重を支え切れず、ベッドから崩れ落ちたアシュリーテを抱き上げ、ベッドにそっと戻す。
どうやら自分の身体は予想外に弱っているようだ。アシュリーテ自身は昼寝してスッキリしたなーぐらいの気持ちだが案外身体の方はそうではないらしい。
出来る執事が横から水差しを差し出してくれたので素直に飲む。
「ふぅ、ありがとう」
一息ついてアランに礼を言い、アランを見上げると、何故かアランがビクッと目を見開いて硬直する。じわじわと瞳の色が熱っぽくなり、恍惚とした視線を感じる。
嫌 な 予 感 が す る
美少年と美少女が大好物です