村正
続きが書けました。
もう少し長めで書こうと思いましたが、とりあえずここまでで。
収まりが悪そうに頭をかいた木崎が真佐に目をやる。
「どこか行きたいところはあるか?」
真佐が考えるような仕草をする。
「この世界をもっと見てみたいかの」
善行寺がどうぞ、と手を動かす。
何かを納得したのか、木崎が3回程頷く。
「それじゃ、行くか。真佐」
善行寺が二人を手で追い払うと、関心はディスプレイの方に向いていた。
ディスプレイには、過去の殺人事件なのか、WEBニュースが開かれている。
木崎と真佐が外へ出て行く。
外へ出ると、アスファルトが湯気を上げるような暑苦しさを感じた。
「今日も暑いなぁ~」
「この世界の夏はこんなにもムシムシとするのじゃな」
「京都の夏は気温以上の暑さがあるからなぁ」
三条通を東に進むと、寺町通りにぶつかる。そこには屋根があり、アーケードの商店街となっている。
影に入り、ホッとする木崎。辺りをキョロキョロとする真佐。
「店がないのじゃな…」
「え?あるじゃないか。ほら」
木崎が指さす先には、シャッターが閉まった店。その前に大型の液晶が広告を映し出している。
「ほれ、これが店だ」
「これが、店か?」
「これが、店だ」
木崎がディスプレイをタッチする。シャッターの一部が開き、飲み物とタオルが出てくる。
それを真佐に渡す。
「ほれ」
「す、すまぬ…」
(マンガの中の店は違うのか?)
「人はおらんのじゃな?」
木崎がやっと納得したようで、はいはいはいと言いながら頷く。
「ああ!そういうことか」
木崎が真佐の手を掴み、小走りで南へ下って行く。
真佐の顔が赤い。
(暑さに弱いのか?屋根のある商店街に連れてきて正解だったか)
「ほら、真佐。お前の言っている店はこれのことだろ?」
真佐がまだ真っ赤な顔をして、何回も頷いている。
手を離し、木崎は手を腰にあて、人のいる店を眺めた。
(何度も頷いて…。人のいる店をそんな見たかったんだな。良かった。良かった)
「そういえば、人のいる店って最近は減ってきたな」
「そうなのか?」
「ああ、欲しいものを買うのに、人に説明してもらわなくても、たいていのものは買えるだろ?」
「それはそうじゃが。何か違う気もするの…。じゃが、なんだか未来へ来たようじゃ」
「未来か。俺も行ってみたいな」
「まぁ、私の場合は未来というより異世界に来ておるのじゃがな」
真佐が笑顔に強張りがなくなっていた。
(良かった。不安が薄れていればいいんだが)
「真佐。村正を探しに行こうか」
「い、いいのか?!」
「約束したろ?ただ、俺もそんなに詳しい訳じゃないから、あまり期待はしないでくれ」
下を向いた真佐。顔をあげた真佐の顔はまた赤い。
「あ、そ、その、あ、ありがとう…。き、キザキ」
(初めて名前を呼んでくれた)
「よし、行くか」
木崎が時計をタッチする。
四条通まで出ると、車が一台止まっていた。木崎がナンバーを確認する。
「これだ。乗るぞ、真佐」
「ちょっと待て!き、キザキ…。これはお前の車か?こんな所に置きっぱなしにしていたのか?それともタクシーか?」
乗り込もうとした木崎は困惑する。
「レンタカーだから、俺の車ではないな。さぁ乗るぞ」
後部座席に乗り込む木崎。それを見て、また呼び止めてくる真佐。
「ちょっと待て、私は運転できないぞ?」
木崎はやや訝しめな顔をする。
「運転は勝手にするから、まぁ乗れって」
納得がいかない様子のまま、真佐が車に乗り込んでくる。木崎の横に座る。刀は膝の上に置いている。
「こういう車も初めてか?」
「ああ、車とは人が運転するものばかりと思っていた」
「今の車は自動運転なんだよ。だから基本運転席もないし、社内も電車とかのボックス席みたいになっているだろ?」
「そうか………ハッ!!」
真佐が慌てて、木崎の向かい側の席に座る。また顔が赤い。
「暑いか?」
真佐が何度も首を横に振る。
四条通りを烏丸通も越え、堀川通に差し掛かろうとしている。
「木崎、これはどこに向かっておるのじゃ」
「二条城の方に行ってみてるんだ。城の辺りに行けば何かあるかと思ってな」
「そうか…、ありがとう」
真佐が刀を撫でている。
「真佐、聞きたかったんだが、村正ってどんな刀なんだ?」
真佐が鞘から刀を抜く。
「木崎。刀に色々と種類があるのは知っているか?」
「いや、種類があるんだろうな、ぐらいの認識だ」
真佐が刀身をを縦にし、顔の前に持ってくる。刃文が木崎に見えるように90度回転させる。カチャ
「この刀の刃文、少し垂れているような表情をしているのは分かるか?」
「表情?」
「ああ、すまない。私の里ではそう言っておってな。この波を打っているような模様のことじゃ」
木崎が少し近づき、目を細めて見つめる。
「ああ、これのことか。このザワザワザワっとした模様のことだろ?」
「そう、この模様にも種類があっての。この刀の刃文は丁子刃という」
「村正はまた違うのか?」
「村正は直刃に湾れが多いようじゃ。直刃というのは、すぅっと真っ直ぐとキレイな模様をいう。湾れとは、その真っ直ぐの模様が、こう、若干モワモワっとした状態になったものをいうのじゃ」
「色々とあるんだな」
刀の剣先を木崎に向けてくる真佐。真佐の表情に遊びのようなものがない。
剣先が目の前に置かれたが、真佐の真剣さが分かるのか、木崎は微動だにしない。
「私の父上は刀匠じゃったんじゃ」
「刀を作ってたのか」
「そうじゃ、これは父上が最後に作った刀での。名も無いが、これが形見となってしまったわい」
「その父上は…?」
真佐が刀を鞘に納める。
「父が最後に遺した言葉が『一度でいいから村正のような刀を打ってみたかった』というものじゃった」
「それで村正を…?」
「ああ、それまでは刀など、とんと興味を持っておらなかったんじゃがの」
「でも、それであの剣技はすごいんじゃないか」
「あれもいつの間にかできるようになっておったんじゃ」
「そうか…」
ちょうど二条城前に車が停車する。木崎が時計で決済をする。
二条城の傍に刀を売っている店があり、木崎が聞き込みに行く。
店主に事情を説明するが、村正はないとのこと。
「正真正銘の村正、千子村正というらしいが、こういった類のものは、博物館とかにあるようなものらしい」
「そうだったか…」
「まぁ、でもどこにあるか調べれば分かりそうだから、手に持つことは無理でも、現物を見るぐらいならどうにかなりそうだな」
「…」
少し間があり、顔を上げる真佐。
「そうだな…、ありがとう木崎」
「おう!急ぐものでもないし、まず腹ごしらえと行くか。ここを南に行けばお好み焼き屋がある。お好み焼き食ったことはあるか?」
「た、たこ焼きというやつは食したことはあるぞ」
「まぁ同じ粉もんだが、お好み焼きも美味いぞ」
木崎が真佐の手を引っ張る。
真佐がまた顔を赤らめたが、手を握り返し笑顔を向けてきた。
お好み焼きを食べ、マンガミュージアムに行き、真佐の情報を探してはみたが、手掛かりらしい手掛かりはなかった。
「すまなかったな。あまり役に立てなくて」
「いや、今日は楽しかった。礼を言う」
日が傾き始め、夕暮れになってきた。
「はっ!!そういれば…!!」
「ん?どうしたんじゃ?木崎」
「だ、大丈夫だ。い、いやこっちの話だ」
(今日、真佐はどこで寝ればいいんだ?いくらマンガのキャラクターとはいえ、同じ屋根の下はな…。かといってホテルに一人で泊まってもらうのも、これだけ現代社会と感覚にギャップがあるのに、不自由するかもしれない。どうすれば………善行寺に相談するか)
木崎が時計を操作し、善行寺に通信を入れる。
通信に出る善行寺。
「善行寺」
「社長と呼べ」
「………。善行寺。真佐の泊まる場所だが、お前何か考えはあるか…?」
「手配済だ」
そう言うと、善行寺が通信を間髪入れずに切断した。
(手配済みって何をだ?)
烏丸通を北へ上がり、丸太町の方にトボトボと歩いていると、二人の横に一台の車が寄せてくる。
ウインドウが開き、玲香が顔を出す。
「木崎さん。また犯罪ですか?」
「あ!玲香。そんな訳ないだろ。それより何の用だ!」
「私も嫌われたものですね。善行寺さんからの依頼で彼女を、真佐ちゃんを預かることになったんですが、用無しでしたかね」
「お、お前、真佐を泊めさせてくれるのか?」
「ええ、その予定でしたが、犯罪者木崎さんには邪魔なことでしたか?」
「色々とツッコみたいことはあるが、真佐を預かってくれるなら、助かる。ありがとう」
木崎が深々と礼をする。
なぜか慌てる玲香。
「こ、こんなことでそんな大げさな……。な、何も出ないですよ…!!」
真佐が木崎の袖を引っ張る。
「どうした?」
真佐の顔が明らかに不安そうだ。
玲香が車から出て、真佐の前でしゃがむ。
「私は、玲香。真佐ちゃん。不安は消せないかもしれないけど、安心して。女の子同士仲良くいきましょ!」
コクンと頷く。真佐。
「それにこの野獣の前にこんなカワイイ子を一緒にさせてたら、それこそ犯罪の温床よ」
真佐が理解できなかったのか、首を傾げる。
木崎が真佐の肩に手を置く。
「コイツは口は悪いが、善行寺が任せたぐらいだから、大丈夫なんだろう。今日は早めに寝て、ゆっくり休め」
真佐が元気よく頷く。
「木崎、ありがとう!また明日な。玲香とやら、世話になる」
玲香の乗ってきた車に玲香と真佐が乗り込む。
二人をその場で見送り、木崎も自宅へと歩く。