表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕事をクビになったら、異世界から来た女の子を捕まえることになった  作者: 藤原・インスパイア・十四六
刀の少女
6/32

村正

続きが書けました。

もう少し長めで書こうと思いましたが、とりあえずここまでで。

 収まりが悪そうに頭をかいた木崎が()()に目をやる。


「どこか行きたいところはあるか?」


 真佐が考えるような仕草をする。


「この世界をもっと見てみたいかの」


 善行寺がどうぞ、と手を動かす。

 何かを納得したのか、木崎が3回程頷(うなず)く。


 「それじゃ、行くか。真佐」


 善行寺が二人を手で追い払うと、関心はディスプレイの方に向いていた。

 ディスプレイには、過去の殺人事件なのか、WEBニュースが開かれている。

 木崎と真佐が外へ出て行く。



 外へ出ると、アスファルトが湯気を上げるような暑苦しさを感じた。


 「今日も暑いなぁ~」

 「この世界の夏はこんなにもムシムシとするのじゃな」

 「京都の夏は気温以上の暑さがあるからなぁ」


 三条通を東に進むと、寺町通りにぶつかる。そこには屋根があり、アーケードの商店街となっている。

 影に入り、ホッとする木崎。辺りをキョロキョロとする真佐。

 

 「店がないのじゃな…」

 「え?あるじゃないか。ほら」


 木崎が指さす先には、シャッターが閉まった店。その前に大型の液晶が広告を映し出している。

 

 「ほれ、これが店だ」

 「これが、店か?」

 「これが、店だ」


 木崎がディスプレイをタッチする。シャッターの一部が開き、飲み物とタオルが出てくる。

 それを真佐に渡す。


 「ほれ」

 「す、すまぬ…」


 (マンガの中の店は違うのか?)


 「人はおらんのじゃな?」


 木崎がやっと納得したようで、はいはいはいと言いながら頷く。


 「ああ!そういうことか」


 木崎が真佐の手を掴み、小走りで南へ下って行く。

 真佐の顔が赤い。


 (暑さに弱いのか?屋根のある商店街に連れてきて正解だったか)


 「ほら、真佐。お前の言っている店はこれのことだろ?」


 真佐がまだ真っ赤な顔をして、何回も頷いている。

 手を離し、木崎は手を腰にあて、人のいる店を眺めた。

 

 (何度も頷いて…。人のいる店をそんな見たかったんだな。良かった。良かった)

 

 「そういえば、人のいる店って最近は減ってきたな」

 「そうなのか?」

 「ああ、欲しいものを買うのに、人に説明してもらわなくても、たいていのものは買えるだろ?」

 「それはそうじゃが。何か違う気もするの…。じゃが、なんだか未来へ来たようじゃ」

 「未来か。俺も行ってみたいな」

 「まぁ、私の場合は未来というより異世界に来ておるのじゃがな」


 真佐が笑顔に強張りがなくなっていた。


 (良かった。不安が薄れていればいいんだが)


 「真佐。村正を探しに行こうか」

 「い、いいのか?!」

 「約束したろ?ただ、俺もそんなに詳しい訳じゃないから、あまり期待はしないでくれ」


 下を向いた真佐。顔をあげた真佐の顔はまた赤い。


 「あ、そ、その、あ、ありがとう…。き、キザキ」


 (初めて名前を呼んでくれた)


 「よし、行くか」


 木崎が時計をタッチする。

 四条通まで出ると、車が一台止まっていた。木崎がナンバーを確認する。


 「これだ。乗るぞ、真佐」

 「ちょっと待て!き、キザキ…。これはお前の車か?こんな所に置きっぱなしにしていたのか?それともタクシーか?」


 乗り込もうとした木崎は困惑する。


 「レンタカーだから、俺の車ではないな。さぁ乗るぞ」


 後部座席に乗り込む木崎。それを見て、また呼び止めてくる真佐。


 「ちょっと待て、私は運転できないぞ?」


 木崎はやや(いぶか)しめな顔をする。


 「運転は勝手にするから、まぁ乗れって」


 納得がいかない様子のまま、真佐が車に乗り込んでくる。木崎の横に座る。刀は膝の上に置いている。


 「こういう車も初めてか?」

 「ああ、車とは人が運転するものばかりと思っていた」

 「今の車は自動運転なんだよ。だから基本運転席もないし、社内も電車とかのボックス席みたいになっているだろ?」

 「そうか………ハッ!!」


 真佐が慌てて、木崎の向かい側の席に座る。また顔が赤い。


 「暑いか?」


 真佐が何度も首を横に振る。



 四条通りを烏丸通も越え、堀川通に差し掛かろうとしている。


 「木崎、これはどこに向かっておるのじゃ」

 「二条城の方に行ってみてるんだ。城の辺りに行けば何かあるかと思ってな」

 「そうか…、ありがとう」

 

 真佐が刀を撫でている。


 「真佐、聞きたかったんだが、村正ってどんな刀なんだ?」


 真佐が鞘から刀を抜く。


 「木崎。刀に色々と種類があるのは知っているか?」

 「いや、種類があるんだろうな、ぐらいの認識だ」

 

 真佐が刀身をを縦にし、顔の前に持ってくる。刃文が木崎に見えるように90度回転させる。カチャ


 「この刀の刃文、少し垂れているような表情をしているのは分かるか?」

 「表情?」

 「ああ、すまない。私の里ではそう言っておってな。この波を打っているような模様のことじゃ」

 

 木崎が少し近づき、目を細めて見つめる。


 「ああ、これのことか。このザワザワザワっとした模様のことだろ?」

 「そう、この模様にも種類があっての。この刀の刃文は丁子刃(ちょうじば)という」

 「村正はまた違うのか?」

 「村正は直刃(すぐは)(のた)れが多いようじゃ。直刃というのは、すぅっと真っ直ぐとキレイな模様をいう。湾れとは、その真っ直ぐの模様が、こう、若干モワモワっとした状態になったものをいうのじゃ」

 「色々とあるんだな」


 刀の剣先を木崎に向けてくる真佐。真佐の表情に遊びのようなものがない。

 剣先が目の前に置かれたが、真佐の真剣さが分かるのか、木崎は微動だにしない。


 「私の父上は刀匠じゃったんじゃ」

 「刀を作ってたのか」

 「そうじゃ、これは父上が最後に作った刀での。名も無いが、これが形見となってしまったわい」

 「その父上は…?」


 真佐が刀を鞘に納める。

 

 「父が最後に遺した言葉が『一度でいいから村正のような刀を打ってみたかった』というものじゃった」

 「それで村正を…?」

 「ああ、それまでは刀など、とんと興味を持っておらなかったんじゃがの」

 「でも、それであの剣技はすごいんじゃないか」

 「あれもいつの間にかできるようになっておったんじゃ」

 「そうか…」


 ちょうど二条城前に車が停車する。木崎が時計で決済をする。

 

 二条城の傍に刀を売っている店があり、木崎が聞き込みに行く。

 店主に事情を説明するが、村正はないとのこと。


 「正真正銘の村正、千子(せんご)村正というらしいが、こういった類のものは、博物館とかにあるようなものらしい」

 「そうだったか…」

 「まぁ、でもどこにあるか調べれば分かりそうだから、手に持つことは無理でも、現物を見るぐらいならどうにかなりそうだな」

 「…」


 少し間があり、顔を上げる真佐。

 

 「そうだな…、ありがとう木崎」

 「おう!急ぐものでもないし、まず腹ごしらえと行くか。ここを南に行けばお好み焼き屋がある。お好み焼き食ったことはあるか?」

 「た、たこ焼きというやつは食したことはあるぞ」

 「まぁ同じ粉もんだが、お好み焼きも美味いぞ」


 木崎が真佐の手を引っ張る。

 真佐がまた顔を赤らめたが、手を握り返し笑顔を向けてきた。


 お好み焼きを食べ、マンガミュージアムに行き、真佐の情報を探してはみたが、手掛かりらしい手掛かりはなかった。


 「すまなかったな。あまり役に立てなくて」

 「いや、今日は楽しかった。礼を言う」


 日が傾き始め、夕暮れになってきた。


 「はっ!!そういれば…!!」

 「ん?どうしたんじゃ?木崎」

 「だ、大丈夫だ。い、いやこっちの話だ」


 (今日、真佐はどこで寝ればいいんだ?いくらマンガのキャラクターとはいえ、同じ屋根の下はな…。かといってホテルに一人で泊まってもらうのも、これだけ現代社会と感覚にギャップがあるのに、不自由するかもしれない。どうすれば………善行寺に相談するか)


 木崎が時計を操作し、善行寺に通信を入れる。

 通信に出る善行寺。


 「善行寺」

 「社長と呼べ」

 「………。善行寺。真佐の泊まる場所だが、お前何か考えはあるか…?」

 「手配済だ」


 そう言うと、善行寺が通信を間髪入れずに切断した。


 (手配済みって何をだ?)


 烏丸通を北へ上がり、丸太町の方にトボトボと歩いていると、二人の横に一台の車が寄せてくる。


 ウインドウが開き、玲香が顔を出す。

 

 「木崎さん。また犯罪ですか?」

 「あ!玲香。そんな訳ないだろ。それより何の用だ!」

 「私も嫌われたものですね。善行寺さんからの依頼で彼女を、真佐ちゃんを預かることになったんですが、用無しでしたかね」

 「お、お前、真佐を泊めさせてくれるのか?」

 「ええ、その予定でしたが、犯罪者木崎さんには邪魔なことでしたか?」

 「色々とツッコみたいことはあるが、真佐を預かってくれるなら、助かる。ありがとう」


 木崎が深々と礼をする。

 なぜか慌てる玲香。


 「こ、こんなことでそんな大げさな……。な、何も出ないですよ…!!」


 真佐が木崎の袖を引っ張る。


 「どうした?」

 

 真佐の顔が明らかに不安そうだ。

 玲香が車から出て、真佐の前でしゃがむ。

 

 「私は、玲香。真佐ちゃん。不安は消せないかもしれないけど、安心して。女の子同士仲良くいきましょ!」

 

 コクンと頷く。真佐。


 「それにこの野獣の前にこんなカワイイ子を一緒にさせてたら、それこそ犯罪の温床よ」


 真佐が理解できなかったのか、首を(かし)げる。

 木崎が真佐の肩に手を置く。


 「コイツは口は悪いが、善行寺が任せたぐらいだから、大丈夫なんだろう。今日は早めに寝て、ゆっくり休め」


 真佐が元気よく頷く。


 「木崎、ありがとう!また明日な。玲香とやら、世話になる」

 

 玲香の乗ってきた車に玲香と真佐が乗り込む。


 二人をその場で見送り、木崎も自宅へと歩く。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ