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仕事をクビになったら、異世界から来た女の子を捕まえることになった  作者: 藤原・インスパイア・十四六
刀の少女
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一夜明け

続きが書けました。

これからも書いていければと思います。

 ステンドグラスから光が漏れる。色とりどりの明かりが今日の猛暑の訪れを和らげているのかのようだ。

 背もたれが板チョコのデザインに彫られた木のベンチで眠る少女。薄い毛布が掛けられた脇に座り込んで眠る大町。


 スースー


 二人から少し離れた所でオフィスチェアの肘あてに腕を置き、ふんぞり返るような姿勢で器用に眠る木崎。


 グーガガッ、グーガガガッ


 「チッ、お気楽な奴らめ…」


 木崎のイビキに気分を害されながら、空間に浮かんだディスプレイにタッチし、仕事をしている善行寺。


 グーガガッ、グーガガガガッ!ガー


 「はぁ~、気が散るイビキだ」


 善行寺が立ち上がり、背伸びをする。

 

 「セバスチャン、曲を。それとコーヒーを沸かしてくれ」

 善行寺の言葉に筒のような装置が反応する。液晶からは水筒程の大きさの執事が表示される。


 [かしこまりました。重治様]


 善行寺がキッチンへ向かう。キッチンにはコーヒーメイカーでドリップがされたばかりのコーヒーができていおり、コップに注ぐ。

 

 善行寺が戻ってきて、コーヒーを一口啜ったと同時に室内に大きな爆発音に似た音が轟く。

 

 ドコドコドコドコドコドコドコドコ


 あまりの音の大きさに跳ね起きる木崎と大町。


 「な、なんだ?!」


 声がかき消される程の爆音。


 ドコドコドコドコドコドコ


「やはりこの重圧感と疾走感を出すには、ツーバスが合うな」


 ニヤニヤとしながら、コーヒーをすする善行寺。

 ドコドコと鳴り続けるドラム音にエレキギターとベースを音が合わさり、メロディを奏でだす。

強さが出過ぎた音を覆うように哀愁の漂うキーボードが流れてくる。

 善行寺の顔が紅潮し、ディスプレイのタッチ速度も速くなる。


 「やはり朝は2010年代のメロデスが最高だ!」

 

 耳を塞いだ木崎が大町に近寄る。


 「ありゃ、なんだ??」

 「善行寺さんが好きなメタルです!」

 「ああ?あんだって?へヴィメタル??」


 (なんだこりゃ。うるせーな)

 

 いきなり、木崎の目の前に現れる善行寺。ズイ


 「聞き捨てならないな。これはメタルだ。日本人がへヴィメタルと口にする、その言葉そのものが偏見に満ちている。改めてもらおう」

 「でもよ、こんなうるせーの聴いてらんねぇな!」

 「そうか?ホレ」


 善行寺の示した先で、気持ちよさそうに寝ている少女。

 

 (なんで、こんなうるさい中で眠り続けられるんだ…?)


 「分かるヤツには分かるんだよ。メロデスが奏でる激しさの中にある悲しさ、このツンデレなメロディが」

 

 (訳わかんねぇな…)


 「まぁいい。今日はこのぐらいにしておいてやろう」


 善行寺がそう言うと、音が消えていった。

 急に静かになった室内。

 先ほどまでのツーバスのせいで胸が高鳴っているのを感じる木崎。胸に手をあてる。


「ほう、目覚めたか」

 「なに言ってやがる、俺はメタルなんか!」


 善行寺と視線が合っていないことに気付き、振り返る木崎。


 少女が目覚めていた。


 「やったー、起きましたよ!」


 大町が慌てて、キッチンへ走る。

 上半身だけ起こし、ボーっとしている少女。髪の毛がハネている。


 「ここは…?」


 少女が起き上がり、辺りを歩き回る。

 目で追う木崎と善行寺。


 ボーっとしたまま少女が尋ねてくる。


 「(かわや)はどこじゃ?」


 キッチンから走って急いで戻ってきた大町が案内する。


 (キャラクターでもトイレ行くんだぁ…)


 「こちらの人間となんら変わらないのかもしれんな…」


 善行寺が呟く。


 「おい、善行寺。」

 「社長と呼べ、木崎」

 「………」


 「おい善行寺。俺は昨日から入社のようだが、まだ社名も何も教えてもらっていない」

 「元デカともあろうヤツが、人から乞うて情報を得るのか?まさか」

 「いや、今まで公務員だったからな。雇用契約は重要なことだろ?よく知らないんだが」


 善行寺が考えるようなフリをする。

 

 「まぁ、いい。で、何を聞きたい?」

 「まずは、社名だ」

 「そこに書いてある」


 高価な横長の額縁の中に、ヒョロヒョロっとした文字で何か書いてある。


 「行書?」

 「楷書だ」


 善行寺の自信たっぷりな返答に、若干の戸惑いを覚えつつ、ある決意をする。

 

 (社名は後で大町にでも聞こう)


 「で、俺の雇用契約は?」

 「これだ」


 細かい文字でA3の紙にビッシリと書かれた書類が手渡された。

 目を通す木崎。


 「細かい所は色々気になるが、ここで働くよ。選べる立場でもないしな」

 「手続きは今するか?」


 少女がトイレから出てくる。


 「いや、また後でいい」


 少女がベンチに座り直す。

 大町が少女にホットミルクの入ったコップを手渡す。

 コップを包むように両手で掴む少女。


 「朝ご飯もできてるから、食べられそうなら食べてね」


 ホットミルクを一口飲んでから、コクンと頷く少女。


 (飲み物も飲むんだぁ…)


 「ミルクは飲む…と」


 善行寺がメモを取っている。


 大町が食事を持ってくる。和朝食のようだ。

 ツヤツヤとした炊き立て米に、漆のお椀に入った合わせの味噌汁が湯気を立てている。

 奥には焼き鮭があり、塩に漬かりすぎていない薄い赤色。先ほど焼き上がったところなのか、皮はパチパチと小さな音を立てている。


 (そういえば、俺も腹が減ったなぁ)


 少女が朝食に手をつけずにいる。


 「気に食わなかったかな?」

 「毒見は誰がするのじゃ?」


 木崎が少女に近付く。

 「おいおい、どういう感覚してんだ?」

 「まぁまぁ、木崎さん。」


 少女に向かって話す大町。


「ごめんね。毒見はどれをしようか?」


 少女が鮭を指す。

 大町が鮭を小さく一かけら食べる。

 見守る少女。


 「美味しくできてると思うよ?冷めないうちに食べて欲しいな」


 少女が頷く。


 「善行寺さんたちの分もありますから、席についてください」


 気に喰わない。そんな表情で椅子に腰を降ろす木崎。

 善行寺は仕事を続けている。


 温かい朝食が運ばれてくる。米の香りを含んだ湯気が食欲をそそる。

 味噌汁を箸で回し、一口。味噌の風味と温かさが身体に沁みる。


 (旨い…)


 間を空けず、米を箸で持ち上げ、一口。食べてわかる鼻から抜ける米の香り。舌全体に米の微かな甘さが広がる。

 

 (鮭はどうかな)

 

 鮭の背と腹を箸で二つに割り、背の方を口に放り込む。塩の塩梅が良く、鮭本来の風味と甘さを感じる。

 続いて、皮。

皮を剥がすと、裏にてらてらとした脂が出てくる。皮をくるくると丸くまとめ、口に運ぶ。


カシュ…カシュ…。


皮が心地の良いリズムを奏でる間に鮭の脂が口の中に沁みだしてくる。

脳が無意識に米を求めていた。


「大町、お前料理上手いんだなぁ~」

「お口に合いましたか。良かったです」

「ああ、これは口に合わない人間はいないだろうな」


 少女が箸を止め、口に手を当てている。


 (口に合わなかったのか、そもそも味覚なんてあるのか?)

 

 「――…しい…」

 「え?」

 「美味しい…」


 少女の顔がパッと明るくなる。


 「この朝餉(あさげ)、美味じゃ!」


 ウキウキと朝食を食べる少女。

 木崎も米をかきこむ。


 ――――――――――――――――


 「はぁ、美味かったぁ」

 

 少女も食べ終わり、食器を下げている。


 「飯も喰い終わった。さて、本題に入ろうか」

 

 そう言った善行寺を見て、食器を下げてきた少女が首を傾げる。


 「ここが君のいた世界と違うのは分かるかな?」


 食後の緑茶を一啜りし、茶柱を見つめながらぽつぽつと語り出す少女。


 「ああ、薄々感じておったことじゃがな。何もかもが複雑で細かい印象じゃ。先程の朝餉も今まで食べてきたものに比べ、味が単調的でなく美味であった」

 「なら、話が早い。で、君の名前は?」

 「………」

 「そういうことか。私が善行寺。コイツが木崎で、料理を作ったのが大町だ」

 「…()()という」

 「大町、真佐という侍風の少女がヒロインもしくは登場するマンガ、アニメ、ゲームを探してくれ」


 大町が「了解」と返事し、外に出て行く。

 

 「君の身元というか、元ネタが知れるまでここで保護することとなるが、よろしいかな?」

 「行く当てもないことだしな。しばらく面倒を見てもらうこととするか」


真佐が寂しそうな笑顔を作る。

 

 「その間の面倒は木崎、お前が見るんだぞ」


 椅子にもたれて暇そうにしていた木崎が跳ね起きる。

  

 「なんで俺なんだよ!大町の方が適任だろ?」

 「大町はアレで忙しい。貴様はビッグアイが出てこない限り、暇なんだからな」


 「面倒を見るって、どうすりゃいいんだ…」


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