大文字焼き
木崎は少女を捕まえることができるのか?!
(しまった…!!)
木崎が来てしまったのは、五山の送り火の『大』の字の位置にあたる山の中腹だった。
(よりによって、こんな場所に来てしまうとは…)
地元のボランティアや役員が大の字の薪に火を点け始めた。
木崎がどうするべきか悩んでいた、その時後方から駆け寄ってくる気配がした。
何かを切る音がした。シュパッ!
遅れて、一本杉の木が斜めに倒れる。
「村正をどこにやった」
(もう正気を失っている…。このままでは、民間人を巻き込みかねない…)
「む、村正の在処、知ってるぞ…」
元から大きな目がより大きくなる少女。
「こっちへ来い!」
少女に背を向け、場所を変えようとする木崎。平然と歩き出す。それに付いて行く少女。
『大』の字の全ての画が交わる中心部分まで来てから、山を降り始める木崎。歩幅を変えず、速さも変えず。
「おい」
少女に木崎が呼び止められる。
「本当に村正はあるんだろうな?」
「あ、ああ」
「どこにある?」
少女は中心部分から歩を進めず、木崎に付いてこない。
「いいから付いてこい…!!」
「奸計…じゃな?」
少女が膝を低くし、股を割り、抜刀の構え。
(やばい…!!)
木崎が被害を拡大させない為にも少女に背を向け、走る。下り斜面で走り難いが、そんなことも言ってられない。
刀を抜く音と同じくして、木崎が前転。バシュッ!!ドドドドン!!
音とずれて、とてつもない風圧が。さらに遅れて杉の木が何本も倒れる。
「私を謀ったか…。外道め!!」
少女が刀を振り落す。振り落した先に地面から石がでており、その石に刀が擦れる。キチッ!音の後、先ほどのように風が吹く。風に乗って火が地を這う。ボボボボ
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くつろいでいた善行寺は下から聞こえるどよめきと歓声により、山に目をやる。火が灯った山に例年にない違和感が…。まさか。
「こ、これは…!!」
「善行寺さん、『大』の字が『木』に…」
あまりの出来事に立ち上がった際に黒楽を手から滑らせてします善行寺。
割れた黒楽を見て、苦虫を噛む表情をし、大町を呼び出す。
「木崎は何をやってるんだ!!木になったぞ!木に!」
腕にした時計から、大町の笑い声が聞こえてくる。
善行寺は、話にならないと深々椅子に腰を落とす。ムスッとした表情をしている。
それを見た玲香がクスっと嗤った。
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(ど、どえらいことになっちまった…!!大の字が木の字になっちまった…!!)
昼のように明るくなったその場所に少女が近づいてくる。
「さて、村正の在処を教えてもうおうではないか」
頭を掻く木崎。
「さあ!早く吐け!」
少女が刀を抜き放つ。風圧が木崎の頬を掠める。
「次は外さぬ。さあ、言え」
木崎は何も言わず、天を仰ぎ大きく息を吐く。
少女が抜刀の構え。少女の表情が硬いが、木崎を睨みつけたままだ。
(とんだ一週間だった。痴漢犯にしたてあげられ、刑事をほぼ強制的に辞めさせられ、歴史に残るどえらいことをやらかして、最後にはよく分からない目のデカい少女に斬られるのか…)
少女はまだ抜刀の構えのまま。木崎を睨みつけている。
「き、斬るぞ…」
木崎が崩れるように下を向き、タバコの煙を吐くように息を吐く。
「斬ってしまうんだぞ…!!」
そう言ってなかなか動こうとしない少女にノシノシと近づく木崎。
「よ!寄るな!」
それでも木崎が近寄る。
木崎が両膝をつき、少女を抱き寄せる。
「なっ…!」
「君は、どこから来たか知らないが、怖かったんだな…。すまなかった…」
柄を強く握ろうとした少女の手から力が抜ける。
「村正がどこにあるか、本当は知らないんだ…。でも一緒に探そう。君が言う君の刀を」
少女の手から力が抜け、腕がダラーンと垂れる。
その時、木崎の頭の中に見覚えのない映像が浮かぶ。
少女と楽しそうに過ごす同い年ぐらいの少年。少女はいつも笑顔で刀を振り回している。そこに流れる空気に危なさはなく、和やかな雰囲気だ。少年も困った表情をしてはいるものの楽しそうである。
「ありがとう…」
そう言って気を失う少女。木崎の腕に身体を預ける格好となった。
大町がやっと追いついたのか、駆け寄ってきて息を切らしながら時計を見る。
「はぁはぁはぁ 10分を過ぎました…!」
だが、まだ少女は木崎の腕の中で眠っている。
それを見て驚く大町。
「あれ?あれ?あれれれえー??」
「何か寝ちまった… ハハハ…」
「見てはいけない、犯罪の臭いがする…」
殴り飛ばされる大町。ピュ~ン
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(府警にいた時の名残りか、新しい職場でもYシャツで来てしまうな)
木崎がレンガ作りの建物の重い木でできた扉を開く。
マンガを読んでいた大町が木崎に目をやる。
「あ、おはようございます!木崎さん」
コーヒーを淹れてきた善行寺も木崎に気付くも、あまり目を合わせず席についた。
「おはよう…」
木崎が自分の席につく。すると横からお茶が出された。
「お早ようござるな 木崎殿」
表情が解れ、笑顔の似合う少女がそこにいた。
「おう、ありがとう。真佐!」
ここまでが読み切りのような感じで作ってみました。