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仕事をクビになったら、異世界から来た女の子を捕まえることになった  作者: 藤原・インスパイア・十四六
刀の少女
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京都夏の風物詩

黒楽、赤楽ぺにょっとした形が良いですね。

クロスバイクで先程の現場に向かう二人。

突然の夕立で服は濡れてしまったが、夕立が上がるとムワッとした空気が漂う。


 (雨が降ってた方が気持ちいいぐらいだなこりゃ)


 「同じ所に向かっているが、今回は6回目だし、場所が変わるんだろ?」

 「ええ。でも近くではあるんです。これまでは…」


白川丸太町に着き、クロスバイクを降りる木崎。同時に溜息をつく。


 (これまでは、か…)


丸太町を東へ進み、なだらかな坂を歩いて登って行く。


 「木崎さん、知ってましたか?今日はお盆です」


 (知ってはいたが、刑事になってからカレンダー通りの生活にはあまり頓着がなくなっていたな。そういえば…)


 「霊が帰ってくる日ですよ…」


山に近付くにつれ、なにやら嫌な気配が…。


 (なんか纏わりつくような嫌な空気だな)


ズドン!

東にある山の中腹で木が一本倒れた。


 「現れました!木崎さん!」

 「よし!行くぞ!」


山沿いに北へ曲がる道を行こうとする大町。


 (回り道をしている場合じゃねぇ!ここは、真っ直ぐ突っきってやる!)

山の獣道を探し、ドンドンと木の倒れた方へ進む木崎。それを追い駆ける大町。

木崎は日ごろ鍛えているからか獣道の中でもドンドン先へ進んでいく。

後ろから大町の声が聞こえている。


 「待ってください。はぁはぁ…。木崎さん…!!」


 (鍛えが足りないねぇ。大町。後から付いて来るんだな)


 水がたまった所があり、それを飛び越え大町を引き離す木崎。坂道を登りながら水溜りを飛び越える、なんて脚力だ。

 木が伐り倒された現場に着く。だが、どこにも少女はいない。辺りを見回す木崎。


 (どこへ行きやがった…!はっ…!!)


 木の枝に乗った少女を木崎が視認した瞬間、少女が木崎の視野から消える。

 上を見上げると、より高い位置からの斬撃!落下音が聞こえてくる。


 シュ!!


 木崎がバランスを崩し、下に転がり落ちる。斬撃もかわせたようだ。


 (やばい。距離を縮めないことには…)


 「むらま…さ…」


 (まただ、何か言っている)


 少女が刀を見つめながら、また呟く。


 「むら…ま…さ」

 「むらまさ…」


 (むらまさ?)


 大町がやっと追いついてくる。


 「おい!大町!この子、むらまさと言ってるが、何のことだ?」

 「う~ん、焼酎ですか?」

 「それは村尾だ」

 「そっか、まぁ刀を見てるんだし、妖刀村正のことじゃないっすかね」


 少女が刀の刃先をなぞる。今にも壊れそうな程、不安な顔をしている。


 「私の村正…どこじゃ…?」


 (………?)


 少女の表情が険しくなり、睨んだ視線の先が自分に向いていることを自覚する木崎。


 「私の村正…!!!」


 少女が木崎の方に飛び込んでくる。縦の斬撃を左足を退き避け、相手の左手首を左手で。

 左腕を右手で掴み投げ飛ばす。


 「掴めた…!掴めたぞ…!!!」


 飛ばされるも空中で態勢を立て直し、着地する少女。


 「おのれ…!!」


 (やべっ、とりあえず距離をあけるか。少しでも広い方へ…!!)




――――――――――――――――――――――――――




 辺りは暗くなり、セミの鳴き声も止み始めている。

 レンガ作りの建物の屋上に扉があり、重い鉄の扉が開き善行寺が深緑の浴衣に濃紺の帯をし、黒の扇子を扇ぎながら現れる。

 手には、黒楽と赤楽のぐい呑みとガラス製の徳利が。外側が窪み、その窪みに氷が入れられるようになった徳利で、中に日本酒が入っている。


 「涼しげですね。心配じゃないないんですか?」


 玲香がパンツスーツのまま、用意された椅子に座らず、善行寺に問いかける。


 「彼が来た時点で、私の心配は全てなくなったよ」

 「ずいぶんと信頼されてるんですね」


 椅子に座った善行寺が黒楽のぐい呑みに徳利の日本酒を入れ、赤楽を玲香にかざす。

 玲香は手で止める。


 「勤務中ですので」


 善行寺の顔が街灯の灯りのあたり方で微笑んだように見える。

 善行寺が黒楽に口を付ける。背もたれに背中を預け、扇子を扇ぐ。

 くつろぐ善行寺を尻目に小さく咳払いをする玲香。


 「私は、あの人に嫌われたでしょうね」

 「誰のことだ?」


 黒楽を顔の横に置き、笑みを浮かべる善行寺。


 「分かってるくせに…!」


 足を組む善行寺。視線は、五山の送り火の大の字の山に向いている。


 「五山で炎が上がり、死者の霊をあの世へ送り届けるとされている五山の送り火。古都京都を代表する四大行事の一つとされている」


 善行寺が黒楽を口に寄せる。

 京都の夏には珍しく涼しい風が流れる。善行寺が徳利から日本酒を黒楽に注ぐ。


 「それにしてもビッグアイが創作物だったとはね…」

 「マンガかアニメ、ゲームといった創作物が元になっているということで府警並びに警視庁では固まっているようです」


 善行寺が机に並べられた資料に目を落とす。


 「ネットではUnidentified Mysterious Character 『UMC』と呼び、ビッグアイはそこにカテゴライズされ、騒がれているようだな」

 「カメラではビッグアイを撮影できることが多々あるようですし、こういった騒ぎは予想されていました。遅すぎたぐらいです」


 善行寺たちの高さから見える全ての五山で火が灯され始めた。


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