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敵襲

俺とシマムラは今、王女を背負い森にいる。

話せば長くはならないが、オークション会場を強襲して王女を奪取した俺たちは正式にお尋ね者になっているといえば話は早い。

そうお尋ね者は逃げるのが宿命、立ち向かう勇気も必要ではあるが、それはクライマックスの時だけでいい。頭のいいお尋ね者は逃げるのが定石なのだ。

「お前、今くだらないことを考えているだろう?」

シマムラは俺の考えを見透かすように睨みつけた。

「そんなことはない。とりあえず、森のアジトへと行けば少しは休めるだろう。」

「それまで、荷物を抱えて走るのは面倒だな。」

「かわいい女の子を担げるから役得だろう。」

「では代わってくれ、正直少し疲れた。」

シマムラはそう言って俺に王女を預けた。

話では15歳と聞いている。

出るとこは出ている素晴らしいプロポーションの少女だ。

寝顔はかなりの美人だ。俺的に将来は傾国の美女だろう。

体の柔らかさはかなりの物がある。

俺が彼女を肩に担ぐと薄い布から柔らかな二つのものが背中に触れる。

うむ、これは良いものだ。と素直にそう思った。

「んむ、」

どうやら、王女の腹の当たりどころが悪かったのか、彼女は想像より、普通な少女の声で寝言を発する。

「おい、サイトー国際問題はごめんだからもっと丁寧に扱え」

シマムラがそう言うが王女がオークションに出品された時点で国際問題だろうと俺はそう思う。

「きっと知らないところで国際問題は起こり続けてるから問題ないよ、きっと誰かが火消しをしてるね、俺らが走るのと同じだよ。シマムラ」

俺がそう言うと少しもうまくねーぞと彼は野次を飛ばした。少し強張った顔の筋が取れてるようにも感じた。ほんの少しだが、冗談は世界を救うのだ。


森の中にある秘密の隠れ家にたどり着いたのは金色の月が夜空の真ん中で輝く時間帯であった。この世界に来てから、時間帯は朝か昼か夜かの区別になっている。きっと前の世界では11時半くらいだろう。と勝手ながら郷愁感に浸る。

「今は11時半くらいだな。」

俺がそう呟くと、シマムラはそうだなと言いながら暖をとるために火をつけた。

「帰りたいと思ったことはあるか?」

シマムラは急にそんなことを口にした。

確かに昔はそう思っていたかもしれないが今はどうだか、わからない。きっとわからなくなってしまったんだろうと思う。

「昔のことは忘れたよ。シマムラ」

俺がそう言うと悲しそうにシマムラも俺もだと言った。

火の番を交代でしながら森のアジトで眠る。

明日は国境へ向かうために体力を温存しなくてはならないからな。


昔の夢を見た。幼馴染とシマムラと俺がまだ、幼く日本にいた頃の夢だ。

住宅街の中にある公園で走り回り、追いかけっこをする。

水道の蛇口をひねり水風船を膨らませていたずらに励み、最後はずぶ濡れになり、親に叱られる夢、懐かしく、ただ愛おしいそんな夢だ。

「おい、サイトー」

誰かの声がする。

「おい、サイトー起きろ」

目を覚ますと強面の男が俺を覗き込んでいた。いつもと変わらないかつての面影は何もないシマムラの顔がそこにあった。

「交代か?」

俺がそう言うと、シマムラはいや、朝だ。と答えた。

外に出ると太陽がちょうど顔を出したような時間帯だった。まだ薄暗く、赤とまだ少し残る黒の空が広がっている。

「王女様を起こせ、国境まで、担ぐとなると逃げ切れない。」

「魔物と、追跡者が襲ってくるからな。王女を走らせても逃げ切れるのか?」

「俺たちだけなら逃げ切れる。」

「確かにそうだな、命は大事だ。」

「俺らのな」

「ひどい奴だなーシマムラ」

俺はそう同意して、彼女の胸を優しく鷲掴みにする。これで起きるだろう。

彼女は苦悶と恥ずかしい声を上げ始めた。

あとちょっとで起きそうな気がするので優しく丁寧に愛情を持ってピアノを弾くように触れていく。

彼女の苦悶と羞恥の声と共に大きな破裂音が小屋の中に響いた。


「無礼者!!」

王女が涙目ながら胸を両手で覆いながら叫んだ。

俺の頬には赤い手形がついた。腫れて少し痛い。

「おはようございます、王女殿下」

一連の不祥事はなかったかのようにシマムラは跪きながら、王女に言った。

「あなた達は一体誰ですか?」

王女はあたりの現状がオークション会場とは違う場所であることに気づき、俺たちにそう

問いかける。

「私どもは雇われの冒険者でございます。

あなたの専属使用人のエリス・フラット様と専属護衛騎士アルベルト・ガルモワ様から闇オークションからの奪還の依頼を受け、あなた様を僭越ながら、誘拐させていただきました。」

王女はシマムラの使用人の名前に反応をする。さすが高貴な身分であるがためか、頭の回転は速そうだ。バカなシマムラとは大違いだ。

「それでば、私は国に帰れるのですか?」

王女は不安そうな顔をする。帰りたいけれども、本当に帰れるのか、不安だと言う顔だ。

もちろん俺たちは荒事のプロである。プロ過ぎてお尋ね者になるくらいのプロである。追われることもプロだから問題はないかも?

「もちろんでございます。国境まで、銀級冒険者である私グスタフと相棒のジョンが護衛いたしますのでご安心を」

俺たちのルールの一つとして、偽名をよく使うというものがある。

名前が知れると面倒なことが多い。グスタフの名前を使えば、過去に魔王の城門を吹き飛ばした過去は露見しないし、ジョンの名前を使えば、過去に教会を更地に変えたことも露見しないまま、仕事に取りかかれるという寸法だ。名前というのは意外に厄介なものだ。

日本人の名前はこの世界にはないから即身バレというのが理由でもある。

また過去に、グスタフ、ジョンという名前の冒険者を始末したことがある。

村から出て一旗揚げようと夢を見る同い年くらいの奴らだ。簡単に始末できたとだけは言っておこう。

その時に身分証だけいただいたということだ。この世界は犯罪歴などを前の世界より簡単に見つけることができる。神は見ているとのことらしい。だから身分証を使い勝手が良かった。俺らの犯罪歴を偽証してくれるからだ。

そこから階級を上げて銀級になったというわけだ。

銀級までなら金を払えば裏口からなれる。潜入のために銀級の資格が必要だった時に上げたという感じだ。

「あなた達は銀級なのですか?」

王女は驚いたように口をする。

「ええ、この通り」

シマムラは銀のタグを見せる。

「若いのにすごいですね」

王女がそう言うが、我々は裏口からだからしょうがない。

「俺らはすごいんですよ、王女様」

俺がそう言うとシマムラは少し黙れと目で訴えてきた。

「話を戻します。我々は王女殿下を本国までの護衛をいたします。なにぶん敵地でございますので、王女殿下に御協力をいただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「わかりました。私も歩けばよろしいですか?」

「ええ、お願いいたします。ここに歩きやすい装備一式を用意いたしました。我々は外で見張りをしてますので、ご用意をお願いいたします。」

シマムラがそう言うと王女は頷いた。

俺とシマムラが外に出ると空は朝焼けはすでになく、薄い青々とした空が木々の間から見えた。

「ラジオ体操の時間だな」

ふと俺はそう呟いた。

「寝坊助が何を言ってんだよ、一回も真面目に来たことないだろう。」

シマムラはそう言うと腰に下げた剣を抜いた。

「ラジオ体操第一ぃいいいー」

俺がそう言うと、シマムラは木々に向かって斬撃を放つ。

木々の中に隠れていただろう王女奪還の斥候達が姿を現わす。1人2人、3人、4人そして最後の5人目はすでにシマムラの斬撃で事切れていた。

「援護はいい、火事を起こされたらたまったもんじゃない」

シマムラはそう言うと走り出す。

斥候達は慌てて距離を取れ、射撃しろだの喚いていた。1人、2人とシマムラに斬られていった。

俺が大人しく小屋の前で立っていると斥候達の悲鳴とうめき声が聞こえる。最後の1人はへっぴり腰で逃げていった。

周りには三つの死体と返り血で顔の半分を覆ったシマムラと哀れな生き残りがいるだけだ。

「新しい朝が来たと思ったら喜びじゃなくて血まみれの朝だな。」

「あいつにとっては悲しみの朝だ。」

久々にシマムラは上手いことを言った。命が終わる可能性があるって悲しみを通り越している気もする。これから血にまみれた尋問の朝が始まる。


楽しいお話の行方を王女には見せられないので森の奥でシマムラがやってくれた。

その間、俺は王女と朝食をとることにした。

これから戦が始まる。腹が減っては生き残れないからな。

王女は金色の長い髪と青い瞳の少女だ。

今は走りやすい服装として渡した、初心者冒険者の服装をしている。

「王女様、どうぞ。」

俺は王女に朝食を渡す。

「ジョン、さっきは申し訳ありませんでした。命を救ってもらったのに、」

さっき、ああ、胸の話か

「いえいえ、良いものをお持ちなもので、俺も楽しめましたよ。」

王女は顔を真っ赤にする。

「冷めないうちに食べてください、これから長いですから。」

俺がそう言うと王女は恐る恐る食べ始めた。

食べると同時に驚いた顔をする。

「想像以上に美味しいでしょう?俺は小さい頃料理人になりたかったからさ、これでも料理には自信があるんだ。」

「そうなのですか?」

「小さい頃の話だけどね、君は小さい頃何になりたかった?」

「私ですか?私は、小さい頃から王女でしたので夢を持つことはありませんでした。」

彼女は気まずそうにそう言った。

「なら、今からでも遅くないな、何か夢を見ようぜ、夢見る分にはお金はかからない。俺もまだ料理人になる夢を諦めてはいないからさ。」

「そうですか、、」

彼女は考えるようにそう言った。

そう、俺は思う。人生を楽しむのに夢を見るのは必要だ。それがどんなに血まみれの手をしてようが、悪徳を積もうが、来世がきっと畜生だろうか、関係ない。今を楽しむのに、夢は必要なのだから。



次回予告

追われる者も、追う者も、等しく生きている。

生きているからこその攻防

自らの生存、目的を糧に走り出す。

次回、逃走

2人から3人へと旅人は増える。

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