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表と裏の狭間の世界で  作者: 珠椛
第2章
13/14

影からの

 なにはともあれ四人で行動する事が決まり、カナヤを先頭にリア、アカリの順で歩き出す。

 そしてそれを、ミワはついていくでもなく黙って見ている。

 感情の抜け落ちた、凍てつく様な目で。

「...あれが噂の?」

 そんなミワの後ろ–––––暗闇から響く青年の声に、ミワは「はい」と頷いて答える。

「–––––そうか、あの女か。中々気の強そうな女じゃないか」

「お好み、ですかー...?」

 いつもと変わらず、でも少し固い声で問うたミワに、青年はふんと鼻を鳴らす。

「言うようになったな」

「...申し訳ありません」

「怒っちゃいないさ」

 クスクスと笑う青年とは対照的に、ミワの表情は強張っている。

「そうだな...先程の問いに答えるなら、“Yes”だ」

「そう、ですかー...」

 「まぁ、傍に置こうとは思わないがな」馬鹿にした様に青年が言い、ミワは反応に困りつつも曖昧に頷く。

「ともあれ興味深いのに変わりはない。呼べ、あいつらを。話はそれからだ」

「...仰せのままに」

 深く礼をし、ミワはアカリの背を追って走っていく。残された青年は、その後ろ姿を見て、ニンマリと口を三日月に歪める。まるでこれから始まる事を心待ちにしているかのように。

「ふぅん...面白くなりそうだ...なぁ?タクマ」



「ミワ!」

 背後からの足音に気がついたアカリが足を止め振り返る。

「もう、急にいなくなるから吃驚したじゃない!」

「ごめんねー...?ちょっと、呼び止められちゃってさー...」

「呼び止められた?」

 ミワの問いに正確な意味で反応したのはカナヤとリアだった。「今すぐ?」カナヤがアカリをそっちのけで冷静に問いかける。アカリの問いには答えず、ミワは小さく頷く。

「多分ねー...」

「分かった」

 二人の会話を聞いていたリアが先程までの子供らしい表情を消す。ONとOFFが切り替わったのはアカリにも分かった。

「あ、あの...?」

「待ってて。呼び出されたから」

 一人状況に追いついていないアカリに、カナヤが静かに言葉を返す。

「わ、私も行っちゃ駄目なの...?」

「自分の置かれてる立場を理解してないならくれば?」

 それはつまり、旧校舎の人間が多くいる所に今から行くという事だろう。カナヤの嫌味が籠った言葉の裏を、全てではないにしろアカリは読み取る。

「...待ってるわ」

「うん」

「手早く済ませるのです!」

「手早くかぁー...。終わるといいなぁー...」

 そう言って三人は何処かへと行ってしまった。残されたアカリは階段を上り、美術室の中に入る。

 四階は三階とは打って変わって人の気配が全くせず、気味の悪さが一層感じられる。

 寒々しい美術室の中の石膏と目が合い、思わずビクリと肩を揺らす。

「もう嫌...何処行っちゃったのよ...」

 石膏の視線から逃れるように、備え付けのソファーに腰を下ろす。

 そしていつの間にか、アカリは目を閉じ眠りに落ちた。

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