影からの
なにはともあれ四人で行動する事が決まり、カナヤを先頭にリア、アカリの順で歩き出す。
そしてそれを、ミワはついていくでもなく黙って見ている。
感情の抜け落ちた、凍てつく様な目で。
「...あれが噂の?」
そんなミワの後ろ–––––暗闇から響く青年の声に、ミワは「はい」と頷いて答える。
「–––––そうか、あの女か。中々気の強そうな女じゃないか」
「お好み、ですかー...?」
いつもと変わらず、でも少し固い声で問うたミワに、青年はふんと鼻を鳴らす。
「言うようになったな」
「...申し訳ありません」
「怒っちゃいないさ」
クスクスと笑う青年とは対照的に、ミワの表情は強張っている。
「そうだな...先程の問いに答えるなら、“Yes”だ」
「そう、ですかー...」
「まぁ、傍に置こうとは思わないがな」馬鹿にした様に青年が言い、ミワは反応に困りつつも曖昧に頷く。
「ともあれ興味深いのに変わりはない。呼べ、あいつらを。話はそれからだ」
「...仰せのままに」
深く礼をし、ミワはアカリの背を追って走っていく。残された青年は、その後ろ姿を見て、ニンマリと口を三日月に歪める。まるでこれから始まる事を心待ちにしているかのように。
「ふぅん...面白くなりそうだ...なぁ?タクマ」
「ミワ!」
背後からの足音に気がついたアカリが足を止め振り返る。
「もう、急にいなくなるから吃驚したじゃない!」
「ごめんねー...?ちょっと、呼び止められちゃってさー...」
「呼び止められた?」
ミワの問いに正確な意味で反応したのはカナヤとリアだった。「今すぐ?」カナヤがアカリをそっちのけで冷静に問いかける。アカリの問いには答えず、ミワは小さく頷く。
「多分ねー...」
「分かった」
二人の会話を聞いていたリアが先程までの子供らしい表情を消す。ONとOFFが切り替わったのはアカリにも分かった。
「あ、あの...?」
「待ってて。呼び出されたから」
一人状況に追いついていないアカリに、カナヤが静かに言葉を返す。
「わ、私も行っちゃ駄目なの...?」
「自分の置かれてる立場を理解してないならくれば?」
それはつまり、旧校舎の人間が多くいる所に今から行くという事だろう。カナヤの嫌味が籠った言葉の裏を、全てではないにしろアカリは読み取る。
「...待ってるわ」
「うん」
「手早く済ませるのです!」
「手早くかぁー...。終わるといいなぁー...」
そう言って三人は何処かへと行ってしまった。残されたアカリは階段を上り、美術室の中に入る。
四階は三階とは打って変わって人の気配が全くせず、気味の悪さが一層感じられる。
寒々しい美術室の中の石膏と目が合い、思わずビクリと肩を揺らす。
「もう嫌...何処行っちゃったのよ...」
石膏の視線から逃れるように、備え付けのソファーに腰を下ろす。
そしていつの間にか、アカリは目を閉じ眠りに落ちた。




