そしてまた一人
がっくりと肩を落としたカナヤに、ミワが笑いながら近付く。
「ふふ...二人共似た者同士だねぇー...」
「本当だよ...」
カナヤとミワに言われ、二人は同時に顔を見合わせる。
「似てるですか?」
「うん、そっくり」
「いや、そんなに似てないと思うわ」
「そっくりだよー...性格とか」
間髪入れずに返答されては、リアとアカリも言い返せない。あまりの押しに、そうか...と互いに納得すらする。
「に、似てるのは百歩譲って許すのですよ。でも!」
「ちょっと、何で前提として百歩譲ってるのよ」
「黙ってろですアカリ。あのですねカナヤ!どうしてカナヤがこの女を案内してるですか!リアという子がいながら、どういう了見なのです!?」
アカリの言葉を遮りリアは捲し立てる。完全に嫉妬しているのが丸わかりだ。
「え、私がカナヤに案内されると駄目なの...?」
「当たり前なのですよ!そしてカナヤもカナヤなのです!リアを差し置くとは許さないですよ!」
頰を膨らませて怒るリアは駄々っ子と同じに見える、とアカリは密かに思う。
「差し置くも何もさ...」
「カナヤのばーかっ!もう知らないです!」
一方的に話を切ったリアはプイとそっぽを向く。それを見たミワは何か考え付いたのか、カナヤに耳打ちをする。
「...えー、面倒」
「まぁまぁー...いいじゃなーいー...?」
はぁ、と溜め息を吐いて、あからさまに嫌そうにカナヤがリアと視線が合う位置に移動する。
「...リア、悪かったよ。機嫌直して。可愛い顔が台無しだよ」
リアの頭を撫でつつそう言えば、たちまち花が咲いたかの様にリアが嬉しそうな表情をしてカナヤを見る。
どこのホストだ。
砂糖を吐きそうな甘い台詞をさらっと言ったカナヤに鳥肌が立ったアカリは、ある意味正常かもしれない。
今までの言葉と今リアに向けた言葉は、大凡同じ人物が言っているとは思えない。
...男って怖い。
どこか外れた感想を持ちつつ、アカリは成り行きを見守る。
「リア可愛いですか!」
「あーうん、可愛い可愛い」
先程までの雰囲気は何処へやら、完全に棒読みで言うカナヤだが、リアが気にしている様子はない。
「分かったですかアカリ!リアの方が可愛がられているのですよ!」
「あっ、え?...あ、あー...そう、ね?」
矛先を突然向けられたアカリがしどろもどろしながら返せば、リアが満足気に微笑む。
「...とりあえず、機嫌は直ったでしょ」
カナヤに至っては早く離れたいらしい。アカリに矛先を向けたリアを見て離れようと試みている。
が、それを許すリアではない。
逃げられぬ様両腕をカナヤの片腕に絡める様は、どこぞのカップルの様だ。
「いい気になるなですよアカリ。カナヤのお嫁さんになるのはリアなのです!ちょーっと案内されて優しくされてるからって、その座は奪わせないのですよ!」
「いや、優しくされた覚えすらないわ...」
「...いや、もっと言及すべき所あるでしょ...」
話の論点が最早何処か分からなくなっている中、カナヤがげんなりと呟く。ミワに至っては傍観を決め込んでいるらしく、止める気配はない。
「え、あったですか?」
「あるよね。何で僕がリアと結婚する事になってるの。僕はそんな事認めてないんだけど」
「え...あ、あの日誓ったのは、嘘だったのですか...!?」
「話を捏造するな。第一誓ってない。そっちが勝手に将来カナヤと結婚したいですーとか言ったんでしょ」
「その時カナヤ言ったですよ!ふーんって!......あ、考えるとこれ返事じゃないのです!適当に流したですね!?」
「バレたか」
無駄にカナヤがリアの声真似が上手かった事や、リアが今更事実に気づいた事は触れてはいけない。
とりあえずツッコミほしい。
いつの間にか疎外されたアカリは、目の前のコントを見ながらそう思う。
「第一順番が違うし。普通恋人になってから結婚でしょ」
「な、なら今言うですよ!カナヤ、リアと付き合ってほしいのです!恋人になって下さいですよ!」
「うん、ごめん」
これだけ好意を寄せている子に告白させた挙句一刀両断するカナヤは、相当腹黒い。
第三者と化したアカリは巻き込まれない様、頭の中でそっと思う。
「な、何でなのですかぁ!やっぱりアカリが良いんですか!年齢の壁なのですか!?リアの愛は年齢の壁をも超えてるのにー!」
「年齢は関係ないから」
うわぁぁあん、と駄々をこねるリアに、カナヤは呆れ顔で対応している。カナヤから発せられる雰囲気は、この茶番をさっさと終わらせたいというのが全面的に出ている。
「...あのさリア」
「...何です」
「僕は付き合うとか全く興味ないし、リアの事もそういう風には見てない」
「あ、地雷」ポツリとミワが呟く。「え?」アカリが聞き返すより早く、リアの表情が歪み地雷は爆発した。
「やぁぁあぁああ!何でなのですかー!リアだって立派な女の子なのですよ!こんなに可愛く可憐なリアをそんな風に見てないなんてー!女の子って言葉を表した様な可愛さだねと評判なのにー!」
「後半は自分で言う事じゃないわ!?」
思わずツッコミを入れたアカリなどお構い無しにキャンキャンと喚きながらカナヤをポカポカと殴るリアは、男子から見れば可愛い...のかもしれない。その前の言動さえなければ。
「こ、この際だから言うのですよ!リアのどこが至らないのですか!」
「え、全部」
まさに一刀両断。反論の余地もなく切り捨てたカナヤに、リアの動きがぴたりと止まる。
「...あー...これはマズイかも?」
のほほんと緊張感の欠片もない様子でミワが言う。
「え、えっと...」
「あー、やっちゃったかなぁ...」
元凶であるカナヤに至ってはこれから先の事が分かっているのか遠い目をして天を仰いでいる。
「...カナヤ」
ぷるぷると小刻みに震えているリアがカナヤを呼ぶ。そしてキッと顔を上げた。
「カナヤの馬鹿ぁ!」
ポロポロと涙を零しながら言うリアは名子役かもしれない。やっぱり外れた感想を持ってアカリは見守る。
「確かにカナヤから見たらリアはおこちゃまなのですよ!それは理解してるです!でもリアの至らない所が全部ってあんまりなのですよぉぉお!」
ぴゃぁぁあと声を上げて泣き出したリアは幼子そのもので本来慰めに入るべきなのだが、生憎アカリの頭の中は、リアを宥める事よりも、この声が廊下に聞こえていないのだろうかという心配で埋め尽くされている。
そしてやはりミワは干渉しない。ツッコミ不在である。
「だって事実だし」
カナヤに至っては暴言しか言っていない。もう一度言うが、ツッコミ不在である。
「うわぁあぁぁあぁん、カナヤの馬鹿ばかぁ!嫌いなのですー!」
「あぁそう?それならそれでいいよ」
「う...大好きなのですよ、馬鹿ぁ!」
どこのラブコメだ。突き放すのかイチャつくのかどっちかにしてくれ。意識を二人に戻したアカリが心の中で言う。口に出さないのは巻き込まれたくないからだ。
「いつもの光景だねぇー...」
ふふ、と笑って言うミワはこの光景に慣れている様だ。だったら止めて欲しいとアカリは切実に願った。
「とりあえず、次進みたいから離してくれない?」
「リアと付き合うか、リアを連れて行くなら離すのですよ!」
「じゃあ一緒に行くって事で」
「ちょっと待って!?この流れで!?」
先程までカナヤの心配をしていたが、この中で一番苦労するのは私かもしれない。
よく分からない内にリアも共に行く事が確定し、アカリは絶望した。




