転生令嬢はメイドをお姫様にした。
二ヶ月遅れの投稿一周年でしたね、話です。
……え? もしかしてここはあの小説の世界?
私は七歳の誕生日の朝、プレゼントだよ。と、紹介された愛らしい少女を見た瞬間、前世の記憶を思い出し、倒れそうになるのを気合いで踏み止まった。
ああ、これはあれだ、いわゆる転生物というやつだ、それも鉄板の悪役令嬢転生。
──まあ小物だけどね。
さて、私が転生したと思われるこの世界、ここは多分『ラ=ヴィアローグの花嫁皇女(元メイド)』の世界。ある少女小説レーベルで出版されたこの小説はその後歴史小説で結構なヒットを出した作家のデビュー作で、王宮を舞台にしたちょっとタイトルからは想像出来ないシリアスで重い話、ヒロインとヒーローの恋愛模様より、ヒーローと異母兄との確執と死の間際の和解、そして兄の亡き殻を抱いてのヒーローの決意シーンにページと熱意を注ぎ込んでいた、ヒロインないがしろだった、この作家は三冊でこのレーベルから去った、他二作もヒロインないがしろだった。
そして目の前のプラチナブロンドの幼女がそのないがしろにされるヒロイン。私は彼女が皇女だと発覚するまでの間、イジメ抜く侯爵令嬢。
……おい、ちょっと待て。運が良くて修道院、普通で放逐、悪ければ投獄、最悪は斬首…………良し。
その後、私は彼女が皇妃様にそっくり、皇帝陛下と同じ青玉の瞳と誉めそやし──むしろ何故誰も気付かない──彼女を両親の元、城へと帰すことに成功し我が家の株をさらに上げた。
そして数ヶ月後、恐れ多くも両陛下その人から感謝のお言葉をいただき城を辞そうとした私はヒロインが侍女を怒鳴り散らす光景を見た。
……おい、ちょっと待て。あんた健気系正統派ヒロインだろ。何やってんだ?
…………あ、私のせいか、私が死亡フラグを叩き折ったせいか。
………………うん、仕方がない。
そして私は彼女を高圧的に諭した。
このまま行くと修道院、皇籍剥脱、病気療養と言う名の監禁が待っていますよ。と、
すると彼女は泣き出し、
家族以外の周囲に馬鹿にされ、ないがしろにされるので身を守るのにはこうするしかなかった。本当はこんなことしたくない。と、叫んだ。
……おい、ちょっと待て。
私は周囲を睨みつけ、彼女の手を引き引き返し、止める衛兵をかい潜り再び両陛下の元に行き、彼女の状況を説明し……、
気が付いたら彼女付きの女官となっていた訳だ。
……おい、ちょっと待て。
まあ、彼女とは前世について話せるくらいの親友になった訳でそれは良い……が、
今、私の目の前にはヒロインたる彼女がいる。ヒーローたる彼もいる。そして悪役たるその兄と、彼に殺されていたはずの婚約者殿もいる。
……おい、ちょっと待て。
その後、私と同じ世界からの転生者たる彼女とも仲良くなったのは良いが……、
私は何故かラ=ヴィアローグに花嫁として迎え入れられた。
……おい、ちょっと待て!
これは後に、幸運の王子妃と呼ばれる彼女と、ラ=ヴィアローグ社交界の女王と呼ばれる彼女の物語。
お読みいただきありがとうございます。
ここからは補足というか蛇足というか。
侯爵令嬢さんは前世いい女過ぎて生涯独身、今世では皇女様のお見合いに付いて行った先で侯爵に捕獲されます。
皇女さんは双子の弟がいる第二皇女で皇妃様に岡惚れした男に誘拐され孤児院を経て侯爵家に雇われます。
彼女達は隣国の王太子の婚約者には一生敵いません。