第六話 国王と戦場と白龍の話
戦場に忽然と現れた謎の男と巨大な白龍……両軍ともに足が止まった状態を見まわした恭介はさっそく呪文を唱え始める
「風よ風、我が魔力を糧に我が命に従え……拡声」
バルニカ平原に恭介の魔力が広がり、その魔力を受けたものは絶対に勝てないと感じてしまう
「ん、ん、あ~聞こえますかね?俺の名前は財前恭介、女神様に出会ってこの世界に来た異世界人っす!!
申し訳ないんだけど、そこのバルニカ山には女神様の地下神殿があるんでこの平原で血を流して欲しくないんだわ
何でさ、戦争するなら別の所でしてくんない?」
軽い口調で話してはいるが、内容はとんでもないものである
王国軍も魔王軍も開いた口が塞がらない、塞がらないがありえない魔力を纏った男に巨大な白龍である
「ま…待たれよ!!財前殿と申したか…私はラスタール王国の国王ラスタール・デル・ウォルフォントである!!先ほどの言葉は事実であるか!?」
背筋に冷たい汗を流しながらも、精一杯威厳を持たせようとする国王に、大変だなぁ~と思う恭介が言葉を発しようとした矢先…
「下等生物が!!言うに事欠いて事実であるかだと!?貴様我が主が虚言を申したと言うか!!」
ブチ切れたパイインさんが猛抗議したのである
正直うるさいです
「あ~パイイン?ハウス…」
「あ、はい…」
気を失いそうな思いを必死に押さえ、体裁だけを整えようとする国王であったが先に乗っていた軍馬の方がダウンしてしまった…
それにしても、あの巨大な白龍を意のままに命を下す男が只者であるはずがないのは、国王にもわかっていた、それでも話の内容が強烈過ぎたのだ
そして全く同じ思いを抱いていたのはオーガエンペラーのガローズである…だがガローズは別の事を考えていた、それはこの男を自分の配下にできないか?と言う事だ
「ガァ…ソコノニンゲン…オモシロイコトヲイウナ…オレハ、マオウグンノガローズ…ヨカロウ、グンヲヒイテヤル…」
「あ~、片言ウザいからそのまま喋ってくれ…こっちで何とかしてやるから」
「jfajoanaipapな!何だと!!これは人間どもの言葉か!?」
「なんと!?オーガが我らの言葉を話すとは!?」
驚く国王を尻目に恭介は話し続ける
「で、魔王軍は引くって事で良いのかねぇ?」
「ただし、貴様…財前とか言ったな…軍を引く条件は貴様が俺の配下になる事だ!!断るなら貴様も一緒に殺してくれる!!」
「ふむ…配下ねぇ~」
この平原を血に染めたくないのであれば、我らの血も流したくないだろうと言うガローズの考えはあながち間違いではなかった…
「そこの王様はどうする?やっぱり此処で争うのかい?」
ガローズの言葉を無視して話を進める恭介は、ウォルフォント王に問いかける
「いや、我らは国を護るためにここに来ただけだ…奴らが引くのであればここで戦いを仕掛ける事は無い…」
「貴様、話を聞け!!俺の配下になるのか!?それとも死ぬか!!」
あからさまに無視される事がわかって騒げた立てるガローズを無視する
「じゃ、軍をひいてくれるかな?」
「わかった…全軍!!王都に戻るぞ!!」
その言葉に宰相のゼムも言葉を発しようとするが思いとどまる、その姿を目にしたウォルフォントは友達に話しかけるように恭介に訊ねた
「ここで引けば、我が軍は後ろから魔王軍に蹂躙され全滅されるだろう……しかし、そのような事は起こらぬのであろう?……なぁ財前殿?」
「あぁ、そんな事は起こらないな」
苦笑いをしながら恭介はそう答えたのだった
「貴様!!大将を無視すんじゃねぇ!!!」
そう言ってグレイブオーガのガガが手にした巨大な棍棒を振り降ろそうとしたがそれは叶わぬ事だった…何故なら白龍のパイインがその咢を開きガガを丸呑みしたからだ
「おーい、不味いかもしれないけど汚いから吐き出すなよ~」
オーガの丸呑みなどパイインもしたくなかっただろうが、臭くて不味くて吐き出す事も出来ない…苦い顔をするしかない
「ガ…ガガ…」
一方ガローズは顔面蒼白である…グレイブオーガのガガは、この魔王軍鬼獣師団の中でも1・2を争う剛の者だ…それが一瞬で殺された…いや、丸呑みされたのだ…
「コロセ…殺せ!!ヤツラを殺せぇぇぇ!!」
ガローズの一喝に意思を取り戻す魔王軍5万はたった二体に攻撃を開始する
「はぁ~なんで襲ってくるかねぇ……」
恭介はその状況を恐れる事無く唯々ため息をついていた
「我が魔力を糧に、大地が戒めの枷を生む…束縛の枷…」
地属性の第一種初級魔法…通常であれば倒れた相手を、移動する事ない動かざる相手をその場に拘束する為の魔法
しかし恭介のある種暴力的な魔力は、その当たり前を破壊し超高速で移動する敵を束縛する大地の触手と化す
「バカナァァァァ!!」
オーガエンペラーであるガローズを持ってしてもその束縛から逃れる事は出来なかった
「あと一回だけ言うよ…?
ここから立ち去ってくれない?」
恭介からすると危害が加えられた訳でもない、どちらかと言えば自分の方が無理を言っているのはわかっているので、あくまでお願い(・・・)をしているのだ
「コ…コロシテ…ヤル」
「……わかった……じゃぁ俺はアンタ達に敵対する…今は逃がしてあげる…次会ったら敵だからよろしくね」
恭介がそう言った瞬間鬼獣軍を束縛していた大地の触手が遥か高くまで持ち上がり、拘束していた相手を森の奥まで投擲し始めたのだった
「お~ぼ~え~て~や~が~れ~~~~」
オーガエンペラー、その力は非常に強く竜種すら殴り殺すほどの破壊力を持つSSクラスの魔獣
その魔獣ですら恭介にとっては雑魚でしかなかったのだった