川口美空 スマホ依存
カララ・・・
昼休みに無言で女生徒が保健室に入って来る。
そして入ってくるなり空いている席に座りスマホをいじる。
「君。スマホの持込は禁止のはずだが?」
少し厳しい口調で誠史郎が諭す。
女生徒はスマホから視線を外さず
「そんなの建前。みんな持ってる」
「ただ教室でいじってて担任に目を付けられたから」
つぶやくように面倒くさそうに答える。
「1年だね?名前は?」
「川口美空・・・」
「クラスの子としていればいいだろう?自宅でもできる」
「クラスの子とは誰もしてない。アタシぼっちだもの」
「じゃあ誰と?」
「LINEで知り合った子。クラスの子とは話しない」
「LINEの友達のほうが悩み話せるし、聞いてくれるし」
誠史郎を見ようともせずに指だけ動かす。
「どんな」
「別に。いまどきの事だよ。受験とか、趣味とか」
「会ったりはしてないよね?」
「うん。ちょっと遠いから」
ひとつため息をついてから誠史郎は美空に声をかける。
「自分の住所や学校を教えてはダメだよ。向こうが本当におなじ年とは限らない」
「じゃあ、あたしの悩みは誰が聞いてくれるの?あたし、ぼっちなんだよ?」
「そのためにここがあるよ。まずお昼をここに食べにおいで。
1人で食べるより北斗先生と2人で食べるほうがおいしいから。
放課後にはうるさい奴らもやってくるし、学校でスマホをいじる時間は減らせると思うな。
あと、食事中のスマホは禁止だよ。マナーも身に着けないとね。
本音としては没収したいところなんだがね」
解決案の一つだよ。と誠史郎が提案する。
「なんか色々うるさいね」
「んー。でも気が向いたらね・・・」
そういって美空は昼休みが終わると保健室を出て行った。
「彼女、来ますかね?」
北斗がたずねる。
「来ますよ。と、言うか来させます。あれだけスマホに依存してしまっていては
本当に教室の居場所が無くなっても何も感じない。
人との付き合い方を忘れているのでここでリハビリをかけていきます。両親との面接もしなければ」
近くの子には話せない。
そして友達でもない、名前も知らない子に悩みを打ち明ける。
そういう子は確実に増えている。