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王道(テンプレ)が好き

作者: 三堂いつち

 テンプレートとは元々、文書を作るときの「型」のことで、それがネットで色々な使い方をされ、転じてありふれたもののことを指す言葉になったらしい。日本語って怖な。ネットで使われて有名になったらそれが常識になるんだぜ。本来の意味など関係なしに。



 そろそろ本題に入ろう。俺、櫻野英治おうのえいじはこの「テンプレート」というものが好きだ。コレは俺を指すに相応しい言葉だからだ。


 まず俺は顔がいい。ちょっと待て。引くな、コレは周りの意見なんだぞ。気をとりなおして続けよう。


 俺は頭がいい。そうだ、秀才だ。ん?天才じゃないのかって?俺は努力して勉強をしている。何もやらずにすぐ出来る天才とは違う。次だ。


 俺はスポーツが得意だ。どうだ?ここまでくると面白みが無くなるだろう?でもまだ続くからな。


 俺の家は金持ちだ。どうよ?見たことあるだろう?よくマンガとか小説で見る、アレだよ。まぁ俺は所謂「俺様キャラ」ではないがな。次で最後だ。


 俺、……今恋してるんだよね。分かるよ、言いたいことは分かる。けどこういうのは少女漫画のメインキャラのヤツじゃん。だから俺が恋してたっておかしくはないんだよ。……そうだな言い方が気持ち悪かったな。不快な思いをさせて悪かった。けど、これで俺のテンプレ事情が分かっただろう?今俺は、テンプレ通りに恋をしているんだ。その子は堂本香織と言って同級生の一般家庭の女の子に。しかも相手はテンプレをなぞったような優等生なんだよ。


 見た目は三つ編みで丸眼鏡の地味なタイプ。成績優秀なシャイガールなんだよ。しかも普段は眼鏡でよく分からないけど、顔スッゲェ可愛いの。髪もクセのつきにくいサラサラ髪なんだよね。え、なんで髪質知ってるかって?そりゃあたまたま解いてるの見たからだよ。別に触った訳ではないから。んで体つきは凹凸は主張しない方ではあるけど、それも魅力になってしまうほどの天使なんだよ。その上ドジっ子というもう非の打ち所がないがない程のテンプレだ。というかテンプレ抜きでものごっつ可愛い。もし彼女の良さを語れと言われたら、クリケット(一日で試合が終わらないとか。あとハットトリックの由来のスポーツ)の試合時間を余裕で超えられる自信がある。


 とまぁ、こんな事情を俺は抱えているわけだが、一つ付け加えることがある。香織は今俺と付き合ってます。イェイ。ちゃんと家の権力とか使わずにストレートに「好きです」って言ったよ。そしたら彼女さぁ顔真っ赤にして照れてスゲェ可愛かった。なんか俺の言葉で恥ずかしがってくれてるんだと思ったら、……ああ、話がズレそうだな。回想で説明するかな。






 ▽ほわわーん的な



 その娘を見かけたのはたまたまだった。


 風が湿気を帯び始める頃、高校生活に慣れた二年の初夏。俺は人をあまり寄せ付けなかった。金持ち学校なんて、入っている身で言うのもなんだが好きじゃない。小学生の頃はまだ良かった。けどもう違う。ここには腹の探り合いをするような奴らが多い。俺はそんな奴らに好感を持てない。


 だから人は寄せ付けない。そんなことを知っても尚、近づこうとする奴らにはちょっとばかり自分の愚かさを思い知ってもらうことにしている。そもそも信頼が無い関係なんて悲しいだけだ。


 外部生が入ればマシになるかと思ったが、内部の人間の圧力には屈するしかない彼らを期待したことは、今となっては酷なことだったと思う。


 別に独りでいたいわけではない、ただ一人でいる方が楽なだけであるだけ。だから俺は誰もいないような場所に行くことにしている。通っている学校は、金持ち学校なだけあって敷地がムダに広い。校舎から少し離れたところに林がある。この林に金持ちの内部生はあまり近寄りたがらない、だからよく昼休みには入り浸っている。






 ……誰もいない、と思っていた場所に一人の少女がいた。珍しい、誰かがいるなんて。俺を追って、というわけではなさそうだ。真剣な表情で本を読んでいる、こちらに気づきもせずに。ここにいていいものか、考えてみたが彼女の場合は別に気にしなさそうだし、俺も気にしないだろうと思ったから、とりあえず昼寝をすることにした。




 ・

 ・

 ・



「……ょ。起きてください」


 ……ん。思った以上に寝てたみたいだ。目の前には見たことのない……、いやさっきの娘か。


「起きましたね」

「えっ、おわぁ‼︎」


 ゴンッ


 顔近かいっ‼︎ビックリして飛び退くと木に後頭部をぶつけた。俺は後頭部を抑えてうずくまる。あんなに女の子の顔を近くで見たのは俺の経験上だと、妹ぐらいしかなかったからな、ビックリして当たり前だ。うずくまる俺の顔を少女が覗き込んでくる。


「大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど、ちょっと……近い」

「え?あっ⁉︎ごっごめんなさい」


 慌てて後ろに下がる彼女。頬を赤くしている。あと近づかれた時に気づいたけど、が綺麗だ、思わず見惚れてしまう。改めて少女を見ると三つ編み、丸眼鏡のいかにも優等生といった感じだ。地味、といえばそうかもしれない、でも眼鏡でよく分からないかもしれないが可愛らしい顔つきをしている。俺の審美眼は騙せない。ん?騙されそうになったか、俺?まぁ、いいか。


「えと、ありがとう」

「いえ……」


 なんか気まずい。でも、なんで起こされたんだ?普通に考えたら時間かな……


 キーンコーンカーン


 あ、鐘鳴っちゃった。鐘の音が鳴った時少女がビクッなった、可愛い。……じゃなくて。


「なんかごめんね。俺のせいで」

「い、いえ……」


 どうしよう、もうサボろうかな。一回休んだところでどうってことないし。


「戻らないんですか?」

「この時間はもういいかな、ってなっちゃった」

「はぁ……」

「それより早く戻った方がいいよ。今ならまだ授業間に合うし」

「は、はい」


 なんだろう、素直な娘だな。こういうのを見ると、悪戯心がうずく。




「それとも一緒にサボっちゃう?」

「えっ?あ、いえ、すいません」


 驚いて考えて、自分が悪いわけじゃないのに俯く。この娘……、いいな。踵を返して教室に戻ろうとする彼女に声をかける。


「ねぇ、名前教えて。俺は櫻野英治おうのえいじ

「え、あ、堂本香織どうもとかおり……です」


 ふむ、堂本香織か。素直で真面目な眼鏡っ娘ね。


「ごめんね、引き止めちゃって」

「いえ……」


 今度こそ立ち去っていく、と思ったので目を閉じて寝ようと思ったら、


「ひゃっ、あ、きゃっ」


 ドサッ


 悲鳴と何かの音がしたので目を開けたら、その娘が転んでいた。幸いなことに?スカートの中は見えなかった。…じゃなくて‼︎俺は堂本さんに駆け寄る。


「大丈夫?怪我ない」

「大丈夫です……、っう」


 呻いた彼女がうずくまる。膝を擦りむいて、血が出ている。俺は咄嗟にハンカチを出して患部にあてる。そうすると彼女はビックリして、


「え⁉︎あのっ、すいません。大丈夫ですから、その……ハンカチ高いものですよね?」

「気にしなくていいよ。それより立てる?歩ける?運んでく?」

「……立てます、よ?なのでお気遣いなく……」


 そう言って彼女は立ち上がろうとする。けどなんか痛そうだし、なんかほっとけないし。


「やっぱ送ってくよ。保健室いこ」

「いえ、本当にお気遣いなく……」


 頑なだなぁ。悪戯心が騒ぎ出してくる。ここで見過ごすってのも後味わるいしね♫


「ちょっとじっとしてて」

「え?なにを、ひゃあっ⁉︎」


 俺は彼女を横抱きに持ち上げる。所謂お姫様抱っこだ。堂本さんは顔を、いや耳まで真っ赤にして俯いている。


「あの、歩け、ますから」

「でも逃げちゃうでしょ?」

「はぅぅ……」


 やばい超可愛い。なんだろう、俺も顔赤くなってないよな?う〜ん、俺は鈍感ではないからな。否定はしない。この娘が好き、かな。反応すごく可愛い。……なんかさっきから可愛いしか考えてない?まぁいい、とりあえず保健室に運ぼう。






 ▽ほわわ〜ん的な


 っていうのが馴れ初めだよ。え、告白じゃないのかって?いきなり告白とは欲しがるね〜。まぁ気が向いたらそのうち話すよ。もう下校時間だし香織と一緒に帰るから、今日はもうおしまいだよ。


 え、あんまテンプレじゃないって?そうだねタイトル詐欺みたいだよね。タイトルも言葉足らずでいけないね。本当は……




 王道テンプレな彼女が好き



 だから。じゃあ俺帰るね、バイバーイ。

英「一緒に帰ろ」

香「はい」

英「眼鏡外したんだね」

香「はい。……似合います、か?」

英「うん。すごく可愛い」

香「……(顔真っ赤)




タイトル詐欺かもね

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