9話
來佳の腕を治すべく來佳達はデビル・フォレストの近くに住んでいるという、
レベルMAXに到達した2人目″時″のサイキッカー、シャルに会うため港にいる・・・のだが。
「あ~おじさん完璧二日酔いだわ・・・気持ち悪~。」
船の運転手は今現在だるっだるになっている・・・。
「直也さん、大丈夫ッスか?」
「男に心配されてもな~來佳ちゃ「さっさと乗れ。」いたっ。」
來佳に蹴り飛ばされ船に乗る直也、來佳は輝に支えられつつ船に乗った。
「じゃあ行くかね。」
「なんもしてねぇじゃんっ、アンタ。」
リゾートみたいに寛いでいる直也・・・の影が広がり真っ黒い影で形作られた直也が数人。
「後頼むぜ~。」
直也が手を振ると影たちはテキパキと動き、
数分と経たないうちに船は動き出した、ちなみに運転手は影。
「すげぇ・・・何でも出来るんスね、直也さん。」
「身体が″貧弱″になるのが欠点だけどな・・・色々と困るよ「そのネタいらないんで。」・・・・・あ~良い天気だな~。」
影の1人が直也を扇いでいる。
「來佳平気か?」
「うん、ちょっと潮風でしみるけどね・・・。」
1つの影が來佳の包帯を変える・・・下の肌は変わらず真っ黒。
「変態、3時の方向と8時の方向に1体ずつ。」
「ん~~~。」
直也が唸った瞬間、船が大きく揺れる。
「うわっ・・・。」
波が荒れ海から出てきたのは鯱並にデカい魚型のミュータント2体。
その下には影で出来た漁業に使われそうな網がミュータントを捕らえていた。
ミュータントを海から引き上げた後、網は解けミュータントに襲い掛かる。
「終了~。」
ミュータント2体は串刺し・・・砂になって海へと消えていった。
「すげぇ・・・どんだけ強いんだよ。」
あまりの強さに輝は鳥肌が立った。
「歴代影のサイキッカーで1番強いらしいぞ?」
「・・・多分今いるサイキッカーの中で1番強いんじゃないかな?」
なんせ直也の戦力は1人から100人なのだ。
「サイキッカーっていいよなぁ・・・。」
「そうでもないよ~?ロクな生き方も死に方もできないんだからね・・・。
結局おじさんたちは地球が生んだ兵器なんだよ、どれだけ本人たちが否定しようと・・・ね。」
「「・・・・・。」」
気まずい空気が生まれる・・・。
「ミュータントがいなくなったら・・・オレたちはどうなるんだ?」
「さぁ・・・ね、ミュータントがいなくなるなんておじさん考えたことないしね~。」
「でもっ覇王を倒したらすべての変異種を元に戻せるんだろっ?」
輝は來佳から聞き、來佳は学校で習った・・・來佳達はその可能性に賭けて覇王を倒そうとしているのだ。
「少年・・・そこまで地球は優しくないんだよ~。」
「・・・シャルに会えば、何か分かる?」
「前進はできるかもな~。」
適当な物言いに殺意を覚えるが、直也は嘘はつかない。
「・・・・・。」
來佳はこのとき自分は何か重要な何かを知り、
そしてそれは・・・自分にとって深いかかわりがある、と本能的に何かを悟った。
それから数時間、直也が倒したミュータントの数は50以上、進んでいく度に1回に出てくる数も勢いも増していく・・・デビル・フォレストに近づいている証拠。
「・・・ガキども、おじさんも数回しか見たことないおっかない森だぞ~?」
直也にそう言われて3人は顔を上げた・・・正直言って寒気しか感じない。
人間の輝でさえただならぬ気配を感じている、サイキッカーの3人はどう感じているのだろうか。
「らっ、來佳っ?」
輝は目を見開く・・・來佳が涙を流していたからだ。
どれだけ傷を負っても聖夜との戦いでさえ涙を流すことが無かった來佳が・・・。
「何でだろう・・・見たことなんてないはずなのに、
すごく怖いのに・・・懐かしいって・・・なんっ、で・・・。」
手が使えない來佳は涙を拭うことは出来ず、次々と零れ落ちる。
「・・・・・。」
輝と映男が慌てる中、直也だけは複雑そうにデビル・フォレストを睨んでいた。
″デビル・フォレスト″(悪魔の森林)、植物型ミュータントの集合体、土は無く根が重なった大地。
地球の7割を占める海を喰らい地球を蝕む悪魔・・・300年前のあの戦いで1割に減ったと聞くが・・・。
「見る限り2割は・・・ミュータントも増えてそうだね~、な?映。」
映男は震えていた・・・感知の超能力というのにこのときだけ同情する。
「ま、おじさんたちの目的は別だしこれ以上近づくつもりはないよ。」
直也は船を止め陸地に上がると進み始めた。
『・・・・・。』
「・・・っ。」
勢いよくデビル・フォレストの方を振り向く來佳。
「・・・どうした?來佳。」
「・・・ううん、なんでもない。」
來佳は首を振ると直也について行くため、足を進める。
(気のせいよね?ミュータントだったら襲い掛かってくるはずだし・・・。)
政府の力でここ一帯は立ち入り禁止区域になっている・・・人がいるとは思えない。
(誰かに見られてるなんて・・・きっと気のせい。)
特に気にすることなく來佳は直也に追いついた。
「・・・ねぇ、直也。」
「なぁ~~~に?來佳ちゃん。」
「「キモッ・・・。」」
思わず本音が漏れた映男と輝は悪くない。
「シャルとはいつ知り合ったの?どういう関係?」
「・・・言わなきゃダ「「「ダメ。」」」・・・。」
3人、特に來佳は引かなかった。
「政府と反政府の仲介にいるアンタは確かに情報もあるし顔も広い、
でもシャルのことはどっちとも分かってないし・・・レナさんに教えてもらっても知り合った理由にはならないよね?」
「來佳ちゃん・・・おじさんのことそんなに気になる?」
「・・・っ、人の話をっ「″俺″が医者になろうと思ったきっかけだ。」・・・。」
それ以上聞くことが出来なかった・・・直也がおじさんではなく、俺と言ったから。
來佳が初めて聞いた一人称・・・母の香織を抜かせば直也が1番いた時間が長いのだ・・・それこそ物心がつく前から。
來佳の初めての友達が直也、昔は兄のように慕っていた。
学校に入学しても保険医としていた直也とは週に2、3回は会っていたし、
放課後の修行をした後の手当ても直也にしてもらっていて毎日顔を合わせていたにも関わらず、
來佳の記憶には直也が俺と言っていることは無かった・・・自分の知らない直也がいる、それだけで直也の存在が遠くに思えて仕方がない。
「・・・・・。」
「・・・っ、來佳っ。」
直也の背中を見つめていた來佳は背後にミュータントがいることに気づかなかった・・・直也が影を伸ばす前に、來佳の顔の横に何かが横切った。
ミュータントが呻き倒れる・・・喉元には剣が刺さっていた。
「コレは・・・。」
サイキッカーの3人には見覚えがあった。
「・・・誰かと思ったら・・・。」
聞き覚えのある声が頭上から。
「來佳じゃないの。」
「咲?・・・咲っ。」
腰まで伸びる黒髪、猫のような黒い瞳。
手にはスケッチブックとペンを持っている咲と呼ばれた少女、來佳達の1つ上の同期のサイキッカー柊木 咲。
來佳は咲を姉のように慕い、咲は來佳を妹のように可愛がっていた。
「何しに来たの?こんな危険な場所に・・・そんな足手纏いを連れて。」
「・・・っ。」
なぜか輝は睨まれ肩をすくめた。
「シャルに会いに来たんだよ、咲ちゃん。」
「あの人は誰にも会いたくないって言ってたけどアンタは別か・・・。」
足を進める咲に大人しくついて行く。
「なんか・・・直也さん変じゃね?」
「な~にがかな?輝君?」
「直也さんって女なら見境なしなんじゃ・・・?」
「コラコラ、おじさんを節操無しの人間みたいに「事実だろ。」映男くん、
おじさんにだって好みのタイプはあるんだよ?咲ちゃんは・・・まぁ手を出したら後々が怖いからね・・・。」
何か咲に手を出せない理由があるのだろうか・・・。
「・・・近いな。」
「え?」
急に呟いた咲はおもむろにスケッチブックに何かを書き始めた・・・すると。
「霧?」
「ミュータントが5体、ココはミュータントの巣窟だからね・・・戦うだけ無駄。」
咲の超能力は″具象化″、補助タイプなのだが咲は先程の剣などの武器を具象することで攻撃もできる。
「体力の方は大丈夫?」
咲の反動は持久力が無いこと、普通のサイキッカーよりも超能力が使えない。
「心配ないよ、この森の木のどれかはウチの能力でね・・・今みたいにミュータントの場所をある程度把握しているから、見つかる心配もないよ。」
「さすが不良優等生だね~。」
学校時代、咲は聖夜と並ぶ才能の持ち主だったのだが、
咲はサボり癖が強く政府の人間からは良く思われていなかった・・・いつしか咲は不良優等生というレッテルを貼られた。
「・・・着いたよ。」
「でけぇ・・・。」
來佳達の目の前には樹齢何千年はありそうな巨大な樹。
「・・・この樹も咲が?」
「表面だけね・・・さ、中へ。」
樹が割れ、中には木で出来た家。
「おかえり咲、たくさんの人を連れてきたみたいですね。」
「ただいま戻りました、先生。」
この人が時のサイキッカー、シャルなのだろうか・・・。
男の人だと聞いていたが、女の人のように細身で美人だった、″大和撫子″みたいな雰囲気の人・・・とても200歳とは思えない。
「よぉシャル、相変わらずの若作りだな。」
「直也・・・君が私を訪ねてくれるなんて何年振りだろうね、
それと知った気配もいるね・・・來佳ちゃん、かな?」
「咲・・・シャルさんって。」
「反動でサイキッカーに目覚めた10歳から目が見えないって聞いてる。」
200年近くも生きて目が見えない・・・なのになぜ。
「・・・母の知り合いなんですか?」
「君とはまだお腹に宿っているときに出会ったんだよ來佳ちゃん。」
それはあったと言えるのだろうか・・・。
「それで・・・君たちは何をしにこんな危険な場所に来たんだい?」
「よく言うぜ、その危険な場所に住んでるくせに。」
「私の・・・私の両腕を治してほしいんです。」
全員が椅子に座り、來佳とシャルだけ少し離れたソファーに座る。
包帯を取り、真っ黒の腕を優しく触れられる。
「・・・コレを自分で?」
「はい。」
「ここまでのケガを自分でやった人は初めて見ました・・・詳しく、話してくれますか?」
來佳は聖夜との戦いのことを話した。
「・・・來佳、モテるじゃない、水無月イケメンだし。」
「咲・・・そんな話した覚えもないし、私殺されかけたんだけど・・・。」
「今はヤンデレ、って言葉があるのよ。
ま、水無月はそういうのには疎そうだし・・・キスの1つでも・・・と。」
「・・・・・?」
咲は突然言葉を止めた。
「これ以上言うと首が飛びそうだわ・・・モテモテね來佳は。」
「・・・・・?」
さっぱり意味が分からない來佳。
「咲、冗談はそのぐらいにして・・・來佳ちゃんの傷は私の力で治りますが、正直乗り気ではないですね・・・。」
「「「・・・・・っ。」」」
それじゃ何のためにここまで来たのか・・・。
「・・・っ、どうしてですかっ。」
「同じことを繰り返すからです。」
サイキッカーの超能力は万能ではない・・・もちろんシャルも、1度戻した時間はもう元に戻すことは出来ない。
「その聖夜君と再び戦えば、あなたはまた腕を犠牲にするでしょう?そうしたら私でももうどうすることもできない。
・・・あなたは自分が思っているよりも地球の未来に大きく関わ「シャル。」・・・。」
直也の殺気が含まれている声・・・シャル以外息を呑んだ。
「・・・私は、母との約束を守るため″逃げる″ことを選びました。
でも、母のことだけは・・・目の前の戦いからは逃げたくないんです。」
「・・・・・來佳ちゃんは、似てますね。」
目を細め懐かしさに浸るシャル。
(あの″2人″に・・・。)
來佳の腕が光に包まれる・・・腕の感覚が戻ってくる。
「・・・治った。」
光が納まると黒コゲ1つ無い元の腕に治っていた。
「自分をもっと大事にしてくださいね。」
「ありがとうございます、シャルさん。」
「・・・3つ、あなたに言っておくことがあります。
1つは300年前サイキッカーを率いてミュータントたちと戦ったレベルMAXへの最初の到達者、名を晃牙、・・・超能力は″雷″。」
「それって・・・。」
物語はサイキッカーのリーダーが覇王を倒し世界に平和をもたらしたと・・・つまり。
「私にも・・・覇王を倒せるかもしれないってことですか?」
「2つ目、「ちょっ。」・・・。」
有無を言わせない笑顔に來佳は何も言えなくなった。
「2つ目は覇王″達″のこと、覇王はミュータントの比ではないほど強いです。
人間並みの知性と理性、頭も良いデビル・フォレストを操る王が覇王、
そしてその王に仕える2匹のミュータント、私は右近、左近と呼んでいます。
この3匹は人間の言語を喋り非常に厄介な存在です。」
人間の言葉が分かる理性を持ったミュータント・・・獣以上の身体に自分の動きを先読みされカウンターされたら・・・勝てる気、いや生き残れる気がしない・・・それが3匹もいる・・・。
「覇王がデビル・フォレストを出ようとしたとき止めるのが、私の役目。」
自分の命を懸けて覇王の時を止める・・・覇王がデビル・フォレストを出るとき、それは地球の終わりを意味する。
覇王の力だけで、地球はデビル・フォレストに包まれるからだ。
「そして3つ目・・・コレは忠告です、彼と関わるのは危険です。」
「・・・え?」
シャルの目線の先・・・それは映男と話している輝だった。
「彼は・・・ただの人間ですよ?」
「将来・・・あなただけでなくサイキッカーすべてが危険になるかもしれません。」
シャルが冗談を言っている雰囲気でもない。
「今ここで距離をとるか、それとも始末する「嫌です。」・・・來佳ちゃん。」
「輝は・・・母が行方不明になってから初めて信頼した人間なんです、
逃げ場なんてなかった私に場所を作ってくれた・・・そんな彼を私は失いたくない。」
ましてや殺すなど・・・真っ直ぐな目でシャルを見る來佳。
「もし本当にシャルさんの言う通りになった時は・・・その時は。」
「その時は?」
「その時考えます。」
目の見えないシャルだが、來佳の笑顔が眩しく感じた。
來佳はその後咲に呼ばれ、向こうに行った・・・入れ替わるように直也がやって来た。
「輝のこと、聞いてねぇぞ?」
「盗み聞きですか?相変わらず趣味の悪い能力ですね・・・。」
他人の影に同調し入り込む直也の技・・・それで2人の会話を聞いていたらしい。
「彼を殺したら嫌われるどころか彼女の意に反し、壊れるかもしれませんね。
見守る・・・があなたの役目でしょうね直也。」
「・・・・・分かってるよ。」
そう言った直也の表情は普段のものとかけ離れたものだった。
「・・・來佳は、どっちの方が幸せになれるんでしょうね?」
「・・・・・。」
直也は何も言わなかった、言えなかったのか。
「・・・・・直也?」
來佳に呼ばれいつもの直也の表情に戻る。
「おじさんのしたいようにするさ。」
「・・・・・。」
來佳の元に行った直也・・・シャルはそれを感じ笑った・・・。




