5話
「すー・・・すー。」
授業中にも関わらず眠っているのは來佳。
「なぁ輝・・・最近來佳ちゃん寝てばっかりじゃね?
お前毎夜毎夜來佳ちゃんにいかがわしいこと「してねぇよ。」冗談だよ。」
「お前の頭の中はそういうことしかねぇのかよ。」
隣の席の2人は、授業中でも小声で話すことは日常茶飯事である。
「そう怒んなよ・・・でも真面目な話、來佳ちゃん本当に大丈夫なのか?
今朝も包帯巻いて登校してきたしさ・・・。」
「・・・ただの″事故″だよ。」
クラスメートには昨日の夜車と接触した、と言ってあるがもちろん嘘・・・本当は。
―――それは昨日の真夜中の出来事・・・。
誰もいない街中でミュータントが暴れていた。
「・・・っ、はあっ。」
ミュータントの攻撃をかわし、蹴りを喰らわすのは來佳。
輝は銃を構え巻き添えを食わないよう離れた場所にいる。
・・・町を壊さないよう心掛けている來佳、そのためミュータントに押されていた。
「・・・ぐっ。」
前足(腕)を振り下ろしたミュータント・・・避ければ楽なのだが地面が壊れてしまうため、來佳は受け止めた。
「・・・っ、このぉっ。」
來佳のレベル2は全身から雷を発する・・・その応用の技で体内に電気を流し、筋肉を刺激し身体能力を今以上に上げることが出来る。
ミュータントの前足を押し返し仰向けにすると・・・高い跳躍力でミュータントの真上に跳び雷を纏わせた拳を叩き込む。
ミュータントは息絶え砂と化した・・・。
「ふぅ・・・。」
「ふぅ・・・じゃねぇよっ、何叩き込んでんだよ下見ろ下っ。」
「・・・・・・・あ。」
身体能力が元々高い來佳だが、その能力をさらに上げ地球の重力を加算したその拳・・・一点に集中したその攻撃は、叩き込んだその箇所から中心にヒビが入っていた。
「何のために苦労して戦ってたんだよお前は。」
「はは・・・潰されそうだったからつい・・・。」
「誤魔化そうとしても無駄だぞっ、どうすんだコッ・・・レ?」
輝の言葉は風の音で遮られる・・・空を見れば普通の鳥よりも巨大な・・・
飛行機と同じ大きさ、下手したら飛行機よりも大きな銀色の鳥が羽をはばたかせていた。
「・・・鳥型のミュータント・・・そんなのもいたのかよっ。」
「ミュータントは陸、海、空と対応した種類があるのよ。」
來佳はビルとビルの間の壁を次々と蹴り上がり屋上に到着する・・・それはさながら。
「忍者かアイツは・・・。」
凄いという言葉を通り越して呆れてしまう。
屋上から助走を付けて跳ぶが、ミュータントは上昇し來佳の拳は空を切る。
ミュータントには人間並みの知性がある・・・上昇してしまえば來佳が攻撃できないことをミュータントは分かっていた。
來佳は空を飛べるはずもなく落下する・・・落下する間もネジに磁力を纏わせ弾くが、簡単に避けられてしまった。
「ちっ・・・。」
舌打ちした後來佳は猫のように身軽に着地する・・・まるで映画のアクションシーンのようでコレが現実でなかったら輝は見惚れているところだった。
「・・・輝、任せた。」
「距離は?」
「30m。」
輝は持ってきたアタッシュケースを開ける、その中身は・・・。
「・・・輝って本当に一般人?」
中には多種多様な銃の数々・・・ロケットランチャーまで入っていた。
「ちゃんと親父の知り合いから仕入れてるよ。」
そういう問題ではない気がするが・・・輝はマシンピストルを構える。
いくら俊敏でも避けるのには限度があるだろう・・・そこを狙う。
「いくぞ。」
「いつでもどうぞ。」
発砲する輝、予想通り避けられずミュータントは苦しむが、致命傷は与えられない。
(ミュータントは、知性は持っているけど″理性″は持ち合わせていないのよね。)
人は理性で欲望をコントロールして生きている・・・がミュータントは理性を持っていないため本能のまま動く。
ミュータントは怒り狂い、真っ直ぐ突っ込んできた。
後は來佳の役目・・・足に力を溜め思いっきり跳ぶ。
「焼き鳥にしてあげるっ。」
ミュータントの背中に乗った來佳は雷を全身に流し込み、砂になったミュータント。
今回も來佳達の勝利に終わったわけだが・・・。―――
(その後は來佳の傷の手当てだわなんだで、ろくに寝てねぇんだよな・・・。)
今朝からあくびばかりしている輝だが來佳よりは寝ているし、寝ようものなら海斗に何をされるか分かったものではない。
(それに・・・・・。)
輝は机に突っ伏して寝ている來佳を見つめる。
(來佳の方が何十倍も疲れてるしな・・・。)
身体能力を上げるあの技はドーピングに近く反動とは違う副作用が來佳を蝕む。
使えば使うほど筋肉は痛み、來佳はその痛みもあって昨晩は一睡も眠れていない・・・。
(サイキッカーって万能だと思ったらそうでもないんだよな。)
あの鳥型のミュータントとの戦いは、雷を飛ばせば容易に勝てたと輝は思う・・・が來佳の答えは。
「空気は絶縁体だから雷は流せないの、普段も空気中の水分を使って雷を放出してるけど、飛ばすとなるとかなり体力も消費するし、威力も落ちる・・・どこに飛ぶかも分からないしね。
雷がどこに落ちるのか分からないのと同じ原理ね。」
サイキッカーの超能力は地球上のモノに限られている・・・自然の摂理から離れることは出来ないのだ。
放課後、お昼も寝っぱなしだった來佳も目覚め輝とともに帰る。
「もう大丈夫なのかよ?」
「ん・・・火傷も治ったしね。」
痛々しかった包帯は取れ、見える肌は普通の色だった・・・相変わらず治りが早い。
「・・・最近ミュータントの数、増えてきたよな。」
「そうだね・・・といってもわがまま言える状況じゃ・・・っ。」
「・・・?どうしたんだよ?」
來佳は足を止め驚きの表情で1点を凝視した・・・輝もその先を見た。
「・・・女の子?」
銀髪、瞳の女の子・・・その女の子も來佳を見ていた。
「・・・・・。」
「まっ・・・。」
女の子は突然顔を逸らし車に乗り込んでしまった。
「・・・っ、ネムッ。」
「知り合いかよ?」
車を追いかけようとするがさすがの2人も車のスピードには勝てない、輝は持っていた発信機を車につけた。
「何でそんなの持ってんのよっ。」
「一応誘拐されたときとかの予防策ってやつ?」
「・・・アンタを誘拐できる奴なんてそうそういないと思うけどね。」
そんな会話をしながら2人は車を追った。
「それより、あの子何者なんだよ?」
「鈴宮 ネム・・・私と同じサイキッカーだよ。」
輝は來佳以外のサイキッカーに会ったことがない、
來の見間違いでも勘違いでもなければ2人目のサイキッカー・・・少しテンションが上がる。
「あんな病弱そうな子もサイキッカーなのか?」
「ネムは私とはタイプが違うサイキッカーだからね。」
「・・・タイプ?」
ミュータントみたいな環境に適応した形があるのだろうか・・・。
「ネムは私と違って補助タイプなの、つまり戦う能力じゃない。
あの子の能力は・・・・・″予知″。」
ネムと來佳は4つ違いで、卒業した年も違うので、來佳が卒業してから後のネムを知らない。
「私が知ってるネムの能力はレベル1の予知夢だけ・・・。」
さっきから胸騒ぎがおさまらない。
「能力はともかく、そんなに慌てることかよ。」
「・・・・・。」
來佳自身気づかない内に足取りが速くなっていく。
(何でネム1人なんだろう・・・いつも2人一緒だったのに・・・。)
仲良しだった2人を思い出していると発信機が止まった、場所は今は使われていない古倉庫。
「・・・怪しすぎねぇか?」
「気配は全く感じないけど・・・私窓から入るけど輝は少し離れて待機してて。
今日は輝無防備だしね。」
「学校にまで銃持ってくるかよっ。」
そんな会話をした後、來佳は軽々と上に上り屋根に手をかけぶら下がり窓から入ろうと手をかけた。
開けようとしたその瞬間、ガラスが割れ來佳の右胸に銃弾が貫く・・・。
「・・・・・っ。」
ぶらさがっていた手の力が抜け、落下するのを輝は駆け寄り受け止める。
「來佳っ、大丈夫かっ?」
声をかける輝だが來佳は現状に困惑しそれどころではなかった。
(待ち伏せ?それにしてもタイミングが良すぎる・・・。
窓から入る確率は高いけど、あの窓から入るなんてどうして・・・。)
打たれた銃弾はただの麻酔弾なので殺傷能力はないが・・・。
「・・・・・まさかっ。」
浮かび上がったのは1つの結論・・・。
倉庫の扉が開かれる・・・出てきたのは銃を持った、たくさんの黒ずくめ男たちと。
「・・・ネムッ。」
「・・・・・。」
黒の中に1つ、白が存在していた。
「久しぶり・・・來佳ちゃん。」
まるで棒読みのように喋るトーンが変わらないネム・・・昔と全然変わっていないのになぜ。
「・・・アンタが政府側のサイキッカーになってるなんて・・・。」
「來佳ちゃん、この間の休みの時に誰かとぶつからなかった?」
「・・・・・。」
心当たりのある來佳・・・やはりアレは気のせいではなかった、あの時感じた胸の引っ掛かりも。
「アレがレベル2の接触予知、來佳ちゃんがいつあそこに通るか予知したの、
その後目が合った・・・それがレベル3の瞳予知、あの窓から入ってくるのを予知したんだよ?」
「・・・ネムがレベル3?」
レベル2と3には境目がある・・・レベル2のまま生涯を終えるサイキッカーの方が圧倒的に多い。
「・・・身体はっ?大丈夫なの?」
「うん。」
「自分の意志でそっちにいるの?」
「うん。」
淡々と答えるネム。
「・・・琴音は?」
ピクリ、と肩が揺れる。
「あんな人嫌い・・・知らない。」
「・・・ネム。」
ネムの声が少し低かったのを來佳は聞き逃さない。
「おしゃべりは終わりだよ、來佳ちゃん・・・捕まえた。」
追い討ちに麻酔弾入りの銃が向けられる・・・今にも意識が飛びそうな來佳には避ける術がない。
「・・・・・っ。」
「輝っ・・・逃げっ、てっ。」
輝は逃げようとせず來佳を護るように、包み込むようにして抱きしめた。
(私は・・・弱いな。)
來佳は目を閉じる瞬間、懐かしい心地よい風を感じた気がした・・・。




