4話
学校の無い休日のある日・・・來佳は特にすることもなく私服に着替え下に降りてみた・・・と、知らぬ気配と複数の話し声が聞こえてきた。
(アレは・・・。)
神田家と海斗・・・とその父がいた。
(アレが皆上 努・・・あの人が政府側の人間だったら・・・。)
自分を捕らえようと行動してくるだろうか・・・。
神田家のみんなの前ですることはないだろうが、自分の正体がバレればココに住んでいるということが分かってしまう。
(そうしたらもうココにはいられない。)
一緒に暮らした時間は少ないのに寂しいと思う自分がいる・・・。
大分神田家の雰囲気に呑まれてしまったかもしれない、
それも悪くないと思っている自分がいることは胸に秘めておくことにする。
「來佳ちゃん?こんなところでどうしたの?」
「雲母さん・・・その、お買い物に行こうと思って挨拶しようかと思ったんですけどお客様がいたので・・・。」
「そう・・・じゃあ荷物持ちが必要ね。」
「あっ・・・。」
雲母は止める暇なく中に入ってしまった。
とっさについた嘘がどうやら裏目に出たらしい・・・。
雲母は2人に話したのだろう、輝と海斗が中から出てきた。
「來佳ちゃんっ、オレがきっちりエスコートしてあげる。」
「話の方はいいの?私は1人でも全然・・・。」
というか1人の方がいい、と呟きたいところだが・・・。
「親父たちの話になんて元からついていけてねぇよ、行くぞ。」
そう言われて來佳は予定にない買い物に2人を連れて行くことになった。
「正輝さん・・・彼女は?」
自分の息子と先輩の息子と一緒にいる彼女、來佳の後ろ姿を見る努。
「うちの新しい家族さ。」
「新しい家族ですか・・・いいですね。」
「はは、努君の方がいっぱいいるじゃないか。」
努は親のいない子供たちを引き取る施設、孤児院を経営している。
「そうですね・・・彼らは私の可愛い子供たちですよ。」
そう微笑みながら会話していると努の携帯が鳴った。
「すみません正輝さん、少し席をはずします。」
「ああ構わないよ、ゆっくり話してきたまえ。」
「失礼します。」
努は廊下に出る。
「ああ私だ。
予定通りに進めてくれ・・・お前の″力″を期待しているよ、可愛い私の娘。」
こんな会話があったなど誰も知らない・・・その頃買い物に出かけた3人は・・・。
「・・・來佳ちゃん、男物の服しか買ってなくない?」
「こっちの方が動きやすいからいいの。」
今來佳が着ているのも男物の服だ。
「來佳ちゃん可愛いんだからもっとオシャレしようよ。」
「でもコイツ男の格好したら、男にしか見えねぇぞ?
いっそのこと男でもよく「よくない。」・・・。」
來佳の背後に雷が見えたのはきっと輝の幻覚だろう・・・。
「そっ、そういえば輝の親父さんの孤児院またおっきくなったんだってな。」
話を逸らすべく先ほど聞いた話を持ち出す輝。
「まぁな・・・子どもが増える一方でよ、親が子どものそばにいないなんて・・・本当おかしい話だよな。」
「・・・・・。」
その子ども達に、來佳も該当する。
母は政府の仕事で忙しく、來佳はあの学校で育った・・・。
母親とは月1回会えるかどうかという話、それでも他のサイキッカーよりはマシだった。
他のサイキッカーは家族の1人とも会えないからだ・・・といっても会わないんじゃなく、もう″会えない″のだ。
「でもオレ最近孤児院行けてなくてよ・・・。
最後に身体の弱い色白の女の子が入ったっきりでさ・・・親父に聞いても詳しく答えてくれなくて。」
海斗のその呟きに來佳は1人の少女を思い浮かべるが・・・。
(そんなはずないか・・・。)
すぐに考えを消した・・・思い浮かべた少女は1人ではないのだから、孤児院にいるなどありはしないはずだ・・・。
「あっ、こんな時間か・・・悪ィ、輝。」
「どうしたんだよ急に・・・。」
海斗は持っていた荷物をすべて輝に預けた。
「オレ今から合コンなんだっ、じゃなっ。」
「あの野郎、人に荷物全部持たせやがって・・・來佳?」
「・・・・・。」
來佳は海斗を目で追っていた・・・相手を警戒するような目つきで。
「・・・まだ疑ってんのか?」
「疑ってるわよ・・・それも前よりも。」
「・・・・・っ。」
輝は思わず來佳の胸ぐらをつかんでしまう。
「そうだという確証はあるのかよっ。」
「そうじゃない確証だってないわよっ。」
手を払う來佳・・・その顔は苦痛に歪んでいた。
「・・・私たちサイキッカーは常に気を配らなきゃいけない。
裏社会ではサイキッカーはイイ金づるなのよ、売られたサイキッカーも、売られて政府の籠の鳥にされた奴も・・・私は知ってる。
気を休める場所なんてどこにもない・・・今もそう。」
どこに政府側の人間がいるかなんて分からない、ミュータントだっていつ現れるのか・・・。
だから來佳は周りを巻き込まないよう人気の無い道を選ぶ、今も人気の無い公園に来ている・・・輝も気配を感じ取ったのか辺りを警戒する。
「輝は離れてて・・・近くにいると、死ぬよ?」
輝の背筋が凍る・・・。
「私は逃げることを選んだ・・・だからどんなことをしてでも逃げてみせる・・・そう誓った。」
黒ずくめの集団が來佳達を囲む・・・手には銃、一斉に発砲する。
「・・・っ、來っ「ちょうどいいわ・・・輝に私のレベル2、見せてあげる。」・・・っ。」
全身から放出される雷・・・弾丸はその熱に、すべて蒸発した。
(コレが・・・來佳のレベル2。)
威力も攻撃範囲もレベル1とは比べ物にならない・・・。
「下がれぇ、距離をとってもう1度「無駄だって。」・・・。」
來佳は懐から何かを取り出す・・・それはどこにでも売っている安全ピンやグリップなどのただの文房具・・・なのだが。
來佳はその文房具に自分の雷を浴びせる・・・グリップ達は磁力を浴び・・・。
「・・・くたばりな、政府の憐れな飼い犬たち。」
まるで弾丸、しかし威力はそれ以上・・・黒ずくめたちの頭や身体が貫かれる・・・即死である。
「・・・・・っ。」
人が死んだ・・・それも目の前で・・・輝は嘔吐しそうになるのを何とか堪える。
政治家である父は顔が広い、そのために幼いころからたくさんの人が亡くなった情報が入ってくる・・・人の死に目にも立ち会ってきた。
ニュースで、戦争でたくさんの人が亡くなった、殺人事件で死体がバラバラなどやっているがその映像や画像は流れない。
貫通した威力が強いのだろう・・・あまり血は流れていない。
しかし、頭や身体に穴が開いている黒ずくめはピクリとも動かず動向も開ききっている・・・死んでいるのは確実、それを・・・來佳がやったのだ。
ミュータントを殺したのとはわけが違う・・・、來佳は"人"を殺したのだ。
まだ知り合って1週間と経っていないが、來佳はそんなことをする奴ではないと輝はそう思っていた・・・それなのに。
「・・・・・。」
数十人もいた中で生き残りは1人だけ・・・來佳の目の前で尻餅をついている男ただ1人。
男性は拳銃を発砲するが、どれも來佳に当たる前に蒸発してしまう。
「ばっ、化け物っ。」
「・・・欲が強いから自分の身が滅ぶの、
ただの人間″だった″奴に・・・サイキッカーは捕まえられない。」
そう冷たく言い放った來佳の指がピンを弾く・・・ピンは男の額を貫通し、男は息絶えた。
「・・・・・。」
來佳は何も言わず、その場から踵を返して立ち去ろうとする。
「・・・っ、待てよっ。」
「・・・・・っ。」
輝に力強く引かれ押し倒される。
「・・・っ、何?」
「人を殺しておいてそんな態度かよっ。」
怒鳴り散らす輝に、來佳の表情は無表情に近かった。
「・・・アレは人間じゃない、見てみなさいよ。」
「・・・っ、消えっ?」
死んだ黒ずくめの男達はどこにもいなかった・・・あったのはミュータントが死んだ時と同じ砂・・・。
「彼らは政府に雇われた私たちを捕らえるための、ミュータントを倒すための兵士。」
天涯孤独な者、裏社会の者、金目当ての者・・・そして超能力に恵まれなかったサイキッカーの血縁者達・・・政府の力により戸籍を消され、世間から消される。
「そしてアイツらは最初に″ミュータントの灰″を身体に取り込む。」
ミュータントの灰は変異種を多く含んでいることが実験で分かり、政府は人間で試した。
「身体能力の向上・・・までは良かった。
でも最終的には変異種に身体を侵され狂い、いずれは砂になる・・・個人差はあるけど灰を取り込んだ人間の末路は同じ。」
「・・・・・。」
人″だった″者を殺して人殺しというのか・・・。
「私たちは学校にいた頃からこいつら相手に能力の向上と・・・本物の人を殺せるように殺してきた。」
政府の犬になるということは、実験やミュータントの狩りだけでなく、
裏切り者の始末、秘密を探った者や知ってしまった者たちの始末も請け負っている。
「幼い頃から人の形をした″サンドバック″で修行してきた私たちは人を殺しても罪悪感なんてない・・・そう育てられてきた。
今までミュータントが見つからなかったわけじゃない、今までサイキッカーが超能力を使っているところを見られなかったわけじゃない。」
見てしまった者、知ってしまった人を殺して・・・全部隠蔽してきたのだ。
「人を殺してはいけない・・・それは法律で決められているから、だから人は人を殺さない・・・。
でもサイキッカーに・・・政府の犬に法なんてない。」
そう話す來佳の目には光が無かった・・・。
「でも私たちは違った・・・人とこいつらは違う。」
人は尊い者・・・軽々しく命を摘み取ることなどできやしない。
「・・・政府の考えは間違っているのはよく分かった、オレたちの手でぶっ潰してやろうぜっ。」
「・・・それはいいんだけど・・・はやくどいてくれる?」
「ん?・・・・・うわっ。」
今の今まで來佳を押し倒していた輝・・・いくら人気の無い公園とはいえ恥ずかしく自覚した2人の顔は真っ赤。
「・・・・・わぷっ。」
「・・・・・っ。」
慌ててどこうとするあまり輝は手が滑り、顔が來佳の胸に埋もれる形になり・・・。
來佳は輝の顎にアッパーカットを喰らわせたことで2人は離れた。
「・・・つっ~~~、わざとじゃねぇだろうがっ。」
「わざとじゃなかったら何でもしていいわけないでしょっ。」
帰りながら言い争っている2人・・・輝は未だに顎をさすっている。
「普段は男っぽいくせにこういう時だけ女かよ・・・。」
「女性はたくましく生きなさい、って母からの教えでね・・・っと、ごめんなさ・・・?」
輝と言い争いしていて周りの気配に気を配ってなかった來佳は誰かとぶつかってしまう。
すぐに体制を立て直し謝ろうとするが、そこには誰もいなかった。
(・・・今確かに?)
確かにぶつかった・・・それも衝撃が少なかったので自分より小さい相手にだ・・・。
「早く帰るぞ、おまえの荷物重たくて仕方ねぇよ。」
「・・・・・うん。」
來佳は何か胸にひっかかるものがあったが特に気にせず、輝と家に帰ってしまった。
その頃・・・來佳達が先ほどまでいた公園には、小柄な影の姿があった。
「″触る″ことはできたかい?」
「・・・・・。」
その影に近づく人影・・・影はその問いに頷いた。
「さすが私の娘だ・・・さぁ帰ろう私たちの家に。」
「・・・・・。」
影は再び頷き顔を上げた・・・その影の正体は少女だった。
病的に白い肌にボサボサに伸びた髪は綺麗な銀色で、瞳も髪に負けないくらい綺麗な銀色だった・・・。
「・・・・・來佳ちゃん。」
少女は來佳の名を呟き、人影を追うように足を進めた・・・。




