14話
覇王の背に乗って数分という時間でデビル・フォレストに着いた3人(内1人気絶中)。
「ココが・・・デビル・フォレストの内部・・・。」
遠目で1度見ただけの森。
それでも大きかったが近くで見ると大きさも迫力も、感じるものすべて違った・・・。
木々の間には数えきれない位のミュータントの数。
「「・・・・・。」」
來佳も輝も心臓の鼓動が速くなり、握る拳の力が強まる。
『案ずるな、我が近くにいる限り襲っては来ん。』
覇王は気にすることなく足を進め、森の中心に向かっていく・・・その中。
「・・・なぁ、おかしくねぇか?
何か入ってきたときと雰囲気違うしミュータントの気配も・・・。」
確かに輝の言う通りあれだけいたミュータントの気配が全く感じられず、
今來佳が感じているのは恐怖や威圧などではなく・・・懐かしさ、心地良さだった。
『この辺りは″聖域″だ。
故に、アイツらは入っては来れぬ・・・毛1本ですらな。』
「・・・聖域?」
『着いたぞ、この森の中心。』
そこには光を自ら放つ祠が建っていた・・・とても神々しい。
來佳達は覇王の背から降り、木の根を枕にして未だに目覚めない聖夜を寝かせた。
『主の攻撃を防いだのです・・・体力を一気に消耗し、疲れ果てているのでしょう。』
「右近、左近っ。」
來佳に擦り寄ってきた右近と左近。
「らっ、來佳っ・・・なっ、なんでミュータントと仲っ・・・えっ?」
相当混乱している様子の輝。
來佳は自分が知っていることを輝に話す・・・と言っても來佳自身分からないことだらけであるが。
『ココは聖域、我ら以外立ち入ることが出来ない神聖な場所。
地球のエネルギーが1番流れている場所でもある・・・。』
『ミュータントたちは自分たちの住む場所を確保するため人を喰らい、森に力を与え木々を増やし、森を大きくさせる。』
右近と左近の話ではデビル・フォレストは単体では動かないらしい・・・。
人という養分、木々を伸ばすための海水・・・ミュータントがデビル・フォレストを育てているようだ。
「・・・どっ『來佳、来い。』・・・。」
覇王に呼ばれた來佳・・・断る理由は無いが。
「・・・・・。」
來佳の気がかりは聖夜・・・また輝を殺そうと襲うのではないかと・・・。
『來佳様行ってください。』
『この人間は我らがお護りいたします。』
「・・・・・でも。」
なぜか右近と左近は來佳を特別扱いしている・・・きっと輝を護ってくれるだろうが・・・。
『すぐにはこの人間も行動できないはずです。』
超能力は体力が回復しないと使えない。
「・・・殺しちゃダメだからね。」
そう言い残して來佳は覇王と共に森に消えていった。
「・・・あの2人(?)はどこ行くんだ?」
『香織の所だ。』
「・・・っ。」
疑問を口にしただけで帰ってくるとは思わなかった・・・。
「・・・來佳の母親と覇王っていったい・・・。」
『・・・いつまで寝たふりを続けているつもりだ?』
「えっ?」
輝は聖夜の方に顔を向けると目を開けていた・・・警戒するが。
「安心しろ、手は出さない・・・今はな。」
「・・・・・。」
少し引っかかる言い方だったが左近の言う通り、今聖夜は超能力が使えない様子。
光は警戒を解いた。
「お前たちに聞きたいことがある。
あの女(昴)は″ただ″のサイキッカーじゃお前たちは殺せないと言った・・・それはおそらく。」
『我らは他のミュータントとは違う。
主、覇王の力によって″無″から造られ、生まれたミュータント。』
『貴様らにとっての心臓、我らの核は主の力でしか破壊できない。』
ミュータントは地球の生物の変異種だが右近と左近、覇王はどうやら違うらしい。
普通のミュータントは全身が核のようなもので身体を壊せば息絶えるが、3匹は別に核があるらしくソレは覇王の力でしか壊せない・・・3匹は不死に近い。
覇王に至っては自分で自分を殺さないと死なないので不死同然と言ってもいい。
「俺ではお前たちを倒せないということか・・・倒すことが出来るのは。」
『・・・貴様はすべて知っているのか?』
2匹の目が鋭く細められる。
「知っている、というより知らされた・・・だが。」
すべてを知った・・・知ったからこそ。
(お前がどれだけ危険な存在かということも。)
1人だけ会話に入っていけず蚊帳の外で拗ねている輝を聖夜は横目でじっと見ていた。
離れた距離では覇王と來佳が少し離れて歩いている。
(・・・初めて来た気がしない、この匂い・・・。)
直也たちとデビル・フォレストを見たとき來佳は泣いた・・・その時よりも気持ちが強い。
胸が締め付けられるような切ない気持ちと同時に胸が暖かくなる嬉しい気持ち。
(・・・私は・・・何を知っているの?)
『着いたぞ。』
「・・・・・コレは・・・墓?」
1面のひまわり・・・その中心にあるのはお墓。
ひまわりは香織の1番好きだった花。
『香織は・・・お前の母はこの下に眠っている。』
「・・・・・そう。」
やはり香織はこの世にはいなかった・・・しかし悲しいというよりホッとした、安心の気持ちの方が大きかった。
「幸せそうで・・・良かった。」
ちゃんと墓を作ってもらい大好きな花に囲まれ安らかに眠っていることだろう。
「お母さん・・・私、約束守ってるよ。」
ちゃんと生きている・・・生きて大好きな母と再会できた。
「覇王・・・全部、全部話して。」
ミュータントとサイキッカーの永きに亘る闘いのこと。
そして・・・母がこの地に眠っている理由を。
『・・・よかろう、こちらに来い。』
そこには木で作られたテーブルとイスがあった・・・なぜこのようなものがあるのか、
來佳は言われるがまま、イスに座った・・・覇王は立ったまま。
『まずは300年前の話をしようか。』
300年前、雷のサイキッカー晃牙がサイキッカーたちを率いて覇王を始めミュータントたちをすべて倒し、
デビル・フォレストを覇王の核の力を使い1割に縮小させた・・・コレが來佳の知る300年前の戦いだ。
『実際は縮小させたのではなく消滅させたのだ・・・ミュータントも1匹残らず殲滅させた。
残ったのは聖域と・・・淡く光る覇王の″核″だけだった。』
どのサイキッカーの超能力でも聖域を傷つけることは出来なかった。
そこで晃牙は1人聖域に入り・・・覇王の核に触れた。
『そして・・・このような姿に成り果てた。』
「・・・っ、じゃあアナタはっ・・・最初から覇王なんじゃなく・・・。」
『・・・・・。』
覇王の身体が光る・・・そこにいたのは獣ではなく人だった。
「初代雷のサイキッカー・・・晃牙。」
同じ雷だからか、黒い髪に黒と金色のオッドアイ。
『この身体になって分かったことは2つ。
1つは不老不死に近い身体になったこと。』
300年生きているにも関わらず晃牙の容姿は20代後半位、
そして右近と左近が言っていた3匹の核は覇王の力でしか壊せない・・・。
『そしてもう1つ・・・デビル・フォレストを抑止できること。』
「・・・抑止?」
『300年、デビル・フォレストは活動を停止していたわけではない、
覇王の力を使い活動を抑止していた・・・ミュータントも我がずっと排除していた。』
植物は根から切り離しても水があれば少しは成長できる・・・晃牙は300年間その成長を遅めていた。
『この聖域は外部から来た侵略者に抗った地球の意思を形にしたモノ、覇王の核は隕石そのもの・・・すべての変異種の源。』
聖域は覇王の核の力を使い地球が造ったモノでミュータントたちは近づくことすらできない。
『ミュータントは我を倒すためにデビル・フォレストが造った兵士兼自分を大きくするための道具・・・とでも言うか。』
「・・・ちょっと待って、核に触れて覇王になったってことは・・・アナタが倒した覇王は。」
『・・・普通の人間だった。』
「・・・・・・。」
知らなかったとはいえ一般人を殺めるのは心が痛む。
「・・・晃牙、さんはそんな姿になってもずっと地球を、人を護っていたんですね・・・ありがとうございます。」
『・・・來佳。』
晃牙に頭を下げる來佳・・・自分はたった16年間しか生きていない、300年など想像もつかないほど過酷なはずだ・・・。
「母は・・・そんなアナタだから、護ろうとしたんですね。」
「・・・っ。」
晃牙は來佳を強く抱きしめる。
「お前は・・・香織によく似ている、顔も・・・心も。」
―――晃牙は300年、たった1人で聖域に暮らしミュータントを排除しデビル・フォレストの番人をしていた。
50年前にシャルと出会いこの戦いの真実を話した以外、人と会話は愚か、会ってすらいなかった。
『・・・・・。』
身体ではなく、心が渇いていた・・・。
何度死のうと思ったか・・・しかし自分が死ねばデビル・フォレストは活性化し、半年も経てば地球はすべてデビル・フォレストに侵され滅びてしまう。
そう考えてしまうと晃牙には踏み止まるしか、選択肢はなかった・・・。
ミュータントは核を持つ覇王となった晃牙とサイキッカーを消すという目的で量産されたのだが、晃牙が強すぎて今ではもう襲ってこない。
そんな退屈なある日・・・ミュータントの悲鳴と大きな爆発音が聞こえた。
〔・・・誰か来たのか?〕
こんな場所に来るなど、きっと骨も残らず喰われることだろう・・・。
『・・・・・。』
長年暇を持て余していた晃牙は好奇心に動かされるまま現場に向かった。
気になったのだ・・・この森に来た人間はどんな変人なのか、
そして1つの可能性・・・もしミュータントの巣窟であるあの森で生き残っていたならなれるかもしれない。
自分の代わりを継ぐ、新たなる覇王に・・・。―――
『我はその時にはもう・・・限界が近いと感じていた。』
「限界?」
『核に飲み込まれ暴走する・・・前の覇王はただの人間だったからすぐに限界を超え地球を襲おうとした。』
その点、晃牙はレベルMAXの到達者で心も体も強かったし、変異種には免疫もあった。
『しかし・・・その時に出逢ったのは強者などではなく、ただの娘だった。』
―――『・・・・・。』
現場に近づくにつれ地面には大量の灰。
〔これはまた・・・。〕
晃牙は感心した・・・自分の全盛期と同等ではないかと思ったくらいに。
〔いったいどんな奴か・・・。〕
ますます興味を惹かれスピードを速める・・・だがその現場にいたのは。
『・・・女子?』
灰の中に埋もれている(どうやら眠っているよう)のは自分(人間時)とそう変わらない女性だった。
女性は自分の血なのかミュータントの返り血なのか、身体は真っ赤に染まっていた。
『・・・・・。』
晃牙はその女性を背に乗せ、聖域に向かって歩き出した・・・。
「・・・ん。」
『目覚めたか?』
女性は晃牙と目が合うと目を見開いた。
「・・・ミュータントが喋った?それにその毛の色・・・。」
『女子、お前もサイキッカーだろ?危険と分かっていてなぜこの地に「アナタを倒しに来たのよ覇王。」・・・。』
晃牙の目の前には血に染まった女性の顔・・・晃牙は反射で避ける。
『この速さ・・・お前雷のサイキッカーか?』
「ねぇ・・・1つ聞いていい?」
『・・・何だ?』
余裕だからか、それともただのバカか・・・尋ねてくる女性。
「アナタを倒したら・・・私たちはどうなるの?」
その顔は攻撃してきたときの真っ直ぐで凛としたサイキッカーではなく、不安を抱く普通の女性の顔だった。
『・・・何も変わらない・・・この戦いは永遠に続く。』
「そう・・・・・じゃあや~めたっ。」
『・・・・・何故だ?』
言葉通り戦うことを止めた女性に怪訝そうにする晃牙。
「何も変わらないなら戦う意味なんてないじゃない。」
『・・・・・「それに。」・・・何だ?』
「アナタとはどうしてか・・・戦いたくないの。」
『・・・変な女子だ。』
それが晃牙と、香織の出逢いだった・・・。―――
「・・・・・。」
終わらぬ戦い・・・覇王を倒しても何も変わらない、
それどころかミュータントたちの動きが活性化し地球の滅亡のカウントが早くなるだけ。
聖域を破壊することは不可能・・・地球のエネルギーが常に供給されている、
聖域の活動を止めない限りデビル・フォレストは活動を止めない・・・しかし、その手段は無い・・・晃牙の覇王の力を使っても可能性は低い。
『もっとも、お前は香織のような変人ではなかったが。』
マイペースで他人の気などお構いなし、おかしな奴だと思っていた・・・あの時までは。
―――女性、香織がデビル・フォレストに来て早数週間。
『なぜ帰らない?』
「アナタの話を聞いたから。」
聖域に住み着いてしまった香織、確かに聖域はサイキッカーにとって故郷のようなものだが・・・現代人が電化製品も、何もない所で暮らせるのか。
『我の話を聞いたから何だというのだ?我の跡でも継いで「嫌よ。」・・・なら何故。』
「私がココにいるのはアナタが1人では寂しいと言ったからでしょ?」
『・・・・・。』
別に言ったわけではない・・・思ってはいたが。
「それに・・・私には夢があるの。」
『夢?変人のお前に立派な夢があるのか?』
2人は共に過ごすうち悪態が付ける程仲良くなった。
「失礼ね・・・私の両親はね、″普通″の人間なの。」
『・・・・・。』
「私が超能力に目覚めたとき、一緒にいた父を殺してね・・・。
それから母は仕事に取り憑かれ、私は今まで以上に大切にされてきた。」
変人だと思っていた香織の暗い過去・・・晃牙は自分と重ねてしまった。
能力に目覚め両親に拒絶された瞬間、目の前が真っ白になった・・・晃牙が我に返った時には黒焦げの死体が2体地に伏しているだけだった・・・。
『・・・・・香織。』
「だからね・・・いつか、いつか生まれてくる子供は普通の子で、幸せになって欲しいの。」
その悲しげな笑顔を見た時からだろう・・・香織を1人の女性として意識し始めたのは。―――
『アイツと一緒に森で暮らして1カ月。
影のサイキッカーが現れ香織はこの森から姿を消した・・・。』
直也のことだ・・・右近たちが言っていた引き裂いた、とはこのことか。
『我はその方が良かった・・・アイツの夢は、我と一緒では叶わんからな。』
「・・・晃牙さん。」
孤独に戻った晃牙は今まで以上に寂しかった・・・。
『だが・・・アイツは1年後再び戻ってきた。』
―――「・・・久しぶり、晃牙。」
『なぜ戻ってきた?』
人の温もりに再び触れればまた寂しさは募ってしまう・・・それが香織ならなおさら。
「人間の姿になって?」
『・・・・・。』
晃牙は黙って人間の姿になった。
「・・・前に言ったよね?″アナタとの子供はどんな子なんだろうな″って。」
ある日香織が言った言葉・・・あの時は流した、「お前の夢はどうする?」と・・・。
『それがどうし・・・まさかっ。』
生まれた仮説・・・晃牙は久しぶりの香織に気づかなかった・・・。
なぜ布で身体を隠しているのか・・・その意味に。
「私や・・・アナタよりも強い力を持っていたわ。」
布の下には安らかな寝顔の赤ん坊が抱かれていた・・・その赤ん坊こそ。―――
『お前だ、來佳。』
「・・・・・。」
ずっと考えていた・・・父親のことを。
なぜ父はいないのか、父はどんな人なのか・・・。
前に香織に1度聞いたことがあった、その時母は「來佳もきっと好きになる人よ。」としか答えてくれなかったが・・・今なら分かる。
『香織と來佳は週に1回我に逢いに来てくれた・・・その時に我はお前の遊び相手にと右近と左近を造った。』
來佳本人には記憶が無いがとても喜んでいたらしい・・・。
しかし來佳が6歳になった時、政府の学校に行ってしまい逢うことは適わなくなってしまった・・・。
香織は森に訪れ來佳の成長した写真を持ってきてくれて・・・娘の成長を写真でも見ることが出来て、晃牙は人の幸せを感じていた。
しかし・・・そんな幸せはある日絶望に変わる・・・。
―――香織が行方不明になった前日・・・。
それは來佳が学校を卒業し10年振りに直接逢える前の日でもあった・・・。
香織はパンドラの箱の存在を知り、政府の施設に乗り込もうとしていた。
『待てっ、1人では危険だっ。』
晃牙は必死に香織を止めようとする。
『お前が行く位なら我がっ・・・っ。』
怒鳴る晃牙の唇を香織は己の唇で塞ぐことで止める。
「晃牙には來佳を護って欲しい・・・そして――――――――。」
『・・・なっ。』
晃牙は目を見開き驚愕する。
『本気で・・・言っているのかっ。』
「來佳なら・・・私たちの子ならやれるわ。
だって、最強のサイキッカーと覇王の血を継いでいるのよ?
あの子なら別の可能性を見い出してくれる・・・私はそう信じてる。」
香織の目は真っ直ぐで・・・考えを変える気はなさそうだった。
『しかしっ、お前の夢はっ・・・。』
「私の夢は來佳の″幸せ″よ?幸せは他人だけで与えるものじゃない・・・。
自分の力でも、自分の未来を幸せにしないとダメなの。」
『・・・香織。』
「私はそれを・・・アナタと、來佳から教えてもらったの。」
愛する人と一緒になったこと、愛する子供が生まれ成長したこと・・・。
晃牙だけではなく、自分もいなければ來佳は生まれなかった。
「晃牙・・・私はとっても幸せよ?」
それが・・・晃牙が香織と交わした最後の言葉だった・・・。―――
『我が血の匂いに気付き駆けつけてきたときには香織は・・・。』
後悔しか残っていない・・・なぜ香織を1人で行かせてしまったのか・・・。
拳をきつく握りしめる晃牙の手に被せられる自分よりも小さくて・・・温かい手。
『・・・來佳?』
「お母さんは笑ってたでしょ?」
『・・・・・。』
笑っていた・・・血に塗れながらも幸せそうに。
「お母さんはアナタを護れて幸せだった、アナタに逢えて・・・。
私もお母さんと・・・″お父さん″の子供で、幸せだよ?」
『・・・っ。』
晃牙は再び來佳を強く、愛おしそうに抱きしめる・・・その目には一筋の涙。
そして背中に手を回した來佳の目にも、同じく一筋の涙が流れていた。
「私は幸せだよ。
お母さんやお父さん、それにたくさんの仲間が傍にいてくれる。」
『・・・來佳、頼みがある。』
「何?お父さん。」
身体を離され目を合わせる・・・真剣な目に來佳は息を呑む。
『ずっと香織には反対していたが・・・今のお前を見て我も覚悟を決めた。
我もお前の可能性に賭けたい、だから來佳・・・我を。』
「・・・っ。」
來佳は自分の耳を疑いたかった・・・。
『我を・・・お前の手で香織の元に逝かせて欲しい。
そしてこの核を・・・お前に託したい。』
・・・そしてその話は右近と左近の口から輝と聖夜にも伝えられていた。
「「・・・・・。」」
輝はこれでもかというぐらいに目を見開き、口を開けていた。
対して聖夜は元から知っていたので驚きはしないものの疑問を感じていた。
「1つ聞く、なぜアイツに「じゃあっ、來佳も獣になんのかっ。」・・・。」
「冷たっ・・・・・スミマセン。」
聖夜は輝の頭上から水をぶっかけ黙らせた。
「確かに覇王の力を受け継いだアイツなら殺せるだろうが、なぜアイツに殺させる必要がある?
アイツは繋がりを大切にしている・・・そのアイツが父親を手にかけると思っているのか?」
「・・・水上って來佳のことよく分かってるよな・・・実は來佳のこと好きとか「・・・・・。」・・・。」
絶対零度の睨み・・・輝は自分の手で口を塞いだ。
『・・・晃牙様は成長した來佳様の手で死にたいのです。』
『家族のために死んだ香織のように。』
「自己満足だな。」
『それでもあのお方はそのことを望んでいる・・・。』
『パンドラの箱によって殺されるより愛する娘の手によって・・・きっと來佳様は。』
「・・・・・。」
おそらく來佳は実の父を手にかけるだろう・・・來佳はそういう奴だ。
「・・・っ。」
輝の心臓が跳ねる・・・空を見上げる。
「何か・・・来るっ。」
「・・・っ。」
それを聞いた聖夜は飛び上がり來佳達の元へと走る。
「おいっ。」
「お前はついて来るな。」
「んなわけには行くかよっ。」
輝も、右近と左近も共に向かう・・・來佳と晃牙の元へ・・・。
「・・・どういうこと?」
『パンドラの箱が動き出した・・・パンドラの箱が我を殺す前に我を殺し核に触れてくれ。』
「でもっ、覇王は覇王の力じゃないと・・・自分がさっきっ『パンドラの箱は違う。』・・・。」
來佳の肩を掴む晃牙、真剣な表情に何も言えない。
『パンドラの箱は特別なのだ・・・アレには我の、覇王の血が使われている。』
政府の実験・・・血液・・・來佳の顔から血の気が引く。
「人工・・・サイ、キッカー?」
『そうだ。』
政府の長年の実験は成功していたのか・・・それなら覇王は、晃牙は殺されてしまう。
(だからお母さんは命を懸けてパンドラの箱を・・・。)
それでも來佳には実の父を殺すことなどできなかった。
「・・・でもっ。」
『聞け來佳っ、お前なら今のこの地球を変えてくれると香織も我も信じている。』
「変える?」
自分の力で自分の未来を変える・・・香織の言葉が脳裏に浮かぶ。
『だから・・・覇王をお前に継いで欲しいのだ。
我らが愛してやまない、自慢の我が子に。』
「・・・お父さん。」
『愛している、來佳。』
涙が止まらない來佳・・・自分はこんなにも両親に祝福されて生まれてきたのだ。
サイキッカーは生きた兵器ではない・・・今なら來佳はそのことを胸を張って言える。
「・・・やる。」
『來佳・・・。』
「絶対に変えてみせるっ、信じてくれた2人のために。
そして・・・自分の未来を幸せにするために・・・。」
それが父と母の願いで夢なのだから。
「絶対大丈夫・・・私はお母さんと、お父さんの子供だから。」
『ありがとう・・・來佳。』
微笑み合う親子・・・穏やかな空間、一時の幸せ・・・。
「來佳ぁーーーーー。」
「・・・輝?聖夜。」
輝の声に振り向く來佳・・・輝と聖夜、右近と左近が必死にこっちに向かっている。
「・・・早く殺せっ。」
聖夜の余裕のない荒々しい声、顔・・・初めて見る。
「・・・・・・え?」
來佳の背後から聞こえる嫌な音・・・背中に付着する温かな液体。
「お父・・・さん?」
晃牙の口から流れ出る血・・・胸を貫通している誰かの血に染まった手。
(遅かったか・・・。)
晃牙の背後にいる人物は手を抜き去り・・・晃牙を投げつけた。
『『晃牙様っ。』』
左近が己の身体で晃牙を受け止める・・・銀色の毛並みが血に染まっていく。
「・・・っ。」
來佳は晃牙よりもその人物を睨みつけた・・・聖夜も輝も同様に。
しかし輝のその人物を見る目が変わったことには誰も気づかない・・・。
「誰アンタ?ソレ、返してくれる?」
「・・・イヤダ、コレハミオノ。」
それは同年代位の少女だった・・・真っ赤に染まった手には淡く光る覇王の核・・・。
茶色の混じった黒髪に黒の瞳は誰かを思い出させるが、今の來佳にはどうでもいい。
「返せっ。」
叫ぶ來佳だが少女は核を自分の胸に押し付けた・・・核はそのまま少女の中に・・・。
「・・・やめろっ。」
來佳は瞬時に少女の目の前に現れ、殺す勢いで雷を纏わせた高電圧の拳を振るったが・・・ある人物に止められてしまった・・・。
「・・・・・何で。」
渾身の拳を止められたとか、雷が消えたとか來佳の頭は考えることが出来ず・・・目の前の光景をただ見ることしか出来なかった。
「・・・どうしてっ?輝っ。」
「・・・・・。」
少女の前に立ち來佳の拳を受け止めた人物・・・それは輝だった。
(輝の瞳に・・・光が無い。)
そして気づいたことがもう1つ。
「・・・っ。」
輝に蹴られた・・・腕でガードしたが威力を殺しきれず飛ばされるのを聖夜に受け止められた。
「・・・聖夜、あの2人見て。」
「・・・・・。」
ソックリなのだ・・・瞳や髪の色、目の形、顔立ちもすべて・・・。
「・・・覚醒する前にアイツを殺したかった。」
「聖っ「パンドラの箱はね、來佳ちゃん。」・・・っ。」
昴の声・・・どうしてこの森にいるのか・・・。
「1つじゃないのよ。」
「・・・・・。」
少女がパンドラの箱だということは分かった・・・が、
政府が長い年月を掛けたのに成功例が無かった実験、2つも成功するなど考えられない・・・。
「この子は神田 ミオちゃん・・・輝君の″妹″よ。」
「いも・・・うと?」
確かに血縁なら片方が成功すればもう片方も上手くいくかもしれない・・・しかし、正輝から來佳は何も聞いていない。
「正輝ちゃんも知らないことよ?」
「・・・・・。」
少女・ミオは昴の息がかかった医者に死産とさせてパンドラの施設で長年実験されてきた。
彼女が成功したことにより輝にも覇王の血液が入れられたのだ・・・。
「どうやら輝君の方が適合率高かったみたいでね、輝君の方を実験に使うべきだったわ。」
「・・・何のために輝や・・・その子をっ。」
「ミオちゃんの超能力は・・・″キメラ″。」
『ウワッ・・・ウゥ~・・・。』
核を完全に取り込み、金色の耳が生えるミオ。
『・・・・・。』
見た目は大して変わっていないが・・・威圧、殺気は昴の屋敷で見た晃牙と同じくらい凄まじかった。
「覇王の力を取り込んだのか・・・。」
聖夜は水の刃をミオに飛ばす・・・が輝が前に立ち、水を消した。
「・・・っ、やはりダメかっ。」
「聖夜っ。」
崩れ倒れそうになる聖夜を來佳は支える・・・1回超能力を使っただけなのにこの疲労の仕方は・・・。
(あの時の私と同じ・・・?)
「ダメよ輝君、聖夜ちゃんはを殺そうとしちゃ・・・。」
「・・・どういうこと?輝が何かしたってこと?」
輝も覇王の血液に適合したなら人工サイキッカー・・・超能力が使える。
あの時の來佳と今の聖夜、輝が何かをしたのは分かるが・・・。
(輝の超能力はいったい・・・。)
「ふふ・・・輝君の超能力はね、″呼吸″よ。」
「・・・呼吸?」
「そう・・・でも吸うのは空気じゃないわよ。
吸収するのはサイキッカーの源の・・・体力。」
すべてのサイキッカーの力の源は体力・・・。
雷を生み出すのも影を操るのも、感知や夢、時間を支配するのも・・・。
体力が無ければサイキッカーは超能力を使えないだけでなく、人間としてもジリ貧で身体を動かすこともままならなくなる。
「・・・輝。」
「來佳ちゃん・・・この子たちはね、″人柱″なの。」
「人柱?」
昔は村に災いが起きたとき神々に生贄を差し出し災いを防ごうとしていたらしい・・・それが人柱。
「ミオちゃんが覇王となり暴走しようとしたとき輝君がコントロールする。
そうやって世界は平和に・・・來佳ちゃんたちサイキッカーはもう戦わなくて済むようになる。」
「ふざけるなっ、犠牲のある幸せなんて・・・幸せとは認めないっ。」
「そうでもしないと來佳ちゃんは自分を犠牲にするでしょ?香織と同じように。」
來佳の動きが止まる。
「私には・・・もう來佳ちゃんだけなの。
來佳ちゃんがすべてなのよっ・・・だからっ・・・。」
昴はミオに抱えられ、ミオと輝はその場から姿を消した・・・。
「・・・・・。」
「・・・くっ。」
「聖夜っ。」
苦しそうな聖夜・・・肩を貸そうとするが。
「俺より・・・あっちだろ?」
「・・・うん。」
聖夜の目線の先・・・右近と左近・・・それに晃牙。
來佳は聖夜から離れ、晃牙の元へ。
「お父さん。」
『來佳様・・・。』
『晃牙様は・・・もう。』
もうすでに息は無い・・・しかし晃牙の顔は。
「・・・笑ってる。」
安らかな顔・・・幸せそうな笑顔だった。
「・・・・・。」
その後晃牙は來佳の手によって香織と同じ場所に眠った・・・墓の前に佇む來佳。
「・・・・・。」
『『・・・來佳様。』』
それを遠くで見守っている聖夜と右近と左近。
「約束・・・ちゃんと守りますからね。」
墓に触れた後・・・來佳はもう振り返ることは無かった・・・。




