1話
ここは日本のとある山奥・・・。
「はぁっ・・・はぁ。」
何かから逃げるようにひたすら森の中を走る少年、否男の格好をしている少女だ。
「・・・しつこすぎるっ。」
後ろを気にしながら走る・・・気配はおよそ数十人にも及ぶ。
(それにこの″気配″、早く逃げないとっ。)
追ってくる連中とはまた違った気配に焦りを覚える。
「いたぞっ。」
「・・・チッ。」
木々の間から現れたのは黒ずくめの怪しげな集団、全員銃を所持していた。
少女はさらに走る・・・と切れ目を見つけ、迷うことなくそこに向かって走る・・・そこは断崖絶壁の崖だった。
「もう逃げ場はないぞっ、おとなしく捕まり「お断りっ。」なっ。」
少女は不敵に笑うと、崖から飛び降りた・・・下は川だが、無茶にもほどがある。
「川に落ちたぞっ。」
「あの程度では死なん、追うぞっ。」
黒ずくめの集団は元来た道を戻り、山を降る。
(馬鹿な奴ら・・・。)
山を降りたら格好のエサだ・・・少女は激痛に耐えながらも川から這い上がる。
「はぁっ・・・くそっ。」
川から上がったのはいいものの、身体はボロボロ・・・1ミリたりとも動かせなかった。
―――「絶対に捕まらないでっ、約束よ。」―――
脳裏に浮かぶのはひとつの約束・・・。
(・・・逃げなきゃ。)
最後の力を振り絞り立ち上がった少女は再び森の中に入っていく。
・・・場所は変わり同じ山の中間地点位の場所には大きな山小屋が建てられている。
「今日もいい天気だ~」
山小屋から出てきたのはまだあどけなさの残る少年、
彼の名は神田 輝高校1年生・・・なぜ高校生がこんな山の中1人でいるのか・・・それは己の身体を鍛えるためだ。
彼の家系は全員政治家、もしくはそれ関係の仕事に勤め関係者に知らぬものはいないというほど、有名である。
そして、有名になればなるほどそれに比例して命を狙われる・・・普通ならボディーガードを雇うのだが、輝の父、大物政治家神田 正輝は
己の身体を鍛え、自らの敵は自分の手で倒してきたのだ。
それが理由なのか正輝は人望厚く周りからの信頼も高かった、
輝はそんな父に憧れその跡を継ぐべく、自分の身体を幼少のころから鍛えている。
その才は父を超えたもので、今では武芸百般、銃の使い方もマスターしていて
そこらのチンピラやヤクザ、ボディーガードも顔負けである。
今のままでも充分に強い輝だが、自分に限界は無いと信じ日々鍛えるため山にこもって鍛えているのだ。
「よしっ、まずは走り込み50キロ・・・ん?」
茂みが揺れ熊でも降りてきたのか、と身構える輝だが・・・現れたのは人、
それもボロボロ・・・その人間は力尽きたのか倒れる。
「おっ、おいっ。」
輝はすぐに駆け寄り抱き起こす・・・息はちゃんとしている。
(酷いケガだな・・・火傷までしてやがる。)
自分と同じ位の少年に輝は目を細める、
傷の手当てをしようと服を脱がせようとする・・・その時。
「・・・・・ん。」
少年の目がゆっくりと開かれる。
「目が覚めたのか・・・良かった。」
「アンタは?・・・って何してっ。」
意識が覚醒し輝に服を肌蹴させられていることに気づき、暴れる。
「暴れんなよっ、傷の手当てをするだけだっ。」
輝は服から手を放し、両腕を掴み抑えようとする。
「・・・っ、放せっ″私″は・・・っ。」
「うわっ。」
輝の足が縺れ倒れこむ。
「・・・ワリィ、大丈・・・え?」
ケガ人を下敷きにしてしまい、輝はすぐに謝るが、
中途半端に肌蹴た胸元には女性特有の胸の膨らみをつぶすサラシが巻かれ、
そのことから、少年が少女だったと気づき、輝は顔を真っ赤にした。
「あのっ・・・オレッ、男かと思っ「いいからどけ。」うっ。」
両手は抑えられているので蹴りを喰らわせる少女・・・輝は痛みに耐えながらも少女の上からどいた。
「・・・・・。」
少女は起き上がると服を整え、服についた土などを払っていた。
「・・・っ、お前そのケガどうしたんだよっ。」
服を整え終わった彼女だが、その腕や足、顔にも泥や傷の跡がある。
「森の中を走ってきたからでしょ、ただの切り傷じゃない。」
年頃の少女がボロボロで山に居ること事態普通ではないのだが・・・。
「いたぞっ、こっちだ」
「ちっ・・・もう追ってきたか。」
先ほどの黒ずくめの男達・・・手分けして探したのか、3人だけ。
(3人なら何とかなるか・・・。)
構える彼女だが・・・何度も言うがボロボロの彼女。
ふらついていて立っているのがやっとの状態だ。
「大人しくしろ。」
銃口を向けられる・・・今の状態では避けることも逃げることもできない。
「おい、ケガ人・・・それも女を脅すのに銃なんてやりすぎじゃねぇか?」
少女を庇うように前に出る輝。
「馬鹿ッ、何で前にっ「オレに任せろって。」・・・。」
「誰だろうと邪魔するなら容赦はっ・・・っ。」
「容赦は・・・?何だって?」
銃口を少女ではなく輝に向ける男達だが、次の瞬間男達の手から銃が消えていた。
「へっ・・・。」
得意げな顔をした輝の手には銃。
輝が撃ち落としたらしい・・・すごい射撃の腕だ。
「・・・・・アンタ。」
驚く少女と男達。
「コイツ・・・おい、仲間を呼べ。」
「はいっ。」
1人の男が携帯で連絡を取る。
「せっ、先輩っ・・・″アイツ″がこっちにっ。」
「なっ、なんだとっ。」
男達が慌て脅える中、少し離れた場所からは、
木々が薙ぎ倒される音と・・・人の悲鳴が聞こえる。
(″アイツ″が来るっ。)
輝の手を掴む少女。
「どうしっ「逃げるよ。」おいっ。」
音はだんだんと近づいてきて・・・耳に響く獣の雄叫び、
こんな雄叫びを上げる動物はこの森にはいない。
「なん・・・っだよアレッ。」
見えたその姿は獣といえば獣なのだが・・・あんな獣は地球上にはいない。
トラのようだが、トラの何倍もデカい・・・銀色の毛並みに銀色の瞳、その瞳は完全にイカれていた。
黒ずくめの男達は次々とその鋭い爪によって引き裂かれていた・・・。
「・・・・・・。」
「・・・早くっ、走って。」
少女は放心している輝を連れ、森の中へ・・・。
たまたま見つけた洞窟(熊の巣と思われる)の中へ入る。
「なっ・・・なんなんだよっ、あの黒ずくめといい、
それにっ、あの銀色の化け物はいったい・・・。」
「・・・・・。」
混乱している輝、だが彼女は冷静に外の様子を窺っていた。
「・・・っ、おいっ「″ミュータント″」・・・え?」
「聞いたことあるでしょ?」
「童話の話に出てくる動植物の変異種だろ?
でもアレってただの作り話じゃ・・・。」
世界中で有名な話・・・アレは約300年前の話が物語になっているが・・・
ミュータントとサイキッカーの闘い、ソレが現実に在ったなど誰も信じない。
「あの化け物を他にどう説明できる?
自然界にあんな化け物いたら今頃大陸の1つは滅んでるわよ。」
そう、あの物語は実話・・・ミュータントは存在するのだ。
「じゃっ、じゃあ物語に出てくる″デビル・フォレスト″って・・・。」
物語に出てくるミュータントの巣窟デビル・フォレストは日本の離れの
木が連なってできた島がモデルになっていると世間では噂されているが・・・。
「本物、300年間動きを止めていたから珍しい島として言われていたけどね。
それももう終わり、デビル・フォレストは再び動き出した・・・
ミュータントが動き出したのが証拠、人間を喰らいにやってきた。」
輝はミュータントが黒ずくめの男達を殺したのを目の当たりにしている・・・、
もし物語のように何十万もいたら・・・想像するだけで背筋が凍る。
「ねぇ、まだ銃・・・弾入ってるよね?」
「ああ、入ってるけどそれがどうし「じゃあずっと手に持ってて。」は?うわっ。」
洞窟が崩れ外に出る2人・・・そこには血塗れのミュータントが、
綺麗だった銀色の毛並みは血が固まり赤黒く染まっている。
(だいぶ体力も回復した・・・いけるっ。)
拳を握りしめ不敵に笑う彼女。
「アンタ、名前は?」
「・・・輝、神田 輝だ。」
「神田?じゃあアンタが・・・。
私は枢木 來佳、ミュータントの隙を作るからその銃で仕留めて、眉間に撃ち込めば死ぬでしょ?」
「バッ、ケガ人のくせにっ・・・それにただの女のお前にっ。」
「ただの女・・・?」
「・・・・・っ。」
輝は息をのんだ・・・彼女、來佳の雰囲気が変わったからだ。
先程の少女はどこにもおらず、いるのは獲物を狩る狩人。
「ただの子供が怪しげな黒ずくめの集団やミュータントに狙われると思う?」
普通に考えればありえない・・・しかし現に狙われ傷だらけの來佳がここにいる。
「300年前サイキッカーに減らされたミュータントは
サイキッカーを恐れ危険とみなされた、動き出したミュータントはまず、
脅威となったモノを消そうとした・・・。」
來佳はゆっくりと右手を上げた。
手からは″普通″の人間からは有り得ないモノが・・・。
「ミュータントやデビル・フォレストは実在するのに・・・、″サイキッカー″だけ実在しないわけないでしょ?」
その手からは″雷″が生まれていた・・・輝の目に映るほど、はっきりと耳にも聞こえた。
サイキッカー・・・ミュータントたちと同じ隕石の飛来により変異した人間、
その力は現代の今でも受け継がれていた。
來佳の雷を見たミュータントは怒り狂いその鋭い爪を振り上げる。
「・・・っ、來佳っ。」
それを見た輝は來佳の名前を叫ぶ。
「輝、ぼさっとしないで。」
來佳の声はミュータントの上から聞こえてきた・・・いつの間に移動したのだろうか。
「・・・今は″コレ″しか使えないけど。」
來佳の手の雷が激しさを増し、ミュータントに雷を流す。
ミュータントは暴れだし來佳は振り落とされるも上手く着地する。
「やっ、やったのか?」
「まだ、あんな″静電気″程度の雷でアイツは死なない。」
「静電「早く撃て。」っ。」
混乱する中も輝の銃の腕は百発百中のようでミュータントの眉間に当たる・・・がミュータントはまだ動く、最後の抗いだ。
「・・・っ、來佳っ。」
抗いというには早すぎるスピードでミュータントは來佳に突っ込む。
輝は慌て叫ぶが來佳は冷静にミュータントに手をかざす、
そんなことしてもあの鋭い爪に身体ごと引き裂かれ待っているのは・・・死。
「・・・・・。」
「來佳っ。」
輝が何度呼ぼうと來佳は動かず、ミュータントと來佳が重なる。
輝の目線からはミュータントの大きな身体に遮られて來佳の姿を確認できない、
駆け寄ろうとする輝に・・・ミュータントが倒れた。
「・・・・・え?」
見ればミュータントは來佳に振り上げていた自分の爪を己の首に刺していた。
「・・・來佳がやったのか?」
「他に誰かいる?私のこの能力はただ相手を怯ませるだけの静電気じゃない、
相手の体内に電気を送り込み相手の電気信号を狂わせそれを私が操る・・・ま、言うほど楽じゃないんだけどね。」
ミュータントは身体が大きい分、流す雷の量が膨大・・・
普段の來佳ならともかく体力の無い今の状態は腕一本でも困難だった。
「・・・何でもありなんだな、身体は身軽そうだし。」
「それただの偏見だからね。」
來佳にとってそれは禁句なのか睨むように輝を指差す。
「確かにサイキッカーはそれぞれの超能力を持っているし治癒力も普通の人間よりだいぶ高い・・・でもね。
所詮は人間、身体能力は常人と大して変わらない。」
常人よりは高いかもしれないが、そこまで差はない。
「でも、來佳はミュータントの上に軽々と乗ってたじゃねぇか。」
「アレは努力の賜、私の場合は″反動″のせいで人より不利な状態だし・・・。」
「・・・反動?」
忌々しく顔を歪める來佳に輝は聞き返すが。
「その話は後、また黒ずくめたちが来ないとも限らない、場所を変える。」
そう言って足を進める・・・足元には先ほどまで動いていた黒ずくめの肉片、
來佳は何事もなかったかのように足を進めていく・・・。
輝は気分が悪くなるも來佳の後を追う、とふと疑問に思ったことが1つ。
「なぁ、これってこのままにしといて大丈夫なのかよっ。」
黒ずくめたちはまだ何とかなるだろう・・・しかしミュータントはそうはいかない、なぜならミュータントは世間では空想上の存在で現実にはこんな大きな獣はいない。
「それは大丈夫、アイツらが勝手に揉み消してくれるから。
それとミュータントのほうは・・・。」
ミュータントのほうを見れば・・・あの大きな巨体はすべて。
「砂に・・・?」
「それが、ミュータントが今まで物語上にしかいなかった理由の1つ。」
デビル・フォレストは300年活動を停止し、サイキッカーたちも能力を隠して普通の暮らしをしている・・・気づけというほうが難しい。
(ま、最大の理由はそれじゃないんだけど・・・。)
來佳はこれ以上喋ることはなく、山小屋に戻るため山道を歩き出す。
「「・・・・・。」」
山小屋についた2人、だが・・・。
「死体が・・・無いっ。」
ミュータントの手によって喰われ、引き裂かれた黒ずくめはどこにもいなかった。
(対応が早すぎるっ・・・連絡を取ったようにも見えなかったし。)
來佳が舌を打つのと同時、山小屋の扉が開かれる・・・警戒する2人だがその正体は。
「・・・やぁ。」
「っ、親父っ。」
輝の父・正輝だった。
「さすが俺の息子だ、ミュータント相手に無傷で帰ってくるとは。」
「親父なんっ「あなたが″反政府″の幹部、神田 正輝ですか?」はっ?」
なぜ自分の父親はミュータントの存在を知っているのだろうか・・・
さらに來佳が言った″反政府″・・・自分の父親は有名な政治家、
政府に反発するようならあの世界は甘くない、政治家などやれないはずだ。
「・・・お母さんに似てきたね來佳ちゃん、それにもう輝と知り合いになっていたとは。」
「不可抗力です、それにアナタの息子とは知りませんでしたし。」
とても初対面同士の会話ではない。
「2人、って知り合いなのか?」
「ん?輝も会ったことあるぞ?「は?いつ?」赤ん坊の時だがな。」
「・・・・・。」
そんなもの覚えているわけがない。
「輝喜べ、來佳ちゃんはうちの″養子″として引き取ることになったから。」
「は?・・・・・はぁ―――――っっっ。」
輝の絶叫は山一杯に響き渡った・・・。




