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策略か否か

遅くなりました。

今回は隣国の第2王子、紫来視点です。

(レン)っ」


慌てた皇太子の声に、琳灰牙(リンカイガ)からそちらに目を向ければ娘が皇太子の腕の中で力なく崩れ落ちていた。


「おい、大丈夫なのか」


見た所かなり顔色が悪い。

初めて目にした時からふらついていた娘だ、やはり体調が悪かったのか。

そんなふらふらな状態でどこかへ歩き出した娘を紫来(シライ)は思わす追いかけてしまった。

琳灰牙に置き去りにされた怪しい娘を。


まさかその先で皇太子と抱き合う姿を見ることになるとは思っていなかった。

いや、それよりもただの弱々しい娘かと思っていれば、皇太子をその弱々しい身体を盾にし守ろうとする。

弱々しい外見に似合わない娘かと思えば、今は力なく倒れている。

よく分からない娘だ。


「おい、琳灰牙。貴様の連れだろう。さっさと医師を連れてくるか、連れていけ」

「別に大丈夫ですよ。あーでも紫来第2王子殿下がいたら大丈夫じゃないかもしれないですけど」

「なんだと」

「紫来第2王子殿下のような方が近くにいたら恐れ多くて、僕によく似て繊細な妹は人見知りなもので」

「貴様のどこに繊細さがあるというのか!……まて、貴様の妹だと」

「そうですよ、わたしの妹ですよ。ご存じなかったとは?おかしいなぁ、あれだけ僕のところに」

「琳隊長、紫来殿を部屋にご案内してさしあげろ」


皇太子が琳灰牙の言葉を遮った。

自分の上衣で包み顔を隠した娘を両腕で大切に抱えながら、まるで娘を早く休ませたいが為に話を遮ったようだ。


「紫来殿、申し訳ないが勝手に城内を出歩かれてはこちらの警護が追かないので、一度部屋に戻って頂けないだろうか?」

「別に警護など不要だ、と言いたいところだかまあそちらの顔を立ててやろう。だが、こいつを案内にはいらん。貴殿に案内を頼みたいとこだか、その娘がその腕にいる限る無理な頼みだな」

「皇太子殿下、妹は僕が運んでおきますよ。どうぞ紫来第2王子殿下のお望み通りになされてはいかがでしょう」


いつまで娘を腕に抱き続けるのだと揶揄すれば、琳灰牙もそれに便乗してくる。

流石にここまで言われれば皇太子も兄だと言う琳灰牙に娘を預けると思った。


「いい、私が運ぶ方が早い」

そう言って皇太子は娘を運んで行った。







「早かったな。で、分かったのか」


紫来は予想よりも早く戻ってきた部下に早速報告を求めた。

じゃあ僕がやっぱり送りましょうかと言う奴を振り切って、滞在用に与えらた客室の一室に戻った紫来は琳灰牙の妹について調べるよう命じた。

突然の命令に戸惑う部下を問答無用で部屋身体叩き出した。


「申し訳ないですが、まだ調べ中です。俺にこういった有能さないので、こんな直ぐに分かることなんてことあると思いますか。それよりも朝食、食べさせてください」

「黙れ脳筋。有能さなど欠片すらないのだから、口答えする前にその無駄な筋肉を限界まで酷使して、

この国中駆けずり回ってあの娘の情報を集めてこい」

「酷っ、貴方だってそこまで頭の出来良くないのに。だいたい、見るからに罠です。どうして自分からはまりいくんです」

「煩い脳筋、お前は琳灰牙を知らんからだ。奴は皇太子を守る為なら手段を選ばない」

「なら余計におかしいと思うんですけど。絶対ないとですけど、本当にその妹とやらが皇太子の本当の想い人だとするなら、なんで今その妹を表に出します?俺ならむしろ隠し続けますよ」


貴方が、知らなかったでしょうが。

部下は言葉にはしなかったが、そう思ってるのが伝わってくる。

確かに自分は知らなかった。

琳灰牙に関してはあれから人を放ってずっと情報を集めさせてた。

その自分が知らなかっただけに、あの妹はかなり秘された存在だったはずだ。

確かに今回現れなければ、その存在を知り得なかっただろう。

噂通り、あの緑莉という娘が皇太子の想い人だと疑いもしなかった。

たが噂は事実であるのか?

噂自体があの娘の存在を隠すために意図して流されたものではないのか。


「おい脳筋、お前はあの純愛話が何故ここまで広まったと思う」

「そこから疑います?流石にそれはないでしょう。だって、時期が合わないですよ。貴方と会う前から皇太子殿の想い人として彼女の名が上がってたのですから」

「そういえば、そうだったな。奴の惚気話が聞こえていたような」

「そうですよ、その惚気話に苛立って貴方が喧嘩売りに行かれて返り討ちにあったと有名ですから、間違いないです」


拳を握って力強く断言するが、紫来の殺気こもった視線にしまったと顔に出した部下を躊躇いなくその腹に蹴りを与えてやる。

忌々しい過去だ。

しかも、その忌々しい過去は事あるごとに今の紫来(ジブン)に干渉してくる。

過去は過去だ。

今の紫来(ジブン)とは違う。

なのに今の紫来(ジブン)を許さない奴らは過去の紫来を持ち出してくる。うっかり口にする脳筋馬鹿もいるが。

紫来が必死にもがいて、あがいて手にした地位、帝国の将軍。

その地位すら相応しくないと喚いてくる。

確かに紫来にこの地位は相応しくない。

例え戦さ場で常勝であろうと。

紫来の改革により、帝国軍がどれだけ力を上げようとも。

なにを成し遂げても。

それは変えることの出来ない事実だ。

だか、喚いてくる奴らを相手している暇はない。

いつか、確実に失う事になる"将軍"の地位。

それでも、今は紫来(ジブン)が帝国の将軍だ。

この地位にあるうちにやっておかなければならないがある。

そのひとつが今回の件だ。

帝国の将軍たる自分がこの国の皇太子に要求すれば、

その想い人さえ引き渡させる事ができる。

その事実を広く内外に見せつけ、帝国がこの国の上位にあるとしらしめる。

5年前の屈辱も晴らし、奴らに嫌がらせができ、帝国の地位を高められる。最高ではないか。

なのに、腹を押さえイタタとわざとらしく痛がるこの脳筋はこの件に最後まで反対していた。


なぜ、貴方がそこまで悪者にならなるのだと。


帝国の力を見せつけるなら、引き渡させるのは噂に名高い"皇太子の想い人"でなくともことが足りると。

他国まで知れ渡る愛し合う2人を引き裂けば、帝国はともかく紫来個人に対する非難はかなりのものとなる。

そこまでしなくていい、と本来意見が許されない立場であるのに必死に訴えてきた。


将軍の地位にあっても紫来には側近とまで言える程近い部下は、この脳筋ともう1人はしかいない。

そのもう1人は紫来の立場など二の次で、こうするのが帝国の為になると積極的に勧めてきた。

この脳筋の意見がなど通るはずもないが、紫来を思っての訴えは嬉しかった。

この5年でもがき、あがいて様々なものを培ってきたが、1番大きいのはこの脳筋との絆かもしれない。

だか、止めるつもりはさらさらないが。



「奴がこの今、あの娘を表に出してきた意図はなんだ。奴のことだから皇太子に関する事だろうが。一体皇太子にとって何の利が」

「どうして結局そこに考えをもどされるんですか⁉︎」


床でどうしてと嘆く脳筋をうるさいと踏みつけるが、生意気にも素早く体も捻って避ける。

ので、その尻に蹴りを叩き込んでおく。


「うー、暴力上司。俺はどんなに痛ぶられても部下だから貴方についてきますけど、琳灰牙の妹はそうはいかないんですよ。もしもまきこんでおいて、貴方の勘違いだとしたらその子の立場と評判が可哀想な事になりますよ。帝国の第2王子に弄ばれた娘と。それは流石に可哀想ですよ。ちょうど結婚適齢期の娘さんなのに」

「あれが結婚適齢期だと」

「そうですよ、貴方より少し年下な娘みたいですよ」

「それだ。そうだ、あの娘が皇太子に嫁ぐ言い訳になる」

「はっ、何言ってるんですか?」

「分からないのか、本当に脳筋だな。立場と評判が傷ついた娘。それが皇太子の想い人を守る為だとすれば、奴が責任をとって娶るという名目が立つ」


隣国の将軍からの要求から未来の皇太子妃を守る為に犠牲となった娘。

その為に婚期を逃し、その評判すら落ちたとしたならば。

皇太子が側妃の地位を与えても、同情と礼だと捉えられる。


「なら最初から普通に妃に迎えればいいじゃないですか?そんな面倒なことをしなくても………そういえば、この国基本一夫一妻でしたね」

「そうだ、そこが我が帝国とは違う。緑莉という女はたしか宰相の姪だったな。この国ではまだ内への配慮か必要だ」

「内乱がありましたもんね。ここまで見事に立て直されているのをみると、影響は無いように見えます。でも火種が残ってるかもしれませんしね」


国の内なる敵の排除は外から攻め込んで来る敵よりも厄介だ。


「火種はあの娘かもな。だから、秘されていた」

「それは考え過ぎですから。でも、そこまで貴方が気にかかるなら調べてみせますよ。琳灰牙の妹を」

「最初からそうしろ。むしろ、調べ終えるまで戻ってくるな」


さっさと行けと蹴りだしてやろうと思ったが、そういえばと部下に尋ねた。


「あの娘の名は何という」

「申し訳ありません。まだ調べれていないです」


最後に1番怒りのこもった蹴りを叩き込んだ。

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