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琳家の娘

(カイ)、大丈夫だと言っただろう。(レン)を巻き込む必要などなかったのに、何故あの子をこんな所へ連れてきた」

「使える駒は使うし、アレも使われる望んでた」

「ふざけるな。私はそれを望んでいない。何より緑莉を差し出す、そう心に決めた。お前のしている事は全く意味のない、私の決定に背く行為だぞ」

「はいはい、よく分かってますよ。(ヨウ)の国を思っての苦渋の決定だとね。でも、僕はただ妹を連れてきただけだよ。それの何がいけないかな?」


問題ないよね。だってよくある話だよ、と灰牙(カイガ)は笑う。


離れて暮らす妹を兄が近くに呼び寄せる。

そこにあるのは離れて暮らす妹への心配、

あるいは妹をそのような場所で暮らさせていることに対する世間体を気にして。

もちろん灰牙にはそんなもの持ち合わせていない。

だから、決してよくある話などではない。

そんなことをわかりきっている咲陽(ショウヨウ)が納得するはずもない。

蓮莉を駒として利用させない。

そう咲陽が決めていると分かりきっているから。


「蓮をすぐに離宮へ戻せ。これは命令だ」

「いいですよ。じゃあ意識ないアレを馬に縛り付けて捨ててくるよう命じとくよ。あの程度の移動で動けなくなるなんて、ほんと使えない存在(やつ)



崩れ落ちるように意識を失った蓮莉は、疲労からかまだ目覚めない。

そんな状態で無理させる訳にはいかないので、咲陽は命令を撤回せざるえない。

6年間、蓮莉の状態は報告は受けていただろうが、実際に目にしてみてみればあまり酷いと感じただろう。

まさかこれ程弱くなっているとはと、思っただろう。

そして蓮莉がそうなったのは、自分のせいだと自責の念にかられている。


「やっぱり処分の方が良かった、そう琳家(リンケ)の狸共は言いそうだ」

「ふざけるな。そんなことさせるものか」

「うん、そうだね。陽はそう願う。だから、処分はしない。だけど、陽にそんな想いをさせるアレを琳家は許さない よ」


咲陽が望むから琳家の当主として、蓮莉を処分させない。

だけど、琳家の人間として(アルジ)を傷つける蓮莉を許す事など出来ない。

だから、少しでも蓮莉が咲陽の心を煩わさないように引き離した。

だが、今は咲陽の心を乱してでも蓮莉を使うと決めた。


「灰、蓮に何をさせるつもりだ」

「何も。僕はアレに何の指図もしないよ」

「………。何もさせるなよ。これ以上、奴に関わらせるな」

「はいはい、僕は何もさせないよ。アレに指図もしないよ」

約束約束と灰牙は笑いながら咲陽と別れた。





本当だよ。

だって、もう何もしなくていいんだから。

紫来(シライ)の前で、蓮莉と咲陽を会わせる事が出来たのだから。

咲陽の蓮莉に対する態度は特別だ。

蓮莉の前では普段被っている皇太子として仮面が外れる。

そして、6年ぶりの再会となれば感情的になった咲陽が予想通りに現れた。

6年前の事を知っていれば、生死の境を彷徨う姿が最後だっただけに取り乱したと判断できる。

だか、それを紫来は知らない。

噂に名高い皇太子の想い人とされる緑莉。

人目のない場所でその緑莉ではない娘を抱き寄せる、取り乱した咲陽。

咲陽を取り乱させる、あの琳灰牙の妹。

さあ、紫来は何を思うだろう。

そして、そこに自分の影をちらつかせれば既にこちらの策通り。

必要以上に自分を警戒する紫来だからこそ通じる手。

紫来は今頃あらゆる疑惑を膨らませ、緑莉が咲陽の想い人という真実をすら疑いに変えさせている。

緑莉は表向きの偽りの想い人なのではと。

他者から見れば怪しすぎる蓮莉こそが咲陽の本当の想い人なのではないかと、調べ始めているはずだ。

そして知るだろう。

琳蓮莉を。

ほとんどその存在が知られていない秘された存在だと。

東の離宮に皇太子の口添えで療養していたことを。

現在、皇太子の命で王宮の一室与えられて滞在していることを。


ああ、なんて都合がいい存在だろう。

本当にこれだけ聞けば怪しすぎる。

王太子により秘され、守られる娘だと。


存在が知られていないのは、咲陽を守る為にそうした方が都合よく使えると琳家が判断した為。

咲陽が蓮莉を東の離宮で療養させたのは、琳家が使い道が無くなった蓮莉を処分するのを防ぐ為。

王宮の一室を与えられたのは、蓮莉が倒れ離宮まで動かせない為。



蓮莉を守りたいと思う咲陽の行動が、蓮莉を身がわりの想い人へと変えている。

だから、何もしなくていい。

灰牙が何か仕掛けなくても、咲陽の行動が紫来に信じ込ませる。

蓮莉こそが本物だと。


ここまでほぼ自分のシナリオ通りだ。

ただ一つを除いて。

あの時紫来には自分の後を終わるつもりだった。

目立つ場所から蓮莉が思い出の場所に行くのは予想出来た。

女の後を追いかける自分の姿を見せることで紫来を誘い込もうと思っていたのに。

紫来は自分から蓮莉を追いかけた。

まるで灰牙が導く前に蓮莉に興味を持ったかのように。


「うーん、その点も考慮しておくべきかなー」

咲陽のためにもこの身がわりを成功させる。

それが琳家の当主たる灰牙の役目だから。

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