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身代わり決定

(カイ)、いるだろ」

執務室を去った足で、自室に戻った皇太子はそう声をかけた。

扉を守る衛兵は彼の来訪を告げていない。

本来ならいるはずのない男。


「いるに決まってますよ、(ヨウ)

ここだよと咲陽(ショウヨウ)灰牙(カイガ)はソファーにだらしなく寝転んだまま、ひらひら手をふった。

襟元をはだかせ、上着はソファの背に引っ掛けて皇太子の私室で完全にくつろいでいた。


「ったく本当お前は、もう少し私を敬え」

「嫌ですね、ちゃんと敬ってるし、こういう扱いの方が嬉しいくせに」

「…お前一度私に対する不敬罪で牢屋に入ってくるがいい」

どちらもゴメンだよと笑いながら、灰牙よっと反動を利用して軽やかに起き上がる。


「それにしてもしー坊もちょっとは賢くなったみたいだね。"第2王子の定め"で不貞腐れて、拗ねてたくせにこんな要求突きつけてくるなんて変な風な成長しちゃったね」

こんな嫌がらせ思いつくなんて。

「それはお前があいつの唯一のプライドをズタズタにした挙句、肉体的にもボコボコにしたからだろうが」

「あの程度の腕前で天狗になってたしー坊が悪いだけなのに」


5年前に隣国へ留学した咲陽に学友兼護衛がてら着いて行った。

その際に出会った隣国の第2王子、紫来。

弱冠13歳でありながら、剣の腕はすでに凄まじくその相手を出来るものほとんどいなかった。

剣の腕をひけらかし天狗になっていた紫来に勝負を挑まれた咲陽に代わって、灰牙は剣をとった。

勝負にはもちろん勝たなかった。

あくまで勝負は紫来の勝ちだが、明らかに勝ちを譲ったと分かる負けで終わらせてやった。


「ほんとあの程度でプライドを持つのが悪いよ。」


確かに凄まじい腕前と灰牙も思いはした。

だか、あくまで才能に恵まれただけの剣だった。

限界を感じた苦悩した事も、

必死にその身を削りろうとも届かず、心も体も力尽き地を這った事などない剣に負けるなどあり得なかった。


「出来る奴は本当嫌いだよ。努力が足りなくてもあんな腕前だなんて」


才能がある奴など大嫌いだ。

こっちは自分の限界を知り、その中で最善を尽くすしかないというのに。


「だけどトドメさしたの陽だったよ。こんなの勝ちでないと興奮していたのに、陽が囁いた言葉で崩れ落ちたし」

「別に対したことは言ってない。ただ、『いつも通り勝ててよかったですね』と言っただけだ」

「うわーいい性格。しー坊カワイソー」


あからさまに勝ちを譲られた直後に、いつも通りにと言われる。

まさか今までもとプライドがズタズタになったろうに。


「てか、今になって長年の恨みをはらしにくるなんてね。ごめん、全く警戒してなかった」


気にするなと咲陽は言ってくれるが、灰牙にとっては許せない失態だ。

“王の守護者”である琳家(リンケ)当主としても、

咲陽の友としてもその心を揺るがす事態を防げなかったことは完全な失態だ。


「安心しろ、緑莉は1年後には帰国する。帝国の第1王子とそう密約を交わしてある」

「それでも、お前の心は緑莉様を差し出すことを望んでないのだろ」

「仕方ない。今帝国に逆らう訳にはいかない。緑莉も分かってくれている」

「いいのか、陽にとって緑莉様は」

「緑莉がいるから俺は俺でいられる。1年は我慢出来る。心配するな、だから暫く1人にしろ」

退室を命じられた灰牙はだまってその命には従った。

「緑莉が必要なんだ。緑莉がいなければ俺は…。大丈夫だ、必ず取り戻せる」

灰牙が立ち去り誰も聞く者のいない部屋で咲陽はそうこぼした。





「陽が望まないことを俺がさせる訳ないのにな」

“王の守護者”である琳家は、

自分の主と認めた者の心を守るために動くもの。

国の都合など関係ない。

陽の心を守る為ならば、どんな手段も使う。

その為に犠牲をしいても。

「さあ、動きますか」

まずは緑莉の身代わりの準備から。

身代わりを呼び戻す許可を得る為に灰牙は王の元へと向かっていった。

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