隣国からの要求
遅くなりましたが次話をUPします。
「緑莉様を差し出すのが最良の策です」
重い空気に包まれた皇太子の執務室の中で、未来の宰相である景碧英は要求をのむしかないと断言した。
「かの国の言いなりになれというのか。受け入れれば、完全に我が国は言いなりだと内外に示すこととなるだろうに」
「そうだ、いくらかの国とはいえ第2王子の要求であろう」
来月に控えた皇太子の誕生の宴。
その宴が皇太子妃の正式な発表とすべく準備が進められていた。
そんな中で隣国の第2王子から信じられない要求がきた。
回りくどい言い回しを省き、簡単に訳せば、
"皇太子の想い人を差し出せ"
皇太子妃となる緑莉をよこせ。
こんな要求などのんでなるものかと賛同の声が次々とあがる。
皇太子妃と確定されている緑莉。
この場にいる誰もが皇太子の緑莉に対する想いをしり、この2人を祝福していた。
何より緑莉こそが皇太子妃に、未来の王妃に相応しい。
常に先頭に立ち皆をまとめ、自然と上にたつ者として振る舞う。その一方で気高い彼女が皇太子の前では恋する乙女に変わり、皇太子もそんな彼女を愛しむ。
愛し合う2人を引き裂くなど彼らにはできない。
何よりこの執務室には政で第一線で働くものはなく、皇太子の側近にと集められたまだ若い貴族子弟ばかり。
その為に政治的駆け引きよりも、感情が先に動いてしまう。
だからこそ唯一の例外だと自負する碧英は彼等より先を見据える必要がある。
「その第2王子がどれほどの力を持っているのか、わかっていないようだな。分かった上で今の発言が出来るものならばしてみるといい」
そんなものがいればこの場にいる地位も名誉も剥奪し、潰してやる。
声にださずともかれらに伝わってきた。
「碧英、皆をとがめるのもそれくらいにしておけ」
碧英の言葉に誰も何も言えなくなった中、今まで黙っていた皇太子が口を開いた。
「皆にも言っておくが、もしもの場合は緑莉を預けるつもりだ。紫来殿の狙いは私に対する嫌がらせだけだ。」
「あくまで殿下のこの度の婚約を邪魔するだけが狙い。ならば下手な挑発にはのらず、ただ緑莉様は今後の見識を深める為の留学として引き渡しておくのが最善でしょう」
だが、どんなに取り繕っても無駄だろう。
隣国の王子に屈し、恋人と引き裂かれたというのは隠しきれないだろう。
だが、それでも構わないと碧英は思う。
建国100年を過ぎたばかりの歴史の浅い国、それに先王の即位時の内乱もありまだまだ力弱いこの国。
対して隣国である帝国は長い歴史に肥沃な領土、何より近年では軍事力がましている。
そんな隣国と、ましてや軍に強い影響力を持っている第2王子と事を構えたくない。
皇太子の名誉よりも、帝国との関係の方を優先すべきだ。
「では、緑莉様を帝国に派遣するという事で」
「ああ、だが予定通り婚約発表はする」
あくまで緑莉を差し出す流れとなったなかで、婚約発表⁉
さすがの碧英もとっさに反論出来なかった。
任せたぞと、
言い残し皇太子が去って行くのを止めることもできなかった。