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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
96/238

96 優しさの匙加減

 


 「では、部屋に戻ります」

 「ごちそうさまでした、美味しかったです」


 「口に合って良かったわ。今後は… そうね、色々食べてみましょうか。 落ち着いたら、食堂で一緒に食事を摂りましょう」

 「え… ええ?   いえ、はい」


 「意向は理解したからな」

 「よろしくお願いします」



 連れ立って部屋を出た。

 廊下を歩けば、あちらこちらへと視線を飛ばす。

 

 「何かある?」

 「いや? 見てるだけ〜」


 笑って返すが、広げて振った手の包帯が目に入る。見慣れてきても腹が立つ。だが、落ち着け。先の言葉の方が大事だ。



 ガチャン!

 

 「とう ちゃく〜」


 …うん、やっぱり発音がちょっとねぇ。直さないとさぁ。 ん? 今のはわざとか? …浮かれてる?







 「関節だから、この長さで良いね」

 「ん、そこで良い」


 確認に計り直した。


 「生地だけど、切れでも持って来させようか?」

 「いや、選んでくれたの楽しみにしてる」


 「うわ、センスを問うんだ?」

 「あはは」



 気軽に笑う顔に、笑い返す。


 口頭伝言は間違える元、簡略過ぎても間違える元、店宛てに手袋の追加依頼を書く。俺が手紙を書いている間は、レオンからの手紙を読んでいた。

 不明な単語は自分で調べると教科書を引いているが、あれは辞書ではない。使い易いのを選んで購入しておくか、執務室にあるのを借りてくるか。


 

 書き上がって顔を上げれば、便箋をにま〜〜っと見ていた。便箋は一枚のみ。読み終わっているはずだが、ずーーーーーーーっと見ている。


 …ナンだかな。……ナンでかな? レオンに対して湧き上がるこの気持ちは、ナンだろうなぁあああ??



 「そんなに良い事を書いてる?」

 「や、単語がさっぱり」

 「え?」


 読めてなかった… 手にした手紙の幾つかの単語に喜んでただけだった。 はっはっは、ナンだなぁ。気分の上昇傾向が止まらんが、これはどこへ回すべきだ?




 単語を指して一緒に読んで、発音練習を優先に。 


 端的な文だ。しかし行間と言い回しに、念押しを暗に潜ませているのが俺には読める。読めるから苛つくが、こんな時にそんな顔できるか! あの野郎!



 「気にしてくれてたんだよな〜って」


 裏を読み切っての笑顔なのか、そうでないのか微妙に読めない。高確率で読み切ってない気がする… んだが、さっきの言を考えるとわからない。はぁ。





 「店に届ける様に言ってくるから。それと、お昼は」

 「お昼ご飯は入りません」


 「あは。お腹空いたら、その時に軽く摘む物を頼もうか」

 「それでお願い〜」


 ガタン!


 「あ、待った! そのままどっか出掛ける!?」

 「出掛けないよ。でも少し話をしてくる、かな」


 「わかった〜」



 椅子に座り直した姿に、封筒をひらりと見せて部屋を出た。





 扉を設けない、吹き抜けの一室。

 手紙を託すのに執事かメイド長のどちらかが居るかと、室内を見渡せば執事が居た。


 「手配を頼む」

 「はい、仕立て屋ですね。畏まりました。 先ほどお話した件ですが…」


 茶を中座して出て行った戻りに、耳打ちしてきた続きを話す。


 「そうか、待っているか。 兄には?」

 「お茶を終えられまして、直ぐにお話してございます」


 手慣れた執事の対応に、笑みが零れる。


 「兄は?」

 「姫様と共に執務室に居られます」


 「わかった」


 執務室に向かうから、厨房への伝言を頼む。昼食は一人分で、それとは別に果汁ジュースを一杯だ。俺は食わんとやってられん。


 「もう少し落ち着けば、紹介できるだろう」

 「メイド長の方からも聞き及んでおります。どうして未だに続くのでしょうか? この年になっても聞いた事がございません。わからぬ事です。

 領主館に勤める者の中に不心得者はおりませんが、確かにそれでは過敏にもなられましょう。ゆるゆるお待ちしておりますので」


 不服を言わない皺を刻んだ顔に、良と笑い返して部屋を出る。






 軽くノックを。


 「はい」

 「兄は居るか?」


 直ぐ様開いた扉の中、ロイズの手が誘導に流れるのに軽く頷く。



 「あら、もう来たの? 大丈夫なの?」

 「ええ、仕立て屋への手紙を口実に出てきましたから」


 椅子に腰掛ける姉に向かって歩み寄り、執務机を前に座る兄を見る。



 「おう、それなら聞いたか? 避けて通れん話だしな、終わらんと進めんだろ。ちょうど良いから手っ取り早く済ませてしまおうと思っている」

 「…あ〜、これから直ぐですか?」


 姉の近くに立ち、兄に向かう。



 「今直ぐと言いたいが、それもどうかと思うからな。昼を回ってからだ」

 「一件だけですよね?」


 「もちろんよ。全部なんて時間はないし、始めから無理だわ。一件でも立ち会っておけば違うでしょうからね」

 「それはそうですが、残りはどうお考えで」


 「本人次第でよかろう」

 「…任せるとも言いましたよ?」

 「そうね、お兄様に任せると言った以上、事後承諾で良いかもしれないわね。結果だけでも納得はしてくれるかもね」


 「だがなぁ、その場に居合わせるのと居ないのでは違う。あれらには関心を持たぬと切ったが、見るに越した事はない。それに一度は見ておいてくれんと、俺への対応は変わらんだろうが。 あ? 違うか?」


 「あ… あ〜、そっちはまぁそうですけど」


 わかっているのに俺の言いたい事をズラすなと思うが… 姉の含み笑いが遮った。



 「ふふ、でもほんと。まさかあそこで領主様と名指しするとは思わなかったわぁ」

 「全くだ。セイルジウスと呼んだし、少し口籠もったがセイルと呼び直した。それがまぁ… 伯爵か次期であればまだしも…  領主様だぞ、おい!」


 「……え〜、まぁ、どこの領民でも基本は領主様呼びが普通ですよ? そっちの方で覚えて、そういう方向で呼んだんだと思いますよ」


 「ハージェスト、お前わかっててハズしてやがるな?」


 「…いいえ、兄さんのツボを上手に突いたとは思ってますけど?」

 「そうよね、領主と名指しした事で手抜きをしないでと釘を刺した。そう考えると上手だわよねぇ」


 姉と弟は顔を見合わせ、軽く頷く。

 揃って兄を見る。 


 そして言った。


 「最初に名乗ってはいますが、別にノイゼライン子爵と呼んだのではありません」

 「ええ、そうですわ。普段はノイゼラインを名乗ると言っても、治めていると言ってはおりません。ですから、普段からの領主としての腕前を問うたものではないでしょう」


 「そもそも兄さんがエルト・シューレに直接手を入れたら、結果は全く違っていますよ」

 「治めよとロベルトを指名したのはお兄様ですが、実際治めているのはロベルトとダレンですわ。最終決定権をロベルトが持つと言ってもねぇ…

 それに、本格的に手を入れると決めた時期も時期でしょう? 今は膿み出しでごたごたしていますが、ええ、何かが色々重なって本当にごたごたしましたが… ここまでとは私も思いませんでしたが… 」



 「「 それでも、此処は以前より大幅に上がっていますよ? 」」



 弟妹の言にも兄は顔を顰めたままだった。宙を睨んで、ぼそりと呟く。



 「前年から落としてないだけで上がっていない… 」


 「お兄様、それはノイゼラインです。此処、エルト・シューレではありません」

 「そうですよ、ノイゼラインは関係ありません。まず、そっちは考えていませんって」


 「しかしだな、現実に上がっとらん」


 「上がる方が不思議ですわ。街の必要な設備投資に回したのですもの」

 「横ばいを保ってるだけで十分だと思いますよ? 前年もその前も、立て続けに必要経費として出費しましたからね。それに継続させますし」


 「しかしだな…」


 「やがて良かれと言うのです」

 「兄さん… 基本兄さんが居なくても、今現在もノイゼラインは回っています」

 「それはわかっとる。だからこっちに来とるんだ」


 「お兄様〜、おわかりでしたらよろしいではありませんか。皆もやってくれていましょう?」

 「まぁな… そりゃあな」


 「確かに弾き出した値は微妙に見えますが、中を見れば一目瞭然です」

 「お兄様お一人が頑張る訳でもありませんし、いつも通りわかっていらっしゃる事でしょうにぃ」


 「そうだがなぁ… そっちは俺も理解しとるんだがな。 だがなぁ…  アレは本当に深い意味もなく領主と呼んだのか? あ? 俺をセイルジウスと呼ぶ前は伯爵と呼んだんだぞ? それがどうしてあそこでわざわざ領主と呼ぶ?」


 「ですから、偶然… でしょう」

 「お兄様の気持ちを見抜く程に一緒に居てはいませんわよ?」


 「しかしだな、あれは見ている目であったぞ?」

 「……アレを食べているのを見つめていた目と、同じ気もしますわ」


 「………もういいわ」


 宙を眺める目には、達観と無念と疑惑と違う疲れが溜まっていた。





 『領主様が適切と決めて下さい』


 この言葉に本人はどうでも、全員が裏の意を読んでいた。

 特にセイルジウスには、領主の名指しが二重に聞こえていた。弟妹は兄の顔で、もう一つを察した。一つは手抜きをするなで間違いないが、もう一つは領主としての経営手腕を問うものである。


 経営手腕については、本人が思い込んでいる節がある。


 先日終わった総掛かりの結果に、初めからわかっていてもがっかりしていた所に領主様と呼ばれた事が心をざっくり掠めただけだ。


 彼の中で領主の名は、実質の重みを伴ってノイゼラインを指す。


 そこが合致した。

 過ぎ去りし日に唸っていた通りだが、変化の無い値は先日見たばかりだ。



 『領主様は適切にできるんですよね〜ぇ?』


 セイルジウスの耳にはもう一つの裏の意として、こう変換された。そして妹の再確認後にそれの思いを深めた。


 『適切に反映されるんでしょう〜? できるんでしょう〜?』


 手抜きの防止よりも、領主としての手腕を問う方向で比重が落ちた。ガコンッ!と落ちた。そして現実に領主の手腕が問われている。



 言葉は彼の数少ない悩み所を、上手にツンツク突っついた。


 それは非常に可愛らしい精神攻撃である。通常は笑い飛ばして全く効かないが、この時期ならではのタイミングと不意打ちが、実に上手く鉄壁の精神防御を擦り抜けて攻撃した。しかも即効ではなく、後から考えるとじわじわ効いてくる遅効性だ。


 事態が物事に拍車を掛けていた。胸中ではこの始末について、落とし所にどこまでしてやるべきか?と悩んでいたのも結構響いて増幅していた。


 特に悩みもしないはずが、今回は大事おおごとである。弟の話に現実と、本人は知らずとも、いろいーろやってくれているのは確かだ。何より収まっていないモノは、まだ収まってはいない。目下、継続中である。それが現実を見ろと示唆し続けている。



 セイルジウス(ラスボス)にとっても、滅多にない即決を避けて悩む出来事であった。





 本人の思惑は真実二の次三の次、深い考えがあろうとなかろうと、全てに等しく心臓に蹴りを入れるのだ。







 「はぁ… まぁいい。午後に決を下すのは宿のガキ共についてだ。午前中から親が来て、どうしても会わせてくれと待ち続けとるのだし」


 「ええ、まだ帰ってないと。兄だけでなく妹も引く結果になりましたからねぇ、日数を考えれば帰らんでしょ。ですが… 決を下すのは、あの四人に対してでは駄目ですかね?」

 「私もその方が良くないかと思って、その話をしていたのだけど… どうあっても残りの二件には他の要因が絡み過ぎているわ。内容が違うと言えども… 二度の決を出すのは、上手いやり方ではないわよ」


 「宝石店の店主については、まだ叩かねばならん。一番簡単で、情報も出揃い即決として出せるのがアレだ。決を出すのに待たせ過ぎれば、お前への心情も変わってこよう。一つでも済ませておくのが良い」


 「そうよ、皆が頑張って調べてくれているけれど… まだかまだかと待つのはうんざり。口先だけかと思い始めたら最悪なのよ? 一つの実績も作って無いのは駄目なの。ええ、ほんとに早くしておかないと苛々してくるのよ。ほんとにもう口惜しいったら、今考えても… あ〜〜〜っ、もう!!」


 「リリー…」

 「姉さん… あの、それは」


 「お・ん・な・じ・ことなの! 特にあなたの場合、変則になっているのでしょう? 


 ああ、そうだわ。言いそびれていたけど、そうよ! おめでとう、ハージェスト! 今朝、お兄様から聞いてよ。 本当に… 本当に良かったわね…  聞いて私がどれだけ驚いたと思ってぇ? お兄様の言でなかったら信じないわよぉ? 片隅にある疑問なんて、どうでも良い位に素っ飛んだわ。 ほんと手放すなんて考えられない。

 でもね、だからこそ!あなたが契約に至るには、もっと積み重ねがいるのでなくて? ハージェ、違って?」




 姉が椅子から立ち上がって、俺に「おめでとう」と言ってくれる。


 姉の目は、とても優しくて真摯だった。その中に厳しさがあるのは、契約に至ってないからで。茶の席で口にしなかったのは、兄に「待ってくれ」と言ったのを、正しく汲んでいてくれた。


 多少アレだったが… 気遣いを当たり前と終わってはいけないと思うが、どーすれば返せるんだか。だが、まだ話せる事はない。



 「ありがとう」


 一つの言葉に思いを込めて、言葉を返す。思い出すんで、もう少し。



 「レオンの手紙だけど読ませてくれた。申告通りだったよ。一読で終われる内容だった」

 「そう、仕事内容は書いてなかったのね?」


 「皆無。期日と場所の指定記載もなく、個人での迎えとしか」

 「ならばやはり問題ない」


 「ええ、口外も求めておらず… 代わりにガセならお前が泣くぞと読めましたけどね。裏的には煩わしくて面倒で嫌だけど、仕事だからと全文から読み取れましたけどね。単語と行間で、行くのを躊躇わせる警告文に仕立ててましたよ」


 「…妥当だろ。領主館に願い出る事で正当性を計る確認をだな」

 「ガセならわかってんだろな、と脅してますよね」


 「金策を考えての話でもあったはずよ、ねぇ?」

 「あれで行くのに嫌気が差して来なかったら、どうする気でいたんでしょうね? 来てなかったら、これ幸いと放置したんでしょうかね? 嫌ったらしい手紙送っといて、判断したのはあっちだから問題ないですかね?」

 「まぁ待て、警告の一つを織り込めもせん奴は使えんぞ?」


 「そうですねぇ、それで俺に会いに来るのを〜〜 ぶった切るつもりだったんでしょうかねぇぇ」


 「だからな、嘘偽りないか警告として聞くのは悪い事でも何でもなくな? 常套手段だと言うに」

 「そうよ、疑問が残るなら再確認は必須よ。繰り返しは念押しでも、恥を晒させないと言う優しさに似ていてね?」


 「そーですかねぇえ?」


 「ハージェスト」

 「ハージェ… どっちにしても、あなた居なかったんだから」



 優しい姉の言葉がざっくり切った。断ち切った。言わなかったが眼差しが言っている。その後に続く、『駄目よねぇ…』が脳裏で響いた。



 その後、あっさり次の話に移行した。








 「少し前には連絡する。それまでに話しておけ」

 「そうよ、その後も今日は一緒に居なさいな。契約に持っていく為にも、ね」


 「え、え。 では後程」


 

 パタン。



 

 俺は兄と姉の言葉に、返す言葉を思いつかなかった。


 カッ カツ…


 廊下を歩き部屋へと戻る道すがら、思い出す。



 カツ、ン。



 茶の終わりに、俺に見せたあの顔。あの笑顔。


 薄く笑う、あの顔。

 何処かを嘲笑い、自嘲する 顔。


 頭の中が比較する、意図せずとも思い出して比較する。最後に見た笑顔と近頃見せてくれる笑顔と、ついさっきみた笑顔がころころ変わって比較する。


 比較すれば、ずーーーーーんと気分が落ちる。

 ずっどーーーーーーーーーんと落ちて行く。俺が見たいのは、あーいう顔じゃねーんだよ。あっちの顔じゃねーんだよ!


 手元に何かあれば、ベシッ!とぶつけて清々したい。本気で何かをぶん投げたい。


 でもま、人だからな。そーいう顔もするだろ。そんな顔を見れたと知れたとページを一枚増やせたと、そう考えればなんてコトない。何時だって、にこにこ笑顔っつーのも味気ないわ。


 そう思って自分を慰めるが、どーしてこう… 今なんだろな? もう少し落ち着いてからでも良いのにな。ナンでこう、俺の第一希望と違う状況から攻めて行かねばならんのだ?



 手を拳にしてグッと握り締める。


 俺の魔力量は増えている。間違いない。しかし、膨大に増えてはいない。気持ち増えた程度だ。剣に付加した力は、あの後長くは保たなかった。あそこから割引いて弾き出しても、絶対に気持ち程度の増量だ。これで使えるのは、「あれ一回で終了、継続ないよ」とか言われたら撃沈するが… 多分違うはずだ。うん、やっぱりこう 感覚の違いが… どっかで、こう… こーゆー感覚は、ほんと初めてだからなぁ… 物心ついてから碌に覚えがないからなぁあああ!!



 知らないと、できないと言っていたのに… してくれてた。


 状態が状態だったから、本当に意図したモノではないのかもしれない。それでも、この実状を思うだけで気持ちは浮かれる。ガンガン上がる。上がり続ける!


 どうあっても契約に持ち込みたい。それが、嘘偽りのない俺の本音。


 しかしだな、絶対に持ち込みたいが何をどうやってもどんな方法を取ってでも、な気持ちは無い。全く無い。嫌われたくないんだ。無理やりやってナンか良い事あるんかよ?


 競い、争い、奪い合って、「うおりゃあ! 獲ったぞ、俺のモン!!」これで終われりゃ、そら早くて良いけどな。簡単だから本気でどーなっても良いとやるけどよ。


 俺の希望、そっち系じゃないし。それじゃ方向性違うし。命令系で嫌々じゃ、どー考えてもして貰えそーにないし。泣かせてなんたらだったら他でできるし、間に合ってるしぃ。



 宿のガキにどんな決が下ろうとも、俺からすれば問題ない。しかしそれでまたあーいう顔して笑うんだろか? あーんな顔ばっかする様になるんだろか? 


 至る為には必要な道。


 避けて通れば、痼りが… 残る。 残るかもしれない。  そんなのは嫌だ。なら通るしかない。必要として通るだけだが、あの笑顔が定着するならすごく嫌。もんのすごく嫌。俺と居たからこうなったっての、すんごく、い〜や〜あ〜。 はぁ。


 どうしてこう、もうちょっと… 真綿に包んでとかそーいうのは思ってないが… 欠片も思わんが…  なんで穏やかに和やかに進めんのだろう? 茶ぁ飲むだけでどーして、あんな顔にまで…!  くぅっ! 兄と姉の優しさがぁああ!!


 ガツッ!


 「…あ、失態」


 壁に当たっても仕方ないな。さすがに蹴破るのはよ。


 順番としては小物から裁いて、数を減らすのが妥当。重要度で早めに宿のガキ共に決が下るのは、予定内。こんな現状で、わーざわざ下に合わせる時間は取らん。親の立会いなんぞ、あってもなくても何一つ変わらん。


 しかし、午前に話して午後に即決結審ってどー思うかな? あー、どう説明するかな〜。 ま〜、蹴った現場から離れようか。






 それにしてもクレマンか。

 あの爺。一度、足抜けして切った口だってぇのがな。それもまぁ逃げ切りねぇ? 


 本当かと疑うが、これまた手間だ。手間過ぎて、嫌だ。普通にやれば真偽にも時間が要る… 糞面倒くせぇぇえ!! アズサと一緒にいる時間が減るだろうが!


 しかし、違う意味では確かに上物。あの手はそうそう上がってこない。言い訳が嘘でなければ、動き始めたのは一月前。こっちの調べには引っ掛かりもしていなかった予定外。あの爺が持ってる繋ぎが生きているのならこれまた予定外。しかし、使い物にもなるかもな。いや、ならんかな。


 しかし、元凶だからな! 手を抜かずに調査しないと拙いんだが〜〜 相互監視体制組み込むのはアレだから、やああっぱ焙り出しにした方が…  兄貴自分でやってくれねーかなぁ、もう。


 いや、アズサにやりやがった落とし前。

 それを俺が着けんで誰が着けるよ? 誰がアズサの為に動くんだ? 己の為に己で動く。アズサの為に動く事は己の為に違いない。


 泣き上げた()を忘れはしない。  それにだぁれがアズサを泣かせっぱなしで終わらせるか、忌々しい。




 それにしても… アズサ。

 アズサは色んな意味で引きが強過ぎる! 強過ぎて心配になる…! とにかく、安全地帯に置いとかないと!



 そこまで思えば、思い出す。





 「俺が居るから大丈夫」


 本当はそう言いたかった。「居る」だけじゃなくて、そう言いたかった。しかし振り返れば、どっこにも俺に良い所が無いじゃねーか。何で俺が居ないところばっかで始まってんだ? あ?



 館内だってのにどーしてだ? 兄さんも居るのにどーしてだ?


 気付いた時点で、「大丈夫」なんて無意味な事が言えるかよ。はああ… 午後… 出てくれるかなぁ? やっぱガキのがまだ一番見られると思うんだよな… うん、やってますよアピールはしないと。


 見て、嫌な気分になって、あんな顔しないでくれると良いんだけどな…



 少しだけ、思い出に浸る。

 第一希望の顔と、部屋を出る前に見た顔と。要らん所はちょんちょん切り落として、思い出に浸ったら〜 さぁ、やるか。現実継続実行を俺は求める。俺は俺の明るい未来に向かって邁進する!





 

 「おかえり、遅かったね」

 「ごめん、つい話が。 …どうかした?」


 「いや〜?」

 「え? なんで拗ねてんの?」


 「へっ!?」


 なんで?みたいな顔されても。






 アーティスを呼べないかと試してた。

 一生懸命心の中で念じて呼んでたが来なかった。部屋の中で試した後、テラスに出て試した。頑張って試し続けてた。しかし待っても待っても来なかった。


 がっかり顔だった。


 実はまだ半信半疑だが皆が言ってたし、その気になって期待を込めて呼んでたが来なかった。


 どよーんと落ちてた。



 …この気分をどうやって上げてやれと? これを上げても、午後からの審判で落ちるかもしれんのに。上げ落としってヒドくねぇ? でも慰めないなんて、そんなん論外で終わりだろー?


 ナチュラルに慰めて優しさの演出をしたいが、どう慰めろと? きっと何時かできるよ、とか? 諦めずにず〜〜っと続けろとか?



 本当に… そんな言葉で慰めるのが正解か、コレ?


 根本がどっか違うとしか思えんのだが? 原因が魔力に当たるなら、どれだけやっても無駄な気がするのはどーしてだろーな。そー思ってるからだろーな。 


 じゃあ、どーするのが正解だろーなぁ? 

 いやもう、結構な難問にぶつかるな〜。 ふ、試されてんなぁ… 俺。



 誠実に聞こえる様に、誠実さを持って、装う事無く誠実に考えながら合ってそうな答えを自分で導き出した。




 「それは順序的に早いと思うんだ」

 「うぇ?」


 アーティスを呼ぶのに魔力を込める事もすると説明。あまりしなかったが、子供の頃は笛で呼ぶ時も魔力を込めた事も説明。


 「だから、きっとわからないんだよ」

 「魔力… 増幅して…  聞こえるよーに…   ああ、そーゆー…」


 「でも、俺とは違って一目見て気が付いた。大喜びで周りを排除して行ったんだ。ちゃんと理解してた」

 「え…  とぉ」


 「つまり、魔力以外の何かで理解してる。魔力が無いから、い、色々な事になったんだし」

 「ああ、痛かった」


 「それがナニかはわからない。それに対する助言はできない」

 「…そりゃそーだよね」


 「だからこそ、魔力を。安全を図る為にも魔力を纏おう? 呼ぶのは、それからでも遅くないよ」

 「ああ、そっか。そーだよ。纏った魔力でどーにかなるかもだよな? 声は無理でも、笛には込めれるかもだよな!」


 「確約も何もできないけど、こればっかりはやってみないと」

 「うん、そうだ! 手袋して、それからだよな」



 笑うアズサに俺も笑顔で応える。

 良かった。俺の持っていきたい方向に、全面的に持っていけた。確証ないけど良い感じ。あ〜、嬉しい。めっちゃ嬉しい。


 こんな感じでガキ共の話を先にするか、それとも〜〜 革紐を先に出すか? どっちにするか?




 内心で迷ってたら昼飯が来た。


 そーだな、飯食ってからで良いな。




 「ご用事がございましたら、仰せ付け下さいませ」

 「ありがとう」


 ヘレンと交わす笑顔に躊躇いも用心もない。良かった良かった〜。しかし、部屋を出るのを見送る姿に、さっきまでの寛いだ姿は無い。


 扉が閉まると、へにょっと背凭れに凭れる。…もうほんとにわかり易くて。

 




 「何?」

 「……… 」


 置かれた果汁のコップより、俺の昼飯をじいいいいい〜〜〜っと見る姿に思う。飯は要ったか。



 「蒸し魚の、アマズアンカケ 食いたい です」

 「は?」


 焼き魚から視線を外さず言った。

 

 甘辛のとろーんとしたタレが掛かった蒸し魚を食いたい、とのリクエストがきた。初めての飯のリクエスト! 是非とも応えねばならんが、その前にっと。


 「一口、要る?」

 「要る。一口!」


 希望に添って、焼き魚を一口どうぞ。

 その一口を噛み締め味わう姿に、餌付けをしている気分になる。なるが、こんなんで餌付けになるかぁ! 


 それに餌付けなんて失礼だからな。

 …猫の姿なら、あ〜、ちょっとな〜。そんな気にもなるかな〜。なりそーだな〜。しかし、人には失礼だ。うん、失礼だ。失礼だから〜〜 失礼にならないようにすれば良いだけだ、うむ。


 食ったら、少しはまったりしないと。






 「え? そうなんだ。俺には何も言わなかったからなぁ」

 「有効だよな?」

 

 「もちろん。存外、待ってるかもね? ちょうど良いよ、練習に書いてみよう」

 「ん、手本に書いてくれる?」



 

 夕食のリクエストを自筆で書く。うん、前向きですっごく良い感じ。


 「できた!」


 何度か練習してから清書。言わなくても当たり前。 ああ、ほんと君は人。 人である、なんて良い響き。


 「どう、読める?」

 「大丈夫。ちゃんと読めるよ」



 食器をワゴンに片付けて、リクエストの用紙も乗せる。飛ばない様に、見える様にと、位置を確認しつつ皿の下に置く。乗せたら、ワゴンを所定の位置へ。


 

 普通にしない事だけど、一緒にするのが良いね。こーゆーのが距離感を縮めるんだよね。 



 自分で食器を片付ける。そういう家だったって事だよな? 


 「食器は自分で片付けるのが基本?」

 「ん? あ〜、家ではそれが基本です。金払って食べる店は、もちろん別。ん〜、店に基本ルールがあるんなら、そこに合わすよ」


 「基本ルール?」

 「大概安い店」


 「あ〜、安い代わりに自分でや(セルフサービス)れ?」

 「そう! 知ってるんだ、そーいう店あるんだ」


 「王都に居た頃に、ちょっと行ってたよ」



 通じる話が良い。…ほーんと学舎時代に色々やってて良かったな〜。上との付き合いだけじゃな〜。



 前々から感じてた。

 此処での常識はどうでも、君の基本形がわかる。間違っても全部とは言えない。  …学友達に、似ているね。

 好ましいと思う在り方は、どこかでそれを望む俺に似ているから、そう取るのは自惚れかな?  ……うあ、駄目だ! 言い過ぎで駄目だ。自惚れもへったくれもねーわ。俺は優しくない。


 あ〜、その分を望んでいるのかなぁ?



 引っ張る気はない。さらっと言おう。



 「午後から宿の息子と娘。この二人の判決を下すから」

 「はい?」




 うん、やっぱりそんな顔するんだ。でもそれは可。すごく可。


 時間まで、どう過ごそうか? 































 この場にて、ハージェスト・ラングリアがぼやいたレオン・アスターの手紙の全文を記載。

 本人の口頭説明と内容は変わらず。但し、口頭に付き、文面と同じに非ず。また、説明時に感情の波とする自己弁護に通じる口調は多少なりとも有ると思われる。












 ノイへ



 多忙に付き、連絡取れず。以降も約せず。


 待つ事を止めはしないが、もしも難しければ会った場所にて頼むよう。 通らずも待つならば、 言を優先として 自分 の名を出して交渉すると良し。



 その間は、自身の判断に任す。



 返信、無用。時至れば、迎えに行く。      



                                    アスター






  

えー、今回は趣向を変えてみましょう。

質問クエスチョンではなく、問題プロブレムです。


その1の心情に添って立ち、手紙の文面から滲み出ているとされる裏の意を自分の言葉で直訳せよ。です。














直ぐに深読み可能なあなたの脳は活発に活動している、もしくは慣れていると思われます。裏でなく、通常としてこう書くが適切と読まれる点がございましたら、もっと素敵。

普通で裏読みできないと仰る方、そのままでも… 何一つ問題ないでしょう。ご安心下さい。


とかなんとか書いて置いて良しとしよう。

 

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