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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
95/239

95 優しい易しい、甘い罠 

   

 口にする。 がぶっと。

 噛む。 もぎゅもぎゅっと。


 味わう。 むーしゃ、むーしゃ。  味わう。 もーぐもぐ。


 飲み込む。 ごっくん、だ。



 うむ、食とは実に大切である。水だけで生きていける奇特な人でない俺には、食わない選択は土台無理なんだ。食わねばならん。


 「このミートパイ、油分が多いから少なめにしとこうか」

 「えー、もっと食う」


 切れが小さ過ぎだろ!


 「他にもあるからさ、こっち食べよ」



 はい? …ナンだソレ?



 「こっちのパイね、中はxxxxxを甘辛く煮た物なんだけど」


 へ?


 「 ペ? リュ え?ちが?  チェ  レ?  チュ? …ええ?」


 「残念、全く違う。 はい、もう一度」


 …練習入りました。んで、二、三度繰り返す〜。 おのれ、舌が回らんではないか!


 


 現在も、お茶は続いています。

 不貞腐れていましたが、アレは食ってしまいました。ならば、栄養として消化するしかありません。今の俺に必要なのは高カロリー、高タンパク。脂肪ゼロは間違っても要らねぇ。


 上から更に詰め込んで、忘れようと努めております。



 セイルさんとリリーさんも居ます。

 こっちを見ながら笑顔で、ゆっくりまったり茶をしてます。もちろん、物体は食っていません。三人で何やら話すとゆーか睨むとゆーかナンかしてたが、それは直ぐに終わった。



 俺は思う。この面子で一番大変なのは、ステラさんだろう。

 ステラさん、な〜に思って見てただろ? 控えって辛くないんかな?とも思うが、本当にナチュラルに居るんだよなぁ…


 この場で言う気はないが、ご苦労であると考える。



 『大変ですよね、ご一緒しません?』


 そう言いたいと思いもする。メイドさん情報も聞いてみたい。しかし、だ。一度前例を作れば、どーなるか? 次回も期待されたり、贔屓になったりしないだろーか?


 信を築くのが大事で、その為だとしてもだ。そのやり方を間違えたら鬱陶しい事にならんかな? そんなつもりでなかったとしても、そっから舐められんのは嫌だわ。 アレだ、軒先貸して母屋を取られる状態だ!  …あれ? 例えがどっかで違うよーな?    ま、いっか。


 舐められない為には、相手にガツン!と一発見せつける事が大事だ。だが、残念な事に俺にはそんな都合の良い力はない。できない。 そうなると、気遣い辺りから上手に世渡りしていかねばならんのだが〜〜、はぁ。


 ヘレンさんはメイド道に目覚められたよーだが、前例を作った結果、それが普通になって良い場合と嫌な場合があるからなぁ。 そこら辺の見極めがだな…


 ヘレンさんやココの皆さんと仲良くしたいとは思うが… 夏を過ぎる頃、ココを去るならルールを崩すよーな事はしたくない。


 ううむ、安易にご一緒にではなく、何をどーしたら角を立てずにスマートにできるのだろうか? 


 特にステラさんはリリーさん付きの人だから、これから先も長く顔を合わせる人… ならば、より慎重な行動が求められるはずで〜〜〜え。




 そんな事を考えつつ食う。半分意地で食う。しっかり食ってる。

 食いながら、も〜〜っと考える。



 この考えを突き詰めれば、嫌でもわかる。

 俺はココでの一般常識が足りてない。ココまで来た。その間に得た知識。基本形は何処も変わらんと思うが、メイドさんとの上手な距離の計り方なんて得てないし。 

 大体、基本がそうだと決めるのも時期尚早だ。俺は、エルト・シューレと呼ばれる区切りから外へは出ていない。まぁ… 広い区切りだけどな…  それでも国内なら何処でも同じだと、思い込んだら負けじゃねぇ? それこそ思考がヌルいってんだろ?



 手の事もある。だからこそ一緒に居て、それらを教えて貰って覚えるのが得策だと思う。なのに、どーかと迷う。何でそんなに迷うのかすら、はっきりしない。



 ……ああ、違うか。 違うな。


 迷ってるってゆーか、踏ん切りついてないだけか? 他に術が無いってのに、どーしようどーしようって迷い始めてた自分。他に手が無いか、どっかでうだうだ探してる。 

 自分を一番に考えて、一緒に居る事が最良だとわかってんのに、そこに引っ掛かりを覚えてる。今直ぐにでも、こっから出て行っても良いよって気分でいる。その癖、この安全地帯に居て、世話を受けるのが当然だとも考える。


 想定をする事は大事。段取り組むのは大事。みーんな言ってる。

 言われるまでなーんもしないって、それこそアウトだろ? できない君だろ? 言われるまでしないってのはぁ 普通、遅い(無能)って言われるんだよなぁ〜? でも、情報を得て心積りをしようとする行為を鼻で笑われるとか、腹立つわ!


 色々考えるのは正しい。間違いじゃない。けど、気分が割り切れない。 ……しつこい自分が残念。



 あ、違うわ。しつこいとかじゃなくてぇええ〜〜  違う!   思考を誤摩化すな、俺。 考えろ、今、何を思った? 考えろ、今、考えて突き詰めろ!


 俺に逃げ帰る場所は無い。帰る家は無い。俺がまだ知っていた世界じゃない。 だから。 俺の最善の為に、考える事を惜しむな。今は面倒いと逃げる時じゃねぇ、俺が考えないと誰が俺の事を考えるよ? 最終、自分()を守るのは自分だろ? 口で言う、人の本心が見えるか!!







 迷う理由は、どっかでイラつくとゆーか…


 ハージェストはやる事がある。基盤がある。けど、俺には無い。碌にナンもできない。いや、その基盤を求めて友達のとこにだな。ハージェストを選んでだな… あ〜、『友達』…


 俺はできない今の状態が当たり前ですが、こう… 色々重なっちゃって、できないが増えてますが… 行動制限入ってますが…



 はぁ、何だ彼んだゆーても、こいつできる口だよな。


 魔力少ないっつーのは欠点だろーけど? ゲームで言ったら伸びない君でも、そーゆー設定のゲームキャラ普通にいるだろし? 逆に一方向でマジ強いっての多いし。

 でも、そーゆーのを微塵も感じさせないで、やる事やってる。仕事してる。欠点を言い切って、笑いもした。他人の前で、それができるって事こそが本当に強い… できる君じゃないの? 



 できるこいつと、できない俺と。

 世話してくれるのは、俺にできる事を望んでるからだろー? できんってのに。あー、それも心的負担〜。負担って思ったら、しんどい。 

 今の時点でナンかの差を感じ捲り。同い年で、どーしてそんなに差があるんでしょーね?


 俺が思い描いてたのと、違うこいつと現実と。

 ほ〜んと違う。会えたら言おうと思っていた言葉も… 言えず終い、かぁ。  あ〜 あ、軽く考え過ぎてましたねぇ。いや、軽く考えんと潰れるしー。



 ああ、まぁ、そうだね。よーするに、俺のなけなしのプライドが痛いっつってんのか。



 「どうした?」

 「え?」


 …うわあ、しまった。浸り過ぎ! あー、うだでぐるぐるぅ〜。



 「もう食べない?」

 「はい、ごちそうになりました」



 こーゆー時に、そーゆー事を考える。俺もまだまだ余裕があるとしたもんだろか? ぬーん。



 「食える事が最良だ」

 「……は い」


 セイルさん、正論です。ですが、その口で食いましたよね。物体を。 はは。  ハージェスト、変にまじまじ見るのやめれ。




 「何処か違う方向に話が行き掛けたけど… 食べれて良かったわ。 服と手袋の件をお話しましょうか」


 はい、気合いを入れ直して進みます!

 自分でも鬱陶しい思ったら、ポイが正解ですよね!? 放棄じゃなくて終了ポイ! ポイポイポイ〜〜で、ペイッ!



 「服は二ヵ所で作らせるわ」

 「え?」


 「あそこでも作らせる事にしたのだけど… 嫌な思いをさせてしまって。私も本当に嫌、ごめんね。あそこは完全に潰す気でいたけど、使える物は使い込んだ方が良いかとも思うのよ。どうしようもない弁明はするし禍根を残したくないから、私としては見せしめも含めて潰すのが一番なんだけど… 」


 「俺が止めている。情状酌量の余地も特にないんだが、他との統一を計るから即決を避けてなぁ。時間を置く事とした。その間に服を作らせてくれと、あの店の跡継ぎが願っていてな。詫びの意味では当然だ。それは良しとしたが、あの店の品だとやはり嫌かもしれんと思ってな」

 「それで別の店にも作らせる事にしたのよ。サイズはわかってるから大丈夫。手袋は、そちらの店で作らせるからね」


 「それで手袋の生地なんだけど、俺が良さそうなの選んだから」

 「えっ!」


 「革の分と、普段用にレースを交えた分を」

 「レ、レース?」


 「もちろん、スカスカじゃないよ。普段使いなら、通気性が良い方がと思ったんだ」

 「あ、  あう…」


 俺が部屋を追い出した時に決めた、とか?。え、でも店違うなら同じ布は… 似たのあるか。 あ〜〜、やっぱ俺はできない君みたいな。


 「手… の、サイズは?」

 「寝てる内に俺が計ったから」


 そうですか。いえ、ありがとうね〜。ほんとありがとうね〜、最初にそれしとけば良かったよね〜。 



 「手袋にリクエストあった?」

 「あああああ」


 指先カットを要求しといた。


 「指先を?」

 「うん、この辺から。暑いし、物が取り易いよーにぃ」


 注文が間に合うと良いなぁ。








 それから改めて、お前はどうしたいかと聞かれた。昨日、保留にした話です。された事に対して、どうしたいかその希望を述べよ、だ。


 「どう… 」


 「そうだ、あの言い分をまともに受ければ確かに理はある。己を通す理であるがなぁ、仲間であるとした者に対する理だ。そう取れば、優しい行為ではある。しかし、それは良い迷惑だ。実際、被害が出た。


 理を認めようとも、礼を失している。

 あの状態に礼を求めるのも何だがな、ああいった者達であるから理を考えない。そう考える方が愚かだろう。しかしこんな事にならん為に、この領主館で行ったんだがなあ」


 セイルさんはうっすら笑ってた。愉快そうでもなさそーですね。



 えー、そうですよね。慰謝料の請求ですよね。被害つっても、せーしんてきなモノ以外出てないしー。…あれ? あの部屋、俺が荒らしたよーな。 …にゃはあ?



 「えー… この場合、どういうのが一般的ですか?」


 質問に対して、返ってくるこの笑顔。


 「領主である俺が、館内に居る中で行われた。それは俺に対して行った行為である。安全を約した事を知ろうが知るまいが、それは関係ない。俺に対して行った。その事は一般的と呼ぶ範疇にはない。それ故に、死以外であれば特に問題とはしない」



 身分社会、本当に怖そうです。毟り取ると聞こえました…


 何だか引きました。

 全部寄越せと言えば通りそうです。


 「本当に? 誰か非難しないんですか? 遣り過ぎだって言わないんですか?」

 「誰が、誰に、何を言うのか?」


 口元、笑いました。目も笑ってます。

 声も… 力説してませんが、ふっつーうに力強いお返事でした。


 金髪蒼眼のブランド服を着こなす体格が良く足の長い自信に満ち溢れたおにーさんは、素晴らしい笑顔です。演技じゃないのがすごいですよね?



 隣と斜め前に視線を移せば、二人とも優しそうな笑顔です。


 「問題ないよ。あるとすれば、それは彼らの思慮が足りなかった事だ」

 「そうねぇ… 彼らにとっては、普通の行いであったのかもしれないわ。でもね、こちらにはわからないと踏んでやったのも事実でしょう。上手にするのは技術でも、受け取りに依っては小賢しいと映るの」


 「だからな、どうしたいか言ってみろ? 迷う必要はない。された事に対して思う望みを言えば良い」



 三人の笑顔が優しかった。

 それが妙に怖い気がした。思考と一緒に視線を飛ばせば、ステラさんと目が合った。鉄壁のメイドさんスマイルからは、なーんも読み取れません。これも怖いです。


 

 『許さない』


 された事に対して、あの時、俺はそう思った。確かに間違いなく思った! 思ったから、蹴り入れる根性が発揮されて現状打破に繋がった。うむ、繋がったから俺の心はぺしゃらずにすんだ。



 四人が見てる。

 俺の返答待ちなんだから見てるのは当然だが…  見られてるのを意識する。当然とした行為で俺がどうでるか、それを見ている気が大いにする。


 俺がどんな奴なのか、それを見極めようとしている。計る為に見ている。


 見られている。





 …嫌ですねぇ。

 そうと気付けなかったら好き勝手な事を願って、その程度の奴って、以降の方針と傾向と対策が決まるんでしょうねぇぇ。あはははっは。優しさに見せ掛けた、甘い罠にずーぶずぶ嵌まるんでしょうかねぇぇ〜〜。大丈夫、俺は罠を回避する。



 ん? 待てよ。

 …………前にもおんなじ事を思ったよーな?  ん〜〜〜?










 考えて考えて、思い出した。

 優しい優しい笑顔が運ぶその善意こそが、悪意を孕んでいると目眩した事を。








 その時を思い出す。その後の展開を思い出す。手を胸に当て、思い出に浸る。


 「楽しんで来い」


 最後にくれた言葉を思い出す。眼差しに、声音を思い出す。

 それに返した自分の言葉。












 うああああああああああああ! どれが罠だぁあああっ!!


 思考か!? 思考が罠なんか!? 自分思考が一番の深みに嵌まる罠なんかっ? 単なる考え過ぎで俺が一番疑り深い駄目駄目さんなんかあああああっ!?



 あんまりの衝撃の事実に、ぷしゅうううううううううううっ とナンかが抜けて、くらっとした。いやんなった。


 自分が自滅型だったのにも泣けてくる。

 素直。ねぇ、素直って ナニ?

 




 「どうした?」


 セイルさんの声に顔を上げ、リリーさんとハージェストを見る。

 もう正直に言いましょう、はい。



 「どうしたいのか、わかりません」

 「あ?」


 「あ〜〜、いえ。どーしたら良いのかわかりません」



 怒った心境はほんと。それと引き替える、どうしたいかが不明。どうするのが引き替えるのに適切で、どの程度が適正なのかが、さっぱり掴めない。範囲が広過ぎ。


 だから任せると説明した。丸投げに近いです。



 「待て。その場合、後での取り消しは不可能だぞ? 決を決めても、それを先に話す事はない。内容を聞いた後に不服としても、それは通さん。後からどれだけ言おうと、それを聞き入れる事はしない。曲げん。それでも『任す』で良いのか?」


 それに対して頷いた。


 わかんないからランダム〜のつもりはない。一切ない。

 自分の事だから、自分で決める。自分で決めて行う。自分で決める選択の権利。だが、わからない場合は〜〜〜 そうですよ、弁護士に頼む。わかる人に任す。


 人ですから、きっと弁護士さんにも当たり外れに向き不向きがあるでしょ〜が、俺が頼むのは弁護士ではなく裁判長な気がするが! 逆にそっちの方が相応しいってもんじゃね? 慣れた人に頼む事を選ぶのも、自由意志で選ぶ選択の権利だよね〜。

 俺の場合、頼むのに金銭は掛からないはずですしぃ。 …見られる真剣な眼差しに、俺も思う事はあるから。



 「本当にわかってるか? 不服申し立ては聞かんぞ」

 「はい、領主様が適切と決めて下さい」



 よし、俺は自分に取って最上を選択した! 間違いない!   なのに三人が、まじまじと俺を見るのはどうしてだ?



 「 …そうか、俺に任すか。  そうか」



 …なんだろう? 俺は選択を間違えたのか? ……はっ! まさか、自分で決められない軟弱者(ダメっ子)指定入ったか!?


 「あ、あの。任せるのは… 良くないとされてますか? いけない事でしたか?  お、怒ってますか?」

 「ん? いや、そんな事はない。怒っておらんが、そう見えたか?  見えたなら悪かった」



 苦笑の顔に、ホッとした。



 「しかしそうだな。それが答えであるのなら、もう一つ聞いておこう」


 

 あれ… 薮蛇しちゃったり?



 「兄さん」

 「決めるべきを聞くだけだ。それを遮るのは認めん。理解せよ。できんのなら部屋を出て行け。   茶が終われば話すとしていた」


 さらっとハージェストを黙らせた。


 「本心は聞くべきだ。だから、俺と二人の状況で話そうと思っていたんだよ。ハージェストが居ない方が話せる事もあるかと思っていたんでな」


 苦笑の顔はそのままに、雰囲気が変わってしまった… 








 「身構える事ではないぞ? 楽しい話ではないがなぁ」


 始まったのは、事件解決の進捗状況でした。

 そんで、そこのあっちとかこっちとかに関わった犯人への対処方法… ってか判決?に似た話だったが、ある程度端折られました。


 俺を誘拐しようとした警備兵は複数居ました。街の皆さんに乗り込み現場を多少は見られている訳ですよ。それをあの人達はどう収めてたのかってのを聞きたくもありましたが、俺に求められたのは俺と直接関わった人間への対処です。

 宝石店の店主であるクレマンさんと、宿屋のオルト君に対するお話です。この二人についての俺意見です。



 クレマンさんについてですが、黒い人ではなかったそうです。ので、何時から黒くなっていたのか調べてるそうです…


 俺が思い出すクレマンさんは、悪い人ではありませんでした。

 商売人で新しさを求めてマンネリを脱却しようとする、ご年配でも新進気鋭の方でした。商売以上に人を心配してくれた優しい人でした。 …でした。


 ダチが居なくて、ぼっちだと判断した。

 そこから持ってる宝石に目が眩んだ…説が、正解かは不明だが要因ではありそうだ。しかし、俺があそこで見せたのが良くなかったとか思うと微妙。全部なんて見せてない。あの場で聞くのが不適切なら、どうやって聞いたら良いんだ?




 それにしても、あの誘いの言葉に頷き、自分の心に蓋をして馬車に乗っていった場合。


 俺は知らない内に犯罪組織の一員になっていた。黒を隠す白の顔として表に立っていた。そう考えると怖い。後で気付いた所で抜けようにも抜けられず、泥沼に嵌まって、その後の人生きゃ〜〜〜〜〜っになってたかもしれん… 

 その場合、情状酌量はあるのだろうか? 逃げ出せなかったと言っても疑われないだろうか? そーゆー証明どーやってするんだ? やっぱ情報の横流し? でも結局は一員だとしか見られないよーな…


 どーしよーもない状況過ぎて怖い。第一無事で居られるのかも不明だ。


 そして、もっと怖いのが… 思い切って逃げた際に取っ捕まって奴隷として売り飛ばされた場合と、最初っから奴隷(商品)として馬車に乗ってた場合だ!!



 俺の手には奴隷印がある。


 あの話の内容は二点。雇い主の都合とクレマンさん個人の見立て。あれをよいしょっと返せば…   初めから…  奴隷直線コースではなかったのだろうか?



 お聞きする話が進むに連れ、くらあ〜っとしますねぇ。




 腕に熱を感じた。見たら、手が伸びてきてた。隣から伸びてる。


 「今、居るのは俺の隣」




 俺を見る顔に、薄く笑う。

 聞くだけで腹が立つ嫌な話でも、例え話に泣きはしないよ?   



 誘拐 → 運搬 → 牢屋 → 押印 → 疲労&心労 → 承諾 → 奴隷コース



 普通のパターンだよね。

 その後は遠くに運ばれて、正規の店頭じゃなくて裏の店に並ぶか、お立ち台に立たされるかってのもねぇ? 本当に色んな人の手を介して訳わかんない状況で遠くに行ったら、正規の店頭の片隅に居るかもね? その時、俺自身の状態がどーなってるかはわからんけど。ま〜あ、上手に話せない状態だしぃ?


 嫌ですねぇ、怖いですねぇ…

 承諾させるやり方なんてぇ、やり方一つですよねぇぇ? そういう事を減らす為の契約がですねぇええ… でも、警備機構は動いてるんですよね〜、ほんとに。





 オルト君については〜、「いらっしゃい」で迎えてくれた顔と、妹ちゃんの前に立ってた顔を思い出す。守ろうとするお兄ちゃんの顔だ。


 初犯だったよーでも、なかなかなかなか認めないですかあ。そこら辺の大人も顔負けの度胸で、知りませんと言い切ってんですかあ。



 物的証拠もなかなかに完璧であったそうですが、それでも帳尻が合わなくなってくる所が出てくるんですよねー。いやー、俺としては出てきてくれて良かったですけどね〜。話の辻褄は合ってたってゆーからさ。俺のリュックを運ぶ時はお使いで、ちゃあーんと布に包んで本体を見せない状態で運んでたですかぁ。



 その上、妹のリタちゃんもやってくれてたらしいねー。共謀はしてないらしいけどねー。


 兄の様子に何となく思う所があった。それだけ。それに対して行動はとらなかった。聞かなかった。別になんてコトない話。

 心配だけど、口にはしなかった。小さな女の子だし、怖がる気持ちはわからんでもない。黙る子は黙るだろ。あ〜、沈黙は金?

 家に対して資金援助の話があったって両親が喜んで、ギスギスした雰囲気なくなって、兄の様子におかしなのを感じた事なんか飛んでった。はいはい、そこまでは了解。

 

 そこへ舞い込んだ俺への手紙。

 レオンさんは俺の事を忘れていなかった。しかし任務の遂行と、その機密性を重んじた。だから時間差を設けた。 ……忘れ掛けと忙しさも入ってたんじゃないかと突っ込みを入れたいが、忘れずにいてくれた。出してくれてた。


 その手紙が目の前にある。しわくちゃだけど、宛名も読めるし封も切られていない。




 手紙を受け取ったのが、リタちゃん。

 彼女はどうしてか、手紙を良くないモノだと判断したらしい。何が良くないのか不明でも、彼女の言では良くないらしい。自分にとって良くないのがわかる。それって、女の直感ですかね?


 幸か不幸か、子供な彼女には手紙を破く、捨てる、燃やすに至らなかった。それはしてはならない、良くない行為だったから。お家、宿屋だしね〜。そういう意味では躾けられてますよね〜。自分の心に素直な良い子ですよね〜。


 だから、自分の人形の中に隠してた。

 それだけ。



 「さよなら、また来てね」


 これを交わさずに出て行った客宛ての手紙を、誰にも言わずに人形に持たせてた。それだけ〜。

 いや〜、彼女大きくなったら人形ごと燃やして終了したんじゃないでしょうか? 手っ取り早いのは調理場の焚き付けへポイですかね?





 これを探し出すのも大変なご苦労があったと思われます。

 小さい女の子が持つお人形。スカート履いた女の子のお人形だそうです。大の男が人形の服を脱がして探したんですよね? 本当に大変でしたでしょう。…もしやざっくり切り裂きましたかね?



 「違うの! それ、あたしの! 何にもないのぉ! 返してぇ!」

 「何もないなら待て」


 「いやあ、返してよぉ!!」

 「リタ、リタッ! どうしたの!? なんでそんなに… 」



 どういう形で気が付いて、どういう風に取り上げて調べたか? そんなん深〜く考えても意味ないでしょう。いや〜、竜騎兵の皆様、お調べありがとうございます。





 

 「先日、レオンが帰ってきてね」

 「レオン! レオン・アスターさん!?」


 「そうだよ。帰ってきたから、先に済ませる事を済ませた後で本人に確認したんだ。何時、どんな状況から始まって、誰が立ち会って、どこの場所でそれを行ったか。誰が何を言った結果に、どんな風になってそれが終わったのか。それらはどの程度の時間で終わり、その後はどう対処したのかとかね。リオネルに会った時、立ち会ったのは二人だったろ?」


 「うん、もう一人居た」

 「そっちにも齟齬がないか、聞き合わせ(尋問)したんだ。聞く場所がちょうど良かった所為か、二人の聞き合わせは早く済んだよ」


 「…? 聞く場所が良かった?  はい?」

 「それで、リオネルがごめん。でも、やっぱり俺がごめん。この手紙は、出したレオンに探させたんだ。後日、引き合わすね」


 「え? レイドリックさんの方じゃなくて、レオンさんだったんだ?  そっかぁ… ありがとう言わないと」

 「…ありがとうは微妙に合ってない気もするけどね」



 しわくちゃの手紙を手に取って、じーーっと宛名を見てれば、じこじこじこじこ俺の気分が上がってった。放置でなかったと思うだけで気が楽になる。





 「それについてはだな、俺もレオン・アスター本人から報告を受けて考えた。だが、取った行動に不手際は無い。優先すべきは任務だ。その最中に並行して行わねばならない、行うべきと思う事があれば、支障を来さぬ程度に臨機応変に動けとしている。守るべき、外さぬ律もあるんだがな。 アスターの行動は、それに外れてはいない」



 セイルジウスさんの顔は静かでも、口調は抑揚を帯びて語り掛けてくる。最後の言葉は断言でも、キツくない。切り落とさない。


 「この行動に、言いたい事があれば聞こう」

 

 この声は優しい。



 思う事はありますが、仕事してたんですよね〜っと思うと薄らいでいく。される仕事は下手すると死ぬ仕事ですよね? 皆さん、飾りじゃない刃物持ってますもんね。相手方も持ってきますもんね。


 俺は怖いです。意識を残して急激に動かなくなって冷めていく体の感覚。 ま、さっさとオチタけど。



 「いえ、思いつかないから良いです」



 「…そうか、ではアスターの件は良し(放免)とする。この二人への意向はどうだ?」



 それについてはガチで考える。じこ〜〜〜〜〜〜っと考えた。それこそ、これは日を置くべきじゃなかろうか?と考える。しかしだな、考えてナンか変わるんか?とも思う。


 した事実。された事実。それに上積みしてくのはぁ〜思惑だろ? 人の思惑だろ? そーじゃなかったら状況?


 それ聞いて、ちょーっとかわいそーなお涙頂戴の話なら納得して許す? まーさーかぁああああ〜〜。何度考えても、まーさかぁああ。


 「可哀想だね、それってヒドいね。ほんとに可哀想。 でもだから?」


 相手が子供だろーとナンだろーと、そーゆーに決まってんじゃん! 大人相手なら、もっと普通に言うに決まってんじゃん!! だぁれが、「それでも許しますよ、納得して下がりますよ」ってゆーんだよ!?

 ソレしてた奴らが逆にされたら、可哀想にって許して下がると思うぅ? 俺、思えないんだけどぉ? それとも相手見て計算弾いて態度変えるってぇ感じぃ?


 本気で許してんのなら、それこそできた人だね? 善意の塊だぁね? もしくは、自分がされてないからでしょー? 絶対そーだ。 

 




 ん〜  どういう心境だったら、直ぐに許せるんだ?

 

 他の人が許したから、周りの雰囲気に流された。

 そんな感じで許して、本当は心が納得していなかったら。どっちにしても辛いのは自分だけだよな。言った事を取り消せないなら、むしろ二重苦じゃん。あー、やだやだ。




 考える。


 自分の事だけを考える。他の事は排除する。


 暗い地下牢。そこであった事。さっき聞いた話に、鎖で繋がれた彼と彼女。考えられる末路。そこにあったかもしれない、自分の未来。



 考える。

 見えていても、視界にヒト(他人)は要らない。



 考える。

 あったかもしれない望まない未来に、そこへ行けと叩き落した二人の事を考える。




 胸の内で滲み始めたモノが明確になる前に、腕に熱が生まれた。

 さっきと同じ場所。じんわりとした熱に意識が引かれる。引かれて落ちた。だから滲んだモノは霧散した。


 置かれた熱源は手。指先から手の甲、手から腕。腕から肩へ上げて、肩を過ぎて顔へと移行すれば、あるのは蒼い目。




 「居る」


 声が耳に残る。

 聞いた単語が、少し前の同じ言葉を釣り上げる。


 視線を下ろして目を閉じて。 息を吐く、細く長く。 椅子に凭れて、目を開き、もう一度息を吸って吐く。蒼の目を見て腕を上げる。


 動かすから、ちょいのけて。



 両手を上げて下向いて〜 自分の顔を〜〜〜 むにっとする。むにむにしたら、最後に顔を叩いて引き締める。


 ペフッ

 

 …イマイチな音だが良いだろう。強く叩く気ないし。




 「二人につきましても、お任せします」


 「…任せる事を良しとするか?」

 「本当にそれで良くて? その決定が反映されてよ? 任せる事は、良くも悪くもあなたの気持ちを相反させるかもしれないわ」


 セイルさんは確認する顔をだった。リリーさんは、どこか心配顔。言葉を考えれば俺への心配ですよね? 優しいのは、やっぱり女の人だからかな? あ、それは失礼か。



 「お任せします。俺は関わりになりません。関わろうと思いません。関わる価値を見出せません」



 だって、俺は優しくないから。

 お任せします、お願いします〜で終わっとくかと。吟味した上でポイだから問題ねーの。常識内判決でるだろーし。


 それよりさ、思うんだ。俺は馬車に乗らなかった。

 承諾して乗っていった場合と、そうでなかった場合。どっちを選んでも最後は奴隷コースだったかもしれない。それでも、俺は拒否をした。あの場で俺が選んだのは『行かない』だった。


 思った事、拒否した理由。覚えてる。


 俺の選択。 



 ふ、ふはははは!  あ〜〜〜〜っははははははははあっ!! いやもうイケてる!!   ねぇリタちゃん、女の直感てぇすごいね? でも、俺の直感も捨てたもんじゃないよねぇ。



 だからさ、俺は笑って言える訳。

 領主館の一室に座って、俺を静かに見てる領主様に対して笑って言えるわけ。選択に対する結果は真逆だったけど、俺は俺の選択を誤ってない。自分を守る選択を間違えてはいない。いなかった。


 それだけで、笑える。



 「ええとですね。許す、許さないで言ったら決まってます。でもそれ、ずーーーーーーーっと引っ張る気ないですし、そんな事に割く時間はありません。もったいなくて上げません。覚える事とか、それなりにあるし。考えて要らないんだから要りません。 …お、お仕事を増やしまして、ごめんなさい」



 リタちゃんも、オルト君も、クレマンさんも。他の皆さんの事も今直ぐ忘れるなんてしないよ? それは難しい、関係ない人だっているんだし。


 でもまぁバイバイ。または無いよ。 なぁんにもノってない、やっすい謝罪なんて要らね。


 それだけだよ。




 隣の蒼い目に薄く笑う。腹の中でまだ笑う。


 あそこを全回避できてたら、全部が変わってたね。奴隷コースには行かなくても、お前に会おうとは思わない。なら、こうやって隣で笑う事もないね。何もかも全てが変わっていただろうに、ね。

 聞いて終わって見切れた最低の罠が最善?  最良に導く何とやら?  はん、俺の手は罠に掛かったまんまだっての。   痛い。     …痛い。 痛くて、さいてぇー。




 けどまぁ皆さんには笑っとく。


 お茶は、これで終わりかなあ? あー、お腹いっぱいで昼は要らないかも〜。

 





















 自分クエスト3 『領主様にお願い』 (依頼発注クエスト1)


 依頼内容 自分がされた事に対する適切な審判ジャッジメント。三件。

 審判方法 領主任せ。

 支払報酬 特例につき、無報酬を予定。


 備考    茶会の席での聞き合わせ、それは非公式である。故に、セイルジウス・ラングリアの内面に温度差は生じない。しかし、『領主様』指定した事で事態を一変させた。指定は、審判に臨むセイルジウスを見極めると言ったに等しい。






   

 

クエスト3からのファクトクエスチョンです。その2が領主様と呼んだ本心はどれでしょう?



一、 お金を掛けないのだから、へこって持ち上げた。

二、 お願いするのだから、正式にお呼びせねばなるまい。

三、 そっちで呼ぶ方が断然カッコいい!

四、 向かい合い、話すその姿勢に心境の変化が訪れた。我が身を振り返る。先に安易に回避してしまった『領主』の単語への発声練習。

五、 流れに添っただけなので他意はない。全く深く考えてない。

六、 理解して抜け目なく領主指定した。








はい、お一つご自由にお選び下さい。


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