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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
88/239

88 染まりて纏うは 


 少し言い淀んだら、話題は変わる。うん、こいつ空気読めるわ。


 「靴は手配できたけど、他に必要な物は? 着替えの服はどれだけ持ってる?」

 「替えの服は〜」


 それについては答えられる。

 なんだ、リュック持って来て良かったんじゃねーの。


 今更でもリュックの中は極力見せないよーにすれば、体勢微妙でアレだが、こいつは覗きに来ない。…ほんと、空気読む奴は良いねぇ。



 しかし、自分でも何持ってるか忘れてる。確認にベッドの上に並べようとした時、ドアがノックされた。



 「失礼を。よろしいでしょうか?」

 「構わんぞ」


 ハージェストの返事に、入って来たのは再びのロイズさんでした。



 「ナイトレイ様の騎兵から、先ほどこちらが届きました。直接渡せず、申し訳ないとのご伝言です。お確かめ下さい」



 ロイズさんの手には、俺の布製のリュックがあった。うわお!


 「俺の… ちゃんとあったんですね!」

 「宿の方に残された品の総てがあると良いのですが… これ以上は宿からは発見・判別できなかったとの事です」




 その言葉に頷くが、出て来た事が嬉しかった。 残っていたか、俺の財産…!


 中味を取り出し、ベッドに並べる。


 服、服、タオル、その他。基本は布物。そして、菓子が幾つか出て来た。…季節的にまだイケそうか? 食っても大丈夫だろうか?


 完全包装されていない菓子の包みを、そっと開いた。


 ペリッ…



 「お腹を下すと大変です、こちらは処分しましょう」



 ロイズさんに、あっさり取り上げられた。

 『あー! 俺のお菓子ー!』とも思ったが、妥当だろな。処分頼んます〜。うーん、あの時惜しまず、全部食っちまえば良かったか〜。



 それと、教科書が出て来た。机の上に置いてたが… 良かった!



 「これは教書?」

 「そ、買ったんだ。話せるけど、字は読めないから勉強しようと思って」



 ペララララッと捲れば。

 はい、ありましたよ! 俺へのお手紙が!!



 「これ、俺が初めて貰った手紙」

 「初めて?」


 「住所不定で、 すから」

 「…そうだね」



 不定の後ろに続く、むしょくとうめいみたいな言葉はご〜っくん飲んどいた。出してくれる相手もいない、の言葉も飲んどいた。うーむ… 落ち着いたら、ケリーさん辺りに手紙出すかぁ?



 「見る?」

 「読んでも?」


 「いいよ」




 「間違いない。奴の字だ… 」



 読み終えたハージェストは、目元を覆ってロイズさんに回した。手紙に目を通したロイズさんは、優し気な眼差しを維持したまま簡潔に言った。



 「わかり易い文ですね。ですが何時が不明で、さぞや不安だったでしょう」



 慰めてくれたよ。優しいね〜。一歩ズレたら、どっちにでも転がれそうな口調だけどな。ま、俺はちゃんと待ってたんだアピールしたから良しとするか。


 手紙を再び教科書に挟んだ。



 その後、ロイズさんは食器を持って出て行った。片付けまでして下さる有能な方でいらっしゃいますなぁ。すんません。


 ざっと見た確認に、筆記用具が無い。シャツも足りん気がするが… 目くじら立てる程でもないからな。伝えたんで、今度はそれを伯爵様にお伝えに行かれるのだ。


 ご苦労様でございます。ん? ご足労お掛けします、の方が良いのか?  あ? ご苦労じゃ駄目か? お疲れ様か? あー?


 


 貰ったリュックと自分で買ったリュック。

 二つが戻ってきた。後はポーチと軍資金だ。しかし、預けた軍資金は難しいかもな。石外して、溶かしちまえば証拠は残らないし、わからない。あそこ、工房だったしなぁ… 何より俺が… どんなんって全部の説明できないのが…  一々、細部まで覚えてねーよ。あーあ。


 いや、気を取り直せ。服の確認から始めるか。そっから足りない必需品、考えてだ。



 とりあえず、持ってる服を全部並べてみた。




 

 「…これはわかる。今朝、着てたのと同じ感じだ」

 「当たり。此処に来る前に貰ってきた服でさ。あ〜、くれたのは女の人。とりあえず、おねえさんって呼んでた。此処に適した服を貰ったんだけど、おかしくないよな?」


 「おかしくないよ。似合ってたし、良い服だ。 …だけどさ、これらは違うよね? どう見ても違うよね? こういうのが、好きだとも思えないんだけど?」

 「え?」


 手に取って、一枚の服を広げた。

 それは古着屋で、おまけに貰った服だった。



 うむ、それはどっからどー見ても冴えない服だ。古着屋でさえ売れ残る、ダサい服だ。断じて俺のセンスではない。



 並べた服は、並べただけで直ぐわかる。首元と肩幅だけでも、完璧大きさが違う。…頂けると言う事は、有り難い事です。


 「必要で買い足すのはわかる。でも、体格に合ってない、着回し済みの縒れた服がなんでこんなにあるのかなぁぁあ?」

 


 口調が不機嫌なのは、どういうこったい?



 眉間に、皺が寄っていた。



 「おまけと頂き物だ。どうかしたのか?」

 「おまけ?」



 リュックを盗まれた後の話を少しした。


 「それでだ、おまけで一枚恵んで貰った。そっちは可哀想にと、警備兵の皆さんがくれた。そうそう、ちょっとぶっ倒れた時あってさ。その時も警備兵さんに、お世話になったんだ。荷馬車に乗っけてくれて宿まで連れてってくれたぞ。ここの警備兵さんは、優しくて良い人が多くて嬉しかったよ。

 うん、伯爵様の警備兵って良いね。あえ? それとも男爵様の教え? 元からの規律?  …どっちでもいーけど助かったから」



 そう言ったら、絶妙に複雑な顔をした。なんでだ? 誉めたぞ、俺は。



 「そうか、ああ、それはイイ事だ。良かった。ぶっ倒れた話も後で詳しくね。 ………しかしだ、使い済みの野郎の服をずっと着ていたと?」



 最後、口ん中でぶつぶつ言ってたが〜〜 あれか? 古着が問題か? 古着なんて洗濯すれば問題ないぞ? まさか、潔癖性なのか?  …いや、違うか? 貴族だしなぁ。 どー考えても貧乏貴族じゃないしなぁ。ネックレスも付けてくれたまんま使用してるし、おにーさんの伯爵様は合ってないなら買えば良いって言う人だしなー。おねーさんの方も同じだしよ。



 そーいう所は、やっぱ庶民とは違うか?

 向こうのリアルでも、セレブが古着屋行って服買うなんて有り得ない。セレブは下に下ろすのが基本の人達だろ〜?



 掴んだ服をまーだ睨んでるハージェストを眺めながら、この世界のセレブはどんなんだと考えるが、普通にもうリッチな感じしか思い浮かばない。

 俺の記憶にある映像の中のシャンデリアと部屋の中のシャンデリア、そう大差ない。あるとすれば、様式美になるんか?




 「あのさ、肩口が落ちそうなこの服を、どうやって着てた訳?」

 「それ? 寝間着」


 

 ……ハージェスト、さすがにそれ以外に用途がねぇよ。だからな、どんだけダサくてもだな。俺の財産握り締めんなよ、皺が酷くなるだろが。

 それにだ、それ着て寝てたから、あのワンピの寝間着でもへーきだったんだぜ? 何が功を奏するか、わからんもんだよな〜。スカスカ加減が微妙ではあるけどさー、あれはあれで慣れると結構楽だったりするわ。




 「合ってる寝間着の方が良いからさ。贈るから、そっちにしよ。こっち処分しよ?」

 「は?」



 …寝間着一つに真剣になんなよ、お前。



 「あー、まぁイマイチな服ではあるけどさ。まだ、着れるし。寝間着だから、人に見られる事もあんま無いし。ぶかさ加減も楽だし、くれなくていーよ。金がもったいないって」


 「…大きめのが楽で良いんなら、俺のがあるから。俺の上げるから、俺の着て。 こ・の・誰が着てたかもわからない、センスの悪い服は美的感覚ズレるから止めよう? 俺はズレて欲しくない。それに、着れる事で処分が惜しいと思うなら、他の体格の合ってる欲しい者に譲れば良いんだよ。俺は欲しくないけど、無償なら使う者はいるよ。きっと。 そうでなくても、最終は雑巾だよ。雑巾が一番早いよ!」



 ……畳み掛ける様に言いやがる。そりゃ俺も無償だから使ってますけどぉ?


 俺のセンスが疑われると言わない所が優しさなのか? …そこにはお前のセンスも含まれるのか? あー、上の立場ってゆーか、人目配慮要るんかやっぱり? 警備兵の兄ちゃんが『あれ、俺のお下がり』とか言ってたら立場ないってか?



 うだうだ話した結果、おねえさんから頂いて来た服以外はドナドナする。


 俺もようやく気がついた。領主館に居れば、洗濯はメイドさんずがしてくれる。自分でしなくていいらしい。つまり、洗ってる人に腹の中で、俺が「ダサい」と笑われるのだと…!


 ドナドナに、それこそ古着屋に売ってリサイクルと思うが好意で頂いた物であるからして〜〜〜〜〜 メイド長のおばちゃんに話せば、直ぐに貰われるだろうってさ。


 なるほど。上のおばちゃんに話せば、そりゃ流れそーだな。



 ドナドナは善行だが、替えを入手するまではしない。それまで寝間着は備品を借りる。うむ、問題は解決された。



 「たくさんは不要だけど、服もあと数着作ろう。上着もね」


 その言葉に頷いた。

 せんせーのとこには靴もそうだが、これまた雑巾な俺の服もあった。あーんなとこに居たんだから、汚れて当然だった。地面這ったり、転けたり、べったりしてたからなー。


 地下の湿気った土は、沁み込んで抜けない。


 …あいつらも、同じ状態やってみろっての。 




 それから、メイド長のおばちゃんがやって来た。

 お掃除、終わりましたよ〜ってな、朗らかなお顔でした。ベッドの上の服を片付け終わってなかったんで、見られました。別に悪い訳でもないけどさ。


 「まぁまぁ、お手伝い致しましょう」


 綺麗にちゃっちゃっちゃと畳んでくれた。手早さ、綺麗さ、敵いません。そして、ハージェストはドナドナについて説明してた。



 「それでこの様に、大きめの服が多いのですか。それでしたら、体に合った服がようございます。誰かに縫わせても良いのですが… やはり、仕立て屋を呼びましょう。生地も選べるよう構えよと申し付けます。ですが今からでは、本日中には難しいかもしれません」

 「今日は俺も無理だ。連絡を入れた時に、明日か明後日か、何時来れるか確認しておいてくれ。選ぶ際には、姉にも見て貰う予定だからな」


 「姫様もご同席ですか?」

 「呼ばんと後から苦情が出るぞ?」


 「畏まりました。姫様の方にも後ほど、お話をさせていただきます」

 「俺からも言っておくが、もし、会えずに連絡が滞れば困るから頼むな」


 「はい、お任せ下さい」



 あの〜、俺の服だから俺の意見で十分だと思いますけどぉ?



 しかし、和やかに進む会話に付け入る隙はなかった。ので、もう流す。だが、任せ切ると恐ろしい気がする。当日、意見はしっかり言おう。


 畳んだ服をリュックに詰め直せば、stopが入った。


 「こちらの合わない服は、そのままにして置いてくださいませ」

 「え? いや、あの、まだ服できてないし」


 「ございます服だけでも大丈夫です。仕立ては直ぐに上がりましょう。どうしても間に合わなければ、既成もございます。ご心配には及びません」

 「そうだよ、他人の服はやめよう。ね? そうしよ。俺の服もあるし」


 

 二人に言われて、反論の余地が切られた。あっという間にドナドナになってた。『俺の財産が〜』と頭の中で嘆いてみたが、お恵み服に言い続けては見苦しいかと流す事にした。


 意志薄弱では無いはずなんだが…  まぁまぁまぁまぁ、こんくらいの事なら良いんかな?  ふふふふ。当日は、ちゃんと言うんだ。変な服の作成になりそーなら拒否るんだ、俺。




 「部屋に戻ろうか」

 

 ハージェストの言葉で部屋に戻る。

 先に大事なリュックの口を締め、次に布のリュックに服を詰めて口を締める。持てば、もう一つは既にハージェストの手にあった。


 おばちゃんの見送りを受けながら、廊下を戻るが… 一応言ってみた。


 「ところでさ、さっきの部屋でも俺には十分だと思うんだよ」

 「え? あっちの部屋の方が良い?」


 「良いって言うか… 十分過ぎる気がしますが?」

 「えー… あの部屋のベッドは小さいよ?」


 「へ?」

 「一緒に寝るなら大きい方が良いよ」



 その言葉に停止した。


 「どうした?」

 「やっぱ一緒に寝てた?」


 「うん、一緒に寝てる。嫌? 俺としては午前中も、ふらっとして倒れたか…  いや、倒れてない。ごめん。 えー、寝ちゃったろ? 夜中に同じ様になった時、一人だと心配なんだよね。人を呼ぼうにも呼べなくて、下手すると朝までその状態とか有り得そうで本気で恐ろしくてさぁ… そんな心配するなら一緒に寝た方が心痛なくて、すっごく楽。 だから、一緒に寝よ、ね?」

 「は、はは」



 そんな事は絶対に無いと自分でも言い切れない点を突くこいつが… キライだ。くそぉ…


 促されて歩みを再開した。もちろん、仮定の話は続いた。



 要するにナンだ。

 あそこのベッドは大きいから二人で寝ても大丈夫。どうしてもベッドを別けるなら、まず今のあのベッドの処分が必要で、当然数人掛かりで運び出し。大仕事。ベッドの搬入先の部屋も決めないと駄目で、置くとこ決まらんと本当に処分。それで新規ベッドも購入となる。良い部屋だから、部屋と釣り合いの取れるベッドでなくては駄目。それが二つ揃いでないと、それも駄目。


 時間と手間と金が要る。

 その金、まじでどっから出るんだよ?


 

 「あー、此処は兄さんの領だけど、申請通るかな? 無理なら、俺の金(ポケットマネー)から出すよ」


 その返事にボケッとした。


 「此処、住んでたっけ? 住んでないよな?」 

 「住んでないよ。兄さんの領に仕事で来ただけだから、ずっとは居ない。そのつもりで来てない」



 その返事が脳を刺激する。


 こいつと、さよならするパターンと一緒にいるパターン。どちらを選んでも、俺はこの領主館に住み続けはしない。俺は…  俺は素晴らしい無駄金を使わせようとしている。



 「今からの作成だと、どうしても時間が掛かる。物があると良いんだけどな」


 俺の脳みそでも直ぐに弾き出す事を、こいつが気付かないとは思えない。しかし、それを全く気にしてない。非常に拙い気がする。



 「あ、のさ。それ頼んだら… 値段って、どんくらいになると思う?」

 「値段? あ〜、どうだろね。値段で買う・買わないじゃなくて、物を見てから決めるし。そうだね… あの部屋用だしな。これ以下にはならないと思うけどね?」



 かる〜く笑って、指で示した数に青褪めた。

 桁が… 桁が違うと思う。待て、もう一つ上とか言うなよ!?


 動くのはリアル金。

 恐ろしい、俺は真剣に庶民で生きてきた。どーせ無駄金使わせるなら、もっと有意義なモンで!



 「二人部屋ってない?」

 「あの部屋が、客間の中で一番良い部屋なんだよ」



 あっけらかんと笑って言った。ハージェストの中で、あの部屋からの移動はないらしい。




 ペチペチペチペチ。 ペッチーン。


 胸算用を弾いて、出した結果に全てを流す。 流す、流す、流す。 水洗トイレの水流の様に呑まれて全部流れてしまえと、自分意見を押し流した。



 「…あのベッドでいーや。違う、あのベッドが落ち着きます」

 「ん? 替えなくていいの?」



 「ん、問題ない」

 「じゃあ、あれで継続ね」


 「了解」





 カチャ。


 部屋に戻ったら、何となくホッとした。

 …この部屋に馴染み始めてる自分が怖い。何より、あのベッドに慣らされてる自分が怖い! あ〜、地獄から天国へのランク上げが急激過ぎたからに違いない。短時間でも慣れってすごいね。


 自分を誤摩化すって、簡単。




 「さてと。 あ〜、疲れてはいない?」

 「いや、別に」


 「…じゃあ、肝心なその手の事についてなんだけどね」


 その言葉で始まった話に、意識が切り替わる。



 「どれだけ自制が効く者でもね。初めて会う者の態度としては、あの二人の態度が普通なんだよ。驚くって言うか、確認に絶対見るって言うか。確認しない奴の方ができない訳だから。

 職人にもメイド長にも伝えてはいなかったんだ。外と内。立場が違っても、ある意味同じ二人だ。そんな二人でも、どうしてもああなる。逆を言えば、今後の付き合いを計るなら見ない方がおかしい。

 まぁ、無表情でいられるよりは、取り繕う程度の方がまだ可愛気があると思う。ごめんね、嫌な思いさせて。けど、どちらも言い触らす事はないよ。もしあれで言い触らす程度の頭なら、それなりの対処するから」


 「………顔、出したつもりないけど。バレる?」

 

 「ん〜、気持ち出てるかな?程度に俺には見えたよ。バレるの言葉に該当するかは微妙」

 「うえー… 」



 リュックを置いて、ベッドの上にドスンと座る。ばったり後ろに倒れたら、体が弾んで浮かんで良い感じ。しかし、バレてたのか〜と思うとベッドに引っ付いてたい。


 隣にへこみを感じれば、座ってた。そして包帯してる手を取った。



 「薄まってるけど、まだ活きてる」


 「は? 薄まってんのかっ!?」

 「え? そっか、言ってなかったか。薄まってたから、あの二人も見極めるのに時間掛かって… あー。 『わからない』が壁だなぁ」



 起きて、苦笑の顔に「早く言えー」と急かして聞いたが。



 「嘘じゃないよ。兄さんが現場に居合わせて見てた。薄れていく過程を一部始終観察したってさ」


 わぁ、動物実験っぽい言い方ね〜?

 


 「だから、俺にくれた犬であり、生かされた犬である事は不動だと話してたよ。アーティスは間違えないってね」



 俺にそんな力あるんかな? …お前と『契約』してた所為なら終わりじゃね?



 「それで、俺は思うんだ。『わからない』事が主原因なんだ。それで全部が潰れたんだ。でも、わからない事が基本だったんだ。


 ………同じ轍は、二度ではなく絶対に踏まない!! 踏んでたまるか!


 だから、わかるようにしたい。しよう。それが一番得策だと思うんだ! その過程で… その、俺の在り方も見て欲しいです。それでできれば俺と一緒に居て欲しくて、増量させる夢も捨てきれないです」



 最後はどっか照れが入ったよーな顔で言った。



 …馬鹿が付くかは不明でも、正直なんだよな。こいつ。

 女だったら増やすことに拘らなかったかも、なーんて聞きようと揚げ足取りで不利になる事もマジで言っちゃうしさー。 …俺の方がヒネくれてんのかな?  はぁ。



 「わからないのをどうやって?」

 「魔力に染まろう」


 「待て。  …俺、魔力アウトだろ?」



 ………い〜い笑顔が胡散臭く見えるのは、どーしてだ? ……胡散臭いでおかしけりゃー、適当なのは何て言う。やっぱ、俺の方がアウトでダメっぽい?












 「じゃあ、行って来る。事が済み次第帰って来て話すけど、兄への報告が先になる。夕食は一緒に取れないかも。遅いと思ったら、休んでいて。一人での食事は味気ないだろうけど、うー、言葉悪いけどさ。もう少し、この部屋で我慢してくれる?」


 「うぇ? だからな、そこまで気にする必要ないぞ? 俺だって自分の状態は把握してる。薄くても、だろ?」

 「……ああ、できる奴が力技で行使すれば可能だ」


 「なら、部屋から出ないよ。俺だって我が身が可愛い。だーれが奴隷になりたいっての。おにーさんが切ってくれるって言っても、そんな状況にならないのが一番」

 「…理解が良過ぎて助かるよ」


 「筆記用具くれたし、教科書あるし。読み上げもしてくれたから、へーき。書き取りしてるから、暇だと嘆く時間はない」

 「あは。根詰め過ぎないで、適度に休みを挟んで」

 「おう。 …そっち、頼むからさ」


 「任せろ」



 パタン。




 廊下のドアまで行こうか言ったけど、ここで良いっつーから部屋から出ずに見送り完了。さて、字の練習すっか。





 テーブルに戻り、椅子に座る。

 勉強机にしては立派過ぎだが、広いのは有り難い。机の役目を果たして貰おう。


 「う?」


 テーブルに手を置いたら、感触があった。手を左右に動かす。


 …………ちょっとだけ付いちゃった傷は見ない。俺が作成した傷は見ない。見ない、見ない。問題ないコール貰ってるから見て見ないけど、すいませんっ!! これは見て見ぬ振りじゃないから、オッケェェー!





 借りたペンに貰った紙。広げた教科書。

 それらを前にして、始める前にさっきの話が思い出される。握ったペンを下ろして考える。


 自分の心の整理にも要点を箇条書きしたいが、此処の文字はまだ書けない。しかし、此処に馴染むと決めた。向こうのモノは持ち込みたくない。


 「うーむ…」


 どうしよーう?





 『此処の世界の』で良いのか不明だが、奴隷制度にはどっかで救済措置がある。運が悪いと、それからも零れ落ちるのが現実。…そっから俺は落ちてたな。落ち切る前に自力脱出で、救助になってないよーな救助も入ったけどさ。いや待て、もしかしたらあそこ出されてから救済入るのか? …う〜わ、確率低そ〜。



 奴隷印の鏝を作成した者が見つかった。んで、本日領主館に移送されてくる。ロイズさんが耳打ちしたのは、その到着予定時刻。


 その時間が少し過ぎた所で、ハージェストは調べに出て行った。



 取り調べで何かわかって解決すりゃいいが、解決できんかった場合。この場合どうするか。それの打開策に提案されたのが、魔力に染まろう。


 アレな言い方だ。



 俺に魔力が無い事が、奴隷印を際立たせてもいるらしい。なら、目立たない様にする。

 魔力で消すのが基本だが、それだけで完全には消えないそうです。残念賞。打ち消しだけで直ぐ消えるなら誰も悩まない。奴隷印は犯罪印を兼ねもするってゆーんだから、簡単じゃない。


 そういやケリーさんも、詳しい事は店に問い合わせろって言ってたなー。…あれは犯罪歴の確認か?


 ……向こうの昔のリアルでも、犯罪者には一目で判別できる様、刺青彫ってた事実がある。アートでもない、一生消せない罪の印。やーだね〜、そっからは落ちるしかないってか? まー、生き難いだろね。隠しても、消えんレッテル体に持つんだ。冤罪でなけりゃ、自業自縛。




 ハージェストが言うには、俺の魔力アウトはアウトラインがどこからどこまでか不明状態。


 魔力水飲んで死に掛けた。

 あの、えー、あ〜…  名前聞いたけど、それも流したいあの女の人が俺に掛けただろう術は、その気になって出た以上掛かってる。一度帰ろうとした時点で終わってる。けど、本当に術が弱かったからイケたのか不明だ。

 しかし猫洗い後、俺は術を受けていた。温風に、い〜い気分で乾かされてた。あの時は気持ちよ〜く床べったりして半分寝てた。安心しきってた。



 がちがち説明してくるのに、ふんふん言って聞いてた。

 耐性がついた。または、ハージェストの魔力と相性が良いに通じる話。一回は契約してた仲だから、悪くはないだろ。


 だから、大丈夫っぽいハージェストの魔力を取り込んで、印を目立たなくさせよーってんだけど。それプラス、俺が猫から人に戻った時、唐突過ぎてわからなかった。力があるけど、判断が付かない。それは皆にわからないから。じゃあ、わからせるしかない。


 ハージェストの魔力を貰って纏う事は、質が違う俺の力も多少判別できる様になるんじゃないかの希望的実験が含まれる。成功すれば、一石二鳥。



 高価な魔力水でアウトだった以上、高価な魔石は同じくアウト。自己調整できん濃度問題なんだよな。安価な魔力水だと多少は安全かもしれんが効果不明で何時まで掛かるかも不明、安価な魔石は安価だからご臨終になったら次の石。だけど、魔石だって一つの石を割らない限り全く同じ物はない。次から次へ替えるのは良い事じゃない。


 人に助けて貰うのが一番確実。


 そーなると助けて貰うとは言え、何人もの人の魔力に染まって力を纏うっつーたら… どうなんでしょうね? それでイケて、『複数魔力を自分統括!』 『てめぇの力でタコ殴り!』とか言ってできたら、そりゃカッコイーとは思うけどね?


 けどねぇ… 複数にAIDSを連想した俺もどーかしてるが、副作用出たら誰が治してくれんの?  嫌ですねぇ、怖いですねぇ。


 聞けば、人の魔力には違いがある。魔力の質が違う。能力の違いがあって、スキルに違いがあるならそーだろな。


 力の系統かと思ったら、違うってさ。

 同じ術式を使うなら、相性は悪くない。けど、本人の質同士が全く一緒とは限らない。合う確立が高いのは家族。


 質が力の系統の決定にならんのなら、魔力質は血液型だと俺は思う。訂正するなら魔力型でいーんかな? しかし、魔力型っつたら、力の系統連想すんのはゲームの所為? あはっはっはっは〜い。



 だけどさぁ… 一人の人間が、ずーーーっと面倒みるってしんどい事だよ。普通なら家族。家族でもしんどい時はしんどい。介護疲れから殺人事件へと発展する事もあるんだしさぁ…


 

 俺には誰も居ない。でも、ハージェストが居た。


 あいつの方が、welcomeで手を広げてる。そんでもって、もしも何かあったり、出掛けて俺は留守番だった場合でも、今ならおにーさんとおねーさんが居る。

 これまた二人ともずっと此処に居る訳じゃないが、この夏は居る。おねーさんはシューレは初めてで、やって来た目的は気晴らしの遊び。必要な時にはお願いして、少し時間を貰うと言った。


 俺としてもお願いして時間取るなら、お礼を兼ねて、お土産出そうか思う。…宿泊費としても、やっぱりあるんだから出すべきだよな。




 せんせーの進言では、通常のやり方だと逆にもっと酷くなる危険性が高い。体もへたってるから慎重に慎重を期せよって話から、やり方もスローペース。



 まずは手袋を嵌める。次は手袋の上〜な感じで段階踏んで徐々に上げるそーだ。


 手袋は、魔力水に晒した魔布から手袋を作る、じゃなくてだ。普通の手袋に、ハージェストの魔力を浸透させたのを装着する。


 簡単にできるんか聞いたら、普通は大変で難しい。しない。物への力の付与は魔力水等で下地を整えてから術式を展開(化粧)するのが基本だそーだ。

 術式を展開して方向性付けした物の場合、隠せるが俺への魔力浸透はないから染まらない。浸透漏れしたら、それ不良品。


 しかし、ハージェストは純化の力とやらをマスターしてるから、作成した事はないが絶対作ってみせると言い切った。


 「突き詰めた自分を誉めようと思う!」



 あれは、やけに実感籠もってた。小躍りしそうな感じだった。踊らなかったけど。


 手袋で奴隷印は隠れ、活きてる状態も隠れる。ハージェストの魔力なら、体への負担も軽いはず。その上で、装着時間も制限する。少しずつ、時間を伸ばす。おかしいと思えば即外す。


 本当に時間を掛けるやり方だから、一夏掛けても安定するか不明。それにこの方法は『治る』じゃない。でも、何にもしないよりは良い。俺自身、腐らない。鬱鬱鬱々せずに済む。






 「手袋してて、奴隷契約のナンかに変わったりしない?」

 「約す行為には意志がいる。してるだけで契約に至れる方が不思議」


 「でもさ、魔力の手袋だろ? 悪用ってか… ほら、他の奴が契約の足しに使用する事とかない?」

 「自己転用? 確かに作るのは、魔力を帯びた手袋(マジックグローブ)になるけどね。魔力水や魔石とは違って、俺の魔力だけで作るから心配ない。

 既に物に付与した定着状態の力。何かの術式に活用するならともかく、自分に転用するには技術が要る。それを可能とする奴なら、そんな事する必要ない力を保有してるのが普通。わざとするなら性格が悪い。 …けどね。それより、手袋剥ぎ取って自分だけでやった方が早いよ? 混ざらないから」


 「え?  あ」



 隠すだけでなく、人の魔力である事が、第三者からの強制契約を阻止するんだとも知った。 …ナンか安心した。




 魔力に染まり、魔力を纏う。


 ハージェストと俺が並べば、人はハージェストの魔力と手袋を見るんだろう。そこで思いつくのは、ご主人様と奴隷になるが〜〜〜〜あ。


 普通にしてればそっちより、怪我か訳ありを考えるのが一般的。常識人なら騒ぎ立てないだと〜。




 ……他に最良の手を思いつかんのだよね、俺。

 異なる世界の人間だから、異なる方法他にもあるよ〜んって気軽に言えたら良いんだが…  残念でも思いつかん。




 テーブルに片肘突いて、包帯してる手を前に出して見た。


 「は、あ」



 ため息しか出ない。


 俺としては製作者サイドに必須の裏技があって、一気に問題解決希望。とりあえず、ペンを取り直して書き取り練習しま〜す。はい、頑張れ俺〜。









 「あ、はーい!」


 ノックの音がしてたのに、気付かんかった… ワゴンのキャスターをロックしたらしい「ガチャン!」の音で気が付いた。



 「お夕食をお持ちしましたが、お休みになっていらっしゃるのかと思いました」



 うひゃあ! またしてもロイズさんです!

 メイドさんのスカートがチラ見えしなかったんで、もしやと思いましたが!  ……ところでですね。今、変じゃありませんでした?



 「取り調べが長引いておりまして、まだお時間が掛かります。お食事後は、お休みになられるのがよろしいかと。汗を流す様でしたら…」



 配膳してくれるので、される前に自分でさっさと教科書等を脇へ片付ける。…んだが。


 

 「恐れ入ります」


 ランチョンマットを敷いてくれるその顔を見た。いや、正確には口元を。


 「こちらは、xxxxxx と xxxx のスープになります」


 笑顔で教えてくれるロイズさんと、出された器を見比べた。



 「こちらは  しろ  い、   と   お、…お   の …スープ です?」

 「はい?」



 顔を見合わせ、話すんだが… こ、こここここっ!言葉に抜けがあるっ!!! 言ってる途中がわかんねぇ!?  ななななな、なんでだっ!!?




 

 突然、言葉に詰まり出した俺をロイズさんは心配したが、様子見で落ち着いた。ブツ切れ会話で、おそらくの理由を言ったからだ。



 しかし、心配させた所為か、食事を終えるまで付き添われた。その間、単語で何度か料理名も伝えて下さる努力をくれた。



 「僭越ながら」


 「僭越」の意味が不明でしたが、最後に額に手を当てて熱を測られた。





 食事を終えて、気にしてくれるのを「一人が楽」と断った。


 この事態を考える。




 俺は理解して、理解できない。


 あの後から、ずーーーーーーーーーーーっと、ハージェストと一緒だった。人と話す時は、あいつが居た。俺の自分クエスト達成報酬『言語習得率向上』は、あいつが居ないと即無効!?


 いやでもそれなら、あの女の人と話した時や、逃げてた時に会話成立してたのは何でだ? …メイドさんと二人で話した時もあったぞ? 他にもなかったか?


 普通に理解してた。または、わかる時に波があったりする?


 ハージェストが居ない事以外に何が違う? 



 あの… 夜に大雨が降った朝と、お守りが戻ってきた日。今と『何の』条件が違って会話成立しない? 何かの反動でも出てる? …反動って何のだよ!?  う〜〜、魔力纏ったら違ってくるのか?







 「ふ、ふふふ。あ、ん、の、やろーーーーーっ! 勝手に、自動言( A. L. )語翻訳( T. A. )絶対領域(フィールド)を、作成してんなぁああああっ!!」



 腹立ち紛れに壁に向かって叫んだら、うん、舌、回る。

 あー、もう理由がナンであれ。とっとと言語マスターしてやらあっ!! ちっくしょぉおおおお!!


 

 



























 自動言語翻訳絶対領域

 領域を発生させる人間の傍に居れば、その人間が修得済みの言語を理解できる絶対に便利な不思議領域。


 領域恩恵必須条件:領域を発生させる人間と浅くないしっかりとした関係性を持ち、互いに関係性を理解している事。繋がりがない場合は不可。要、良好関係。


 備考:領域を発生させる側の意向が強く反映されるので、一方的に恩恵を断ち切る事が可能。領域を発生できる自覚が無い事が、領域を発生させている場合有り。



 しかし、現時点に置いて領域が発生しているかは不明。適当に言ってみただけの確率高し。言語を自力修得すれば必要性が失せる領域。

 

 また、言語習得率向上と自動言語翻訳絶対領域は密接な関係にありそうで無い。






不要かと思いつつ国語辞典〜。


自業自得 = 自業自縛      意味は同じ。縛が適切かと選択。


修得 = 学んで会得済み

習得 = 習い覚える       偶に打ち間違える…






自動オートマチック  言語ランゲージ  翻訳トランスレート  絶対アブソリュート  領域フィールド


略して、A.L.T.A.フィールド。

単語を並べてみた。



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