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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
87/239

87 認識確認

  

 医者のせんせーに手を取られ、脈を測られる。

 口開けて、ベロ出してー。反対側向いて、背中をトントン。


 診察されてる間、その肉厚なぶっとい手に引っ掛かるモンがあった。



 「ふむ、異常と呼ぶ程の症状はありません。脈拍も正常です。お話を伺う限りでは、おそらく精神的な要素で響いたのでしょう」

 「そうか、話したのが良くなかったな…」


 「あれか! 激痛の癒し!!」


 思い出して叫んだら、せんせーが固まった。叩き上げの軍人さんと言っても通じそうな強面の顔が、『くううっ!』てな感じで痛そーに、泣きそーに歪んだ。


 …うむ、ご立派そーなおっさんでも、こーゆー顔すんだなー。



 「あー、あの時は魔力がダメって気付いてない時だったからさ。腕の良い医者だったから、そこんとこは流してやってくれる? ね?」



 ハージェストの言葉で、そうだったと思い出す。

 ……もし、俺の魔力アウトってのがわからなかったら、この人濡れ衣着せられてた? うわ、一生が潰れる冤罪だったり?  ん? …そーなると俺は被害者で加害者か?



 ……………えー、異なる要素の人間で、ごめんです。もーしわけない〜〜。



 黙ってへこっと頭を下げたら、せんせーは俺の手を取って、いやいやいやいやと黙って首を振った。これにて、俺とせんせーの確執は終了〜〜っと。


 ……そうですよね? 終了ですよね? せんせー、間違っても俺でナンかの実験とか思いつかんでよ?



 しかし、俺はそのまま腕上げてーとか、足曲げてーとかされてた。ベッドの上で転がって無理ない様にと、やってたから痛くも疲れもしなかった。

 なんつーか、風呂屋でマッサージしてくれた先生思い出したわ。うん、あれの一歩手前の準備段階ってとこ?



 コンコン。



 何か音した?と思ったら、ドアがノックされてた。


 「ああ、入れ」



 「「 失礼します 」」



 入って来たのは、初めて見るおっさんとメイド服着たおばちゃんだった。メイド服でも、ちょっとモノが違う服ですな。…太目ではない、全体のバランスが崩れてない以上、体格が良いと表すべきおばちゃんの足元には桶があった。


 「お待たせ致しました」

 「いえいえ、ちょうど良い頃合いです」



 寄って来るおばちゃんの声にせんせーが答えるが、おっさんはこっちに来ない。目礼して待ってるが、何か緊張してるよーな?


 「ハージェスト様、よろしゅうございますか?」

 「ああ」


 桶をベッドの脇に置いて、俺の正面に立ったおばちゃんは腰を折って、にっこり笑った。


 「初めまして。この領主館でメイド長を勤めております」

 「あ。 はい、初めまして」



 せんせーに引き続き、お名前のご挨拶を頂いたので、ノイだと返事をした。ベッドの上からすいませんー。


 「寝汗を掻いたでしょう」

 「だ、大丈夫です。自分でします」


 桶の水に浸したタオルを絞って、体を拭いてくれようとするんで焦りました。…焦っても、おばちゃんには勝てませんでした。


 せんせーと二人でさっさか服脱がされて、拭き上げられました。パンツは死守しました。ですが、擦られると背中から垢がボロボロ落ちた様です。何度か擦られました… 今朝、自分で洗ったのは何だったんでしょう? そりゃ、ちゃっちゃとしたけどさ。


 足の指の間まできっちりぬぐわれました。おばちゃんと、おっさんで良かったんだと思います、はい。

 

 もう大丈夫だと思うのに、寝間着に着替えろと新しいのを出されました。そして今、パンツを替えろと言うんです。やられますねぇ…



 「ああ、それはいい。俺が手助けするから」


 はい?


 「ベッドから降りれる? 歩ける?」


 ニューパンツと濡れタオル掴んで二人して部屋の隅に行き、ハージェストが薄い掛け布団広げて壁作ってくれたんで、そこで着替えて拭きました。これもどうかと思うけど、やっぱり有り難い。そんでまた足を拭かれる…



 「では、こちらの方はお洗濯しますね」

 「お…  お願いします。あ、今朝お風呂使って、拭いたタオル掛けてて」


 「はい、そちらの方も確認致します。どうぞご心配なく」


 パンツは直に差し出すしかありませんでした。濡れタオルには挟めません。もう、見られてますけどね…

 若いメイドさんでなくて良かったです! ある意味残念な気もしますが、惜しい気もしますが、下手するとイジられるだけイジられて撃沈しそうな気もします! …実際にされたいかどーかはまた別です。



 着替え終わって再びベッドに帰還しようとしたが、ハージェストに椅子に誘導されて座った。

 

 「こちらへ」

 「はいっ!」


 

 おっさんが、ちょっと大きい荷袋を脇に抱えてササササッとやって来る。…その歩き、忍者っぽかったよ? すげー。


 「初めてお目に掛かります!」


 その言葉から始まったおっさんは靴職人でした。




 「では、失礼して。足の大きさを測らせて下さい」


 職人さんの太ももに俺の足を乗せて、メジャーで計測。その後、厚紙の上に足乗っけて型取り。



 「はい、これを元に作らせて頂きますが、どの様な仕上がりをご希望でしょう?」

 「普段履きを二足と、長靴を一足。普段履きの方でだな」


 「え? 一足で良いんだけど?」


 

 俺の意見はキレーにスルーされる… 待てや、こらー。



 「では、もう一度失礼します」


 そう言われて、足首から膝から脹ら脛まで計測された。立ち姿でも計ったんで、三回計測した…



 「疲れると足が浮腫むくみますから、それらを考慮して作らさせて頂きますので」


 俺にわざわざ説明する職人さんは、俺よりずっと年上だと思いますが、業界では若手になるんでしょーか?

 計り終えて、今度は荷袋から布の包みを三つ取り出し広げたら靴だった。その中で、サイズとしてはこれが一番近いって差し出されたのを履いてみる。


 しかし、室内履きに素足はいけても、これにはキツい。んで、リュックから靴下出して履いた。出した靴下をおばちゃんが、じーーーーっと見てたのが微妙。靴下なんか変だろか?


 履いて部屋の中を歩けば、せんせーとおばちゃんがあれこれ言ってくれた。お試しだから履くべきだと、三足全部試し履きしてた。

 



 「長靴の方は実用性重視で?」

 「そうだ。騎乗用にな」


 「ご希望はございますでしょうか?」

 「直ぐに駄目になる物は要らんぞ」


 「では、素材はこちらの物としまして?」

 「…それが良さそうだな」



 「あの… 大変失礼でございますが、恐れ入りますが… ご予算としましては如何ほどをご検討で…?」

 「ん? なんだ、そっちか。心配するな。三足合わせても、この程度あれば足りるだろう?」



 「は。 はい、はい。十分でございます! 腕にりを掛けてお作りさせて頂きます…!」

 「そうしてくれ、代金は俺持ちだ。兄の名義にはするなよ? 次に持って来た時に一足目の分と、二足分の代金の半額を払おう。残りは仕上がってからだ」


 「はい、ありがとうございます!」




 

 歩いた結果、俺的には問題ないと思うんだ。しかし、せんせー的には踵が合ってないんじゃないかってさ。そーかなぁ? しっかし、靴擦れすんぞって言われるとなぁ…

 ちなみに俺の靴は、せんせーのとこにあった。あったが悲しいかな、末期症状だった… ああもう、良く働いてくれたねーって感じになってた。もう少し遅かったら、せんせーのとこからもさよーならされてたんじゃないかな?



 その事でせんせーが職人さんに話して、履いた状態をきちきちと確認された。


 俺の靴は見本として預ける。ちゃんと返してくれるそうだが… おねえさんからの頂き物でも、使わん以上捨てて良い気もしてきたな。…現金だな、俺って。


 だけどな、オーダーメイドの靴は高いぞ? 俺が靴屋に行って聞いた時は高かったぞ? 

 大量生産はない。けど、一応の大きさの規格はあるから作って売られてる。見習いさんが作ったのは、安めに売ってる。…合わんかったけど。



 「あのさ、二足で十分だよ。それに、これで良いとも思ってるよ?」

 「え? あは。ちゃんと合ってる靴の方が良いよ。先に一足作らないとね、後の二足は少し時間掛かるし予備はあった方が良いって」


 「えー、あー、うん… ちゃんとお金あるから、言ってくれる?」

 「えー、俺がしたくてしてるだけだから、金は気にしないで。必需品なんだしさ」


 

 ハージェストの余裕の笑顔がすげーなぁ… だけど、リュック戻ってきたから俺も金あるよー、ほんとに。

 


 靴が仕上がるまでは、試し履きの靴です。無償でどうぞって言われたわ。…どんだけ金出した? 出し過ぎじゃねぇの?





 せんせーもメイド長のおばちゃんも、靴職人のおっさんもにこにこしてたけど、俺は鈍くない。知ってる。三人の内二人が俺の包帯してる手を見てた。包帯の下を見てたんだと思う。 ってか、そうとしか思えないっての。あからさまじゃなかったけどねぇ。


 腹ん中でさぁ、何考えてると思う?



 まー、そう考えたら、奴隷が金持ってるって時点で笑うわなー。  はん。



 

 「時間が掛かったから、お腹空いてない? 軽く何か食べない?」

 「え? …お昼、食べてないんだっけ。 あ、食べたいかも」



 その言葉を皮切りに、職人さんは退出した。せんせーも一緒に出た。せんせーが厨房に行って伝えてくれるって言うが… 軽食後に黒薬湯Xハイパーを飲めと言ったのは、流して良いだろうか?



 「ハージェスト様、是非とも寝室のお掃除をさせてくださいませ。シーツも掛け布団も交換しましょう。一時、隣室か別の間にお移りくだされると助かります」


 「そうして貰おうか。隣でも良いが、長椅子に寝させるのはなぁ。別の間か… 遠いと疲れるな」

 「花籠の間を整えております、どうぞあそこをお使いくださいませ」

 「ああ、あそこなら良いな」

 

 メイド長のおばちゃんの中で、掃除は確定事項だったらしい。にこにこ笑顔が乱れませんよ。


 移動になったから、リュック(水筒完備)を持ち毛布様を持とうとした。毛布様は干して下さると言ったのでお任せするが、リュックは持つ。


 「置いてて良いんだよ。誰も盗らないよ」


 その言葉に振り向き顔を見たが、拒否っといた。首をぶんぶん振っといた。信用ならないと言うより、俺が不安なんだよ。…ん? 信用か? んんん〜〜〜〜。



 「じゃあ、俺が部屋まで運んで行くよ」


 あっさり言って、ナチュラルに俺からリュックを取って、ひょいと右肩に引っ掛ける。


 「…重くない?」

 「? いや、全く」


 「そか」


 

 部屋から出れば廊下に通じるドアの所で、既に掃除のスタンバイに入っちゃってそーなメイド長のおばちゃんが立って待ってた。



 「掃除を終え次第、声を掛けさせて頂きます。それまでごゆるりとお過ごしください」


 笑顔と言葉に押されて廊下へ出たら、メイドさんが三人ピシッと整列して立ってた… 完全に確定でしたか、お待たせしてすいません… 何時から待ってたんですか?



 メイドさんずに見送られ、部屋を移りますが、一般ピープルでも老舗旅館とか行った事ない人間にはちょっと慣れませんねぇ… 金出して泊まってるんでもないし。


 しかし、ベッドはあれが良いです。




 キョロキョロ見るが、廊下を落ち着いた気分で歩けるのになんか笑う。 ああ、靴履いてるから。



 「この部屋だよ」


 部屋入って、あの部屋の豪華さを知った。思い知った。いや、こっちも豪華だけど。広さっつーか、何から何まで俺にはこっちでも十分過ぎる気がする。

 


 

 これまた立派なソファーに座って、ご飯が来るまで話すんだが…


 「体は元から弱い方?」

 「へ?」


 その質問は何か間違ってると思う。そりゃー、ばったりいったけど。


 「弱くない。俺は絶対弱くない」

 「え?」



 そっから話を繋げても、お互いどっか腹の探りあいっつーか。うーん。俺も聞き出しにくいんだよなー。あれこれそれのテキトーな話は何とかすんだけどな。肝心の話をだな… ん〜、出々 (でだ)しをどう持ってくか〜? デリケートな話ではあるからな〜〜。




 「失礼致します」


 思案の最中、ご飯を持って来てくれたのはメイドさんじゃなかった。


 なんてこったい!で、ロイズさんだった。うひゃあ!ですよ。


 仕事もバリバリこなしてそーな年上のお人に、飯を持って来させたよ! ウエイターさんなら、お仕事ですから気にしませんがぁ この人違うでしょー! 絶対違うでしょー! 伯爵様の秘書やってる人なんでしょー!? 違うのぉ!?


 びびりますがな…




 「お待たせしました。お腹が空きましたでしょう?」


 てきぱきさっさと、実に手慣れた感じで並べてくれた。できる人は何でもできるんだろか? そんで、「食事前ですが」と断りが入った上で業務連絡入りましたーって、業務でいいんだよな?



 「現在領主館で押えてある品の中に、該当する物はありませんでした。ですが、確認する所在地は他にもあります。それとナイトレイ様が調査に向かわれた宿と店についてですが、そちらは順調に進んでいるとの事です。言動に裏付けを取っていますが、居ない者もいたので確認に行方を追っています。


 どちらにつきましても、他と並行して行っている為、まだお時間が掛かります」



 物柔らか〜な口調で、目元も優しく申し訳ない系の表情してくれてました。丁寧な年上の方の対応に何も言わず、へこっと引き続きのお願いしました。


 食事前にお時間を取らせてとか、冷めたとか、早く体調を戻して下さいねとか、笑顔で言われた。最後はハージェストに挨拶して、何やら耳打ちしてから部屋を出て行った。



 ……俺がへろっている間も、人は働いてます。…………あーりがーたや〜〜〜  って事にしとこ。



 「食べよう? どうぞ」

 「ん、ありがとう」



 今日の昼食は、パンです。軽食なので、軽めの食い物ですが量が多いと思います。…ハージェスト、昼飯食ってなかったのか?




 もっぎゅもっぎゅ食うんだが、俺とハージェストの食い方は違う。速度も違う。食い方が綺麗だとか、そーいうのは置いといて。ほっといて。

 いや、貴族だって言ってんだし? 食い方が汚いわけねーだろ。変に上品ぶって食ってる事もない、ナチュラルに食ってるよ。


 つかさー、このパン。出来立てほかほかの時は美味い。外はカリッと、中はふんわり。しかし時間の経過で固くなる。うん、ちとかーたーい〜。でも、これは今朝焼いた分だと思う。


 要するになんだ。顎の力が違うと思うんだわ。同じ速度で食うなら、俺は高速リス食いしなきゃならんね。胡桃をガリガリガリガリッて、リスやハムスターが食うあの食い方。顎が疲れて直ぐにダウンだろーな。


 ……………異世界、食い物同じでちょっと違う〜〜。てか、スーパーやコンビニで売ってた賞味期限過ぎても、ま〜だ柔らかいパンは普通にない。固いと、ぽっちゃんしたいです。はぁ。でも良く噛むから、満腹中枢刺激して量は少なくて良いのか? 倹約になるだろか?



 そんな事考えながら、一緒に食べた。










 食料事情。

 様々にあれど、この件にて第一に横たわるは、肉食獣(かぶり付き系)草食獣(すり潰し系)の食い方に起因する大いなる違いである。

 


 肉食獣、どんなにちびでも肉食獣。ちび猫、立派な肉食獣。










 食後の締めは黒薬湯Xハイパーだった。あっちの部屋に置いて来たのに、できる大人のロイズさんはこれをしっかり運んで来てくれていた。持って来なくていーのにね。


 ハイパーはハイパーで、不味さに拍車が掛かってた。

 ちろっと舐めればハイパーなだけあって、最初の分からは改良(改悪)されてた。中の成分は知らんが、飲みやすい様にと甘味が少し入れられてた。それが一層の不味さを呼び起こす。


 優しい優しい優しい目の前のこいつは、俺が元気になる為だからとシェアを拒否りやがった。心配を全面に出して、飲めと迫った。しかし、二度目の「子供じゃないなら」の言葉は響かない。そんなんどーでもいーわ。



 逃げられないんで飲んだ。毒を飲む感じで飲んだ。気分的には猛毒です。自殺じゃないけど、自殺っぽいなと頭の片隅で逃避しながら飲んだ。



 ゴッ… クン。 



  げろ。


 猛毒が、俺の体を浸食していく。



 あまりの不味さに気分悪くなった。ふらあ〜っとする。

 薬の意味ないと違うか? 俺には強過ぎじゃねーの? 合ってないとかあ?

 

 俺は薬の改善を要求する。カプセルとか錠剤とか本当に偉大ですね。当たり前にあったあれこそが、大いなる恩恵だと、今更ながらに強く思う。しかしこんな薬なら、薬漬けには絶対ならんわ。断言するわ。なれる奴のツラ見てみたい。








 「どう? 気分良くなった?」

 「ん〜〜〜」




 ベッドの縁に座るハージェストを見上げれば笑ってた。…イイ顔してんね。その表情の所為か、スルッと聞けた。


 「なぁ、魔力量を増やしたかったんだよな?」

 「…… あー うん、そうだよ」


 「魔力はある。でも少ない」

 「そうだよ」


 「少なかったら、馬鹿にされる」

 「んー、まぁ多少はね。でも使えるからね。 …一時、全く使えなければ、こんなに悩まなかったんじゃないかとは考えた。でもやっぱり使えないよりは、よほど良い」


 「魔力が総て?」

 「それはない。いや、そう思う奴は居るし、傾向はある。否定はしないけど、絶対でもない」


 「なんで?」

 「搾取だけでは生きていけないから。 …いや、訂正。可能ではある、不可能ではない」



 サラッと返す言葉と表情がアレだが、お前サラッと人の髪撫でてんなよ。



 「魔力が使える事と使えない事、持っていない事。そこには意味があるんだと、昔、そう語る人もいてね。どんな意味ってのは、わからない。多分、誰もわからない。だから、負け惜しみだとか、持ってないできない者の僻だとかも聞くんだけどね。


 でもその事に対して、否定にしろ肯定にしろ、誰もが納得する理論を構築した人はいないんだよ。真実の道理は感情だけで構築されはしない。


 何より… そう語った人は使える人だった。当時、とても強かった人だって伝わっている。力は重要で重大であるが、それだけじゃないんだってね」


 「…それを理解してて諦めなかった?」



 「あーーーーーーー、はい。諦めがなかなかなかなかほんとーーーーーーーうにつきませんでした。納得なんてこれっぽっちもできませんでしたあーーーー。開眼かいげんなんてモノは、本気でヒラケませんでした」



 「今でも、増える事を望んでる?」

 「はい」


 「どんな状況だったとしても?」

 「はい」


 「………じゃあ、もし性別違ってても望んでた?」

 「え? 性別が違ってた、ら?」




 腕組みして真剣に考え出したのを、ゴロッと寝転がったまま見てた。




 「うーん… もしも女だったらか…  こんなに拘らなかった気はするな…   女だったら、三女になる。できる兄がいて、できる弟がいる。双子の姉達は同調ですごいけど、一人であったら普通と言える…  自身の魔力は少ないが、使えはする。

 家について思い悩む位置にはいない。男の自尊心なんて要らんし… この兄弟の面子で女なら、普通に嫁に行くな。女ならもっと現実に…? 

 恋愛に関しては絶対考えるだろうし、順番的に姉達の結婚を見たら自分もと考えるだろうな… そうなると、魔力に拘るより女としての磨きをだな。ああ、そっちを選ぶな。良い男を捕まえるのを優先するか、見合い話に力を入れて探すのに… 両親が探すとしても、やっぱり女としての磨きを言われる… だろうな。  


 そうなると学舎に行ったか? 行く可能性がとことん低いよーな…?


 もし学舎に行ったとしても、見切りがもっと早いか? 召喚もずっと頑張り続けてはいない… かもしれないな。学舎に行かなかったかもしれないし、行っても召喚自体学ばなかったかもしれない。



 俺がラングリア家の三女であった場合、此処まで魔力に拘る可能性は低いと思う。必要性が薄いから。 …絶対ではないけどね」



 考え考え返事をくれたハージェストを見て、自分で言い出した言葉を俺もつらつら考えた。



 ハージェストが女だった場合、俺の分岐はどこだろう?

 こいつ、三年半頑張ったって言った。見切りが早くて頑張らなかったら、喚ばれてないから終了だろー? 此処へ来る事ないなら、あれで人生終了だな。成功してたら、飼い主とペット生活スタートだが… こいつの場合と、どう違うかな? 無事だった場合、ちょっとだけ楽しそーではあるが考えたくなー。



 …俺が女だった場合、どうなんだろ?

 喚ばれて、出会ってときめいた? いやいや、普通に『誘拐犯!』か? うーん、迫られてきちんと拒否れたか不明だな…


 そーいや、男の俺が検査中にやられたんだろ? 女だった場合… より一層回避できると思わんのだけどな〜。悲鳴上げて逃げ回るか、逃げれなくて固まってやられちゃったって感じするけどな。いや、意外に無事だったり? 

 

 しっかし、なんてぇのかな。犬やるんか? やれるんか? 言われても未だに信じられんが… 女だったら、同じ状態でも犬やる余裕なんて本当にあるんかぁ??



 女同士だったら、どう違ってたんだろな。

 ん? …いや待て。女の場合、ちゃんと会えたか? 貴族の深窓のお嬢様だったら、会うの難易度上がらね? …女で土産やったら、どう思うんだ? 女でペットが人だったと理解した時、どんな心理状態になるんだ?


 ……………ナンか、どす黒いの渦巻かねーか?   うあー、思考終了しよっかな〜。






 あー、後もう一つの分岐。あの人達か。


 俺は此処へ来たけど、女だったら来ただろーか? あの人達の説明で此処に来たかな? おねえさんの説得も違うモンになってただろーが… ほんとに来るか?


 それなら、おじいさんとこのお孫さんも有力じゃねぇの? 上の了解あるから初めから難易度ダウンしてるし。

 『きっと歓迎してくれる』 『会いたいと思ってるはず』 これって不確定要素、バリバリなんだよな。でぇ、孫選択なら探しに行かなくて良いんだろー? 女の一人旅で、治安に不安があるなら行かんよーな… 不安だったから現地の服くれたんだしよ。いや、あの時だって考えたけど。 うぬぅ… 存外、孫の方が良さそうな…



 もちっと思考を詰めて考えた。



 考え抜いた結果。

 俺が女だったら、おにいさんの世界行ってるわ。ぜーーーーったい、あっち行ってる。むしろ、あの人にべったり引っ付いてる気がする。印貰ってるし… 今度何時来るかな〜って、心待ちにしてるよーな…


 あの人も俺が女だった場合、対応違ってんじゃねーか?  うーん、いや、それはわからんか〜〜〜。変わりそーで、変わらん気もするな〜〜〜。


 ぬーう、あの人の落ち所って、さっぱりわかんねー。




 俺が此処に居るのは、俺が男だったからだと結論付けて、すっきりした。





 思考の海から帰還したら目が合う。ちょっと笑っといた。


 これが縁なら、どーにか続けていってみよーか? それとも無理かな? しかし猫生だけで生きてくのは、な… 普通にキツいな。




 「あのさ、俺、覚えてないって言ったろ」

 「そこが不思議。覚えてないのに、何で名前が出てくるのか」


 「教えて貰った」

 「誰に?」


 「知らない」

 「え?」



 「知らないけど、とても強い ヒト」


 

 質問を繰り返そうとする顔に笑って続ける。



 「あのさぁ。一番の重要課題は、俺が、全く、どー考えても、他人の魔力量を増やすなんて芸当できる気がしない上に、死に掛けの獣を犬にして上げたって事を『うっそだあ』って思ってる点なんだけど?」


 「…はい?」


 うむ、見事な疑問顔。

 寝転がった状態を脱するのに、手を上げる。上げれば掴んで引っ張られる。結果、起きた。


 楽でイイね〜。



 「ちび猫に成れる以外、何にもできないよ」



 長い沈黙の果てに、「本当?」とか聞かれてもな。

 顔見てれば、目がすげぇ何かを訴えてる。ガンガン思考回してるっぽいが… 雰囲気は察するが、言葉にしてくれんと俺にはわかんないっての。空気読むけど、それで終わるとアウトだろ? 必要事項を雰囲気で流して聞かずにいたら、全方位で終了するっての〜〜〜〜〜。



 「覚えて… ないから? それとも…『わからない』から、なのか?」

 「はい?」



 「ええと。今さっき聞いたのは決意表明とかではなく?」

 「や、単に知りたかったから。正直、どうこうする話ではありません。どんな性格なんだろーと」


 がーん!って顔するし、ちょっとアレだったかと思うが弄んだ気はないぞ。



 「あのさ、本当にすごい能力とか無いと思ってる。猫に成れたのだって、どうしてなのかわからない。でも、できる。さっきは茶化したけど、俺の能力の開花っちゃー開花で正しいんだろうし? 成れる事については、良かったと思ってるから。…まぁ、異常と言われるとアレですけどね。

 俺に世界を行き来する力なんて無い。此処に来れたのも、送って貰ったからだ」


 「 …異界の、強い、 人」


 「そ。但し、その人達、あ、三人いたんだ。その人達にも理由ってか… まぁ、理屈?があったっぽい。詳しい事は微妙に外されて教えてくれなかった。…総てを話してくれなかったソレが優しさなのか、ちょっと不明でなーんかね? 


 でも、何かを引き替える事はなかった。何かを寄越せとも言われなかった。助ける代わりに言う事を聞けとか、一言もなかったよ。優しさと好意だけで助けて貰ってた。三つの選択肢を出してくれて、そこから選んで此処へ来た」


 「選んで?」

 「うん、教えてくれた。此処に友達が居るからって。や、他も考えたよ? 行き来する力ないから、行ったら最後自力移動なんて不可能で、お前には無理って断言されてたから。決めて行ったら、後は自力頑張りだけって言われたし。

 一人の方のお薦めが、友達が居る理由で此処だった。友達の名前がハージェスト・ラングリアだった。考えた中で選んだ。けど性格がどうとか自分確認だったからさー。少しは確認しとこーかと」


 「…………不可能。無理。   それは… もう、帰らない?」

 「違う、帰れない。……ってか、あー。帰る先はあるけど、俺は帰れない。逃げてるとかじゃなくて、単純に帰れない。だから、他所に行くしか無い。だから、三つの中から選んで此処に来た。了解?」



 …なんでそんなに目ぇ開けて凝視する?



 「帰らない…  それは本当に?」


 待て、話聞いてましたかぁ?  …普通、引っ掛かるなら、帰れる・帰れないじゃなくてだな。連れて来てくれた人の方じゃねーの?



 「あ、ああ…  此処に居るんだ。 そうか… 行かない。居なくならないんだ。  此処から」

 「行かないじゃなくてぇ。 あのー、性格の不一致とか諸問題ありましたら、さよならしよーとですね」


 「それについては、これからの話だから問題無い。…出て行かない。帰れない。   了解した。でも、そうなった理由は?」



 …なぁ、切り替え素早過ぎじゃね?



 「うえー、あー。 また今度で」

 「わかった。なら、それは次にね」



 いきなり表情が変わりましたね。憑き物落ちたじゃないけど、なんか明るいな。 …ご機嫌だな、お前。ナンでだ?



 『出て行かない、帰れない』か。


 ふーん、そう言うってんなら、あー。どっちの意味で言ってんのかな〜、こいつは。


 本当の事だけど、話すの早かったか? こいつの性格、もうちょっと知ってからが良かったか? でもなぁ、話さずに進めるもんでもないしなぁ…

 話さずに済むんなら、それも良いさ。楽だからな。だけど嘘吐いてまで世話になるってのは、ちょーーーっとヤだね。切羽詰まってないから、言えるセリフ…だろうけどさ。  はぁ…  あ。




 自分有利に話進めてるつもりない。俺とこいつの間でそんな状況にもなってない、はず。だけど、他人から見たらどうなんだ?


 俺は被害者ですか? 単に奴隷ですか? 奴隷印してても友達ですか?





 過程がどうであれ。

 結果が今だ。 



 どう言葉を紡いでも、対等じゃない。新たに会った二人の人の顔の動きで、それを認識する。『さよならしよーと』なんて言ってみた所で、できやしない。俺は助けてくれと縋る立場だ。


 こいつに思惑があるにしても、この事で自分有利に進めようとはしていない。あの人達の行動を引き合いに出しても、狼狽えもしない。そんな反応しない。 …それとも気付いてないだけか? 嫌みに似せた牽制には聞こえませんでしたか?




 友達って言葉が、支えだった。

 でも、俺は覚えてない。言われたにせよ、じ・ぶ・ん・が覚えてないのに、俺の『友達』って当てにする。この時点で馬鹿。こいつの認識はペットだったっての。



 覚えてなくて、これからを続けるなら…  きっちりやり直す他に手はないな。



 

 「どうかした?」

 「んにゃ、何でもないよ」


 「疲れた?」

 「へ?」


 「気分落ちたって顔してる」




 …うわお、お前よくわかるねー。そんなの顔に出してないつもりでしたが。 …俺は優しくないけどさ、お前は優しいのかな?



 うっすら笑って流すけど。





 真っ直ぐに見てくるこいつは、きっと、こういう奴で、それはずっと変わらないんじゃないかと  俺はそう、理解する。 



 まぁ、当てにならない多分、でね?





 

サプリメントも栄養ドリンクも非常に有効です。

ですが、顎の力は付きません… 異世界でなくてもある話。



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