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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
81/239

81 大事なこと

 

 自然に目が覚めた。ら、隣に人がいる。寝てる。



 『誰が!なんで! どーしてぇっ!?』


 人影にびびって脳裏にイロンナ事が高速で駆け巡ったが、よく見たらハージェストだった。


 …なーんだ、吃驚した。

 しかし、なんで同じベッドで寝てんだ? ……あ、ハージェストの部屋だったのか?



 部屋の中を見渡して、昨日も見た長椅子を見つめる。ベッドと見比べ、床を眺めて、隣で寝てる奴を眺める。


 ベッドの幅を目測して、寝てる距離を計る。


 …ふ、小さいことは考えんな。野宿は結構しんどくて嫌、埃まみれの固い板の上は嫌、暗くて冷たくてじめっとしてる腐りつつありそ〜うな板の上も嫌。でもって、ベッドのある室内での床寝はもっと嫌で泣く。


 俺はベッドか布団で寝ていたい。



 「…はふ」


 上半身を静かに戻して、ナンかをペイする儀式に寝直した。隣で人が寝てる、そんなん慣れだっての。






 動く気配に意識が覚めた。

 けど何となく、そのままでいた。ら、もぞもぞ寝直す気配がした。


 ゆっくり目を開けて見たら、寝てた。


 …………起きて、見て、寝た。それは安全圏だと認識したって事だよな?  …現状に安心してるって事だよな!? じゃあ、一歩進んだな!?  前進だなっ!



 今日は朝から良い感じ。気分上がるな〜。







 起きたら、ハージェストが着替えてた。

 

 「おはよう、起きれる?」

 「起きる。 あ、おはよう」


 

 「じゃ、行ってくる」

 「ん」



 パタン。


 ハージェストが朝飯持って来るから、それまでに着替えて洗面所行って、今朝はテーブルで飯を食うっと。飯食い終わったら、本題と。



 「よいっ」


 清潔な服に手を通す。それだけで気持ちが違う。しかし、サイズが合わん!

 終わって待ったが手持ち無沙汰。部屋を見れば見るほど、ホテルの一室っぽい。私物が見当たらねーんだよなぁ…



 「お待たせ」 「失礼します」

 「おかえりー」



 メイドさんとワゴン付きです。

 改めて見ると、こう… メイドさん… なんですよね。喫茶店じゃない、本職のメイドさんですよね〜? なんて思う自分がなんかな。それより、今朝はパンですか! 


 「お待たせ致しました」


 丸パンとなんかのスープとゆで卵のサラダにミルクと果物〜。


 うむ、美味い。パンが焼きたてで固くない。うーま〜っ。あのパン、くっそ固くて不味かったな… ん? そう考えるとお粥の方が良いのか? いや、やっぱお粥はな〜。美味いけどなんのスープだ、これ? それに久しぶりにミルクなんて見たなぁ。…カルシウム足りてるんか? ……背は伸びないと思うけどな。


 ごきゅごきゅ飲んで、ごちでした。



 


 食事を終えて、ちょっとまったり。


 「このスープ、美味しかった。これなに?」

 「メインは漉した豆だよ。口に合って良かった。もっと食べない?」


 「もういっぱい、入らない」

 「小食? …あ、体調も考えないといけないか」


 ああ、なんて落ち着く。…室内リッチで泊まってた宿の朝とは比較にならんでも、思い出すね。……あ〜  色々、思い出すねぇ。



 「ありがとうございます、ですが私の仕事ですわ」


 メイドさんが下げに来たので、好感度上げに手伝おうとしたら、にっこり笑顔でやんわり拒否られたー。それでメイドさん、ワゴンと一緒にご退場。


 …ふ、気を取り直して本題にいこう。






 

 「再契約をしたい。名を呼びたい。だから、許可が欲しい」


 非常に真剣な顔でした。きちっと背筋を伸ばすから、負けじと合わせるが… そうか、俺の荷物から始めたかったんだが、そうはならないのか。


 「さい、けいやく」

 

 頷くマジな顔に俺は思う。本気で思う。


 イミフ。


 しかし、縁の内容をどーしても教えてくれなかったあの三人に、魔力の満ちる世界に、あるはずのない縁に、俺の栄養補給が済んだ頭が回転して何かを弾く。


 こいつ、俺の本性・ねーこ〜って言いやがったよなぁ?


 

 あの人達に、いや、おねえさんに! なんか色々言いたい気分。俺の記憶はどこにあるんだ。



 「 ハージェスト・ラングリア。 ですか?」

 「間違いなく」


 「けいやくって、ナンですかね?」

 「え?」


 

 「「 ……………………  」」



 しっばら〜く、見合いした。顔の七不思議を見た。なかなかに面白かった。だけどさ、そっちも重要だとは思うが俺の方を優先して欲しいんだわ。



 「ハージェストに、会いに来た。このシューレの街で宿に泊まった。宿に泥棒入って、荷物盗られた。探してたら、今度はお守り盗られた。見つからない。  色々考えた。ハージェストに会うの諦めて、シューレの街を出る事にした」



 そこまで言ったら、表情筋がぐにって動いた。ひゅう、すげー。


 「諦めって… え、出るって… いや、その前に! 何時からこのシューレに!?」

 「えーと、 あ〜、途中で日がわかんねー。それで…  違う、先に毛布様だ!! そうだ! 寝室で使ってた毛布、あれ俺の。荷物、どこ? 毛布あるなら、リュックは!? 警備兵の誰かが見つけてくれたんだよね!? だから、ココにあるんだよね!?」



 俺の荷物はバラされてないよねーーーーーーっ!? よー考えたら、どーやって毛布が出たんだ!!




 途中から脳みそフル回転した。



 「俺の、毛布って。 あ、あれ…」


 ガタッ!


 「あれ!? あるんだ!」

 「わかった。先に取ってくるから、ちょっと待ってて」



 椅子を立って、扉に向かおうとしたハージェストは急停止した。ぐるっと振り向く。


 「形状と、それからお守りって何?」


 そうだ! 現物確認が一番早いが、思い違いなら意味ないな!


 身振り手振りで大きさを示しながら、こんなでこーなってて、お守りはこんくらいので〜って説明した。説明してれば、変な感じで顔が笑ってくー。なんでそんな顔すんだ? イミフだよ。



 「兄の執務室に行ってくる、待っていて。 ちゃんと待っていて、ね!?」

 「へ?  あ、うん。待ってるー」



 バタン。 


 扉が閉まったら、ダッシュしてく足音聞こえた。


 問題の一つが片付きそうで嬉しいが、俺は結構馬鹿なのかもしれない… リュックは特製だから開かないと安心してた。毛布抱き締めたら、安心して寝た。あの時点でなんも思わんかった。問題を繋げられなかった俺の脳みそ大丈夫かぁー? 回らない頭って駄目だなー… 反省。



 うげ、ウエストポーチ! 


 あ〜、そうだね… ポーチの方はねぇ… どこで何がどーしてあーなったんだろうねぇ?  うん、これも探してもらおっか。







 昨日の夜、散々試しても開かなかった荷袋を思い出しながら、廊下を遠慮なく走った。


 バンッ!


 「兄さん、居ますか!? どこですか!出てないですよね!」

 「お、どうした? 再契約できたか!?」


 「いえ、そうじゃなくて! あの荷袋はーーーっ!?」



 部屋にずかずか入って荷袋を探して、駆け寄った。


 「…形状が合う。兄さん、アズサので間違いないです」

 「当たりか!?」



 「それでですが…」


 聞いたお守りの形状をそのまま伝えれば、天井を眺める。表情なんて見なくても読める。


 「合わんぞ…」

 「革紐切られて盗られたと言いましたよ」


 顔を見合わせて薄く笑った。微妙でも何でも笑えりゃ、まだ良いんじゃないか?



 「あれ、地下ですよね」

 「そうだ、一番堅牢で被害が少ないのは地下牢だからな。虫共を突っ込んだ近くだ」


 「俺が行っても?」

 「いや、無駄だ。安全を考慮したからな。ロイズ、昨日の小箱を持って清流の間に来いと、レイドリックとリリーに伝えろ。今すぐだ」


 「は、畏まりました」



 「それじゃまぁ、俺も行くか。ほれ、お前が持て」

 「はい」



 「あの玉もあの子の物なら… 本当に、どれだけの力を有しているんだ? まさか、今回の不明な一連全てそうじゃないだろうな?」


 「まさか! 幾らなんでも全てだなんて、そんなわ、けが… 」



 言い掛ける口が自然と閉じた。兄と顔を見合わせ、少しだけ立ち止まる。

 アーティスも、他の事も何もかも全てがアズサが居なくなってから判明した。同じ轍を踏みそうな、この事態。引っ掛かりそうな自分が… ものすごく嫌だな。







 …まだかな、まだかな〜。ハージェスト、まだかな〜。 俺も一緒に行けば良かったんじゃね? 


 部屋の中をウロウロする自分がアレだなぁ。

 ドアんとこ行って、ノブを下げたらカチッと開いた。首を伸ばして廊下を見て耳を澄ますが、何も聞こえん。…外の廊下じゃないから、当然か。


 スタスタ行って、外へのドアをガッチャンした。

 右を見ても左を見ても、誰もいません。立っていれば、あの人を思い出す。「待ってて」と言ったハージェストも思い出す。そして、それ以上に考える。



 しつむ室って言ったよな… しつむって執務だろ? 執務室って社長室と同じじゃね? 伯爵さーまの執務室〜。 そりゃ入れんわ〜。



 カッチャン。


 何も無いと思うが、ナンかのイベントが発生してもな。 …あ〜、やだやだ。部屋で待っていよう。本気で色々聞かないと。あの人… 会って謝らないと拙いよな?





 「お待たせ!」

 「これがそうか?」


 帰ってきたら、一名様も一緒だった。


 「俺のリュックー!!」


 ハージェストの手にあるリュックに諸手を上げた。警備さん、万歳!









 セイルジウスに命じられたロイズは、ステラに伝言を託して別棟へと走り、レイドリックに要請していた。そして、二人してリリアラーゼの到着を待っていた。



 「待たせたわね」

 「いえ、問題なく」


 「参りましょう、足元にお気をつけて」


 共にやってきたステラは二人に目礼し、リリアラーゼに付き従う。

 

 

 四人は建物に入って廊下を歩いて歩いて歩いて歩いて、走らずに滑る早さで歩いてガチャンと一つの扉を開けて外に出る。外の花壇の間を歩いて行く、花壇が途切れた先には庭の雰囲気はない。

 その中を更に歩いて行けば、平屋の建物が存在した。樹々が遠慮なく枝葉を伸ばして生い茂る。その中に覆い隠されている様にも見えるが、ほったらかされている様でもある。


 近くへ行けば、他に通り道があった。


 建物の入り口に立ち、レイドリックが腰に下げた剣を鞘から引き抜き、ジャッ、カシャン!と金属音を起てて鞘に仕舞えば空間をさざ波が走る。



 バンッ!


 「隊長! どうしましたか!?」


 竜騎兵の一人が扉から飛び出て、リリアラーゼを認めると同時に素早く敬礼を取った。



 「下の様子は?」

 「今朝の見回りでは、妙に聞き分けよく静かでした。死人はいません」


 一人の警備兵の案内の元、ステラを残した三人は降りる。

 








 お守りはへたっていた。


 周囲から力をぶん捕り、最高潮に達して合図を送る「此処ぞ!」と言う時に、白い光にぺしゃられた。例える気分は、『あーーーーーーーーーーーーーーっ!!』である。



 力を捲き上げられる。

 咄嗟に大事な内部魔力だけに集中し、守りを固めたが、突然の事に対処が追い付かない。大気中の拡散からの捲き上げは、この時のお守りにとっては直撃に近い。力の影響の回避に成功するも、大幅な機能低下に陥った。内部の現状維持で手一杯だった。


 そこへ強く大きな力に遭遇した。


 通常でも用心するが、へたっている今はもっとヤバい。声を出せるなら、『いやーーーっ、こっちくんなぁ!! あっちいけーーー!』だ。


 あってはならない存立危機事態に直面した!

 ここでグッとやられちゃったら、終わりである。反撃の準備をせねばならないが、回す力が足りなさ過ぎる! 『くぉんのーーーっ!』と身構える。



 そしてグッとやられたが、特に何も無く、逆にちょろっと力を食えた。


 気分は、『あれ?』だ。



 それから更にちょこちょこっと満たされて、『ほーーーーうっ』と僅かに回復する。予期しなかった嬉しい供給に、『ごち!』を述べるが円滑な再稼動にはもっと欲しい。だが、ぶん捕るには相手が悪い。悪過ぎだ。



 『もうちょっとくれないかな〜っ』


 催促もせず大人しく待っていたが、残念な事にそれ以上の供給はなかった。



 食わせてくれた力を認識したが遠ざかる、安堵もするが残念でもある。そして、なんとなーく近くに感知したはずの大事な気配も認識できなくなった。



 合図を送らねばならないが、力が足りない。結界の一つでもあれば、ばくっと食うがそれがない。そして大気や地中に手を伸ばそうにも、薄い力しか探知できない。



 『うわ、ここさいてぇ。なーんにもない。なにこのロスト・スポット』


 確認するだに、がっかりした。

 しかし、生物はいた。目を付ける。


 存立危機事態は回避されたが、第一級緊急事態発令は解除されていない。目下、継続中である。しゃきしゃき行わねばならない。その為にも力が要るのだ!



 小箱の中、黒い布に包まれた玉は薄い薄い光を伸ばして探索する。小箱では本当の意味で力を遮断できようはずもない。


 じっくりと、どれが良いか物色する。十分な物色後、魔力制御環を付けられた一人を選ぶ。


 ごちになろうとしたが、制御環が邪魔をする。上手くいかない。仕方なしに、『おらぁ!』っと残る力で制御環をボコって黙らせた。


 ガ、チン!



 「あ、なんだ?」


 「……おい、お前の止まってないか?」


 「…止まってんじゃねーか、それ! どうやったんだ!?」

 「それよか、こっちを頼んまぁ!」



 牢の中でも魔力が強い者の制御環が外れたのである。気付いた周囲は俄然、色めき立った。


 

 「は… ははっ! 不良品だったのか? おう、お前ら静かにしな。まずはこの牢を抜ける、お楽しみはそれからだぜ」




 太々(ふてぶて)しい面構えで立ち上がり、手に力を溜める。常と変わらぬ感覚に、ニヤリと笑って牢の錠を見定めた。


 力を組み上げ維持し、仁王立ちで格子に向かう姿は力強い。

 薄暗い牢内で醸し出す雰囲気に笑い顔は、悪役特有である意味非常にカッコいい。


 同じ牢内の者は下がり、他の牢の者は固唾を飲んで見守る。皆からの注目を一身に集める中、錠の破砕にブンッと力を振るった。



 赤が薄く輝いた。


 足元へと忍び寄り、しゅるりと足首に蛇の如く巻き付く。そこからぐるりと取り巻きながら這い登り、太腿から腹へ全身へと絡み纏わり締め上げる。破砕に振るわれた力と並行した事で、周囲の目を誤摩化した。強く輝き気兼ねなくむさぼり尽くす。



 「おおっ、すげぇ」

 「溜め込んでんなぁ」


 「力が上がってんじゃねぇのか!?」

 「声がでかい、静かにしろ! こんな時に降りて来られちゃたまんねーぜ」


 

 

 周囲が興奮を無理やり押し止める中、そいつの体がビクッと震えた。


 「あ、あ… 」


 体が反射でビクビクと動き続ける。


 ガシャン!


   …ズルッ  ズズッ    ドサッ!


 蹌踉めくままに目の前の格子に凭れてしがみ付く。格子を掴む指が震えて力が抜け、膝を着き、横に滑って倒れた。


 意識の途絶に力も失せるが、赤の光は余韻を残してから消えた。



 「…おい、どうしたんだよ!」

 「あ? なにやってんだ?」


 「しっかりしろ!」


 顔をパシパシ叩き、名を呼ぶが、起きることはなかった。



 「おーい? どうした」

 「なんで倒れた!?」


 「わからん! 起きろ!」


 驚き慌てふためいた。後ろでその様子を見守る一人が倒れた顔を見て、ぼそっと告げる。



 「……警備の奴ら、呼ぶか?」



 一人の提案に口を噤んだ。作動してない制御環に触れ、自分のモノに触れる。それから各々が顔を見合わせ、呼んだ後の事を考える。


 「まだ大丈夫だろ?」

 「少ししたら、気が付くんじゃねーか?」


 そいつは牢の奥に引き摺られ、転がされた。



 「あーあ、期待したのによー」

 「いや、重大だぞ!」

 「空振りかよー、なんでかねぇ?」


 「力んで失敗したんだろ?」

 「どーせなら、俺のがダメになりゃよかったのによー」



 色々なぼやきが出る中、ウキウキなのは玉である。『この調子でどんどんいこー! おー!』であり、それを実践する。躊躇う理由も状況もない。一度成した制御環のボコり具合も把握した。力も確保した。ガンガン行けるぜ、いやっほう!だ。



 地下牢内に赤の光がうっすーく光れば、呻き声に倒れる音が重なった。


 「なんだ? 寝たのか?」

 「おい?」


 「あ?」



 三人程倒れた後は、赤の光は発されなくなり視認は不可となる。格別な物など無い牢内で、意識の途絶に一人二人と倒れていった。眠る風情で倒れたが、安らぎの顔とは程遠い。 


 「どうした?」


 声を掛けても返事は無い。異常性に気が付いた。しかし、いち早く異常に気が付く力の強い者から順に、ドサッと倒れていく。別の牢で同時に倒れた者もいた。


 「おいっ!?」


 「……おい、警備兵! 降りてきやがれぇ!」


 牢に入れられた時から騒いで怒鳴っていた奴らでもある。素行の悪さと態度に定評を持つ者達であるからして、まず、牢番の警備兵は降りて来ない。第一、最終の見回りが終わった夜中である。




 めぼしい者が終われば、次に倒れる者の時間の幅は広がった。ゆっくりと、しかし確実に眠る風情で倒れていく。最後に残るのは数名の魔力を保持しない者達である。


 「なんでいきなり寝ちまうんだ!?」

 「お前は無事か!?」


 「おい、起きろって!」

 「くそっ!」


 近寄ろうにも格子が阻むので、呼び掛ける以外に手が無い。


 そして、硬直した。

 目に見えないナニかが自分の体を這っている。ナニかが体に触れているが、それがナニかわからない。奇妙な感覚だけが自分の確証を支えている。


 「うわ ………っ!!」


 叫ぼうとした瞬間、感覚は強くなる。痛みを覚える程に強くなる。


 「あ、あ!  いっ!」


  ズサッ…


 手をぶんぶん振りたくっても何も無い。空を切る。倒れた仲間に蹴躓きながら牢の隅に逃げても、感覚は消えない。

 

 「こ、のぉっ……………  !」


 恐怖を怒声に変換して周囲を睨めば、ナニかが喉に巻き付いた感覚がした。喉の奥がグッと圧迫されて、息が詰まる。



 『叫べば、次は自分の番』


 浮かび上がる思考に心臓がギュッと縮こまる。手で喉を掻き毟っても、掴めるモノがない。口を開けてパクパクする体がまた硬直する。身動き一つもせずにいれば、ゆるゆると圧は消えた。


 感覚だけが残る。



 「…はっ、ひゅっ 」


 干上がる喉から無理やり息を吐き出す。体の震えが止まらない。見回す仲間は倒れたままだ。

 裏社会の一員としてのさばっていた大の男が、仲間の倒れた牢の片隅で小さくなって震えていた。生理的な涙が滲み始めている。


 それは他の者も同様である。


 

 結果、牢内は夜中に相応しく静まり返っていった。









 「そこに段差がございます」

 「ええ、ありがとう」



 警備兵にレイドリック、リリアラーゼにロイズの順で地下に降りて行く。上で待機中のステラは、完璧なメイドの素敵スマイルで、現場の人間との軽い雑談から情報を得るのだ。



 「あら? …またやけに行儀の良い囚人だこと」

 「昨晩との態度の違いが素晴らしいですね」

 

 静まり返った牢内に声が響く。


 「今朝と同じです。異常を疑いましたが寝ているだけで、呼び掛けには目を開けます。普通に起きている者もおりますが、その者もやけに大人しく何も言わんのです。大人しくしているだけですので、問題に上げるのもどうかと。ですが、日に一度の昼の食事時間でも同じ状態なら、報告に上げようと思っておりました」



 カツンと足音が反響する中を歩き、一つの牢の前で止まる。

 格子に鍵を押し当てる。錠前が格子の内側から迫り出す。そこに鍵を合わせば、カチンと音がした。それに対して指先で紋を描いて更に施錠を解く。

 

 一連をレイドリックとリリアラーゼの二人で行った。



 キィ…



 「形跡に異常はなかったわね?」

 「ございません」


 警備兵が牢に入り、小箱を取って来て差し出す。レイドリックがそれを受け取り、確認に慎重に蓋を開け、布を滑らせた。



 「なっ!」

 「ええっ!?」


 「…っ!」


 「うわっ!?」


 取り払われた布の中で赤い玉は燦然と輝いていた。牢内の灯りの中、赤が強く輝く。四人の面前で輝く光は突然収束し、一筋のレーザー光となって光を伸ばし始める。


 「う!」


 バシッ! 

 

 「ちゃんと嵌まってないわよ!」

 「あっ!」


 グッ、ガシッ



 あんまり慌てた所為で蓋が綺麗に閉まらなかった…  しかし、光は閉ざされた。



 「い、今の、赤い光は…」


 真っ青になったのは警備兵だ。あまり感情を表に出さないロイズの顔も引き攣っている。


 「まさか… こいつら、寝てるんじゃなくて… 」


 ピンと来たのはレイドリックだ。四人が一斉に牢内を見回した。



 「…早く持って行くわよ!」


 ドレスの裾を持ち上げ、今度は容赦なく走る。


 

 「あ、はい!」

 「それから医者を呼んで、(実験混ざって良いから)状態を確認させるのよ!」



 幸いな事なのか、一部の心の声は心のままにあったようだ。だが、大事なことなので、医者は普通にソレをするだろう。




 ガシャアアアアアン…!



 牢の大扉を勢いよく閉める。

 牢番が焦る手で扉の鍵を掛けるのを確認して、全員で地上に駆け戻った。それから、あれこれと兵に指示を飛ばす、竜騎兵を増員させて更に立ち入りの制限を命じた。



 「見ての通り、元はこれだ! 慌てる必要はない!落ち着いて事に当たれ!!」

 

 「「 はっ! 」」



 残る者の心的被害を防いでから、三人は必死の形相を見せずに足早に清流の間に向かった。








 ああっ!俺のリュックに再び会えるとは! 

 覆い布の紐を解いて〜、中の口紐を緩めて〜、リュックの口を全開にして〜、中味を確認っ!


 …………なんでかな? 一応、整理整頓してたんだけどな? どうやったら、きっちり閉まった状態で中がこんなにぐっちゃぐちゃになってんだ?? 誰が毛布を取り出したんだ?


 ハージェストか? いや待て、それは無理がある。



 疑問解消の為に顔を上げたら、俺の手元を見続けている二人がいた。…並んで見られると変に怖いですよ? 特にお顔が。




 「開いたな」

 「簡単に」


 「手順は?」

 「兄さんは?」


 「あの〜、俺の毛布。誰が出したんですか?」


 質問に輝く笑顔で返事が来た。………うっそだぁ。毛布が駱駝になる訳無いじゃん。



 「嘘じゃないぞ、ほんとだぞ」

 「そういった嘘は言わないよ」

 

 逆に、なんで俺が知らない?みたいな顔された。


 大きさが変わる毛布は…  ふ、ふふふ、変幻自在の毛布でしょうか? やっぱ、イイもん貰ってたのか!



 「リリーが言うには、お前は死に掛けててな。こいつは熱で魘されて、容体が安定しない時にソレが来て、毛布になったんだと。それで、二人とも容体が安定したって事だが」



 は、死に…?


 ええっ!? 俺、死に掛けてた!? 最後は気持ちよく寝たと思ったが…    あ? みょ〜にやっばい感覚したんで、思考シャットダウン。




 「えー、お手数、かけま… して?」

 「ん? いやいや、それは問題ない。一切無い。弟の事でもある。そんな事は気にしなくていい」



 

 それから、見た時の状況をもっと語ってくれた。


 …考えれば、自力で毛布が出たって事の方が辻褄合うな。なんせ、おにいさんの毛布だ。駱駝発動条件がわからんが、ナンか納得するわ。しかし、現物見ないと本気で信じられんね〜。ははっ。





 ココンッ・コンコンコンコンッ!!


 「ご歓談中、申し訳ありません!」




 うおっ、突然の連打音にビビるわ! 足音一切、聞こえませんでしたよ!?


 びびったんで、リュック抱き締めた。



 「ロイズか、お前一人か? どうした」

 「先に… ご報告に上がりました」



 息急き切ってはいないんだけど、大変慌ててらっしゃるの男の人だった。

 二人が部屋から出てる間、俺はハージェストから「ありがとう」とか言われてた。俺の毛布に助けられたと言われると、「むう…」なんですがね。





 「再び、赤く輝いておりました。囚人共の力を食ったと思われます」

 「ふん、やっぱりそっちに動くのか」


 「は? あの」

 「ま、あそこに突っ込んでる奴らなら構わん。警備の者達に被害はないな?」

 「はい、そちらは誰一人として問題はありません」

 「なら、良い。 …ああ、来たか」



 ガチャン!


 「はっ、はっ! あ〜〜っ  お、お兄様! また…!」

 「お疲れ、リリー。  レイドリック、こちらに」


 「お、お待たせ致しましたっ… 」


 渡した時点で四人の顔が安堵に包まれた。

 息を整え、服装の乱れを直して、何事もなかった風情で五人は部屋へ入った。






 「待たせた。別の場所に保管していてな。これが言っていた、お守りか?」



 リュックの確認を終えて締め直し、並んで椅子に座っていた二人の元へと笑顔で戻り、テーブルの上に小箱を置く。


 セイルジウスの少し後ろにリリアラーゼが並び、そのまた後ろに位置をずらしてレイドリックが立ってテーブルを見つめる。それより左右に広がって、ロイズとステラが何時でも飛び出せる風情を隠して静かに控え立ち、全員が小箱の中味が見える位置で成り行きを見つめていた。



 小箱の蓋を取り、黒い布をサラリと捲れば玉が煌めいた。

 無色透明、内に紫・青・緑・黄・橙・赤・金の輝きを有して煌めく様は、まさに極上のウォーターオパールである。



 見た者の愕然とした表情が、心情の全てを物語っていた。







 お守りはウキウキだった。ウハウハだった所にお迎えが来たのだ。


 力を認識すれば、ごち供給をしてくれた力。どうするか? 行動パターンを選択した所で移動が始まった。そして最低なロストスポットとさよーなら〜。


 わかる違いに、『よし、合図を送るぞ!』と展開を始めたが、更なる移動も再開された。そんな中で、大事な気配をがっちり捕捉した。近づいている。


 『…話のわかる奴って、イイネ!』

 

 合図を引っ込め、ひたすら気配だけを感知した。




 「あ、これ…」


 その声に歓喜(光度)を上げる。


 『無事だったああああ!?』



 みぎー、ひだりー、うえー、したー、まえー、うしろー、ななめほうこう〜。  よし、全方位オール異常なし(グリーン)!!




 ウォーターオパールの輝きの中から緑の光が強く浮かび、玉全体が美しい新緑色に染まる。



 「あ、うん! これ、俺の!」



 大事な手のひらに乗せられて、玉は不要な力の排出を決定する。

 安全が確保されたなら、緊急事態の終息だ。次は最優先事項に取り組まねばならない。その為に存在するのだ!


 大事な一人には当てない様に、それだけを注意して後はぞんざいに排出した。


 

 ゴォッ!



 一気に室内の魔力濃度が跳ね上がる。

 囚人者達の魔力を搾り取れるだけ搾り取った上で、特別枠を設けて精製保有していた力である。



 「「「 ……!! 」」」 「ぐっ!」  「いっ…!」  「…… お〜」



 台風の目以外は直撃を受けた。

 一人は排出された魔力を全く感知しなかった。隣に居た一人は隣だったので半減したが、それでも濃密さにくらりとくる。同じ室内にいるので、その意味が薄れる事も無い。


 更なる強制排出により、室内から外へと押し遣られる。それは大気中に放出された途端、濃度の高さに比例して急速に拡散していった。


 それを地下牢に繋がる建物の外で、本館を注視していた一握りの竜騎兵だけが感知して青褪めた。室内に居た、兄と弟以外の全員はもっと青褪めた。




 玉は必要な事を必要に応じて大事と行った。それだけだ。


 受け取る側に「それは脅しだ!」と感じられたなら、それこそ作成した年を経た男の茶目っ気だろう。楽しまねば損だと考えるじーさまである。


 しかしだ、第一級緊急事態発令行動。これが中途半端なモノでは済まされない、舐められるのは許さない。そんな甘っちょろいモノは作らない。


 男の依頼品。絶対に、手は抜かない。








 「リュックに、お守りを見つけてくれて、ありがとうございます。 あのですね… ウエストポーチも探して欲しいんですが」



 煌めく玉を手のひらに乗せたまま、笑顔で兄弟三人を均等に見て言った。

 


 『待て、まだあるのか!?』

 『あれがお守りって嘘でしょう!? 普通、お守りって言うのは……!  あら?』

 『今の濃度、嘘だろ…! いや待て… 違う! そうじゃない!』


 他三名も心中で怒鳴り叫ぶが、声には出さない。

 今の状態を自分がぶち壊してはならないと、したら自分の終わりだと。硬直で引き攣る顔を、スマイルに変換して必死で保って沈黙していた。





 「もちろんだ! この街で、誰にナニされたのか、全部話して欲しい!」



 隣から手を伸ばし、玉を持つ手ごと両手で握り締めて力強く言った。 






 

ウォーターオパール = ジェリーオパール = クリスタルオパール。


オパールは実に遊色効果が美しく。ブラックオパールも良いです。






はい、雰囲気ぶち壊しクエスチョン。

その2の手を握り締めたその1の第一・・心情を下記から選べ。一つですよ。



1、やばい物は早く隠せ

2、絶対に失くさない様に

3、俺はやるから信頼してくれ

4、俺がやるから出番を取るな

5、俺のだから手は出すな

6、この手を通せば、もしや魔力が

7、確保だ!





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