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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
63/239

63 ぐだぐだの日

 

 ドンドンドン!


 「ノイさん、起きてますか? とっくに朝ですよ〜。もうそろそろ起きないと、お役人様が来られますよ。ノイさーん!」



 声は聞こえた。開かない目を、開けられないままに返事した。



 「は… いー」

 「朝食も出来てますから、冷めない内に降りて来て下さいね」


 「は  ぁ いぃぃ」


 他の部屋を回り、階下へと歩いていく足音をベッドで唸りながら聞いてた。

 はい、筋肉痛です。起きた時から全身、ピキピキパキパキしてます。体がダル重い。しかしそれ以上に痛い。ぐああああ。塗り薬ぬっときゃ良かったぁぁ!!


 昨夜は遅くなった。宿が閉まってたら恐怖だった。

 疲れてたけど、変な感じに気分は上がってた。宿に着いた安心で、そのまま寝た結果がこの筋肉痛だよ!


 今日は領主館に、ハージェストから返事が来てないか、確認に行こうと思ってた。だが、可能なら今日は寝ていたい。しかし、役人が来ると言った。そういえば、以前聞いた予定でもそろそろだったなぁ。賠償についての話だから〜 起きないと〜。


 「う〜〜… 」


 ベッドで腕を立てて起きたら、支える腕がブルブル震える。


 うわぁぁぁ…  やめてくれよ、俺は幾つだと! くは、辛い。




 階段を降りるのに足がガクガクします。手摺りと介助が欲しい自分が悲しい… 尻で一段ずつ降り…たくねぇ! ハージェスト〜っと、呼びたい所で止めといた。


 トイレと洗面を済ませて食堂に入ったら、役人さんが来てた。他の人も居た。


 あいた、俺が最後ですか?



 「女将、他の者は?」

 「あの後も宿を利用して下さっている方々は、ここに居られる皆様だけです」

 「そうか。では、終わった者と離れた者の確認は後でしよう」



 それから、話が始まった。飯抜きで… ま、直ぐ食べなくてもへーき。



 いや〜、大人の会話でも色々あんね。ほーんとあるねー。


 そーいや、何の時だったかな? なんかでTV見る事になったんだ。

 なんとか会議の生中継見たけど議会が紛糾してるってか、やじの方がうるさかった。何言ってるか聞き取れても、やじに意識持ってかれたな〜。途中からだった所為か、内容そのものも半端だったんだけど妙にイラッときてさー。変に腹立ったなぁ。最後はもう自然に脳が拒否って右から左へ流れたなー。

 小学生の頃、お友達の発言はよく聞きましょうとか言われて、静聴しろと教えられたけどなー。あ〜いうトコではやじ飛ばせて一人前? しかし、会議が白熱することもないとなると、それはそれで変なんか〜。



 あー。ものすっごく要約すると捜索続行中だから、まだ待て。宿の安全面とその後の対応に目立つ不備は無い。じゃあ、どうなんの? 堂々巡りになるが、何抜かしても悪いのは犯人だろ〜。つまりはまぁ、運が無かったと。


 元のリアルなら、どうだろうと思うけど。

 裁判起こして法廷に持ち込む。それってさぁ、それができる社会の土台の上に成り立ってんだよな? 裁判にどんだけ費用が掛かるんだろね。今のリアルで考えずに比較ばっかしてんならアウトだよな〜。でも、元でも待ちの姿勢は変わらんと思う。


 …まだ、一部有るし。元はと言えばあぶく銭の類いだし。…………… 友達 いるし。 多分。まだ。 大丈夫です、俺。



 小一時間の話し合いが終わっても、朝食兼昼食を頂きたいので食堂に居座ってた。ジェフリーさんを発見したので、お願いしに行った。その後も女将さんと役人さんは話してた。


 「ノイ… 」


 ご飯待ってたら、名前呼ばれたんで振り向く。女将さんが役人さんに向かって、俺を手のひらで示してた。


 「あなたが、ノイさんですか?」

 「はい」


 「竜騎隊のレオン・アスター様よりお手紙を預かってきました」



 …………いやっほぉぉい! 情報が向こうからやってきたー!!


 「ありがとう、ございます!」


 満面の笑みで受け取ったよ!

 初めての俺宛の手紙です。嬉しかったんだが文盲だった… 俺にとって猫は生きていく人生の確かな一部だが、読み書きも必須だった。にゃーあ。


 「字は… 読めません。読んで 欲しいです」

 「はい?」


 手紙の内容に興味がありましたよね?

 こっちを見てた役人さんに頼んだよ。可哀想な顔、再びだよ。いや、三度か?


 「では、代わりに失礼して」


 開封して、便箋を読んだ役人さんは静かだった。視線が上から下へ二度流れた。

 便箋をテーブルに置き、字を指差しながら俺に読んでくれる。ここの役人さんって、皆さん優しいね。





 「 ノイへ。


   連絡無し。来るだけ無駄。今少し後に。 


                      レオン・アスター 」






 簡潔なショートメールでした。

 要点を絞り切った素敵な手紙でした。手紙をくれるだけ優しいと思います。


 「ありがとう、ございま した…」


 手紙と役人さんに礼を言っといた。

 帰られる役人さんと入り口まで送られる女将さんを食堂で見送って、俺は食事にします。


 俺の朝兼昼のご飯は、パンとミネストローネなのと卵料理です。卵の方はココットの名称で良かったかな? 深皿いっぱいのミネストローネが美味しかった。

 しかし、パンは固いんで食ってたらクロワッサンを思い出す。ココットの上でトロけてるチーズに昨日を思い出して、少し笑った。


 お姉さんの勝負はどうなった? あの小さな女の子、結局お母さんに怒られたかな〜っ? ふははっ。



 今日もジェフリーさんのご飯は美味しかったです。ごちそうさま。うん、一食浮いたな。





 


 階段を上がって〜 

 足がいてぇぇぇ! 太ももがー! 俺のもも肉がー! ひ・き・つ・るー!! 



 …今日は引き蘢るか? いや、風呂に行って揉むべきか?



 部屋に戻り鍵を開け、ドアばったん。カチャッと鍵をかけ直し、ベッドにばったん。


 うおお! 全身クルーーーーーー!! いだーー!    ぐあああ、痛くなかった猫時、恐るべし。



 「ふーーーう」


 後で風呂に行くとして。

 レオンさんが手紙をくれたって事は認識されてる。居場所連絡も通ってる。なら、やっぱり宿替えは無しだな。期日が来たら、延長するのが一番だろ。早めに話す方が良いか… 稼働率百%じゃないから当日でもイケると思うけど〜 食事が困るか?



 カサッ


 ポケットから横になったまま手紙を取り出す。


 あ、しまった。ちょっと折れた?



 広げた便箋の字は、罫線も無いのに歪みもしないで綺麗に揃ってた。

 商品に添えられた値札。看板に小さく書き加えられてた文字。シューレに来るまでに目にした文字。メリアナさん達の字。比較すれば、すごく上手な字だ。…いや、上手な筆蹟か? あれ、手だっけ?



 パンパカパーン! 

 本日の入手アイテム〜。 レオンさんからの手紙〜。


 これはもう、お手本だな。


 えーと、紙と鉛筆。いや、インク。いや、黒板と白墨。いや、砂場で棒。…地面でいいわ。



 そっと紙面の字を指でなぞってみる。

 ………見るのと書くのでは違いますね。大違いですね。ほーんと、やる事いっぱいだ。 他に は、









 うえ? あ〜、寝落ちしてた。

 手紙が無事でヨカッタです。涎もついてません。でも、今日はもう何にもしたくない。風呂に行ってぐだぐだしよう、そうしよう。


 着替え一式持って風呂屋に行く。


 山の花亭は食堂に面積取ってるから風呂は無い。個室で風呂付きの宿になると値段が跳ね上がる。こんな事になるなら、値が張っても安全な宿に泊まれば良かったと思う。でもなぁ、ソレ言ってたら安全だと判断した俺がアウトなだけだ。 『今だから』 の話なんだよなー。ああー、違う意味でやっぱぐだぐだー。解決か街出るまで、きっとぐだぐだー。



 「あ、いってらっしゃい」

 「はい。 いってきます」


 風呂屋、風呂屋〜っと。


 道で立ち止まって空を仰いでも、人である俺の目にはキラキラもチカチカも見えなかった。猫である時に見えたモノは、今は見えない。影の中は影でしかない。


 この事は、どう考えるべきだろうか? 一体何が違うんだ? 猫の時でも俺は俺。

 

 猫の時、体が軽いと…

 待てよ? 俺は昨日どこまで自力で歩いた? ちび猫でどこまで歩いて走った? 最後は… 駆け続けて。ちび猫の体力が人の時と同じ? そんなわけない、違うだろ。昼前には眠くなって… 人であっても結構な距離を昨日は走ったんじゃないのか?


 なんでだ? なんで体力続いたんだ? 初日は一日中してたけど、しっかり休んでた。疲れちゃあ、休みを繰り返していた。だから自分でも体力面が問題だと…



 道端で立ち止まったまま、目を閉じて考えた。


 人でないモノ。





 …真面目にわかんないね。風呂屋に行こ。

 

 マイナスしそうな思考はシャットアウト。


 歩みを再開して周囲を歩く人達を眺めて、ふと思う。

 ここで「ステータス」っつって見れたら楽だろな。人様と自分のステータス見れたら、そりゃ楽だろーな〜。そしたら、猫の時との違いも直ぐに理解できて終わるな。そんで、じゃあこれをあーしてこーして考える。けど、元はなんでだ?って追求し続けるだろーか? そんなもんだからで終わんね? ラッキーで終わらさね?


 …おねえさんが「考える力を養いましょう」って言ってたな〜。


 自力で頑張りましょうだぁね〜。 …ん〜、まぁ。上手に無いモノの僻を誤摩化しました〜ってね。あははっ。

 欲しいスキルなら、どこで手に入れた?なんて聞きたくなるだろうけどね。そんな方向走ったら、俺が俺じゃなくなりそうですネ。なくなる俺はナンでしょね〜っと。



 「こんにちは」

 「いらっしゃい、一人かね?」


 「はい」




 ザバッ!


 あー、昼間の風呂って最高。あー、体に効く〜。


 湯船に浸かって、のーんびりしてればケリーさんを思い出す。一緒に風呂屋に行って入った、あの一時。小さい子供ならともかく。


 隠せよ、ちくしょう!!  ま、慣れたけど? 俺は仲間に入らんからな。断固拒否するからな。…偶に仲間を見つけると嬉しい。



 風呂から上がって一息ついて。

 思い切って贅沢することにした。した事ないんだ。チャレンジだ!



 「お願い、します」

 「はい。よろしくお願いします」


 お願いした後は布で仕切られた個別のブースに入ります。そこの簡易ベッドに横になって待ちました。横になると楽です。


 シャッ


 「お待たせしました」

 「は い」


 ギシッ


 ベッドに掛かる人の体重の音にドキッとした。


 「あ… あの、 えと。ちょ、ま」

 「初めてでしたね。大丈夫ですよ。緊張しないで」


 頷いて、お任せする。



 「あっ、 そこ!  あっ… 」

 「ここが良い? じゃあ」


 人の手の体温に、グッとくる。




 「あ! あ。  あーーー! いだーーーーーーーー!! いた、いた、いた。 イいーーーーっ」

 「こむらが一番キてますね。足裏もしましょうね」


 「あう。 そこ! そこがぁぁぁ〜〜」

 「わかりました」


 

 イタ気持ち良くマッサージしてもらってました。コリコリ、ギュッギュッと押されて天国と地獄見てた〜。体重乗せたツボ押しってか指圧ってか。マッサージしてくれてるこのお姉さん、絶対俺より握力あるよ!


 マッサージさんは男女一人ずつ居た。

 丁度、お姉さんの手が空いてた。目が合ってニッコリしてくれたんだ。これはしないとね!

 少しだけドキドキだったよ。うつ伏せ寝をした俺の片足をお姉さんが跨いで両足で挟んだ時は、も〜っとドキドキした!

 アロマオイルをやさしーく塗られて、やんわりマッサージだったらまた違ってたな。もっとドキドキだっただろう。しかし、現実は指圧に手のひら押しだ。痛さでドキドキは飛んだ。でも、イタ気持ち良かった!


 ベッドに座って壁に背をもたせて足裏になると、「あー!」とか、「いだー!」の繰り返し。ベッドの前に座って、マッサージしてくれるお姉さんを堪能する暇無し!


 足をメインに全身してもらいました。ほんと体の血行良くなって、ほんのり桜色を通り越して赤いですよ。体と顔が火照ってます。熱い…



 ごくごくごくごくごっ…



 「ぷはぁーーーっ」



 五臓六腑に沁み渡る冷水でした! ここでアルコール入れたら死ねると思います。は〜あ。



 「またご利用くださいね〜」


 少し休んだので風呂屋を出ます。手を振るマッサージのお姉さんに笑顔で振り返した。


 体が軽くなって気分も上がって、引き蘢るのがもったいない。デトックス効果も付いてるよね? あー、お金払うだけの事はありましたー。ヘルスケアだねー。別のヘルスはまぁまぁまぁまぁ、あっはっはっはっは。考えなーい。


 気分良いし、ここら辺をふらふら歩こっかな〜?

 

 「今は楽でも治ったわけじゃありませんよ。今日は無茶はしないようにしてね」



 お姉さんの一言を思い出したんで、大人しく宿に帰還しよう。



 宿に戻って裏の洗濯場を見て、「あ、洗濯しなきゃ」と思ったが、やる気でなーい。

 でも部屋に入るのは、やっぱりもったいない気分。だから、日当たりの良いそこの近くに座ってボケてた。もちろん、離れてます。人様の洗濯物には近寄りません。


 棒が落ちてないか目で探して、小枝拾って地面に字の練習した。

 手紙を取りに上がって、また降りてくるのが面倒かったんで脳内記憶映像で頑張った。


 自分の名前を書く。



 ノイノイノイ・ノイっと。   うん、こういうスペルなんだなぁ…



 おもむろに地面に書いた名前を消す。しかし、手でやったら痛かったんで今度は足で消そう。ザカザカすると土煙立つから静かにね。


 それから次。


 レオンレオンレオンレオン〜っと。


 窓口の人の名前は書けないとな。しかし、アスターってスペルの一部が思い出せん…  ち。 

 でもまぁ、レオンのスペルを覚えれそう。ハージェストは後回しだな。まだよくわからんし、ちゃんと習いたいな。ヨハンさんとメリアナさんにもっと教えて貰えれば良かったな。…いや、あれはあれでいっぱいだった。文字より命が掛かるサバイバル演習が優先に決まってる!



 そんで次は〜。



 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーー  無駄ーーーーーーーー!!



 大変良い感じで書き続けた。

 無駄って書き続けた。最後、書いた上に重ね書きした。変な感じで気分が上がった♪ あっはっはっはっは〜い。


 おらおら、無駄〜。


 愉快に笑って足で地面を消したら、足の筋肉様が「うぇぇ!?」とか叫んで引き攣れた。 


 ビキッ!とキた。

 その場でしばらく変な格好で静止画像してた。像から人に戻るのに時間が必要だった。そろそろとしゃがむのに泣きそうになった… ぐああ!


 『ふっ。 今日はこの辺で勘弁してやるぜ!』


 脳内でかっこよく呟いてみたが、痛さで様にならなかった。



 いいんだ… 遊びなんだから。

 部屋に戻ろう。しかし、無駄のスペルに負けた気がするのは何故だ。くそぉ。 いいんだ! 今日はぐだぐだの日なんだから!




 「ただいま です」

 「おかりなさい」



 慎重に階段登って部屋に入って落ち着いた。手紙を見直して、アスターのスペルを確認。それからベッドに、ごろん。…こんな風に日を過ごすのって、この世界に降りてから初めてだ。


 もうまったりとね。ゆったりとね。










 「いってきます」

 「はい、いってらっしゃい。お気をつけて」



 女将さん達の見送りを受けて外に出る。今朝は雲が多いです。

 女将さんはとびきりの笑顔だった。まあね〜、まだ日数に余裕あるから後にするかと迷ったけど、宿泊の延長入れて一週間分前払いした。今回の支払いは、お金です。女将さんの隣に居たオルト君が、「今度はお金だ」って言ったのに笑っちゃったよ。


 昨日一日ゆっくりしたお蔭かな? 平気。

 朝飯食って、部屋で慎重に朝の体操した。痛くなかった。室内だから極力音を起てないように、飛び跳ねは無しで。


 体が痛くないんで今日は猫します。読み書きも悩むんだけど、猫で確認したいことが増えたからな〜。


 それでは参りましょう。そぉれ、にゃんぐるみ〜。




 スタタタタッ…


 一生懸命頑張ってみたんですが、俺の番猫様も見たんですが。装着終わったら、お着替え部屋からオートで出た模様。うーむ、謎だ。着替え直後は居られないのかな?


 回数重ねれば判明するか。


 よし、それじゃあキラキラかチカチカ探すか。ちび猫は探索するのだ! おー!!







 うむ、現在の成果を発表しよう。

 キラキラの発見、四回。チカチカの発見、十一回。その内、遠過ぎてキラキラか判別ができなかったのが二度。なので、正確にはキラキラ発見は二回だ。


 キラキラは希少に部類するな。

 

 そして、チカチカにお願いしてみる事にしたんだ。

 しかし、何をお願いして良いのか… これらが魂の欠片だった場合、恐ろしい。なんかのゲームか話で自分の魂削ってバトルするとかあったよな? 削って元に戻らないなら、後々どうなるんだ? 削られた分が浮遊してコレとか言ったら、それまた微妙。


 応援依頼をしたが… ふゆーれーの欠片が勝負見物に憑いて行ったと考えたらヤバいわ! イメージで吹くわ! にゃはははは。



 さぁて、猫探偵は未確認飛行物体の謎を解かねば。…違うか。不確定飛行光源か。


 人に向けて危ないと怖い。あのお姉さんは不可抗力でカウントスルー。



 『お願い〜、こっちに動いて〜』 『あっちに動いて〜』



 上に〜下に〜 回転して〜

 そんなお願いをしてた。笛があったら、ピッピッピッピと鳴らすのに。



 『いいですか? 号令は俺で、動くのは君だ! わかった?』


 

 ビシッと猫手で決めて言ってみたが、チカチカは動いてくれたり、くれなかったり。

 猫手であっちと左を指せば大回転した。猫手でこっちと右を示せば近寄ってきた。お願いせずに黙って見てたら、流れて目の前を通り過ぎて消えてった。


 遊んでるよーな、遊ばれてるよーな。ちび猫が、にゃーにゃーしてるだけのよーな…


 お願いではあるけど、お願いの質が適切でない?



 ううむ、猫探偵の頭脳は回っているが謎は解けなかった! うにゃーん。



 こうなると勝負の結果を知りたい。

 あのお姉さんのトコに行きたいが、お給料を貯めて買ったと言ってた。仕事持ち。なら、いつもあの時間帯に居るとは限らない。デートの為に休んだと考えられる。それにあの界隈は着替える場所がなぁ。人の姿で行って聞いたら、不審者だよね?


 うーんまぁ、知りたいが〜。良い事ばっかじゃないもんな… 場所柄あいつらに出会わないと思うけど… はぁ。


 犯人は犯行現場に戻ると言う。しかし俺は戻らない。犯人でも無いけど戻らない。絶対にあっち側には行かないんだ! 行かないと宣言する事で立つフラグは折る。必ず折る!

 アレもカゴに入れっぱなしに… なるだろうな〜。異次元な上に銀光がまぶされたから、人に見つかる事はないだろう。アレも何だったのか知りたいが、知りたくないなぁー。


 あー、やだやだ。

 猫の為の慰謝料だったのに。コロコロして遊ぼうと、ちょっぴりだけ思ってたのに。



 そーいや、俺の番猫様には名前あるんだろうか? 俺の為のカゴ番としてくれたんだから、俺が名前つけて良いのか? 名前あるか聞かなかったな〜。まさか、マスコット猫が大きくなるなんて、そんなん思ってなかったからなぁ。うーん。でも堂々として格好良かったな。さすが、おにいさんがくれた番猫。 


 どんなバトルしてたんだろうな… ははは…




 その後も見つけてはチカチカに号令を続けてみたが… うーむ。謎だ。


 昼を回ったんで切り上げる。

 番猫様と話せないかと期待して、周囲を確認して〜 にゃんぐるみ解除!



 俺は部屋に居た。金と銀の光のベールで覆われたあの部屋に居た。


 カゴと番猫。布をペッと捲れば服とあの小袋。

 室内に居ると思えば着替えも楽です。手早く着替えながら話し掛けた。


 だけど、あの後と同じく返事はなかった。大きくなる事も無く、マスコット猫のままだった。…もしかして、疲れているんだろうか?


 そっと触れても、命の鼓動は無かった。

 少しその場に居たけど、光が急速に薄れる。急かされたと判断して、さっと出た。



 出て直ぐに女の人が二人、向かい側から喋りながら歩いてきた。



 「…なんだって。すごいわよね〜」

 「へー、そんなこともあるんだ。いいなー、私もあやかりたいな〜」

 「ほんとよねぇ。羨ましいったらぁ〜」



 何気なく、すれ違う。


 危ないトコだった。

 お着替えスキルだと自分で言ったが、本当にお着替えだ…! 『服を着る』に拘らなければ、言われた通り、確かに瞬間で終われるんだろう。


 但し、必ず真っ裸。

 出会う人達に絶対叫ばれて、俺も悲鳴を上げてしまうわ!


 俺は一人で、お着替えができる様になった。しかし、一時的に見えない場所で着替えてるだけなのか? いや、時間に換算すると普通とは違うはず! …どちらにせよ、自力での完璧な着替えが無理だと言う事が、よくわかりました!! あそこで頼んでて良かったあぁぁぁ!!! 涙出るわぁ。


 でも、何も無いと思って人が突っ込んできたら、ヤバくね?



 発動時は難しかったが、解除時は余裕があった。

 

 …着替え終わったらokって事だろうか? 


 ① 人がいて、猫が出てくる。

 ② 猫がいて、猫が出てくる。

 ③ 猫がいて、人が出てくる。


 問題ないのは②だ。言い訳ができるのは③だが… 猫ならあっちに行ったでok? あー、わかんねー。どのみち安全第一でスキルは使いますっと。



 午後からは領主館に行かねば。

 「今少し後に」って書いてたから連絡はないだろうけど、手紙のお礼は言うべきだろ? 礼を言うなら早いうちに。 …時間あるしさ。








 「ただいま です」

 「お帰りなさい。夕食は始まってますよ」


 「ありがとう」



 夕食も洗面も終え、後は寝るだけです。今日も色々しました、ありました。


 領主館に行ったけど、レオンさんは居なかった。代わりに出てきた制服さんは知らない人で、素気すげ無い対応でした…

 手紙のお礼を言いに行っただけなのに、別の意味に取られたんでしょうか? なんか… 嫌みっぽい事を言われた気が今更ながらにしてくる… 腹立つより、しょんぼりするってか… あんま近寄りたくないってか。はぁ… ハージェストは嫌味な奴だろうか? あー、なんで貴族さんなんだろ? …いや、まだ決定じゃない。


 はい、今日も一日よく動きました。おやすみなさい。








 起きたら昼近くだった… 


 朝、何かに返事した気もするんだが… 体がダル重い。猫の反動だろうか? 昨日は半日だけだったぞ… 今日は読み書きの勉強にして教科書でも探そうか。


 ちなみに俺の分の朝食はなかった… しかし昼食は出た。ああ、良かった。


 食べ終わってから、女将さんに本屋はどこか尋ねた。

 教科書が欲しいと話せば、オルト君のお古はどうかって言ってくれたけど、リタちゃんが使ってるんじゃね? それっぽい姿を見たんだ。

 

 聞いたら、そうだった。…どう取るべきか。やっぱ金の工面ですかね? それなら、延長に前払いしてヘルプしてあげたつもりなんだけどな〜。ま、自己満足兼ねてるけど。



 微妙過ぎるんで、本屋に買いに行く事にした。


 オルト君とリタちゃんは午前中、学校ってか私塾に通ってる。昔で言う寺子屋かな? 午後は家でお手伝いっぽい。日によって違う感じ。


 教えてもらった本屋は、雑貨屋さんだった。

 お店のおばさんと話をしたら、私塾の先生してるのが親戚だとか。教科書は厚みが中、高厚、極厚の三種類。とりあえず、中を買うが発音問題発生。文字と発音の組み合わせ確認が必要です。


 店のおばさんに、今だけ先生をお願いした。


 「あらま、良いわよ。もっと勉強したくなったら、是非!塾に通ってね〜」


 ふは。

 おばさんと二人、お愛想笑顔を交わして一番最初に覚えるべき字と、その発音を修得した。うん、根性だ。後はクロスワードモードだな。頑張れ、俺の頭脳!


 

 

 その後、宿に帰って勉強した。

 筆記用具も購入したら、反古ほごもくれたんで、メモ帳は使わずそっちから使います。



 …一ヶ月以上、紙面勉強と遠ざかってたんで頭脳から熱が放出されてます。ぷしゅ〜って蒸気が上がってるはずです。やっぱり先生が欲しいです。辞書があっても、活用できん状態です。



 脳みそ倒れる方向で、一日が終わりました。

 明日は外に出ないと勉強に拒絶反応起こしそうです。















 待つ時間。

 俺は必要な事をしてる。字を覚えようと勉強し、猫でできる事に力を入れてる。どちらも俺自身の努力なくしては得られない有益で必要な時間。


 日は昇り、日は沈む。時間は確実に進んでる。


 なのに、俺の時間は進んでいない。 …先が決まらない所為だよな。  焦りでは、ないと思う。別に時間の制限もない。金の問題はあるけど。

 

 なかなか進路が決められなかった高校時代の心境、みたいな。…迷う俺の背中を押してくれたあやめ姉ちゃんは、  遠いな。




 ああもう、やっぱりぐだぐだー。






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