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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
58/239

58 相対性、理論

 

 ふふふふふ。筋肉痛さん、いらっしゃ〜い。

 あー、変な感じで痛いです。こんなおまけが付くとはね〜。でも、動きますとも! 今日は領主館に行くんですから! 男爵さんか本人に会えるといいな〜。



 「おはようです」

 「おはようさん」


 「おはよう、今更だがすまん事になった」


 親父さん! 四日ぶりに見た親父さんは元気そうだったが、服の間から包帯が覗いてた。松葉杖、ついてた。応戦した時に腕と足をやったらしい。少し話をしたよ。


 朝飯貰って食堂に来てる人達を見回せば、知らない人が多い。居残り組みでも、もう出て行った人の方が多いんだろうな。

 

 今朝の飯は、パンとカボチャスープっぽいのと小振りな魚の香草焼きです。フランスパンみたく、ちょっと堅めなんでスープに浸けて食う。よくある感じで良い感じ。しかし香草が俺には、ちょいきつい。


 準備を整え、出発です。

 途中で、クレマンさんのお店に寄りました。



 「おはようです!」

 「おはようございます。今朝はどうしました?」


 変わらない笑顔に、笑顔を返します。


 「そうですか! 今日、会えると良いですねぇ。あれから、この辺りも巡回が多くなってます。物々しい気もしますが、一時でしょう。荷物も早く見つかると良いですねぇ」


 クレマンさんと少し話して、預かり日の再確認して再び出発。


 

 歩いて、歩いて、きーんにーく、つーう♪


 あー、良いことばっかじゃねーっての。だーれだよ、スキル使えたら、何でも解決するなんて思ってんのはー!? あ〜〜う。いてぇ。

 ま、使い熟すけどな。絶対に。慣れだろ、慣れ!



 今度は大人の喧嘩にも出くわしません。前回、問題が発生した場所を通過致しました。

 綺麗なお姉さんにも会いません。なんだか残念な気もします。しかし、同じ所に立っていたら、それはどう考えてもそういう事なんでしょうか〜? 大通りだけどな、この道。



 怪我した親父さん。喧嘩してたあの人達、問題があったかもしれないお姉さん。まーた、死にかけてた俺。


 それぞれの人生が巡ってんだよなぁ…



 何人の人が死んだ。こんくらいの規模で、どんだけの人数が。数値化されて用紙に記載。


 わかるんだけどね〜。数字が大きい分、どんだけ悲惨だったかとかわっかりやすいんだけどね〜。必要性は理解しても数字の一端担って終了って、すごく嫌。

 何千人、何万人単位で戦争して、その頭張って。ゲームや話の主人公でやるじゃん? よーやるわ。まーね、ゲームだし、話だけどさ。


 『この戦局で死んだのが何人程度だから問題ない。成功だ。俺の采配って、イイネ〜』


 そんな風になんて、これっぽっちも思えない。数字に感情なんて入る隙がないもんな。数字でないと、やってられないってのもあるだろうけど。最初っから数字でしかないって思ってんのなら、最悪だってーの。そんな話ばっかなら、もう聞きたくないってーの。



 …俺が数字のいちをしたからだろうけど? 年間死者数のいちだろ? 俺は。自分で見る事なんて無いけどな。


 あー、なんだろ? 変な感傷。

 


 気付けば、口がへの字なって下向いてた。

 これから会いに行くのに、これではダメだと顔をペシペシ叩いて気合いを入れる。顔を上げる。



 ふーーーーーーーうっ

 


 その場で大きく深呼吸〜〜〜〜〜。息を吐きながら、空を見上げた。


 

 うん、前々から思ってたけど。

 電線が無いって、スッキリしてんな〜。



 それから、何事もなく無事に領主館に到着しました。

 相変わらず、立派です。蔦のアーチも素晴らしいですが、それをスルーして迷わず受付へ go! 今回の受付さんは女性です。前回の受付さんはいませんでしたが、整理券出してお話を聞きます。


 「確認してきますから、そちらの席でお待ちください」


 待ち合い席ですね。言われた手近な椅子に腰掛けて、他に居る人や壁を見たりして待ちます。

 座った正面の壁際に花瓶を置いた飾り台があって、花が生けられてた。赤や橙色した大輪の花。その花を引き立てる小さめの他の花々。葉っぱの緑。


 名前も知らない初めて見る花を綺麗だなぁって見てた。重そうで立派な青緑色の花瓶に、値段幾らなんだろうと俗な事も考えてた。


 「お待たせしました」


 笑顔で帰って来た受付さんの次の言葉に落胆した。


 「男爵様は忙しくて、お会いになる事はできません」



 あ… やっぱ、一般ピープルは無理ですか…



 「竜騎隊の方に確認のお話をしました所、隊の方にお通しするよう指示がありましたので、今からそちらにご案内します」


 受付さんの言葉に急浮上したよ!


 「お願い、します!」



 受付さんの後ろにくっついて外に出て、別棟へと移動します。今の気分はウキウキです!  受付さんの足取りも弾んでるみたいに思えます!


 別棟に辿り着けば、あの時みた竜に騎乗してた制服を着た人がいた。


 「先ほどお話しておりました… 」

 「ああ、彼がそうですか?」

 「はい、こちらの方です」


 受付さんと話をする制服さん。


 背ぇ高いなぁ、ガタイ良いなぁ…

 受付さん、なーんか目がキラめいてますねー。


 俺もそんなにちびじゃないと思ってたんだが、ちびか? ちびなんか!?  なーんかね〜。


 

 「今は着替えに部屋に行っておられるはずです。隊の者もおります、その者に伝言を。彼は私が案内しますので」

 「はい。かしこまりました」

 「では、こちらに」


 二人の間で話が終わって、さっくり二手に別れます。こっちを見送る受付さんの目がブレる事なく制服さんを見てて、やっぱしキラめいて見えたよ。


 今度は制服さんの後ろをくっついて、別棟の外を歩きます。

 外周歩くの?と思ったら、違う扉から建物に入って廊下を歩いて、クリッと曲がって廊下を歩いて歩いて歩いて、ガチャンと別の扉を制服さんが開けたら、そこは外だった。


 外でした。



 「こちらですよ」


 俺を振り返って待ってた制服さんに、慌てて追いつく。 うん、土足で良いのかな?って思ったけど、不要だったね。


 「あちらへ、どうぞ」


 歩いて行って、手のひらで示された先は日当たりの良いテラス席でした。風も吹いてないので居心地良さそうです。


 「ありがとう、です」


 座る椅子は先ほど受付で座った椅子とは、また違います。手の込んだ上品な仕上がりのウッドチェアです。間違えてもプラスチック製の安物とは物が違います。


 恐る恐る浅めに腰掛けたら、足が筋肉痛から疲れを訴えたので、もういいやと深く掛け直して凭れます。しかし、さすがに肘掛けには凭れません。


 ほっと息をついて、そうだと制服さんを振り返ったら、俺の斜め後ろに立ってらした。


 「あの、」

 「もう少し、お待ちください」


 にこやかそーなだけのシャットアウトだった…


 制服さんの無表情な顔を、ちょーっと見てから前に向き直りました。

 制服さんは、おそらく二十代前半。クレマンさんが言ってた、竜騎隊はランスグロリア所有。今まで見た人達の反応からしても、憧れの職種。花形職って奴だろうか? それなら、この制服さんはエリートなんかなぁ?



 きちっと制服を着こなしてた姿に、ふと、自分の服装を見た。


 靴は一足しかないんで、履きっぱなし。くたびれて汚れてる。

 ズボンは、おねえさんからの頂き物。だけど、裾とか汚れが… ちょおおおっと落ちてないかな? シャツは、昨日貰ったお古だけど清潔です。サイズがもう少しのところで合ってません。

 上着は肩口が裂けたまんまです。洗濯は… 上着だから何時したっけ? 糊付けとかないから、パリッと感はありません。この上着にパリッと感はいらないと思いますが、やっぱくたびれてますか?



 一応、全体の色目いろめ的には合ってると思うんだけど〜〜〜〜〜


 第一印象… ダメだろうか? 初めて会う時は、できれば良いカッコしたいとは思ってたけど、これが一番良いカッコなんだけどな…

 


 そう思い始めると、何かこう… 後ろから制服さんのチェックの視線を感じるような〜〜



 テラス席で雰囲気違うんだけど、なんだか面接試験を思い出す。座り直して、ちょっと服の裾を直してみたりした。なんも変わらないとは思うけどさ。

 なかなか来ないんで、待つ時間にちょっとドキドキしてくる。受験の時の面接待ちしてる気分になるのが、アレだね!


 服装チェックもそんな感じで見たのがナンだが… いやいや、これから会うのは友達なんだ。そんな事を気にすることはない。

 ないはずなんだが…  うーん、なんか気構えるなぁ。



 でも、本当にどんな奴だろうか?

 道でチラッと見た姿は後ろ姿だったしな〜。あんまり近寄りたくないと思った茶髪さんじゃないから良いけど、それと変わらんのだったら嫌だな〜。でもなぁ、おねえさんが、あーんなに力説して会ったらわかるって言った相手だしぃ?


 「…… くっ  」


 耳が小さな声を拾ったから。

 制服さんを振り返れば、呆れるような雰囲気出してるのに気がついた。


 じたばたしてる感じに見えただろうか? うひ、はずぃ…



 そして今更ながらに気が付いた。


 『なんて挨拶すれば良いんだ?』



 うっわ… もっと早く気がつけよ、俺。

 俺はハージェストを知らない。でも、ハージェストは俺を知ってる。


 その事については「本人の口から説明して貰え」が、あの人達三人の一致した意見だった。


 …それなら、 『初めまして』 これはおかしいよな? 俺に覚えはない。どう考えてもない。でも、あの人達が嘘をつく必要性はない。縁が無けりゃ、助ける義理は無かったんだから。


 それなら、俺も知っていたはずなんだが〜〜〜〜〜  異世界で会うはずも無いが知っていたはずなんだが〜〜〜〜〜〜


 考えられ得る可能性は夢での邂逅しかないんだが。



 覚えてない以上、「初めまして」で良いかなぁ? 「えへっ、来ちゃった」とかそんなんは女の子仕様だしなー。あー、うー…



 考えが行き詰まり、どうでも良くなった頃に前方にある扉が開いて人が見えた。



 こっちに向かって真っ直ぐに歩いてくる姿。制服さんの一人が、その後ろに付き従ってやってくる。制服さんと同じに見えたけど、違う服装だった。

 自然体なのに堂々としているというか。姿勢がブレないというか。なんだか座って待っていて良いんかな、これ?な感じに思えて、とりあえず立った。


 近づいた相手は、間違いなく金髪に蒼い目。 ……俺より背ぇ高い。


 何言おうか、決め損ねた。

 結果、迷ったが口から滑り出た言葉は名前だった。言った後、愛想笑いを添えといた。


 「ハージェスト… ?」





 いやさ、会ったらどんな反応するかな?とか、少しは楽しみにしてたんだわ。あんだけ保証があったからな、大喜びまでは行かなくても驚く顔は見れるだろうと。


 …なのになーんで、小さく舌打ちされて嫌そうな顔されてんの、俺?



 「違う。俺はリオネルだ。リオネル・ラングリア。ハージェストは兄だ」



 …へ?  



 「確かに兄達も俺も金髪に蒼眼だが、こんな間近で間違われた事はない。お前、兄の知り合いだと言っていたそうだな。兄と俺の区別もつかない奴が、どうして兄の知り合いなんだ? 説明しろ」



 え… えええええーーーー…


 腕組みしての仁王立ち。俺よか背ぇ高いから見下ろしてくる…


 おとーと。

 おにーさんだけじゃなくて、おとーとも居たですかいっ! うっはー……

 にしても、なにこの威圧感。なんかめっちゃ当たり前に人のこと見下してない? このおとーと君。


 実状に頭を整理してたら(思考逃げとも言うが)、ごっつい低い声で脅すみたく言われた。


 「は、言えもせん奴が何をしに来た。え? 兄に取り入ろうとでも思ってやって来たのか? 確かに兄は優しいがな。俺は好い加減、そういった集りを見るのは腹が立つ。不愉快だ」


 ………はい? なんですか、それ?


 意味がわからず、ボケて見てたら今度は苛立ったのか早口で誹られた。


 「兄に施しでも要求する心算であったか? 煩わしい。下賎に等しい行為に供与してやる物など無いわ。失せて、去ね。カナンにあっても不快であったに。 ここに来てまでもか。忌々しい。それとも、そういった話だけは回るのか! 

 本意において行っていたのは、責務の一端に見合う程度の行いよ。能力の提示もできぬ者に無条件にあるはずも無かろうが。ええ? その程度も理解できぬなら、会う必要すらないわ。些少ならばと延々とするものか。俺の兄を見縊るな! その手に供与は無い。わかったな」



 …最後に、せせら笑いされましたよ。



 ………いや、あのさ。

 おとーと君、リオネルだっけ? 頼むから早口やめてくんね? ギリで聞き取れるヒヤリングが意味成さなくなって、わかんねーよ。それと、あんま聞いたことない単語で話されても理解できないんだよね〜。どんだけ頑張ってもさ〜、きっちり読み書き教わってないですよ。


 でもま、意味わからんでも雰囲気と口調で人様を貶してるのは、ばっちり理解してるけどぉ? こういうのに「もっかい言って」って言ったら〜〜 より一層怒るかな?



 思考後、端的に聞き返した。


 「わかんね」


 「……なんだと?」



 あははは。やっぱ、失敗だったぁ? 俺を睨む視線の温度が急上昇してるっぽいねー、おとーとのリオネル君てば。 …そう、テキガイシン丸出しのお顔で、こっち見るのやめて欲しいんだけど。


 うわ、こっわ〜…


 おとーと君がいたのは、わかったけど。なんで本人出てこないんだ? 会いに来たのは失敗か? 失敗か? ダメなんか、これ。



 「お前、何処から来た」

 「は?」


 「……お前の生まれは何処かと聞いている!」

 「え、えーと… 」


  

 あいた、しまった。そう来たか。いや、来てもおかしくない話なんだけど〜。 説明がね… なーんて言ったもん? うーん…

 

 ① 異世界から、やってきたよー。 却下。

 ② 夢の先から、やってきたんだ〜。 馬鹿みてぇ。

 ③ 遠いお空の彼方から。 …まだまし?

  


 「正確に言えもしない程度の知識しかもっていないのか、お前は」


 いやいやいやいや、おとーと君。ちょっと待ってくんない? カチンときますよ?

 

 俺とハージェストは大体で同い年だと聞いてる。そのハージェストの弟である以上、俺より年下である事も確定してるわけだ。 背は無視するが。

 一応ね、そうは見えなくても大学生が高校生に対して怒鳴る構図って良くないじゃん? それに、少しの間お世話になろうかと来てるのは、こっちだし? それに… えー… お貴族様なんだっけ?

 

 でもさぁ、理由もよくわからずに誹られるってのは気分良くないねー。過去におとーと君が怒る事があったとしても、それは俺とは関係ないだろー? 


 んー、まぁ住所ねー。住所。



 「アマノガワギンガ。フクスウノワンノウチ、オリオンワン ノ カホウ 二 イチスル タイヨウケイ……… 」

 「何をブツブツ言っている。お前、まともに取り合う気が無いのか? ええ!? 」


 第三惑星地球、又はアースとも呼ばれるとかなんとか言ってみようとした所で遮られちゃったーいっ。太陽系はオリオン腕にあるが、それもペルセウス腕の枝かどーかとかで… 他の腕名なんか覚えきれるかよ! まったくよー。


 そっちが言えって言ったから、答えたんだけど〜? 正式なら、天の川銀河から始めないと駄目だろう? ……此処が何処の彼方の此方なのかも知らないけど。


 それから、怒ってるおとーと君の顔を眺めてた。


 「リオネル様…… 」


 後ろの制服さんの声が聞こえたんで、ちょっと制服さんの顔を見た。 










 fight! 

 弟のリオネル君が現れた!!



 梓はリオネル君に住んでいた所在地の質問を受けた。


 梓は正確に言ってみろとの質問に正確に答えようとした。


 梓の答える単語はリオネル君には届かず、心に苛立ちと猜疑心を生じさせたようだ!


 見物人(制服さん)は宥めようとしていた。

 リオネル君は苛立ちを治めたが、疎ましそうな顔を隠そうともしない。


 梓は全く気にしない。




 俺 & リオネル君、 draw!!





 脳内で適当に遊んでみたが、ほ〜んと進展無さげ〜。


 うん、どうすっかなー。

 本人じゃないと俺が誰だかわかんないだよねー。しかも、俺も本人を知らないって状況が、あー… アウトだねぇ。わーい、家族側からしたら完璧不審者じゃーん。間違いないわー。


 でも、他に手が無いんですけどー?



 「…ふ、ん。そう言えば、宿に賊が入って荷を取られたとも言っていたか。その事についての苦情なら、聞いてはやる。しかし、お前一人だけを優遇なぞできん。他の同じ者がいる以上、扱いは同列だ。そういった面で縋ろうとしているなら、お門違いだ。捜査もしていると聞いている。待て、わかったな」



 …えー、待てって言われてもさー。宿泊費とかその他とか、金銭面について頭の中入ってるー? ねー、そこら辺抜けてない? 扱いの同列は問題ないとしてもさー。待っても、アウトだった場合とか最低補償額ならどーだと思ってんのー? 人事だと思ってるだろ〜? 今後の設計プランを一から考え直さないと駄目じゃん。


 …まぁね、ハージェストがダチなら全面的に探すの優先して貰えないかなーとは思ってたよ。うん、そこは反省しよう。いけなかった、困ってるのは確かに皆だ。


 でもさ。お土産があるんだよ。

 軍資金の宝飾の他に同じ宝飾でも、「売る先は要注意。理解できる者が見たら大喜びなんだから」って、小声で注意事項が添えられた小袋に入ったブツ様が。


 話す雰囲気も特別だった。

 特にお願いとかされてない。アレは俺が貰った軍資金。けど、その時の目がね。あの目にハージェストになんかしてやりたいんだろうな〜って、思ったんだよ。


 あそこまで言ってたから金額の格差としては、きっとすごいと思うんだー。

 大した物持ってない奴が、大げさに言ってるとか思われると困るんだけどなー。あ〜、でも、金持ちそうには見えない格好だわ。


 そんな風に見えたら、良かったんかな… でも、そんな格好してたら、シューレに着く前にどうにかなってそうで怖くもあるんだな〜。



 そんな事を考えてた。


 ところで、おとーと君。それ、人を蔑むって視線じゃないの? なーんでそんな感じの目で人を見てるわけー? 



 ……もしかしたら、ハージェストもこんな感じだろうか? 俺が見た金髪さんの後ろ姿と、おとーと君の体格は重ならない。別人だ。


 しかし、弟だろ? 兄のする事を見て真似して育ってきたんじゃねーの? 俺の場合は、あやめ姉ちゃんだったよ。そりゃ、男と女の違いはあるだろうけどさ。



 弟の姿を見て、推して知るべし。


 俺の脳みそはハージェストに近づきたくないと言っている。



 はっ! いやいや駄目だ。個人は個人だ。兄弟でも違うものは違う。会ってもないのに、思い込んで決めつけるのは失礼だ。そう、まずは会ってからだ! ……そうだ、自分クエストの達成だ!!



 「ハージェストは?」


 全課程を無視して聞いてみる。



 「この… 」


 わぁお、その顔こえーよ。

 だけど、おとーと君じゃ駄目なんだよ。言い方悪いけど意味ないんだわー。面通しできんの、ハージェストだけじゃん? こっちも確認取りたいしさぁ。


 「ハージェストで、あって。リオネルに、キョーミない」


 …目尻上がってくねー。

 なんでかな? 言葉間違えたぁ? 後ろの制服さんも「ブッ」っとか、なんで吹くのかなー?





 ただ。


 ただ、怒ってるリオネル君の回りに光を見たよ。


 目の錯覚かとも思った。

 チカッと光って、それらが徐々に広がる。何度か瞬きをしたけど、ずっと見えた。


 なんつーの? これ。やっぱ、エフェクト? ゲーム画面で魔法使う時に設定されてる光のエフェクト。そんな感じのモノが見えたよ。リオネル君の体を、ぐるりと取り巻いて立ち上る光。リオネル君の後ろに控えている制服さんには、そんなもの見えない。


 映る光に、なんとなく見たと思う。


 記憶が… どこかにある。似ているけど、 違う。 


 同じ雰囲気で、とても似ていると思うけど決定的に足りない。違う。これじゃない。決定打となるべき光の質が違う。


 そう、違う。違う、違う。 


 違う。



 目を眇めて、リオネル君のエフェクト見てた。



 俺の思考の一つが、「どうして見えるんだろう?」と呟く。別の思考が、「前に見たじゃん」と答えになってない答えを寄越す。


 考える。考える。光から視線を逸らさず考える。



 ニールさんの赤い光。 …あれは、違う。現実に灯るあの光。あれは違う。定義が違う。判断するに値しない。


 赤の光は 差し出される為のモノじゃない。



 他に似たモノは…

 占いのばーちゃんの光? ああ、うん。そうだ。だって、あれは俺の為の光。 あれの方がまだ合ってる。じゃあ、あれと同じ感覚でエフェクト見えてる? 



 水晶の回りで弾けた光。 あれが、きっかけ? いや、その前に…  もっと前に、   赤ん坊の魔力は、わかり  や すいと…




 瞬きもせずに見つめて、思う。


 確かに見たと。光を見たと。

 でも、これじゃない。綺麗であるのは確かだけど。同じ様にも見えるけれど。………違う。何時、何処で、どんな状況で、どうやって見たのか?


 思い出そうとする思考に気分が落ちる。わからないけど、嫌な気になる。思考が鈍る。


 ただ、あれじゃない。似てるだけだ。


 俺はこの光に手を伸ばそうとは思わない。光の煌めきに絶対を見出すのなら、それはおにいさんの煌めきだ。あれはもう比較対象外。



 今、見える似た光。





  何時か見た光は 見惚れるくらいに綺麗で



    消えていくのが 惜しくなって   その有り様が       だから 手を





    ………それをさぁ

   


   その程度の光で繋ぎ止めようって?    できると思ってる     なら   馬鹿じゃねぇの


       

          それこそ    浅はかって奴だろぅ?   

 







 「貴様、何の了見だ… 」


 ん?


 ひっくい声に我に返った。


 「その笑い、気に食わん」



 わお! リオネル君が怒ってんよ。

 え? 俺、笑ってた? あれ? そんな事してたかな? ん… 何考えてたっけ。 はて?


 


 「俺は兄と一緒に居た。王都にあっても、その交友関係は知っている。だが、お前の顔は一度とて見た覚えは無い。話に聞いた試しも無い。許す。名乗ってみろ」



 うひゃあ!  『許す』 ですか! 勝手に名乗っちゃアウトですかいっ! 言われるまで黙ってろの礼儀ですかっ! あー、知らんかった。やばかった〜。

 …あれ? じゃ、先に「ハージェスト?」って質問したの拙かったんかーっ! 怒られて当然だったんかーっ! ……ん? あれ? もしかして。 もしかして黙ってたら、こんな展開にならなかった? 「兄に何の用事だ」とか言われて、間違い失敗しなかったとかぁぁ!?  


 うぎゃーーー!!!


 ショックを受けた。頭ん中、まぁぁっしろ〜〜。




 「ノイ」


 「ふ、ん。ノイ、なんだ?」


 


 ………うん、ちょっとね〜。正気に戻った。

 すこーし、おとーと君の顔を眺めたよ。おとーと君の蒼い目を眺めたよ。


 自分の二つの名前を思い浮かべて、おとーと君の「ノイ」と呼んだ発音を頭の中で繰り返す。



 ………やあっぱ、俺の方に区切りがいるんでしょうかね?


 片手を、ゆっくり握り締めた。



 「乃井」


 「なんだ? ノイ、だけか?」

 


 一瞬だけ、気分が落ちた。

 意味ない程度に落ちて世界を拒絶しそうな気がした。変なトコに拘る自分自身に自嘲して。


 視線を下げて沈黙した。

 


 「ふん。家無しか、訳ありか。どちらにせよ、自ら素性を名乗らぬ者に信は置けぬと言う事だ」


 おとーと君の真っ当なご意見に、なーんも答えれんかったよ〜。

 正論だよね、それ。


 こんにちは、初めまして。私は誰々です。 この時、偽名使うなんてまず無いじゃん。そっから仲良くなろうと詳しく自己紹介。


 でも、俺は出すもん無いんだわ。 『ノイ』 以外出す気が無いんだわ。 『乃井 梓』 を出しても、どっかでもう違うだろ? 適当なでっち上げして通すのも手だけどさ、したくないなら沈黙だろ? 

 潔癖なつもりも無いんだけどさー、今の気持ちはですねぇ、なんてーのかなぁ? 俺のままで真っ直ぐ立ちたいってのは…… この場合、要領が悪いのかな? ガキの思考なんかね?


 俺は、俺。なぁんだけどねー?



 『ノイ』 で、判断するのはハージェストなんだ。

 ハージェストが知らねぇよって言ったら、俺も遠慮なく切り捨てて、「はい。さよーなら」だけどね。その場合は、態度によりけりで土産話も無しで。



 おとーとのリオネル君が不機嫌なのも理解するんだけどね。ちゃんと空気読めますから〜。



 「リオネル、ハージェストのおとーと」

 「なんだ? そうだと言っただろうが」


 「リオネル、考える。ハージェストが、考える。 おなじもの?」



 …………… えー、リオネル君のお顔が大変怖い感じになるのは、どーしてですかね〜? やーだなぁ。なんで俺が睨まれんのー? リオネル君がココで、そうだって言ったら兄弟仲イイネってだけだろー?


 兄に会いに来た奴でも不審者と判断したなら追い返すのは、おかしな話じゃない。そして、それをしても認められる程度に信頼されてるって事でしょー。


 さっき言った 『信ずるに足る』 だろ?   あ、そんな奴は来なかった事にする強硬手段もあるんか! うわ、やっば〜。    まさかね、処分とかないよね……? 法律… あるよねー?


 「おまえ…」


 睨むリオネル君がヤバすぎる!

 貴族流儀で、その地に置いては俺が法律だったら、どーしよう!! 俺の馬鹿ぁ! 頭回せよー!   うわー!! ハージェスト!


 

 「…用事があるからな。俺はこれから王都へ向かうが兄には連絡を入れておいてやる。但し、この時より、兄に会いに来たのだと吹聴するな。良いな!」


 ドスの利いた怖い声で脅して睨むんで、ぶんぶん頷いたよ! 心臓が悲鳴上げるよ!!



 俺を一瞥して去っていくおとーと君に、もう話し掛ける勇気は無い。ああもう、怖かったー。なんだろね〜、おとーと君は苦手かもしんねー…


 姿が見えなくなってから、ウッドチェアに座り込んだ。

 


 「立て」


 制服さんの一言は簡潔だった…





 再び同じルートを通って領主館を出た。そして、今度何時尋ねれば良いのか質問した。



 「おそらく、本日中… 遅くとも明日には連絡は着くだろう。その後は不明だ」


 今日、明日、明後日…ですか。


 「来ても居られるとの約束はできない。我らも遊びで居るのではないのだから」


 このタイミングが良いのか悪いのか… いや、此処で会えなかったらランスグロリアの領まで行かないと駄目なんだから…


 

 「では、気をつけて帰れ」


 ああっ! 制服さん、ちょい待ってー!


 「名前? 私のか?  何の為に」

 「ハージェストに、言う」


 大変微妙な顔をした黒髪に翠眼の制服さんから無事名前を聞き出して、さよーなら〜。


 さーて、今後を考えようと街中へ帰還した。









 「おい、レオン。さっきの奴は帰ったのか?」

 「ああ、街へ降りて行ったのを確認した。リオネル様は?」


 先ほど立ち会った竜騎兵の二人が落ち合って、話し出す。



 「連絡の用意をされている。その後、出立に移られるな。ところで、さっきのどう思ったよ?」

 「そうか。 …斜め後ろから観察していたが、どう取っても魔力は感じられない。体格で判断するのは良くないが、戦闘向きじゃないな。何より、気配の取り方の一つもできてない。素人だ」

 「だよなぁ。俺もそう思った。売り込みに来たんかと思ったが違ったなー。学舎時代の知り合いかと思えばリオネル様は知らないし、二人の顔の見分けがつかないときた」


 「あれで何かできるとも思えんのだが。しかし、態度は一貫していたな」

 「ああ、すげえよなぁ。貴族に対して、あの態度だぜー? 馬鹿かとも思ったけどな。リオネル様が怒りかかってたってのに、あん時のあいつの顔。度胸あるわー」


 「正面からは、どんな顔をしてた?」

 「んー。ちょっと表情が固まったからな、怖くなったのかな〜って思った時に嗤いやがったよ。ああもう、それこそ見下したってな嗤いだったぜ。面と向かってされると腹立つわな〜、あっはっは」

 「 …へぇ」


 「魔力無しで貴族に対して、あんな態度取る奴いるんだな〜って変に感心したわ」

 「…それなら、確認に居たのが俺達で良かったんだな。リオネル様付きの奴だったら、ぶん殴ったな」

 「全くだ。しかし、窓から見てる奴は見てただろーから、なーんとも言えねーな。確認と監視が容易な位置のテラス席だって、気付いてたかねぇ?」

 

 視線を交わす二人の目が気付いていなかったと笑っていた。


 

 「怒りに乗じて魔力の放出があった。それは圧でしかない。魔力無しで魔力そのものを感じ取れないとしても… 相手を見れば、その感情はわかるだろうに。何故、彼は嗤ったんだろうな?」


 「………さぁて、わからんね。 …直ぐに怒る所がガキだとか?」



 「「 ………………… 」」



 二人の制服組は互いの顔を見て、おもむろに肩を竦めた。



 「うちの大将と、ど〜こで知り合ったんだろうかねぇ」

 「明後日には、また来るだろう。ハージェスト様が会えば済むだけの話だ」

 「ま、そりゃそうだ。しっかし、もうそろそろ山場が来そうなんだけどな」


 「そうだな。リオネル様が出て行かれれば、動きもあるだろ。明後日は無理だと言っておいた方が良かったかな? 宿泊先… は提示していたな」

 

 「誰かつけとく… 程の事でもないだろ? 第一、人数たりねーわ」

 「提示もある。あれなら、特に問題にならんとは思うが… 」



 そして話しながら、ハージェストの隊に属する二人は己の仕事に戻って行ったのである。


























 相対性理論 抜粋


 特殊(慣性)… 光速度が不変である事を原理に、互いに等速運動する物同士に対して、物理法則が同形で成立する定式


 一般(加速)… 等価と相対性の原理に、互いに加速度運動する物同士を含む全座標に対して、物理法則が同形でもって成立する定式




 相対性、理論


 特殊(限定)… ハージェストである事を問題に、梓に対し、リオネルが問い質す方程式


 一般(進行)… 梓の存在に、世界を含む全方位が対すると、常識その他を振り回される方程式




 国語辞典 抜粋


 相対そうたい… 他との関係において存在する。⇔絶対

 相対あいたい… 差し向かい。






 

振り回されていると気付けない場合有り。振り回す以外も有り。また、振り回す基点軸がもう片方に移行すれば、それは別物になる。

次男坊に懐いてる三男坊に相対あいたいするとこうなる。




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