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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
55/239

55 シューレの街で、お勉強 ②

 

祝・一周年。今回最長。


 大変、疲れました。本当に疲れました。

 色んな思いを抱えて、ベッドに横になってます。

 

 小火騒ぎは本当でしたが、押し込み強盗とはちょっと違うようで。分類するなら空き巣狙い? 単独犯じゃなくて、どうも仲間が複数いたらしいです。

 人がいる中で堂々と、そして荒くたいやり方だと街の警備兵の方々が怒ってました。


 そりゃ、そうです。一歩間違えれば焼死体か、煙に巻かれて方向見失って酸欠でバッタリじゃん。最低。


 つまり、宿泊客の荷物が狙われました。扉の鍵は、なんかでざっくしやられてました。そんで、そんで俺の荷物もやられました。俺のリュックと、リュックのサイドポケットに入れてた水筒が行方不明です…


 持って行く品を選び出す際、整理に出した着替えの服はベッドの枕元にそのまま残ってた。

 

 しかし、俺のリュックが…



 判明した時には血の気が、ザアアッと引きました。ほんとにもう目の前、真っ暗です。


 それでも救いは一部でも品を持っている事実に、金を小分けしてた事。何よりリュックの口は、がっちり締めといた事だ。盗られていった以上、リュックが自力で帰ってきたりはしない。だが、俺の手でないと開かない。だから、中味はバラされない。焼かれたり、ナイフで切り裂かれたりしたら不安だが… 多分きっと大丈夫だと…! ああっ、防水加工はしてないとーっ!


 うああああ! 腹立つー!!


 イライラして寝れません! 駆け出して暴れたい気分です!! 

 しかし、到着したばかりの夜の街を当ても無く彷徨って、探す方が危険です! 俺の毛布様ー!!



 帰ってきた時に宿泊客の一人だと話してれば、女将さんが気付いて駆け寄って来て平謝りに謝り。徒弟さんが一緒にいた事実を、警備兵さんに説明してくれたので俺への嫌疑はありません。


 その後、警備のお一人と一緒に部屋に行き、リュックが無い事が判明したわけですよ。


 リュックの形状や中味を一部省いて説明しましたが〜〜 まず、俺の拙い言葉が伝わったでしょうか?


 街の警備の皆さんが犯人逮捕に全力を尽くすと言ってくれましたが、荷物が返ってくる見込みは薄いとの事。即座にバラされて、散逸してしまえば難しいと。

 言ってる意味もわかるんだけど、俺のリュックはならないと思っていても下手な説明できんし! がぁぁぁ!!



 暴れたい気持ちを抑えて横になってます! ベッドの上でゴロンゴロンと煩悶してます!!

 し・か・も! 

 俺の蒸し魚までー!! 美味しく頂けちゃうはずの俺の夕食がー!! 寂しい夕食にー! 


 食べたけどさー。


 犯人と揉み合った際に、客も怪我をしたと聞いた。はぁぁぁ…

 とりあえず、明日は領主館に行きます。



 その事を警備の方に言えば、ちょっと嫌な顔をした。上への訴え上げで行くんじゃありませんけどねー。


 「今は他の件もあって、イラエス男爵様はお忙しい。会えるかは不明だぞ?」

 「竜乗る 人 会え、ますか?」


 「竜騎隊の方々か? それも難しいだろうな」

 「何せ、時間の制約があるみたいでな。忙しく動かれている。斯く言う我らにも… な」


 「くそぉぉぉっ!! 警備を強化しているこの時にぃぃっ! 不愉快極まりない!!」

 「俺達を馬鹿にしやがって!!」

 「必ず、見つけて引き摺り出してやらぁ!」

 「絶対に晒してやるわぁぁ!」



 「「「  うおぉぉぉぉっ!!!  」」」



 警備兵さん達は激怒してた。あの形相はやばかった。俺も頑張ってくださいと、お願いした。しかし、待ちの体勢は辛い… 金の事もある。


 第一に、ハージェストなのか確認したい!


 俺の気分が盛り上がってる所で、おのれ、犯罪者め! どちくしょう! くたばりやがれぇぇ!!








 それでもいつの間にか寝てたな。

 ちょ〜っとだけ、こげちゃったような臭いで目が覚めた。昨日の小火の名残りですな…  


 「あぇ?」


 思考に飛び起きた!

 扉を凝視して、煙が入って来てないか確認! 耳を澄まして、物音を確認! 


 ガチャン。


 解錠して廊下を確認!



 ……うん。ほんとに名残りか、階下の厨房からの匂いで良さそうですね。



 パッタン。 チャリ。


 扉を閉めて、安心してベッドにリターン。



 昨日の件で嫌な人は宿を出て行った。俺は出るにも出様がありません。宿の当てないしさー。警備の人達の取り調べに結構な時間掛かってて、終わった時には完璧に夜になってた。


 その間に徒弟さんから連絡を受けたクレマンさんも心配して見に来てくれて、お世話を申し出てくれた。すっげ、有り難い〜。で、そっちに乗り変えようかとも思ったんだけど。


 宿泊費がね… 安全性は大変欲しいけど、先々が判明しない上に状況が状況になったからケチれるもんならケチりたい。


 だけどね。それ以上にオルト君とリタちゃんがね。 …泣きそうなんだわ。大人の大声にさ。


 大体の人が、こんなことになって同情的ではいるんだよ。それでもなんつーかねー。俺も同情貰ったけど、同情に金は付きません。

 子供の頃ってさー、結構クルんだよねー。ちゃーんと理解して聞いてんだよねー。ほーんと。子供だからわかってねーなんて、そんなわけねーだろーが〜。大人になったら思い出せよなー、子供の頃、自分が本当に理解できなかったのかさ〜。


 本当にわからなかったぁ?  ふーん。それ、自己防衛の嘘っぱちじゃねぇの?



 特にお兄ちゃんのオルト君の泣きは、悔しさに泣きそうな感じ。妹のリタちゃんの前に立つ感じが…   あやめ姉ちゃん、元気でしょうか?


 こんな風に兄妹仲見ると、姉ちゃんを思い出す。  


 姉ちゃーん、元気ですかー? ほんと姉ちゃんには幸せになって欲しいんだ、弟としては。心の底から祈ってます。夢でも見たいなーと思う時もあるけど、さすがに無理だろ。 …あの場で姉ちゃんは生き霊だったんだろか? 姉ちゃんだったから、怖くも何ともなかった上に、抱き上げて貰った時は肉感あったけどなぁ?

 とりあえず、弟はダチに会いに行きます。こいつヤバいと思ったら、姉ちゃんの忠告通り離れようと思います。後腐れなく、すぅぅ〜っぱり離れたいと思います。

 でも、状況に変化があったんで〜 もしかしたら、ちょおおっと当てにしまくってもいいんかなー?とも思ってます。




 …はれ? 最初、何考えてたっけ?



 ……ああ、そんで残る人は残るから俺も逗留組み。被害に遭ってない、鍵の掛かる部屋に移っていたですよ。客がいる、いないで雲泥の差だってさ。…うん、俺の自己満足のどっかを満たす合理的選択。俺の腹も満たしに行こう。



 「おはよう、です」

 「おう、おはようさん! 昨日の晩飯は悪かったな。今朝は美味いのできてるからな!」


 この人は親父さんではありません。この宿の料理人さんです。親父さんは名誉の負傷者の一人です。

 昨晩はあんな事が有ったにも拘らず、一通り聴取が済めば夕食を要求する方も居られました。そんで厨房をこの方が、一手に引き受けて作ってました。


 俺はリュックを失った事実に血の気が引き、血が上り、あたふたしたけど最後は座り込んだんだ。犯人像もわかんねーし、なんの手段も取れねーんだもんよ。


 「運が悪かったな」

 「命を取られてないだけ、まだましだ」


 そんな慰めも聞こえたけど、半分以上素通りした。

 意気消沈どころじゃなくてさー。事実が頭の中にじわじわ浸透してその事にブルって真っ青になって、くらっとしかけた時に、この人がコンソメスープ出してくれた。

 腹が減っては戦はできぬじゃないけどさ、こんな状態でも何かしら腹に入ると落ち着くんだな。こんな時に!って、思っても食えるんだわ。俺は食えた。しかも、食ったら食ったで腹が鳴り出すんだよね。グルグル、グルグル足りねーって。


 我ながら現金だと思ったよ。

 現場に居合わせてないのは幸運? 流血現場を見たら泣けそうな気がする。



 それにしても、この場合は誰の責任問題になるんでしょうか?


 部屋に鍵は掛けてた。防戦した親父さんは怪我した。宿の従業員である料理人さんは、こんな時にも働いてご飯を作って仕事をしてる。下手すると、この人の給料出ないんと違う?


 でもさ、これ、自己管理の自己責任って言われたら、どこにもナンにも言えなくなっちゃうんですよー。ふぅ。


 

 街には警察機構と呼べる組織があって、犯罪撲滅を謳ってる。逮捕できるかは別にしても機能してる。

 捕縛された場合の連絡先としても、この宿に留まる事を選択したわけですよ。二度狙いは無いと思いたいです。見回り強化するって言ってたし。

 そんで警備の皆さんが頑張ってくれてる間に、俺はハージェストかもしれない人に会いに行くー!

 

 「ごちそう、でした」

 「ほいよ。昼食は無くて良いんだな?」

 「はい。 おやつ、あったら ほし」

 「ん? あ〜、そうだな。甘いもんの一つも作るか」


 おやつ要望が通りそうで嬉しいです。

 ぐだぐだしても何の解決にもならないんで、気持ちを入れ替えて行ってきます!



 「夕暮れ時は大通りだよ!」

 「気をつけてね〜」 


 昨日の事件の所為で、どっか空元気なオルト君とリタちゃんの見送りを受けました。


 女将さんは昨日から一人の客の苦情を、ず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと聞き受けてます。ええ、もう、ず〜〜〜〜〜〜〜っと。延々と拘束されてます。

 金額に換算したら、誰よりも、誰よりも、誰よりも! 標的として狙われたって人よりも! 絶対に俺の方の被害額が高いと思うけどね。言えんけど。物が物だからな。 …ウソかホントかわかんなくても、思い出の品とか言われたら、ナンも言えないよ。



 あああああ! 犯罪者めーーーーーっ! 呪われろーーーーーーっ!! 遅効性でも、呪われろーーーーーーっ!! ちくしょうぅぅぅーーーーーっ!!!




 はぁ… 気持ち、多少すっきり。


 さて、安心を確保に動きます。クレマンさんの宝石店に行きます。

 残りの宝石の安全性が必要です。偽物に掏り替る事は無いだろうかと考えましたが、俺のダチが真実、領主の兄弟だった場合。そんな危険性は犯さないだろ? ダチじゃないと判明した場合には、さっさと回収です。


 「おは、よう、です!」


 店に着いて掛け声と一緒に扉を押すが、扉が、まじで、重い、です!



 「いらっしゃい!」

 「昨夜は災難だったねぇ」


 心配気な気遣いの顔に、ありがとうとお願いを。


 「預かりですか?」

 「ああ、それはご心配でしたね。業者間ではしませんが、これもご縁でしょう。安全性なら任せて下さい。やられるのは嫌ですからね」


 「預かり、いくら?」

 「お代は要りませんよ。代わりにもし、お探しのお友達が領主様とご縁の方でしたら、是非ご紹介願いたいものです」


 …わぁお、こうやって縁を増やしていくんだね!   違うか。得意先か。



 「はい、ハージェスト、渡す。この預かり、お願いです」


 一応ね、俺も釘さしとくわ〜。もちろん、笑顔は忘れません。笑顔に金は掛かりません!



 預かり証も出してくれたんだけど、字が読めない… 

 それ、言ったら割り符が出てきた。すげぇ。クレマンさんと俺で割り符に署名して、半分ずつ保管。漢字で書いて余ったスペースには、それっぽく落書きしといた。はっはっは。だってさー、クレマンさんが割り符の一ヵ所に押印すんだもんよー。


 「ほう… 初めて見る紋ですなぁ…」


 単なる落書きですがな… しまった。失敗か? 


 「いって、きます」


 笑って誤摩化して、しゅっぱぁ〜つ。


 「領主館までは、大通りを行かれると良いですよ」

 「ありがとう」



 重い扉を開けて貰って、良い天気の朝の道を歩きます。

 リュックが軽くなった事に一つ安心。俺の足取りも軽くなる。でも、ウエストポーチに入れた分は預けなかった。さすがに、あの店がやられるとは思いたくないけどな。ウエストポーチも用心して、腹の前に回してるよ!


 さて、時間的には十時前かな? 俺の足で迷わずに、どの位で領主館に到着できるだろうか?



 綺麗な石畳。立派な店構え。呼び込みの声に、人の波。


 服装も相俟って、時代とか違うよな〜と思う。昨夜は昨夜だったんで結構明るかった。でも、暗い方は暗かった。光は魔石や自前の魔力で補ってる。光量が足りないと思う時はあるが、灯りはある。

 この場合、co2は関係ないよなぁ? co2に当たらない、なんかが他に出てんだろか? こういう所って、やっぱeco? 



 普通に道を歩けば、昨日の事件が嘘みたい。

 何処も彼処も平穏で、不幸な影なんか見えやしない。盗まれてなかったら、俺もその仲間だったのにさ〜。無理に他の事を考えては、上がって落ちる思考なんかしなかったはずなのに。



 「てめぇ! 人様に当たっといて謝りもしねぇのか!」

 「ああ? 当たって来たのは、てめぇだろうが!」

 「そうだ! ドコに目ぇつけてやがんだぁ!?」


 

 ……………すいません。平穏じゃなかったです。


 『肩が当たった、どうしてくれる』


 わぁお、チンピラの口調で大人の喧嘩が始まりそうです。俺の進行方向で。

 ええ〜、…何と言いますか。普通に帯剣や武器を携帯してる大人の喧嘩ですよ。まぁ、あれですよ。ええ、服装が服装だから? ほら、あれ。


 冒険者。


 それっぽく見えるんですよ。どの人もこの人も。

 まぁねー、フルメタルアーマーなんて装備してる人は見ないけどねー。あーんな汗でムレてヨレそうな挙げ句、臭いそうなモン着る人いんのかなぁ? 汗臭さを魔力でカバーなんて、できるんだろうか? 制汗剤あるのか?



 ………………にしても、へっ! そんなフラグ、誰が踏むか! 俺はハージェストに会いに行くんだ。



 きけんさっち かいひ のうりょく はつどう〜。



 能力なくても回避するわ!





 ビュンッ!

          ガツッ!!


                   ガラン、ガン…!



 喧嘩し始めた人達の脇をコソコソっと通り抜け、その場を背に歩き出したら、俺の横をなんかが光って飛んだ。石畳に飛んだブツを見た。硬直した。



 「あ〜、わりぃわりぃ。手からすっぽ抜けちまってよー」


 喧嘩してた一人が俺の肩をポンポン叩いて、石畳に飛んだ得物をグイッと拾い上げる。


 「よい…せっ とぉ」


 その動作が重そうだった… 重たそうだった… 実際重いんじゃネェの?

 

 いー・やー。

 この人、初心者とか言わないよねー!? 振りでやってるだけだよねー? 重たいモンを自分は担げるって振りですよねー!? 誰しも初心者の時期は絶対にあるもんねぇぇー! だーけど、そぉんなモン持ってぇ初心者とか言わないですよねぇぇ!?

 

 ………・ ひぇぇぇぇ!!


 俺は気付いちゃった恐怖心から脱兎の如く、その場を逃げた。


 「そこで何を騒いでいる! 貴様ら舐めとんのかぁぁ!!」


 後方で警備兵の方と思われる怒声が飛んでも、俺は振り向かず逃げた。不必要な対峙に安全性は認めません! 物見高い子供ではありません!






 それからは普通に街中ウインドーショッピングで気分を再浮上させつつ、領主館に向かって歩いてた。



 「ねぇ、あなた。一人なの?」



 綺麗なお姉さんは好きですか?   はい、普通に好きです。



 淡いピンクのローブの上着に、白いひらひらスカート。ナチュラルメークもバッチリ綺麗なお姉さんに呼び止められました。おいでおいでと手招きされたから、とととっと寄ってみた。寄らいでか。


 道端で、お喋り。


 「あらぁ、この辺りに来たのは初めてなの?」

 「はい」

 「じゃあ、案内してあげよっか? あ、もうすぐお昼ね。少し早いけど、一緒に食べない? 美味しい店を知ってるわ」

 「ほんと、ですか!?」

 「ええ」


 なんてついてる! 


 そう思った瞬間、みょ〜にぞわぞわっとキた。


 「あっちよ。行きましょう」


 笑顔のお姉さんは積極的だった。俺の手を取って、グイグイ引っ張っていく。嬉しい反面なんだろう? この感覚は?


 「ちょっ。 ちょっ、待つ」

 「え? なぁに? …うふ。お昼ご飯の後で、すこーし付き合ってくれる? お願い」

 「…なに、を?」


 にっこり笑ったお姉さんが、甘めな雰囲気で俺と腕を絡める。 …わお、素敵過ぎる感触が腕に当たります! 


 トキメキとドキドキで脳内が一色に染まろうした、その瞬間! 


 「いっ!?」


 ん・ぞわわわわっ… !!


 俺は再び恐怖を感じた。



 大通りから外れて路地に入った道。 エッツとは違うが、あの出来事を思い出す…



 しかし、日は高く明るく… ナンに恐怖を感じたのか? 


 ここドコ〜な雰囲気で周囲をこそっと伺った。 たらば!! 


 後方に男の人を見た。建物の影に隠れた感じに見えて、全く隠れてない。こっちを見るその目が爛々としてたぁぁ!! 

 

 ブルって、ささっと何事も無かった振りで前を見る! 喉がゴクリッて鳴った。



 「ね? ここからちょっと歩くんだけど、良いお店なのよ〜。 ほらぁ、行きましょう」


 再び、お姉さんに絡めた腕ごと引っ張られる。

 綺麗な指が、あっちと差した先にゴツ系の男を見た気がした… 被害妄想かもしれないが… 俺は見た気がしたんだ…


 引っ張られてく、七歩以内。

 

 『チーン、チーン、チーン、チーン♪』


 きけんさっち かいひ のうりょく はつどう けいぞくちゅう〜。      なんだ、きっと。 



 導き出された答えを、迷わず承認する事にした。


 「ごめん、なさ」


 立ち止まって腕を解く。うっわ、なかなか解けません… 甘く思えて、がっちりな捕獲なんですかっ!?


 「え? どうしたの。何かあって?」


 ごめんなさいの低姿勢で笑顔で謝って、さようなら。元来た道を急ぎ過ぎない程度に、急いで引き返す。目を爛々とさせた男の人は、変わらず見てたぁ! …ひょぇぇ!


 居たから、その横を通る時に呼び止めようとするお姉さんを振り返る。


 「用事、さきある。領主、館。ありがとう。警備さん、お話〜」


 笑顔で断り、手を振って大通りに戻った。

 出た通りから、路地を振り返る。お姉さんは居た。しかし、追い掛けて来なかった。 …ってか、さっきの男が近寄ってて、お姉さんはそっち見てた。 


 どっちとは言いませんが、自然な雰囲気で手を差し出してた。



 なんだろう!? この安堵感は!! 人混みが安心要素になりますか!?



 

 あああああ… あの男の人はストーカーの類いになるんでしょうか? 


 あのまま、お昼ご飯をご一緒してたら… あの男が乱入して来て怖い事になったんだろうか? それとも、お姉さんの厄介事でも押し付けられて、ズルズルと引き摺って最後身代わりになってヒドイ目に…


 いやいや、これは単なる思い込みじゃ? 


 そっちよりも… 見た気がしたゴツい男が出て来て、「お前、俺の女になーにやってくれてんだ? え〜?」みたいな話になったんでしょうかぁぁ!? それってどう考えても、あれだよな! あれ!


 やらせの詐欺ぃぃぃ!


 あの男の人は、…お姉さんの被害者でしょうか? 違うでしょうか? 意外な路線で幼馴染とか!? 違う気は大いにするが。



 お姉さんのご用事はナンだったでしょう? お姉さんのお仕事って… ナンだろう。


 あの呼び掛けが純粋に好意だったら、ものすごく惜しいですが! 非常に!大変!ものすごく!残念な上に心苦しく惜しいのですが!! 何か怖いので結構です。遠慮します。


 今、これ以上のイベント発生は不要とさせて頂きます。



 …存外、お姉さんが、あの二人を扱き使ってたらスゴいよなぁ。…ゴツい方は見た気がしただけ、なんだけどさ〜。要素が不確定過ぎますが、詐欺グループなら誰か撲滅して下さい。


 

 ……………………はい、まずは自分クエスト達成から!! 涙目になんかなってないわぁ〜! 



 




 歩いて、歩いて、店舗を見ながら、あっるいてっ♪


 領主館に到着しました。

 領主館は街のど真ん中には、ありません。所謂、城下町より少し上な位置にあるわけねー。

 領主館は立派です。広そうです。庶民宅とは半端無く違いますな… 比べる方が間違ってますね… 敷地面積からして… よくわかりません。

 それでも、ここは住民のクレマンさん達の言を借りると田舎だそうですし?  ん? 田舎だから敷地があるんだろか?


 領主館の一階は住居じゃなくて面談室とか仕事場で、住み込みで働く人達も居るって聞いたよ。役所庁舎と考えれば有り?



 「うわぁっ…」


 実際の役所とは全く違う門構えや雰囲気に、キョロキョロします。入り口付近で、ここに入っていいんだよな?とか思います。

 折好く、出て来た人を取っ捕まえて質問。受付を示されて、そっちに移動。


 「本日はどうされました?」

 「イラエス男爵様に、会う。 あ。 …お会い、する、できますか?」

 「男爵様にですか? どの様なご用事で?」

 「え、と。人に、ついて、 聞く をしたい です」

 「どなたについてですか?」



 受付さんとやり取りして〜 ハージェストの名前を言ったら、少し目を見開いた。


 あーだこーだ、うーだうーだ受付さんと話した結果。


 守秘義務でもあるんでしょうか? 明確なお返事は頂けませんでした。男爵さんの方も忙しいらしくて、会えません。今は不在の様です。

 アポイントメントを取るのもキツキツなようですが〜、話を通すので三日後に確認に来れるか?となったので、即了解。


 「では、ノイさん。これを」


 受付さんに渡された用紙に、字が読めませんと答えた… 悲しい…


 『え?』 みたいな顔と、さもありなんな顔を半々でされた。言葉があれだからなぁ… ここの人達の識字率は、やっぱり高いんだな〜。


 「何月の何日の何時予定で、本日私が用紙を渡しましたと書いてます」


 字を指で追いながら話してくれた。これ整理券?


 受付さん、めっちゃ優しいです。

 胡乱な目で見られてペイッと放り出されるかも。そんな一抹の不安もあったんだが、そんな事はなかった。

 良かったよ。だって、ほら。昔の身分制度で切り捨て御免とかあったじゃん。あの時代なら、一般ピープルが会える訳ないもんな。


 しかし、話を通すが会えるかは不明だと言われた。


 うーん、それでも順番で半年待ちとか言われんだけ良いよな。


 「ありがとう。お願い、します」

 「では、そこまでご一緒に」


 玄関に向かえば送ってくれる。 なにこの待遇? これが普通? …他の人見ると違う気がするけど。


 玄関を出て、ちょいと横に引っ張られ。


 「あちら側の別棟の方に、お越しの竜騎隊の方々がお泊りになっているんですが」



 なんと! あの竜も見えるんだろか!


 期待を込めて見てたら、その棟から人が出て来てこっちに走ってくる。

 

 「お待たせしました。本日のご帰還は夜半になるのではないかとの事です」

 「やはり、そうでしたか」


 …さっき、この受付さんに何か言われて出てった人でした。確認に行ってくれてたんですか。この方、仕事が早いです! ってか、手際良い〜。

 

 「竜騎隊の方にも確認に伺っておきます。賊の件はご愁傷様です。その事も含めてお話しますので」



 どうぞ宜しくとお願いして、街中に戻ります。


 アポはお願いした。宿泊先も伝えた。今日は省いてと言ったから、明々後日の昼前までの待ち時間はフリーダム。そうなりゃ、俺のリュック探さねーと。


 諦める気なんか、これっぽっちもない! 毛布様に、お宝様に、お菓子様方が待っている! 俺のリュックと水筒の救出を図らねば!!



 グルルルルッ。



 うん。昼飯、食ってからね。



 通って来た道沿いの店舗を思い出す。メニュー表出されても読めんし、金も考えねーと。やっぱ屋台なんかの買い食いから攻めよう。領主館から見た街の様子に受付さんに教えて貰った、ご飯事情。


 大雑把な地図を頭の中に展開し、違う通りからの帰還を実行します。



 

 「へい、美味いよ〜」


 野外市場でのご飯は、うまうまです。お値段も優しく、どんなものか見えるのも助かるし、飲食場所があるのが一番良い! 座ってると楽。

 衛生面については… きっと普通だと… 水筒以外の水も少しずつ飲んでたけど、腹下さなかった。生水もきっと大丈夫だと…




 うまうま食って、締めはミックスジュース。大丈夫だと思っても、こういう場所での生水は敬遠しとく。


 飲みながら考える。

 盗んだら売るだろ? リサイクルショップやオフな店に。そしたら、大通りの上品そうな店舗には並ばないよなぁ? なら、下町?


 白紙の地図を塗る様に道を覚えていけても、シューレの街は広い。警備兵の人達が出入り口を押えるっても、全部の荷改めは無理だろ? 塀で囲い切ってるんじゃないんだし〜〜。


 どうすれば〜……


 悩みながら、落としても大丈夫な木製食器を指定場所に返却して出た。



 見慣れて来ても、どっかでまだピンと来ない街並みは楽しくも疲れる。 うあ、まーた気分落ちそう。



 「兄ちゃん、悩み事なら寄っていかんか?」

 「はい?」



 俺を呼び止めたのは、占いのばーちゃんだった。

 黒い魔法使いなカッコした占い師のばーちゃん。街中の一角に占い師コーナーがあった。よく見逃してたな、俺。


 藁にも縋るで寄ってみた。


 「お金、いくら?」

 「なぁに、気持ちじゃ。気持ちでいいんじゃぞ〜」


 一番支払いに困る、お気持ちですかっ!


 「昨日 泊まる宿、盗み。リュック盗ま、れた… お金ない  どこ?」


 泣き落とし… してみます。 うるった感じで、ばーちゃんを見た。心境はマジ泣きです。



 「なんじゃと! うぬぬぬぬ。  善し、人助けじゃな。一発、タダで占って進ぜよう」

 「ありがとう! お願い!」


 これが天の助けでしょうか!?

 

 個人の小さな天幕。ばーちゃんの座る椅子にテーブル、向かいの椅子に俺が座ればもういっぱい。しかも、俺の体は天幕からはみ出てる。

 個人のふか〜いプライバシーとか関係ない、街中の占いコーナーです。易者な身形みなりの人も居て、天幕があるだけ上等の様子。



 午後の昼下がりの天幕の下、ばーちゃんの水晶玉占いが始まった。


 集中してるばーちゃんがモゴモゴ言ってる。

 水晶玉に翳す手のひらから、何かが見えた気がした。その何かが水晶玉に当たって、光になって弾ける。パチパチと音がしたら線香花火に似てるだろうか?


 日射しで明るい中、比喩でも何でも無く確かに水晶玉は光ってた。

 


 「ひぃっ!? 何じゃ、これは!」


 目を開いたばーちゃんの顔は、顔面蒼白… と言うより、見ちゃナンねーもん見ちゃったじゃねーの!な感じだった。


 カッと開いた目を閉じ、しばら〜く考えてた。


 「わからん。儂には読めん」



 さらっと言われた。 ショックッ!



 「あ? ばーさまが読めんだと!?」

 「まぁぁっ! 内容は何なの!?」


 天幕近くに居た二人の占い師さん。

 その言葉を聞きつけて、「なら、してみたる!」と占ってくれることになった。腕試しみたいな…


 ところで、ばーちゃん、すごい人?



 「わからねぇ…」

 「嘘でしょう? こんな事、一度だって…」


 新たに占ってくれた、二人の占い師さんが頭を抱えて唸ってた。


 「うむ、闇の中は見通せん」


 二人の結果に、ばーちゃんは重々しく言った。

 


 未来に俺がリュックを手にしてるか、不明。見えなかった。リュック本体が見えなかった。全部、闇の中だそうです。


 『闇』 です。



 「闇は こわい?」

 「おお、そうじゃ。その通りじゃ。闇は恐ろしいもの。怖いもの。じゃからこそ、敬ってあれ。敬い倒して願うんじゃ」

 「へ?」

 「怖くない様に願うしか無いじゃろ」

 「…………… そか」


 「ま〜、そんな事ゆっとったら、寝れんわな」

 「そうそう、寝られなかったら死ぬわよう」

 「一々、気にしとれんよ」



 「「「 ひゃははははは 」」」



 なんか皆さんで爆笑した。 あ〜、うん。あははははー。



 「ごめんね。勢い込んだのにね〜。わかんないなんてね〜…  あ! 使えないなんて思わないでね! こんな事まず無いのよ? ほんとよ。 あら、嫌だ。そんなに気にしないの〜。気にしても、しなくても先なんて来るもんだわよ」

 「そんな事もあるじゃろ〜。うむ」

 「すまんなぁ〜 精進も修行もまだまだ足りんかったようでなぁ… ははは… 」



 最後なんだかな〜で終わったけど、いいや。解決の糸口にもならんかったけど、いーや。


 占い師の皆さんと別れを告げて歩く。 人を見る。人波を見る。街を見る。 しばらーく歩いた後、道の端っこで立ち止まって空を見上げた。

 



 うん。青い空。

 三人の違う占い師が俺の先はわからないってった。


 それって、やっぱりアレ? おにいさんが俺にくれた印の力? 俺の手のひらに消えた黒い玉。金と銀の光が一緒だった。

 毛布様には、おにいさんの力が掛かってるんだろうか? それとも、水の容器に掛かった保護プロテクトの余波? おねえさんの方は〜 闇とかそんな風に思わなかったけど。



 ………人が作る 『人』 の範疇外。


 その印。その所為だろうなー。

 『見通せなかった』 これがある種の弊害を生んだとしても。独りじゃないって事だと。俺にはわからなかったけど、こういう形で知れるもんなんだと。


 気分の浮上に笑ったよ。




 手のひらで自分の胸をポンッと叩いて、一言。


 『おにいさん。色々問題が発生してますが。軍資金がごっそり行方不明で、非常事態宣言が発令されてますが! 着々と前にも進んでいます』



 初めてしてみたが、俺の心の声は届くだろうか? 本当に必要時でないから無理かな?  届いてれば良いな。


 一方通行の心のメールは寂しくもあるが、時と場所を選ばないと可哀想な扱いもされそうだが… 出す先が無いよりずっと良い。


 そして、現実に喋くるダチに会うんだ! 


 

 さて、宿に帰還しよう。道を覚えねば。

 夜の街の方が確率上がりそうな気もするけど、やあっぱ灯りがね〜。不安なんだよな〜。

 夜、外出して迷子になって道を尋ねようにも誰も通らない状態は、かなりキツいと思うんだ。灯りの乏しいシャッター街を歩くって怖くね?

 


 今日の晩飯は、なんだろね? 

 あ、風呂屋。夜間割増し料金取るか確認しとかねーと。 …倹約に湯を貰って拭くだけにしようかな? でも、湯船に浸かりたいなー。結局、昨日も風呂入ってねー。あ、タオルとか… あ〜…… リュック〜〜!! うがーーっ!!















 占い師の女は眉間に皺を寄せ、顔を顰めて苦悩する。組んだ腕を苛々と整えた爪の先で叩いていた。男の方は吸った煙草の煙を、ヒューッと吐いて気落ちした。 


 「なぁ、ばーさまよ。真実、見えんかったんだろうな?」

 「ほんと、見えなかったのよね? 私だけじゃないわよね?」

 「ああ、見えんかったぞぃ。明るくチラチラと感じ取れていたもんが、ふぃ〜っと暗くなって闇に飲まれて見えんなった」


 「それって、あれだよな?」

 「やっぱり、そうよね… まだ、若いのに… とても言えないわ」

 「闇に飲まれる… 死期が近いんじゃろうのぅ。順番にすれば、この年寄りが先じゃろうに…」



 「かぁいそうになぁ… 盗まれた上に死期が近いなんてよぉ…」

 「原因となる物の特定すら見えなかっただなんて! あああ… 変な忠告は怖がらせるだけでしょうね…」

 「曖昧にそれらしくもったいつけて言うのもええが、あんなに飲まれていくんじゃ。 嘘偽りなく、見えたままを話す。それもええじゃろ。ええが、 『どう告げるか』 それもまた占い師の力量に人格じゃ。この年になってもなぁ… 常に精進あるのみじゃな」










 

 暗く強く密やかに。

 覆い隠すが如く存在する闇の力。


 己が魔力で触れた三人の占い師は、 『 死 』 と読み取った。 成せる大人の配慮の沈黙である。


 だが、触れる事が可能であったのは梓が願ったからに他ならない。でなければ、垣間見る事も掠めもしない。程度の力では届かない。













 道行きは暗く、闇は濃い。

 底知れぬ深き淵とて、優しいと知っているなら怖くない。怖いモノは怖くても、知らないからより怖いのだ。




 闇の中の夢の子供は 金と銀の煌めきを供に引き連れて 道を行くのだ。

 


  

 


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