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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
54/239

54 シューレの街で、お勉強

 

普通に超える…

もう前書きに無くていいですな。

 


 

 いえーい!

 ついにシューレの街に、と〜ちゃーっく!


 昨日は民宿に一泊しての到着です。

 やってきました。お街です。お街で良いんだよな? …都会になるか? とにかく、今までの中で一番です!


 制服着た門番さんと話して、あっさり通過〜。


 『初めての街で〜す』


 御上りさん丸出しで門番さんに色々聞いてみたら、ハイハイと教えてくれた。優しいです。…ハゲてませんよ? 


 「来る、前。竜を、見た!」

 「ああ。そっちから来たんなら、見えたな。格好良かっただろ〜」


 「どこ、います?」

 「ん? 領主館に滞在しておられるが、会うのは難しいぞ。気持ちはわかるけどな」


 笑って、かる〜くあしらわれた。


 「遊びで来られてるんじゃなんだ。仕事の邪魔となる事はしない様に」


 今現在も仕事の邪魔でしょーか? 違いますよね? 

 竜について聞こうとしたら、あんまり良い顔しない。場所の特定はできたんで、話をチェンジして。ありがとうございま〜す。





 宿屋を決めて〜、品を見て〜、商売して金確保して〜、おねえさんからの指示を実行しなくては。


 「降りた場所の一番大きな街に行って、一番偉い人に会って聞け」


 これが指示だ。すげーわかり易いが、よく考えたらすげー話だな。

 ゲームで、そういうのあるけどさ〜。ゲームなら簡単に会えるけどさ〜。ここまで来ると 『町長さん』 の一言じゃ済まないんだけどなー。





 「町長さんの名前は、何て言うんですか?」

 「知らないわ」


 あっさりしたお答えでした。


 「だって、興味ないんですもの」


 興味のあるなしが、はっきりし過ぎてました。


 「あのね、言ったでしょう? わたくしは色々と問題があるの。 『この場所から』 あそこを眺める分には全く問題ないのよ。この居る場所から見える所を見ていただけだから。でもね、特定の場所を見るという事は、意図して覗き見をするって事なのよ。人様の家の中を、まじまじ覗き込むってことなの。嫌でしょう?

 わたくし、あの子を見ていたの。 ええ、時間がある時は気にして見ていたのよ。ちゃんと注意してましたからね、特に問題となってはいないわ。何より、わたくしが見ていたのは、見てはならない最重要の深部ではないのですもの。

 でもね… お家の中を覗くのは失礼なのよね〜、普通に。だから、わたくし、最低限で必要外は見たくないのよ」


 おねえさんは、ちょっと困った顔でそう話してくれた。


 覗き見ですか…

 おねえさん、やりますね。 風呂場とか覗いてませんよね…?


 今後が怖いんで覗く事については、お話しました。ええ、もちろんです。

 おねえさん達は俺達と同じ次元に居る人達じゃない。おそらく同じ様な人でもない。同列位ですら無いわけだから、本来なら何も言えないというのか〜 なんつーのか?

 それでも、お願いはしとくべきだ! してる事は確かに見守りでも、覗きって単語になるとね! こう、気分がね!!



 おねえさんは、 『この場所から』 と言った時に、おにいさんを見た。

 おにいさんの方は、テーブルに肘をついて軽く頬杖ついてた。人差し指でこめかみを軽く押えて、「ふっ」て感じで口元と目で笑って素知らぬ振りで茶を飲んだ。



 …大変、様になる姿でした。

 おねえさんには無理でも、おにいさんは可能なんだろう。しかし、それには手を貸さないと態度で示されたわけだ。


 理解したんで、自力頑張りしてきます。


 俺も笑い返して、あの時はそのまま流れたんだった。




 しっかしですねえ。

 町長どころじゃなくて市長飛んで知事飛んで、領主さん… 貴族の領主さんの事実に、あいた〜な感じ。今、居るのは本人じゃなくて代行さん。ちょっと安心したが、その人も男爵さんだよ…


 ほんとに会えるのか? 一般ピープルが。


 とりあえず、さっき門番さんに教えてもらった宿屋に行ってみよう。色んな人に話を聞いて、もっと情報収集しないとな〜。



 賑やかな人波を、ひょいひょいと避ける。けど、荷物が当たりそう。

 一番な街は建物も服装も多様で村とは違います。でも、コンクリートのビル群なんてない。高い建物でも三階あたりまで。尖塔が見えるけど、あれは鐘楼だろうか?

 全体的に、お日様の当たりは良いようです。高度な日照権問題は発生しないと思います。



 「どうだい? 美味しいよ!」


 呼び込みの声に、ふらつきそうになるが我慢。


 石畳が綺麗に敷かれた道を歩いて聞いた通りに向かう。

 はい、この角を曲がって通りを跨いで、まっすぐ歩いて、食料品店舗の看板が掛かったとこを曲がって〜………


 yes! 聞いてた看板発見。 俺は迷子じゃねぇぇ! 方向音痴でもねぇぇ!!


 辿り着いたのは、こぢんまりとした店構えのお宿でした。

 

 「こん、にちは」

 「ほい、いらっしゃい」


 居たのは、女将さんじゃなくて親父さんだった。

 

 「あ〜、せっかく来てくれた所、悪いんだが満室なんだ。他を当たってくれるか?」


 がっかり。

 でも、門番さんに聞いて来たって話したのが良かった。紹介が出た。ついで、宿泊費の大体の所を確認する。


 「今度また寄ってくれな〜」

 「ありがとう」


 再び、お宿目指して go! 

 満室か。こんな事があるから、早めに決めとくべきだな! 安眠希望!


 金も換金しないと心許ないなぁ。

 あっち見て、こっち見て。歩いて、露店発見。飾り売ってます! 現地の同業者さんです! 金額かくにーん!



 う・あ。プライス出してねぇぇ!


 しょーがないんで聞いた。


 「いくら?」

 「うん? 買っていってくれるの?」

 「き、聞く、だけ…」


 ……………嘘ついてねぇよ。俺ぇ!


 その人はニコッと愛想笑いして、この列は幾ら。こっちは幾ら。こっから先は金額が違うと教えてくれた。


 見るだけ見た。しっかり見た。

 大きめの飾り箱の中には、濃い緑色のビロード地が張られて仕切りがされてる。仕切りの中で綺麗に陳列されてる金額が違うと言った品を一つ指差して「いくら?」と聞いて返事を貰った。


 「ありがとう」

 「今度は買いに来てね」


 笑顔でお別れ。ごめんなさい。


 宿屋に向かいながら、考える。

 金額に関しては、あと二〜三店舗は確認しときたい。他にも、ショバ代。店開くなら、どっかに納めないとならんのじゃないか? フリーマーケットだって出店に金が要る。スーパーの掲示板に貼ってたの見た。


 だが、ハンカチの上に並べて売る事の方に不安が高じる。

 路上売りだから日除けのテント張ったりして、区画を区切ってる。張ってなくても、荷台で区別。あんまり一人でやってる人はいない。そんなトコで、お一人様用の敷物敷いてハンカチの上に並べて売る? 掻っ払われるとしか思えん。

 さっきの店も安物は直ぐ手に取れる位置にあったし、試し付けもできる。無造作に並べられた様に見えても、何かの糸に括られて防犯対策されてた。何より高い分は箱入りだった。


 今までは個人宅で売ったし、あんな並べ出しだったから何も言われなかったけど… 高額品は売れたら、専用のプレゼントボックスに入れるべきだよなぁ。高いんだから。そういったの用意するとなると〜。


 うーん… 貴金属専門店に行って、買取依頼をする方が正解だろうか? しかし、リサイクルショップは安値で仕入れて高値で売るのが常識だろ? でないと利益出んわけだろ? それを考えると、どれだけ良くても買値は下がるんじゃねーの? 

 コルドさんも仕入れと見做さなかったから、交渉にしても気安かったんだろうし…



 がぁぁ!! どーすっかなぁぁ!



 気付けば、道を行き過ぎかけてた。

 Uターンして、無事到着。紹介して貰った宿屋は、山の花亭です。


 カララ〜ン、カラン♪


 二つのドアベルが綺麗な音を奏でます。中に入れば、こちらの方はこぢんまりと言うより、こざっぱり。向こうのお宿より規模が大きいです。



 「「 いらっしゃぁーい 」」


 今度の受付さんは小さなご兄妹でした。

 カウンターの外側を拭き掃除してるお兄ちゃんに、内側を拭き掃除しているのは妹ちゃんのようです。


 「お泊りですか?」  「お母さ〜ん!」


 お兄ちゃんがキビキビ聞いてくる。妹ちゃんが、ささっと奥へ走っていった。


 「はい。お部屋、あり、ますか?」


 キビッと頑張るお兄ちゃんとお話です。




 「まぁまぁ、お待たせしました。いらっしゃいませ」


 出て来た女将さんと交代した。


 「あら、あちらからのご紹介でしたか。ええ、お部屋は空いてます」


 値段聞いて、部屋を見せて貰って、室内の鍵の有無を確認して、それから躊躇いつつも長期滞在における値段交渉してみたりして〜 はい、お宿確定しました。


 「え? 支払いは保留… ですか? 半金もなく?」


 女将さんの顔が曇ります。当然ですが、踏み倒しなんかしませんよ。単に換金後の支払いを望んだだけです。


 ウエストポーチからハンカチと財布を取り出す。

 出すのは、上物の中でも上に位置する品。金で縁取りされた紅玉ルビーのトップが付いたゴールドネックレスは大変見映えも宜しく。


 ハンカチの上に、くるっと回して置きました。もちろん、女性用です。


 「これ、売る。売れ、た、払う」


 身振り(ジェスチャー)で、売ると言った時には外を指差しました。


 親子三人の六つの目が釘付けです。




 『わからない? 私は高級なのですよ』


 カウンターの上で、大した陽の光が当たらずとも鈍く煌めく金に、黙って高級感を自己主張してる紅玉ルビーを見つめてらっしゃいました。


 もしや、ここで店が開けるでしょうか?



 「あなたぁぁ〜 ちょっと良いかしらぁぁ〜〜?  リタ、お父さんを呼んで来て」

 「はぁ〜い」


 好感触。 もしかしたら、これを支払いに望まれるかも。うーん。


 






 

 うっは〜。

 現在、二階の個室に居ます。窓から光が入って明るい清潔快適空間でーす。窓際にあるベッドのシーツはピシッとしてて、布団は窓からの光に現在も程好くふんわり日干しされてます。


 小さなテーブルに椅子。箪笥と金庫もあった。

 絵画等の飾りの類いはありませんが要りません。素晴らしい空間です。


 非常にホクホク状態です。





 あの後、昼食の仕込みをしてたらしい親父さんが手を拭きながら、リタと呼ばれた女の子と一緒に出てきた。説明前に親父さんの目が見るべきもん見てた。女将さんの話に頷いて、じっくりと見られた後に俺を見た。


 その後、お兄ちゃんがお使いに出された。


 その間に占拠してたカウンターから食堂のテーブル席へと移り、日数とか食事はどうするとか話してた。今は十時を回ったくらいだから、お客さん居なくて楽に話せた。


 お使いから帰ってきたお兄ちゃんは、人を連れて来た。



 「え、一緒に居て聞きたい〜」


 その人と親父さん、邪魔だからと放り出されそうになったのを、足にしがみ付いて頑張ったお兄ちゃんと四人で食堂脇の小部屋に入る。この部屋は予約室だろうか?


 呼ばれて来たのは、知り合いの宝石屋さんだそうです。


 テーブルも椅子も食堂の物よりランクが上な明るい洒落てる部屋で、俺の出した首飾りの検分がされました。親父さんは偽物でないか心配したご様子。本来なら換金して来て、金払って終わる所を呼ぶんです。首飾りを気に入ったとしか思えません。


 身だしなみの綺麗なひょろりとした、ご年配の宝石屋さんです。


 「それでは、拝見」


 手袋をして、小さなルーペを取り出して見る。窓際に行き、自然光に当てる。手のひらに乗せて、持った手を何度か上下に揺する。


 手提げ鞄から秤を取り出し、重さを確認。


 「ふーむ、うーむ、ほーう」


 なんやら、ふんふん言ってたのを三人で見てた。

 最後に何かしたのか、パチッと空気が揺れた感じでおしまい。


 「どこの工房が作ったかの刻印が見つかりませんでしたが、一級品の良い物ですよ。混ざり物の反応もなかったですしな」


 …簡易検査は通過した模様です。

 俺の目の前でされるのも微妙な話ですが、偽物なら、このまま警察にでも突き出されたりするんだろうか? もし、誤認検査されたら怖いな〜。それ、わざとされたら泣くわ〜。


 

 聞いてみた。


 「それ、いくら買う? いくら、で、売る?」

 「ふむ。この品は、あなたの売り物なのですね?」


 その言葉に頷けば、天井を眺めて「うーむ」と一言。


 「当方との商売とするならば〜… 」


 提示された金額は。

 さ〜すが上物の上でした。この宿に、ゆぅう〜〜っくり滞在しても釣りが出ます。そんなに叩かれなかったと思える理由に、それは何故かと頭を回してみます。 


 「そこまで値がつくか… 」


 唸り声を上げたのは、親父さんだった。息子さんのお兄ちゃんは、 『えーっ』 の形に口を開けっ放しだった。親父さんは、あれがお気に召したようですが現地の売値を理解した以上、ちょっとね〜。


 「うー、釣り合わんかぁ…」


 「ほか、ある。見る?」


 残念そうな声で、非常にがっかりしてたので言ってみた。


 「他にもあるのか?」

 「見せて頂けるなら、是非みたいですな!」

 「見たい!」


 いつも通り、ハンカチ出して上物と中物並べます。はい、店開きます! ついでに宝石屋さんのご意見を聞きたいでっす。


 「ほうほうほうほう!」


 宝石屋さんが一番楽しそうでした。

 

 その中で、宿泊費と釣り合いそうな品を数点チョイス。その後、女将さんが呼ばれました。



 「… 」


 

 女将さんは、女将でした。

 テーブルに並んでる品々に目を据え続けても、エンナさんの様に歓声は上げませんでした。コルドさんの若奥さんの様に感嘆の吐息も零しません。視線だけが外れずに煌めいてました。

 そして、妹ちゃんも呼ばれ〜………


 「あなたが、お嫁に行く時に上げるからね」

 「ほんと!? うれしーいっ」

 「えー! 僕には無いのー!?」



 妹ちゃんの歓声に、お兄ちゃんのブーイングが飛びました。激しいブーイングでした。 はははは…


 即座に家族協議が持ち上がり、質が落ちても二品に決まり。また、宝石屋さんが楽しそうにピックアップされまして。


 しっかーし! ピックアップされてもさー、それ、俺のだから。

 『俺の』 商品だからねー。俺が認めないと困ります。宝石屋さんが適正と考えられてもですねぇ、俺の方の経費とか入らないと困るですよ。…仕入れてないけど。でも、シューレまで運んで来たのは俺ですから!


 「利益を出すのは大変よ」


 メリアナさんが、しみじみ言ってた。


 「盗まれて仕入れの借金背負って、首括るなんて冗談じゃないわ〜。盗んだ奴の首を絞めてやるわよ〜」


 手を重ねて指の骨をポキボキ言わせながら、笑顔でさらっと他にも言ってた。ヨハンさんも頷いてた。




 ぼったくりはしないつもりですが、俺が値をつけなくて、どーすんですかーいっ!?

 

 わかってないと足元見られて、丸め込まれるのは拒否します! でないと以降、舐められませんかーっ!? メリアナさん、ヨハンさん、教えをありがとう! 頑張ります。いつかまた会えたら、ご報告します!



 「おや、つい。 しまった。失礼したよ」


 腕でバッテンのポーズを取って、思いっきり訴えました。

 それは俺のです。俺の商品でっす。

 適正価格と思えても、宝石屋さんと宿の親父さんは顔なじみですよね? …無いと思うけど、裏で繋がってたら〜、いーやー。宝石屋さんが宿の食堂でツケとかしてたら、いーやー。


 最終的には双方折り合いつけて、宿泊が決定した次第です。良い物を見たら、そっちが欲しいですもんねぇ。

 俺としても、直ぐに代行の男爵さんに会えるか不安。値が合わないと感じた分、宿泊日を伸ばしたですよ。朝と晩のご飯付きで。




 それで今、室内の椅子に座って、グイ〜ッと背中伸ばしてます。

 宿の食堂で昼食したら、宝石屋さんに行きます。さっき知り合った宝石屋さんが、お店に招待してくれたので伺います。


 それにしても、ここの親父さんは大らかと言うべきなのか?

 首飾りを見て本物だと思ったが、俺が若かったんで怪しんだ。「これなら、賭けて後で調べてみりゃあ、良かったか!」と笑いながら言った。

 盗品と怪しまれないだけ、良いんだろうか?



 「ごちそうさま、でした。 出掛け て 来ます」

 「いってらしゃーい! 気をつけてね〜」


 妹ちゃんに見送られ、お兄ちゃんを道案内に付けられ出掛けてきます。 なんという高待遇! プライスが物を言いますな〜。然程遠くないご近所さんでしたけどね。


 「じゃ、ノイ兄ちゃん。気をつけて帰ってきてね。夕食、食べたいのある? お肉? お魚?」

 「ありがとう。   …お魚、食べた い、です」

 「お魚ね! きっと美味しい蒸し魚になるよ! 僕は甘いタレが好きだけど、大人の人は辛いタレを付けて食べるのが好きだよ〜!」



 蒸し魚ですか! 白身魚の餡掛けでしょうか!? 辛いなら、唐辛子系か? 煮魚とか食ってないな〜。 うーわ〜、今晩の夕食が実に楽しみです。


 向かうお店は、お兄ちゃんのオルト君の案内がなければ入るのを迷う店構えです。しっかりした煉瓦造りに、どう見ても重たそ〜うな防犯を意識したご立派な扉。ですが全体の雰囲気は高級を滲ませてますよ。窓は下半分がデザインされた柵で囲われてます。窓全体を囲う鉄柵でなくて何となく安心します。


 押し扉を押すが、マジ重い!っと思ったら、内側からあっさり開く。


 「いらっしゃい。親父から聞いてますよ」


 出てきたのは職人気質に見えるおじさんでした。

 あのひょろい方から、こんな立派な体格の息子さんが! 遺伝子の驚異に驚愕したら、義理の父でしたか。


 奥が工房にもなっているらしく、徒弟さんも居た。


 お客様用商談ブースの立派な革張りの椅子に座れば、変にその気になります!


 午前中に会った、ひょろいご年配の宝石屋さんはクレマンさん。この店の前社長としたもんかな? 今も現役バリバリです。現社長は目の前のニコラスさんで良いのかな?


 二人とテーブルを挟んでの対面です。


 「早速だが、先ほどの品を見せてやって欲しいんだよ」


 ニコラスさんは作る方の人でした。

 ………デザインの盗用? じゃなくて〜 インスピレーションの掘り起こし〜? えー? うーん、うーん。難しい内容のよーな、見せる程度構わないよーな。



 「同じモノ、作る?」


 「いやいや、それはない。する者も居るだろうが、そんな事はしない。あ〜、まぁ物が物なら習作はしたいかもしれんが… 習作は売らん。どうしても売るなら模作品と明記させて頂く。でないと、うちの看板に傷がつく」 

 「良い物を作ろうとするなら、やっぱり良い物を見て目を肥やさないといけないのです。同業者の寄り合いもあるんですがね、そこそこ似たと言うか同じと言うか。王都や都市なら違いますが… そこまで行くのも色々ありましてねぇ」


 そんな話をしてたら、身長は同じでも年齢は下な徒弟さんがケースを持ってきた。


 中には店の売り物、自作品が並べられてた。宝飾に普通に目が眩みます。

 眩みますが〜… うん、煌めきは同じとしても〜 デザインが…  イマイチ垢抜けてない? いや、好みの問題? シューレに美術館とか無いのかな?



 「うちで扱っているのは、こんな感じなんだよ。作品が醸し出す雰囲気が違うだろう? マンネリズムを脱したくてねぇ」


 温和な顔で話すクレマンさんに、反論したいけど言葉を飲み込んで止めてる感じなニコラスさん。ニコラスさんて、入り婿?


 先に見せて貰ったし、お返事がしっかりしてたんで問題ないでしょう。 …そうしないと先に進めないしな。


 最初の一袋は少なくなりましたし、街に着きました。ので、二袋目のブツと取り混ぜて持参しました。もっちろん、全部は出しません。選んで来ました!

 今はウエストポーチと新しく購入したリュックです。厚手の生地ですが布製なんで、畳めるリュックです。結構入るから気に入って買ったんだ。

 宿が決まったのに、全荷物持って常に移動ってないよ。体が辛いわ〜。


 ポーチとリュックから品を取り出して、ハンカチの上に並べようとしたら、クレマンさんから stop 入りました。…本職の方からすれば、やっぱり駄目でしたか?


 黒のビロードの布が張られた置き台が、テーブルに準備されました。台がもう一枚と、ビロードの布が他にも用意されてました。…有り難く使用します。



 「かぁ〜〜〜 …… !!」

 「言った通りだろう?」


 黒の布地の上に並べれば、ほんとに映えて綺麗です。 …暗色系の布、買うべきなのか? 商売道具として買うべきなのか!?


 ニコラスさんの目が釘付けになり、クレマンさんが楽しそうに笑う。そこへ小さなサイドテーブルとお茶を運んで来た二人の徒弟さんの目が、クワッ!と見開かれた。


 一人は視線を逸らさず、一人はチラ見してる。

 その状態でテーブルと茶をセッティングしていく二人に技術力を感じました。セッティングが終わっても、離れられない二人に何か押されて聞いてみた。


 「見ます、か?」


 「「是非、お願いします!」」

 「良かったなぁ、お前達」


 あー、俺から言い出すのを待っていた様子です。

 

 徒弟さんの二人は、テーブルのサイドに並んで中腰で片膝を床にあてて見てます。姿勢が辛そうな気がしたんで、空いてる椅子に座ればどうかと言ってみた。


 「いえ、どうぞお気遣いなく」

 「見習いです。お気持ちだけ、ありがとうございます」



 二人は伺いもせずに言い切った。年下なのに、しっかりしてます。



 ニコラスさんと二人は手袋して手に取って見続けて、試し当てに映え方を確認したりと、色んな角度で見続けてた。俺はクレマンさんに金銭的な質問をしてた。俗物的だけど、大事だよね。



 片付ける時には怒られました。


 「ほんとに、そのまま入れてるんですか!?」

 「止めて下さい!」

 「宝玉に傷でも付いたら、どうするつもりですかぁぁ!!」



 恐ろしい勢いで怒られました… 怒鳴った徒弟さんを固まって見てた。


 「あ。 お、お客様に申し訳ありませんっ!」


 はっ!と我に返った徒弟さんに平謝りに謝られた。



 けど、悪いのは俺で正解のようです。

 ……言い訳するなら、おねえさんがポイポイ入れたんだよ。


 「だぁいじょうぶよ〜。こんなのが、そうそう傷ついて堪るもんですか〜。ほほほほほ。まぁ、弱い石は弱いけどね。そんなに弱い物なんか入れないわ。当たりハゲするものは別にしましょうか。真珠なんかの海の宝珠も別に包んでおくけど、着いてから自分で見とくのよ〜」


 最初の一袋については、あれこれと俺の前で説明と一緒に入れてたんです。


 「披露する程に大した物はございません。お見苦しく恥ずかしいので、向こうで入れて来ますわね」


 残りは、おにいさんから離れた場所でポポポポポイッて入れてたんだよ。楽しそうに。その後、また説明だけはくれたんだけどね。


 言ってはいけない、言い訳です。 …けどね〜、えへっ。




 「ところで、ノイさんはシューレの街に、何のご用事で来られたんですか?」

 「ともだち、会いに」


 「お友達ですか。どちらにお住まいで?」

 「あ… いない」


 「え? いない? お住まいではなく?」

 「それなら、待ち合わせですか?」

 「知る人、会いに」


 「お友達のお名前を伺っても?」

 「ハージェスト」


 「ハージェスト…  ハージェストですか。  うん? フルネームを伺っても?」

 「ハージェスト・ラングリア」


 顔にクエスチョンマーク飛ばしてるクレマンさんと話しながら思う。もっと、俺が上手に喋れたら円滑に進むんだろう。

 でも、これでも。 

 これでも! 発音自体は、かなり良くなってきてんだ!! 努力してんだ、俺は! でもなぁ… 何かこう、引っ掛かって… なんでだろな… ふぅ。  …俺の頭が良くないからだとは思いたくない〜。

 

 

 「会う、のに。 行きます。領主館、思うです」

 「ああ、なるほど。示し合わせて、お会いに来られたんですか」

 「は?」

 

 「領主館に行かれるのでしょう?」

 「はい」


 「竜騎が来られましたからねぇ。お出でなのかは存じませんが、お尋ねすればわかりますね」

 「お友達が来ているのなら、来られているのではないでしょうか?」

 「すごいですね! 領主様とご面識があるんですか?」

 「イラエス男爵様は、今頃、お忙しいでしょうなぁ」


 

 へ?

 

 なんか和やかに話が進んでいくんだが、俺がついていけないんで stop かけた。そこから、合わない話を合う様に、頑張って頑張って頑張って聞き出した結果。



 領主様のお名前を知りました。


 エルト・シューレ伯爵セイルジウス。


 ここまでは知ってます。そして、ここまでで問題ありませんでした。

 なので、俺はセイルジウス・エルト・シューレが名前だと思ってました。特に皆さんは伯爵か領主って呼んでたし、どっちかってーとイラエス男爵さんの方で話してたし、シューレに住んでないって言ってましたから。



  『 セイルジウス・ラングリア 』 


 これがフルネームだなんて、誰も一度も言わなかったんだよぉぉっ!!



 領主さんを呼ぶ時は爵位にお名前だけが正式なんですって、言うんだもんよ… 常識をもっと知ろですか…! ぐああああ!! 知るべき常識がわかってないのがミソですね!! ちくしょう!


 この状態を無知の知と言うんですね。ええ、そうですねぇ!


 俺は知らないと言う事実を知っている。



 知ってるけどさぁ! うがぁぁぁああ!! こーんなもん、カッコつけて言ったって様にならねーよ! 脱して、なんぼだろ!? 事実理解してても脱し方を考案できずに、ほったらかしにしてんなら意味ねーわ!!


 だーから! そこら辺の聞くべき知るべき常識そのものがぁぁ〜〜〜〜!!



 あ〜〜〜、もうぅぅ!!   ハージェストォ、ヘルプーーーッ!!




 ちなみにイラエス男爵さんは、ロベルト・イラエスがフルネームでした。…おかしくない? 和やかに進み過ぎて聞き難いんだよ! 一時の恥とか一生の恥とかって、言うけどぉ!


 ……………… ハージェストォォ!!




 それでぇ、伯爵の弟の名前がハージェストだったはずだとも聞いた。

 クレマンさん達は伯爵に直接会った事は無い。今まで伯爵の家族が来たって情報も聞いてないそうだが、伯爵が金髪で蒼い目なのは揺るぎない事実だそうだ。ラングリア家は金髪に蒼の目が特徴だって情報は知っているって。

 名前をどっかで聞いたな〜ってトコに、 『ラングリア』 と聞いて思い出した、そんな感じで。



 俺の頭が、カッチャン、カッチャン動いてった。



 お兄さんが、ここの領主って… そりゃ、ここの一番偉い人に聞いたら、居場所判明するわ。

 しかし、貴族? きぞく・キゾク・貴族? 俺の友達って貴族なの? なにそれ、まじでほんとに俺の友達なんか? てか、お兄さんがいたんですか… 家族構成も教えて貰えなかったもんなぁ…


 竜騎兵はランスグロリア伯爵家で、そっちがラングリアで保有で。きっと、伯爵様のご指図で竜騎が来たんだって。

 あのぉ… 伯爵って、どっち指してんだ? 竜騎って単語は騎士と同一?


 んで、もしかしたら、ハージェスト本人も来てるかもって。竜騎兵の中に金髪さんが居たってそうだから。ただ、会った事無くて情報来ないから、 『かも』 だってさ。


 …一般に情報が来ないって、どーゆーこったい?



 聞いて、あの後ろ姿の金髪さんを思い出した。しかし、印象として残ってんのは茶髪さんですがな…




 「いやいや、私達もね。恥ずかしながら、お越しになられた当初はよく知らずに居りまして。なんせ田舎の事でしてねぇ。ここから大きな都市と言えば、キルメルの方になりますでしょう? そうしたら、王都の方に目がいくんですよ。

 それに伯爵様に私共が馴染むより先に、イラエス男爵様のお目見えで男爵様が動かれる様になられましてねぇ。伯爵様につきましては、頭でわかっていてもどこかやはり遠い御方で」


 「ええ、反対に南下して行けばランスグロリアがあるんですが、あちら様と知っても伝手自体が乏しく、あまり知らず。私共も色々ございまして、後からようやく知った次第で。どちらにせよ、田舎者ですので縁遠い地の領主様方とくれば、情けない事にピンと来なくて」



 そんな話もしてくれた。

 え〜、それで言うなら、テーヌロー村は山を背にした情報の回って来ない、どん詰まりで良いんだろか?


 こんな宝飾類持ってんのも、友達ならみたいな方向になって… 


 「 キゾ く…… 」

 「そうと知らずに、お友達になられたのですか?」


 それでも妙に信じられなくて呟いた俺に、不思議そうな声が返ってくる。

 とりあえず、曖昧に頷いた。


 もう、突っ込まんでくれ。


 雰囲気がちょっと変わったような、変わらないような〜? 俺の探すハージェストが、 『領主の弟なら』 に繋がるからだろうかー? うー… 


 

 出されたお茶の残りをクッと飲んで、ハッと気付けば結構な時間が経ってた。


 ものすごく濃い充実した午後だった。半日完全に使い倒した。

 見せた宝飾の一つをお買い上げ頂いた上に、街に着いたその日の内に友達の素性が判明したよ。情報が一気に押し寄せたって感じです。うわーい。


 しかし、疲れたんでお暇する事にした。他に来てた客の迷惑じゃなかっただろうか?

 時間的にも今日はもういい。帰って落ち着いて情報整理したい。それで、明日にでも領主館に…




 そうだ! 大事な蒸し魚が俺を待っている!


 なんという事でしょうか!? 帰るとなれば、そんなに遠くないのに心配されて徒弟さんの一人が送ってくれますよ。

 

 「どうも、ありがとう」

 「いえいえ、いつでもお越しください」

 「ちゃんと宿まで、お送りしてくるんだぞ」

 「はい。任せて下さい」



 宿に帰るが、こんな風に歩いてたら、友達との歩きに見えるだろうか? しかし、うざい話になると面倒いんで先に俺が話を振っておく。


 「ここ。美味しい、食べ、もの  なに?」

 「え? 食べ物ですか? そうですね… 」


 それってどこら辺にあるのかとか聞いてる内に、宿に到着です。


 周囲がざわついていました。

 人集りできてました。



 「何でしょうか?」


 二人して首を傾げて、その間を入っていけば。なんという事でしょう…


 制服来た兄ちゃんや、おじさん達がいた。

 この夕暮れ時に、山の花亭に小火ぼやが発生した上に、押し込み強盗があったそうです。




 誰か。 誰か、俺に安心をプリーズ… 

 



窃盗症クレプトマニア。病気であっても犯罪者。

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