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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
52/239

52 あれ、そうだった?

 

なんかね、普通に超えるんですよ…

  

 にーばしゃ〜に ゆーられ〜て がったん、ごっとん。 みーちを どんどん すすみます〜♪



 荷馬車の中は明るいです。幌布が白地なんで暗くないです。でも、真夏になったら暑そう〜。いや、白地の照り返しだから、まだ良いのか? この中がサウナになったら地獄かもな。



 皆が見えなくなった後は、黙って風景見てた。


 三人の誰かと一緒なら安全だった。しかし、それを頼むのもな〜。お願いに支払う金もさ〜… 


 第一、皆には存在が不確かな魔獣の対応がある。

 村を守るって、役目がある。

 三人には納期の荷卸しとは別に、エッツで魔獣の情報収集等の他の目的もあったんだ。それに合わせて村を出た。それも「戦闘に巻き込まれたら大変だから」って送り出してくれた。

 このまま行っていいのかとも悩んだけど、何せ完全な戦力外… お前のその気持ちで十分とも言われてさ…

 


 この状況で、「金出すから送ってくれ」 なんて言いたくないですよ。言ったら、もう自分本位としか… 頼むなら、魔獣がどうにかなってからだろ?


 大体の道順も知った。乗り合わせる馬車も見つけて来てくれた。

 そこまでして貰ったら〜 普通に一人で行けやと自分でも思うし、行けんのかいと思うわ。





 そんな思考は、お声を頂いたんで止めました。



 「もう一度聞くけど、シューレで良いのよね?」

 「はい」


 馬車の所有者のご夫妻です。

 御者してるおじさんはヨハンさん、奥さんはメリアナさん。


 荷馬車の中には荷物で満載です。行商してるお二人から色んな事が聞けるでしょうか?


 「シューレに何しに行くの?」

 「友達、会い、行きます」


 「あら、素敵。あなたはテーヌローの子じゃないのでしょう?」

 「はい、違うです」


 「あんなに丁寧に頼まれる事は、あまりなかったの。村の子じゃないのに驚いたわ〜。すごいことね。仲良くなったのね」

 「はい、とても」


 「あなたは、どこから来たの?」

 「ええと、 向こうです」


 「向こう? テヌ山の向こうでいいの?」

 「ええと… あっちです」


 「じゃあ、あなたのご家族は?」



 どうしてでしょうか? 

 お話してるだけですが、口調も単にお話してるだけですが、尋問じゃないはずなんですが… 返答に困る内容に現実を思い知ります… 

 既に似た事はテーヌローでもしましたが、人に会う度にするんでしょうか?



 「姉が いた です」


 自然に下を向いて声も小さくなったらば、奥さんが口籠もったんで、そのまま下向いて沈黙した。


 「もしかして… 死んだの? 辛い話になったのかしら?」


 違いますが、終了できそうなので黙っときました。はい。


 「そう、死んでしまったのね」



 その口調は優しかったと思う。悼む気持ちが混ざってたと思えた。そこに悪意は感じられなかった。

 なのに、どうしてか念押しされてる雰囲気を勝手に感じて、どっかがガチッとキました。そのまま黙って流されて、なーんの問題もない。むしろそっちで正しいはずですが〜。


 俺の心のどっかに引っ掛かったんです。

 


 「死んだ! 繰り替え、する、違う! しない!   言う、違う。でない!」



 死んだと繰り返すんじゃねぇ! と言いたいんですがね。


 本当に何が引っ掛かったんか、ぶちんとキて反論しました。

 ちょっとだけ、声荒げました。


 顔を上げて直ぐに下を向いて、口を結んで沈黙しました。



 確実に車内の空気を悪化させた。

 


 『あ〜、やっちまった〜』 + 『別にいいじゃねぇの、俺は悪くない。おかしくない』 → 『こんな調子で、この先やっていけるんだろうか?』 



 俺の脳みそは、二分割思考から第三思考が派生した。

 自分の行動で悪くした空気を無視して目をつむったけど、失敗したと感じた。





 「お前が悪い」


 感じた直後のおじさんの一声に、心臓がビクゥッ!と垂直飛びした。


 おじさんが御者台から振り向いてた。


 「今のはお前が悪い。坊主、悪かったな、こっち来な」


 その言葉に申し訳ない気持ちもした。奥さんに少しだけ頭を下げ、荷物の間を抜けて御者台に登る。


 御者台に出れば、青空の元で当たり前に明るかった。空はドコまでも広くて青くて高かった。見た景色は特に変わるものではなかったけれど、高さと前に進む開けた視界に、どこか違って見えた。



 「詮索する気じゃなかったんだよ。ちゃーんと頼まれた口だったのに、すまんなぁ。なに、こっちも旅暮らしなんだが、坊主はあんまり見た顔立ちじゃなかったんでな。つい、聞いちまったんだよ。怒らんでくれなぁ?」



 穏やかに宥める大人の口調に俺は思う。


 『そうだ、そっちが悪い! 人の事をずけずけ聞いて』 そう言って、あのおっさんみたく金払えって怒るやり方。

 『いえ、お気になさらず。でも、その話は遠慮します』 そう言って、引っ込んでも上手くシャットアウトしとく方向。



 …空気読むし、乗ったばっかしだし、選ぶのは後者だけどね。ココで腹立てて降りるっつって、降りて困るの自分だけ。


 「はい。聞く、ない。 で、お願い、です」


 とにかく、なんとか笑顔を作ってお願いした。

 ああ、単語のぶつ切れからも卒業したい。さっきも感情が先立って単語が出てこなくて空回りする上に、なーんで、こうも舌が回らんのか〜、はぁ。


 一つ、ため息ついた。



 そっから、おじさんとボツボツ話す。対向車ならぬ対向荷馬車も来ないから、手綱を握らせてくれた。気分が簡単に浮上した。単純な俺。



 奥さんと大人謝りし合って、おしまい。 …この加減を覚えるべきなんだろうな。自分の短気を知って、良かったと終わらすべきなんだろう。うん。


 御者台から中に戻ってからは俺が疲れない程度に、見計らった風に話してくれる。何気ない感じで優しい。悪くした空気が飛んでいって、俺も力が抜けた。ゆっくり話せた。

 そして重大沈黙要項だが、ハンナおばさま同様の、立て板に水の途切れない会話でないのが嬉しくて助かった。ケツ様が痛くならなければ、もっといいね。


 奥さんは痛くならないのかと単語を繋いで聞いたら、首を傾げて考えて、慣れたとの端的な返事だった…


 売ってる商品には座布団(小)もございました。レンタル交渉してみたら、御自分達のを貸してくれた。お金はいいと言って下さったが、「ありがとう」だけじゃダメな気もした。


 買ってたクッキーをおやつに提供します。


 「まぁ、お菓子は嬉しいわ。休憩時に、お茶と一緒に食べましょうね」


 買っといて良かった〜。

 旅番組の類いで、値段交渉にお菓子が活躍してるの知ってた。ほんと当たりだわ。金は無理でも菓子なら出せる。そんな感じ? 

 しかし、おねえさんからの菓子を出す気はなーい。ない、ない、ない。



 荷馬車の中の商品を眺めて、必需品はなんだと考え、行商か〜とも思う。

 この辺りは、どう考えても田舎なんだろな。そんで行商が成立してんなら、そういった時代なんかな〜っと、そこまで考えて、ふと。

 宅配サービスって行商の一種じゃねーか。それに田舎の山間部は商店もなくなって苦慮してるから、地元のスーパーが車に商品積んで行ってるって… ああ、都心部でも店舗の撤退で移動の足が無い高齢者の食料難が起きてるってニュースで… あ〜、ネットスーパー。

 

 ………………世界は変わらんね。 あ〜。この場合、供給量に速度がなんちゃら〜でいいのか?




 そーだよな〜。拠点にするハージェストんとこって、どーゆーとこだろな。

 いつかって言うか… 自活する準備期間と地盤を固めに行くんだよな。遊びに行こうと思ったのも確かだから、一緒に遊べたらいいなぁと願望してるのも確かなんだけど。

 もしも、ハージェストんとこ居られなかったら即、自活だ。軍資金を分け合っても、暫くは余裕だと思うが… 就ける職種も思案しながら行かないと。



 そんな事を考えて揺られてました。


 もう少し先の集落で商売しつつ昼にするとのこと。速度も速すぎず、振動もきつくない。座布団もある。幌で直射日光は無いが、空気が籠もるのが微妙でも楽で良い。


 異世界来て初っ端は痛かったけど、俺、比較的い〜い感じで動けてないかな?






 集落の広場な場所に荷馬車を止め、昼飯兼商売。



 ガラン、ガラン、ガラン。ガララ〜ン。



 ヨハンさんが振ったハンドベルの音が響いたら、家から人が出て来て馬車へとやってくる。俺も商売してみよか思ったけど、それよりやり方を拝見した。


 そっから、見よう見まねで手伝った。言葉は足りないが、なんとかなったか?


 「手伝ってくれて、ありがとよ」

 「ほんとにね」


 俺も少しは役に立てた。邪魔ではなかったはずだ!


 俺の昼食は昨日泊まった宿で頼んでた弁当です。弁当箱はない。包んだ布から出て来たのは、ホットドッグ。違う種類が三個。一つだけ、ちょっと小振りなのがご愛嬌。野菜と肉を挟んで美味しかったぁ。しかし、日を置くと確実に傷むから食い切る。つか、残しません。残りません。


 「はい、お茶」


 水を飲もうとしたら、淹れたての茶をくれた。…優しいです。



 それから出発。

 しかし、道で呼び止められたら、邪魔にならないよう注意しながらご商売。


 そのやり取りを聞きながら居れば、何かこう〜  時間が、すっげぇゆったり流れていく感じ。



 林の中を通れば、木漏れ日が射すのを後ろの幌幕上げた荷台から見てた。荷馬車の中から見るその風景に、自然が素敵な田舎〜と不思議〜な気がしてくる。



 なんで、ここにいるんだろう? 



 じゃないけどさ。

 少し前まで、こんな風に自分が荷馬車に乗ってるなんて想像もしなかった。

 公共交通利用者だったし、車は持ってない。何て言うかさー、揺られてくこの速度がですねー。 ドーラちゃんの時は速度に痛感がまさって、思考は生まれなかった。

 

 気持ちに余裕できた? いや、今だけだろうか?

 何かねー、異世界来たな〜って感じより、今の気持ちは遠くに来たな〜って感じでいる…   早すぎる気もするが…



 その晩は、日暮れ前に到着した村で泊まる事になりました。

 泊まった宿は民家な感じでしたが、ちゃんと部屋に鍵が掛かります。個室です。狭いですが、個室です! 繰り返します、個室です! 異世界に来て、初めて一人で個室で寝ます!! やほー!!


 また雰囲気がアレな感じで良いですよ。カプセルホテルよか良いんじゃないでしょうか? 泊まった事は無いけどね〜。



 ぼふっ…


 ダイブすれば、日干し後のふんわり感があるぅ!


 寝過ごしませんようにと祈って本日は就寝です。慣れてきましたが、野宿は堪えます。若いからの一言じゃ無理です。屋内に布団万歳。

 






 ドンドン! ドンドン!


 「朝ですよ! 起きてますかぁ?」


 「あ…?   あ、  はいっ!」



 ボケつつ起きた。

 用心に頼んでて正解。予想通り、祈りじゃ無理でした。通じませんね、睡眠が勝ります。


 宿の食堂に行けば、他の宿泊客も居る。ヨハンさんとメリアナさんも既に居て食べてた。ヨハンさんは宿屋の主人と話してた。


 「おはよう」

 「おはよう、です」


 メリアナさんに、こっちよ〜っと手を振られて同じテーブルに着けば、さっき起こしに来てくれた宿の女の子が、お盆に朝食を乗せて持って来てくれた。朝から大変良い感じです。

 

 焼き上がったばかりの熱々のパンに、とろけたチーズが最高でした。



 出立に宿屋の女の子が、お見送り。


 「またのお立ち寄りを〜」


 笑顔で手を振ってくれたから振り返す。



 ヨハンさんが御者をちょろりとさせてくれたり、メリアナさんとのちょっとした落ち着いた会話。そこから、覚えた内容。積み荷が擦れる音。車輪がギシギシ音を立てる。


 乗り合い馬車なら、もっと早くシューレの街に到着するんだろう。

 代わりに休憩少なくて、乗り合わせた人達と気まずかったら微妙な旅になるんかな。それとも、賑やかな旅になるのかな… 


 こんな感じで行ってたら、宿泊の方に金が要るかな? いや、こんなもんじゃね? …何よりも今の俺に必要なのは、こんな歩み方じゃないのか?


 「注意して行けよ」


 そう思えて来たら、フレッドさんの別れの言葉が注意して色んな事を見て行けよにも思える。探して来てくれたフレッドさんに、勧めてくれたケリーさんとニールさん。三人に感謝しないとな。


 商売についての簡単な話をしたりして、今日も今日とて参ります。そして今晩は野宿の予定です。


 


 夕方になって野宿の仕方を教わりました。

 獣や魔獣除けの結界石も見せて頂いた。猿の時は流してしまった結界石は、旅のお供の必需品。行商してる人達は、持ってて当たり前の品。

 便乗のお願いに行った際に、その事を話したら魔石の方を買うべきだと言われたんだ。


 「別れる場所は、街までもう少しの所だから大丈夫よ。あの辺りで襲われた話は聞かないわ。ねぇ? エッツよりシューレで良い品を見繕うといいわ」


 メリアナさんの言葉に他の皆が頷いたんで、結界石はまだ購入してません。

 ヨハンさん達の商品に魔石や結界石もあるが、数は多くないそうで。他の店で買った方が色々見れて良いと言われて、他の店に買いに行きました。

 普通なら、自分達の商品売るよね? 違うんだなぁって思った。



 「ちょ〜っと割高でも、町に来れない田舎の方には売れるのよね〜」


 後で、この様なお話を頂きました。

 そりゃー、そこに行くまでに輸送賃に経費掛かってるんでしょうけど…ね。力の落ちた物は、見る人が見たら一発だって言ってた。



 え〜、 ……天の時、地の利、人の輪 でしたでしょうか?  

 ………意味違うやね〜。 使い時、違うやね〜、あっはっは。 ほ〜んと、腹立てて降りなくて良かった〜。




 「さて、やるかな。結界石の使い方を教えてやってくれとも頼まれとったからな、しっかり教えてやるぞ」


 ………どうしよう? 本気でケリーさん達に頭が上がらないです。







 

 翌朝、出立。 商売、会話。 偶に購入。 晩、野宿。

 翌朝、出立。 会話、商売。 立ち寄り。 晩、野宿。


 これを繰り返した… 野宿だけじゃなく宿泊もしましたけどね…



 ふ、ふふふふ。

 エッツを出て何日経ちましたかねぇ?


 テーヌローの村は田舎です。間違いなく、ど田舎です。銀行を探しもしませんでしたが、もしも預けてたらヤバかったですねぇぇ! 遠いわぁぁ!!


 ヨハンさん達、レア食材かなーんか探すのに、ちょいちょい寄り道する。だから、普通に行くより、もっと時間掛かってんのも間違いないんだけどね。でも、これはこれで楽しいんだ。食材は足りてるから問題ない。足りなかったら… 怖い。





 そうして、ついに大街道を見ました。

 ちょっと変則だけど十字に伸びる大街道です! …大街道っても、俺が見た中で道幅が一番広くて整備されてるって、意味合いで言ってるだけですがね! アスファルトなんて、ございませんから!

 それでも見た時は、やっと、やっと裏道・細道・小道からの脱出だと感動したよ! 悪路に車輪が取られた時には、俺も荷馬車を押したりしてたよ!

 


 街道に降りたら、行き交う荷馬車や歩く人。往来が多くなってきたと思った所で、お昼休憩入ります。久々の浮き立つ気配にウキウキです。


 大きな街道で、分かれ道。

 ここから先、歩いて一日程度でシューレの街に辿り着く。荷馬車で急げば一日掛からない。

 ここは町って言うより、街道脇に並び立つ露天街って言った方が近いと思う。もちろん建物もある。茶店や飯屋か、旅館系? 民家もあるようです。


 露天売りは、全般的に食い物系が目立ちます。いえ、俺の目が食い物しか映してないのかも知れません。


 大きく開けた駐車スペース専用らしき空き地に荷馬車を停め、ヨハンさんを留守番に。メリアナさんと昼食を買いに出た。



 露天から良い匂いが俺を誘う。


 「あれは辛いわ。これはあっさりしてて美味しいの、私は好き。あの揚げ菓子、油が回り過ぎると気持ち悪くて食べれやしない」


 メリアナさんの個人意見を参考に、露天を巡って昼食を入手した。ほんとに楽しい買い物だった。


 停めた場所に戻ればヨハンさんが荷馬車を点検してた。 …休む暇無し。お疲れ様です!



 

 言われた時、 『あれ、そうだった?』 と思ったけど、そうでした。ここで俺は途中下車。街まで、あと少しのこの場所。


 あーう〜、うん。 …ちょっと寂しい。 


 食べ終わって、不足の物が無いか再確認。帽子も被る。先の始末がされてない、この麦わら帽子は活躍してくれます。ばらけはしないだろうけど、どこまで持ち堪えてくれるだろうか?


 今は昼。

 今から出発すれば、今晩はどっかで野宿か民家に泊めて頂く事になるだろうが、明日中か明後日には着けるはず。便乗する馬車があれば、頼もうかとも考えたが自力を選ぶことにした。

 もう少し先が街だから、安全性は高い。魔獣も見ないと言った。足の豆も治った。一人でどれだけ歩けるか、自分で判断できるか。


 試すのに丁度良いと思った。どうしても無理なら、通行する馬車にお願いすればいい。


 これを指針に以降の移動手段を検討する。よし、ばっちり。



 「そう、歩いて行くの。気をつけるのよ」

 「まぁ、街道沿いだ。大丈夫だろうが何かあれば人に頼めよ」


 笑顔の会話に、考えは間違ってないと思う。


 「そう言えば、お友達の名前は何て言うの?」

 「ハージェスト、です」


 「おお〜い、ヨハンさんだろ〜!?」


 遮る声に、手を振りながらやって来る人を見た。話に聞いてた新しい顧客の人だと思ったから、別れの挨拶に切り替える。でないと、別れを惜しんでズルズルしそう。


 「お世話、なり、ました。ありがとう」

 「これを上げるわ。まだ使えるから、あと二回は保つはずよ」

 「持って行け」

 「また、会えると良いわね」


 メリアナさんが差し出してくれた結界石に驚いた。ヨハンさんの言葉に、胸が詰まった。



 頂いて、さよなら。


 歩き出しても、やっぱり振り返ってしまう。

 メリアナさんが手を振ってくれた。ヨハンさんは顧客の人と話してた。



 頭を下げて、手を振って、ほんとにありがとう。 


 十字路で、お別れです。








 人の流れに添って歩き、店をチラチラ覗き見しながら値段を確かめる。

 うーん、久しぶりに見る並び立つ店舗の吸引力は違います。早く行かないと〜、と思いながらも見てしまう。そして、通る人の姿も見てしまう。足が止まる〜。あっはっは。


 「一つ、どうだい?」

 「買って行きませんか〜」


 景気の良い掛け声にチラ見しながら歩いて行けば、通りの大体を抜けたかな? 露天の店も疎らになって寂しくなる。店の間隔が途切れた所で、それは起こった。



 ピィィィィ〜〜〜〜〜!



 鋭い甲高い音が、切り裂く様に街道中に鳴り響いたんだ! 


 「え? 何の音!?」

 「なんだ?」

 「どっから聞こえた!」


 突然の音に、周りの人達も立ち止まって騒ぎ出す。

 その様子に普段とは違うとわかる。


 咄嗟に後ろを振り返った。


 歩いて来た賑わう街道の方から、喧騒の中、「わっ!」とか「きゃっ!」って聞こえる。違う種類の声が幾つも上がる。俺も含めて居合わせた皆が、そっちを注視してた。








 道の真ん中を滑る黒い影を見た。




 滑空に身を捻る。

 黒の十字が流れ飛ぶ。

 空間を黒が切り裂いて滑りゆく。






 近く、目の前を黒が流れた。




 その姿に驚いた。

 大きさが違うが、燕だと思った。



 人々の間を的確に擦り抜けて、時折あの鋭い声で鳴いて飛ぶ。




  ピィィィィ〜〜〜〜〜〜〜〜!!



                        ピピピィィィィィイィィ〜〜〜〜〜〜〜〜!!





 余韻を引いて、道を飛び抜けて、あっと言う間に姿が見えなくなった。



 見送ると同時に、再び騒然となった。



 「今のは使役鳥か!? それとも魔成鳥か!」

 「この場を離れろ!」

 「どっちでもいいんだよ! おい、先触れの鳥だ!」

 「通るぞ!!」

 「道を開けないと!」

 「危ないから、寄って!」




 …え? え? なに?


 俺一人、事態が飲み込めないでいる内に、皆が一斉に左右に動いて賑やかな通りには、ぽっかりと空間ができた。今度は、ざわめきが静まっていく。





 「ここに居ちゃダメだって! もっと端に寄らないと!」


 荷物を背負ってる女の子に、グイッと腕を引っ張られた。

 同時に別の腕にも引っ張られる。停められてた干し草を積んだ荷台に引き上げようとしてくれるから、自分でも力を込めて台に乗った。

 干し草にボスッと当たれば、まだ青臭い独特な臭いが鼻につく。他にも数人の人が居た。


 「端でも立ってるより、台に乗ってる方が無難だって」

 「先触れの時は誰も怒りゃしねえから、さっさと乗らないと危ないぜ」

 「そうそう、あっちもわざわざ物にぶち当たろうとは、思わないんだからさ」

 「それに、ここなら安全に見えるしね!」


 「え? あ、はい」



 詳しい事を尋ねる前に地響きが聞こえ始めた。此処に来て初めて聞く重低音だった。



 ドド…   ドドドド……

 


 「来るわ!」


 女の子の弾む声に皆が一斉にそっちを向く。一拍遅れて俺も見た。


 音の先には、影が見えた。

 小さな影がスゴいスピードで近づいて先頭が見えた時、ぶったまげた。


 「はえ?」


 モノホンの竜のツラに固まった。



 「来るぜ!」

 「来たああああ!!」



 ドドドドドッ!

 

           ド・ドンッ!!

 


 先頭が来た後、次々に重い音を響かせて竜が駆けて行く。

 二十人くらい居たと思う。揃いの制服を着た集団が大地を鳴り響かせて竜を駆って行く姿は圧巻だった。それが強さを伴って、目の前を駆け抜けて行った…


 本当に短時間の出来事だった。


 重音が小さく、見送る後ろ姿も小さくなる。

 最後尾は二頭の竜が檻を曳いてた。檻って言っても簡易? 素材に強度も不明だけど、天井部分が無くて低い。見た目鉄柵で囲ってるだけっぽい檻、上からそのまま物を入れる仕様?


 それを曳いていたけど、スピードは先頭とほとんど変わらなかった。それで、ブツが乗せられてた。


 チラッと見えたブツは… 生きてませんね。




 直後、俺は見た!

 そのブツの上に黒いでかい影が飛び乗ったのを! 見たんだ!! 


 見たと思った瞬間には、竜の姿はもう完全に遠かった。 



 …なにあれ? 竜は走ってたよ? んで、曳いてる荷台の檻にポーンッて… 走ってたのに飛び乗るって、なにその無茶ぶり。ってか、あの黒いの… なんなの?



 さっき見た集団が、切り取った感じで変に目に焼き付いてる。





 「「「  うわあああああああああ!!!!  」」」





 通り過ぎた後の街道は、大歓声が上がって。

 街道に飛び出て、その後を見送る人に、その場で拳を振って叫ぶ人・人・人!!


 さっきまでの喧騒以上に上擦った声が飛び交って、すげぇのなんの!



 「うっひゃー!!」

 「おい、今の見たか!?」

 「ああ! すげぇな! 竜騎隊じゃねぇか!」

 「先日、街に入ったって聞いてたが、本当だったんだなぁ!」


 「あの荷台の獲物みたかよ!? 魔獣狩りだぜ!」

 「でかいのが南西に出たって聞いたがよ。もう仕留めたってのか!?」

 「俺は群れだって聞いたぜ!?」

 「群れなら、全部仕留めてないんじゃねーのか?」

 「抜かせ! 仕留めた残りは、地元の奴らに残してくれたに決まってんだろっ!」

  


 「いや〜ん、すご〜い! かっこいい〜〜!!」

 「あれ、傭兵団じゃないよね!?」

 「全紋が見えた! 貴族よ! 半紋じゃなかったもの!」

 「えー! 紋、見逃したぁぁ!」

 


 次々に話される聞き取れない会話や口調の勢いに圧倒された。


 それに、俺自身が竜の姿に持ってかれた。

 初めて見たあの姿に今更ながらに興奮してくる! やっぱしてくる! 人が乗ってるんだぜ!? 人が乗って、操ってるのを目の前にしたらぁ! どうやっても興奮するってぇ!!


 すっげぇぇぇ!!  ホ・ン・モ・ノ 見たああああ!!




 翼は無かったけど本当に竜がいて、騎乗する人がいる。

 見た事実に興奮と呆然を混ぜて反芻してたら、隣にいる女の子にバシバシ背中を叩かれた。叩かれて我に返る。


 「いて! いたっ! ちょっ… 」

 「いやー! もう、出て来た所じゃなかったら戻るのにぃぃ! タイミングがぁぁ〜〜〜!!  絶対あれはランスグロリア。きっと、そう。前に見たのと同じだったはずぅぅ〜〜」


 握り締めた両手を悶える雰囲気で口元に当て、首をブンブン振って、独り噛み締める様に呟く彼女にちょっと引く。 


 彼女も興奮してたね! けど、今ナンてった?



 「え? 今の、ラン? ねぇ!」

 「え? 何?  ああ、ランスグロリアよ」

 「おーい、行くってよ〜」

 「あ、はいはーい。それじゃ、今度からは気をつけなよ〜」


 「え? あ、ちょっ。  あ、あ…  ありがとう、ござい、ます!」


 

 話を聞きたかったけど、その子は仲間の人達に呼ばれて、ぴょんと荷台を飛び降りて行ってしまった。


 「わ、っと」


 その反動に荷台がぐらつく。

 そして、気付けば荷台に乗ってるのは俺だけだった…  なんてこったい!


 落ち着いて降りました。転けませんよ。




 興奮してた人達も口々に話しながら、それぞれが向かう方向へと散って行く。でも、さっきまでの大歓声の余韻が残ってる。頭の中が繰り返す。



 四方に向かう大街道での出来事は、こんな風に噂話として流れていくんだろうな。


 俺も竜が駆けて行った道を追うように歩き始める。


 けど、なんか興奮が冷めないぃぃ〜〜。

 冷めないから、露天で果実のジュースを買って飲んだ。さっぱりした口当たりに、久々なジュース。完全百パーセント果汁にしてはサラリとした飲み心地。



 「はぁっ…」


 酸味の効いた甘さに、ちょっと落ち着く。

 店の人達の会話に耳を傾けても、「領主の」とか、「あの魔獣は、おそらく…」とかで名称の様な単語は聞こえなかった。その中で一番聞こえたのは、領主様のお蔭って内容だった。



 目指すはシューレの街。竜が行ったのもシューレだ。

 

 気分も上がる。




 上がるんだけど、あれ…  


 あれ、え〜?   あっれぇぇぇ? 



 もしかしてだけど〜 の、フレーズを脳内でリフレインしつつ〜〜



   アレ…  そうだった   り?  




 とか、思ったりした。  ん、だ、け、ど〜 ………    あー…

 

 













 幌付き荷馬車は轍の音を軋ませて進んで行く。荷馬車の御者台には男と女が座っていた。


 荷馬車の先には一人の男が馬に乗って進んでいる。




 御者台では男と女が、唇も碌に動かさずに掠れる小声で話をしていた。女は時折、自然な感じで口元に手をやっていた。



 「いや〜、ハージェスト様がお出でになるとはなぁ。名目は違うが、あの隊はハージェスト様が専用としている隊だろ? 竜騎でなら次期様のご指図かねぇ?」

 「あ〜、この前に報告は送ったけど、まだ確証出てないんだけど〜。  …ねぇ、あの子が言ってたハージェストって、まさかハージェスト様の事じゃないわよね? 最後、話が途切れちゃって」


 「元は、友達に会いにシューレの街へ行くと言ったろ? ハージェスト様がシューレに来るとした連絡は受けていない。本来のご予定ではないはずだ。それに、ご友人の中にノイと言う名は聞いたことがない。別人だろう」

 「そうだねぇ… 最初に聞き出すのマズっちゃったしね〜。言葉もアレだし、来た方角も方角。悪くない服装だったけど… 王都で知り合ったにしても、おかしい話か。

 うーん、気配は薄いけど調べる所は調べておかないといけないし、そっちが仕事。わざわざ伝手が来てくれて大手を振っていけるんだから、それを逃す手は無いものね」


 「この調べが終わったら、一旦、シューレに戻るか。そうだなぁ… 何時までシューレに居るかわからんが、着いたら少し調べてみるか?」

 「下手な連絡は取らない方がいいから、そうしましょうか。ちょっと気になるし。居てくれたお蔭で、仕事がやり易かった事も確かなんだから。でも、まずはするべき仕事を済まさないと動けないからね」



 「ああ、そうそう。最初は悪かったな、お前を悪いことにして」

 「ん? なんの事だい? …ああ、初日にあの子を怒らせた事かい? 嫌だねぇ、今更な事をお言いでないよ。おしゃべりで詮索が好きなのは、女の方だって相場が決まってんだよ。あんたは、それを上手に取り成してくれりゃいいの。わかった?」




 ふふっと笑う女に、苦笑しつつも、こういった関係を築けた自分をヨハンは誉める。


 そして、馬の手綱を離すまいと、ギュウッと握り締めた。







 

実は夫婦でない二人。



燕さん、ピッピッピーの警笛さん。


「地上*星」いい曲ですな。

本家も好きですが、デー*ン小暮が交響楽団をバックに歌ってるバージョンも好きです。あの悪魔は美声だと…! 切り替えに、ラストシャウトに真似できません。あんな声でやしません〜。


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