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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
49/239

49 痛かったり、泣きそうだったり

 

 俺は自分自身の遣り切れない思いに対して、ごめんと言ったんだ。


 だが、俺の言葉を聞いた女の子は、バッと顔を上げた。

 それはもう勢いよく顔を上げて目を開き、俺に対して叫んだ。


 「今、ごめんって言った。あたしに対して言った! あたしに謝んないといけないことしたぁ!」


 突然のその言葉に、びっくりした。


 その子はギッと俺を睨み付ける。

 ものすごい目で俺を睨んだまま指差して立ち上がり、罵り出す。


 「あたしに謝るんだから、それ相応のことしなさいよ! あんたが悪いんだから!!」


 呆気に取られて、その子を見た。


 なにいってんの? この子は。

 そう思って見てた。その子の首から下げられている厚紙みたいなのに、読めない字と金額が書かれてた。金額になる字だけは、しっかり確認のち記憶したから、そこは間違わない。


 助けを求めて周りを見てみた。

 隣の男の子は冷めた目で、こっちを見てた。そして何も言わなかった。その子の胸にも同じく、首から吊るされた厚紙があった。

 他の人を目で探せば、通行人は避けて通り過ぎる。別の店舗の人は、こっちに気付いたが見て嫌そうな顔して目を背けた。何事もない感じでシカトした。



 「あんた、聞いてるの! 返事しなさいよ!」


 女の子が大声で叫び続けるから、店の人が出てくる。



 「うるさいぞ! 静かにしろ! 何があった?」

 「あそこに立ってる奴が、あたしに謝ることをしたのよ!」


 出てきた店の若い兄ちゃんに、思いっきり睨み付けられてびびった。びびったが、もちろん反論したよ!


 「知らない。俺、してない」


 相手にしてたら面倒くなると判断がつく。否定したから、とっとと離れようと背を向けた。



 「待てや、お前」


 腕を掴まれて、引っ張られる。


 「うちの商品が、こう言ってんだよ。お前なんかしたんだろ? したから、謝ったんだろう? じゃ〜、詫び入れてもらわんとなぁ」

 「俺、してない」

 「あ〜、ほんとかぁ? 嘘つくんじゃねーよ。商品に手ぇ出したんだろうがよ! 違うかぁ!!」


 

 低い声がだんだん大きくなって、最後大声で怒鳴りつけられた。

 間違いなく、これ脅しですよね!!


 「違う! 知らない」


 全否定。

 兄ちゃんの手から腕を振り解けば、 『ふぅ〜ん』 みたいな顔で俺を見て男の子を振り返る。


 「おい、こいつが言ってんのは、ほんとかぁ? こいつは謝らなかったんかぁ?」

 「 … 謝った」

 「ほ〜ら、みろよ。証人が居るじゃねーか。お前が嘘ついてんじゃねーかよぉ」


 確かに俺は呟いた。

 あの男の子は別に嘘をついてはいない。


 男の子はポツリと返事をして、こっちを見ない。女の子は俺を睨み付けてたけど、どっか口元が歪んでない? 店から出てきた兄ちゃんはニヤニヤしてて、ものすごく嫌な感じが。


 「嘘、ついて、ない」

 「いつまでもシラ切るんじゃねぇぞ? 正直なとこ、さっさと言えやぁ!」


 怒鳴りつけられると、びびりますよ。

 ヤバいとは思う。マズいとは思う。怖いとも思うが、おにいさんのあそこでの怖さに比べれば雲泥の差だ。怖くないよ。だから、違うと言い続けた。


 それがマズかった。

 見切りがつかなかった俺は苛立った店の兄ちゃんに、ぶん殴られそうになった。


 「う・わ っ 」


 殴られたくないんで、なんとか避ける。したら、苛立って肩を掴まれる。俺よりでかい兄ちゃんに動けないよう押え付けられて、拳が目の前に飛んできた。


 マ・ズ・っ・たぁ!


 必死で逃げようと藻掻いたが、逃げられんかったんで顔を片腕で覆って歯を食い縛る。 




 バチンッ!



 「何してんだ、あんた」

 

 これまた、ひっくい声がした。

 見上げた先に居たお人はケリーさんでした。


 「あ〜、黙っていなくなったらダメだろ〜? ほーんと迷子になるなぁ〜」


 ニールさんも、ご一緒でした。


 

 …助かった? え? あ、…すいません。なりたくてなったつもりというか! 迷子のつもりもなかったんですがっ!?



 店の兄ちゃんの拳を手のひらで押え込んで間に入ったケリーさんに、兄ちゃんの手が離れた隙に俺をグイッと後ろに引っ張り出したニールさん。


 二人は間違いなく、ヒーロー属性でした!!



 若い兄ちゃんとケリーさんがガン付け合って互いに引かねぇ。肉弾戦一歩手前の状態です。今にも手が出そうです。


 「なんで俺達の連れが、あんたに殴られそうになってんだ? きっちり説明してくれねぇか?」

 「はぁん? あんたらの連れだっていうんなら、あんたらが金払ってくれんのかい?」


 「金ぇ?」

 「おう、詫び料ってやつよ」


 「詫びだぁぁ?」


 そっから、ケリーさんと店の兄ちゃんの言葉の応酬は、どっちもドスが利いてて引けそうでした…


 ドスの利いた応酬の合間に俺も叫ぶ!


 「俺、してない!」


 「俺達の連れはこう言ってるが? 難癖付けてんのはそっちじゃねぇんかよ」

 「見てたこいつも謝ったって言ってんだよ!」


 指差された男の子は、無表情で答えた。


 「謝ってた。誰に謝ったか知らない。こいつに謝ったかなんて、知らない」


 無表情で感情も無く、そう言った。


 「ああ? なんだと…?」

 「知らない」


 「てめぇ! 寝言ほざくんじゃねぇぞ!」

 「八つ当たりは、てめぇにしろってんだよ」

 

 「てめぇ! いてっ」


 繰り返したその子を殴ろうと兄ちゃんが拳を振り上げる。その手首をケリーさんが掴まえてギリッと捻って押さえ込んだ。


 止めてくれて、正直ホッした。

 


 「何を騒いでる」


 店の扉がギィッと開いて、今度はおっさんが出てきた…  もう、いやだっつーのに。出て来なくていいのに。



 おっさんに兄ちゃんが捲し立てる。

 そっから如何にも〜な髭を蓄えたおっさんが、出番ですと言わんばかりにズイッと出てくる。



 『 なんでこーなった… 』


 俺はニールさんの隣に立って、ケリーさんの背中を見ながら冷や汗たらりしてた。



 「そこのは謝ったんだろう? じゃあ、やっぱりそっちに非があんじゃねーかぁ? 店前で騒がれて、うちも迷惑だからよ。とっとと騒いだ金払っていけや」

 「はぁ? 難癖つけてんのは、そっちだろうが。金目当ての強請は止めて欲しい」

 「そうそう。道での独り言すら、都合良く取られちゃ迷惑だってんだよな〜」

 

 おっさんとケリーさんの応酬にニールさんも参戦するが、俺は… 黙ってた方がいい?


 「はぁん? そいつがサワりでもしたんだろーが。こっちも迷惑かけられてコマんだよ。こいつも泣いてんじゃねーか。ああ? うちの商品だからな、コレは」


 吐き捨てる様に言って、女の子を親指で指し示す。

 女の子は下を向いてた。両手で、お腹を抱える姿勢で立って俯いていた。


 「そっちのガキが、その子に対して謝っていたとは言ってないだろうが」

 「そいつのセ・キ・ニ・ンだろうが! こっちに泣き寝入りしろってかぁ? うだうだ言わずに、出すもん出して終わりゃいいんだよ!」


 おっさんの怒鳴り声に合わせた様に、女の子がブルッと大きく震えた。おっさんとケリーさんの続く応酬の間に、その子はそろそろとしゃがみかけた。



 そして、なんというか。

 その… あの… 本当に、アレなんだが。ほんとうに、ナンだが。


 しゃがみかけたその子の内腿に赤黒いのが  伝ってった…



 「あ〜ははは。なんだよ、その子腹痛いだけじゃねーの。月のモンが垂れてんぜ〜。あーあ、やだやだ。単なる通行人から難癖つけるだけつけて、金捲き上げようと頑張るなんざ碌でもねー店だよなぁ」


 俺はその伝う赤黒いのから変に目が逸らせずにいたが、ニールさんのかる〜い笑い話にニールさんを振り返る。そこから頭の中が納得した。


 いや、俺もちゃんと保健体育の授業は受けてましたよ? まぁ、そういった授業の後の男同士の会話は下ネタもありましたけどね。

 あやめねーちゃんがいるから、家のトイレにも汚物箱あったよ。水泳の授業の時には何人かの女の子が見学もしてたし? 体育のマラソン時には、「腹が重くて辛いのにマラソンかよ!」とか、あっけらかんと毒突いて走ってた女子もいたしぃ?


 けどさ、普通その状態のモンなんか、目にするはずもないでしょうが! 興奮なんかできるか、ボケ! もう、いやだ。血は嫌なんだ。嫌なもんは嫌なんだよ! 勘弁してほしい…


 あれ? その子ノーパン… だったりすんの…? 

 

 この店は、まともなんですか? まともでコレなんですか? それとも、そっちが店の狙い目なんですか?     うーあ〜……   いて。



 おっさんと店の兄ちゃんは、じとぉっと女の子を見てたが、おっさんが手をひらつかせた。


 「ああ、ああ。もういい。 お前ら行っていいぞ」



 その言葉に安堵した。


 『終わったぁ!』 


 今の気持ちは、それだけです。

 この場を離れたら二人には謝って、それから〜…


 俺は二人を見たが、二人は一向に動こうとはしなかった。


 「なんだぁ? これだけ人様に迷惑かけといて、それで終わらすつもりかよ」

 「全くだ。俺達が来なかったら、どんだけ俺らの連れから捲き上げようとしたかもわからねぇってのによぉ。都合の良い事だけ言ってやがんよなぁ〜。こっちへの落とし前に、ま・さ・か・それで終わらそうってんじゃねぇだろうなぁ? えー、おい?」



 ケリーさんとニールさんが、普通におっさんを脅し始めました。

 …ヒーロー属性は消滅した模様です。


 おっさんがこっちを見て、また言葉の応酬が始まりそうな雰囲気が発せられて。


 『ここの治安はどーなってんのぉ!? 警察官とか居ない? あ、門番の兄ちゃんは巡回してないんですか!?』 


 俺一人、焦ってた。




 「間違えんなよ? そっちから仕掛けてきたんだぜ? そっちから始めたんじゃねーか! それをまぁ、舐め腐りやがってよぉぉ!! あああっ!?」



 どっからそんな声が? 


 疑う程にヤバい声をニールさんが上げ。


 その手のひらに薄くも赤い光が灯った。




 夕闇が迫り始めていた。

 細い路地には、もう弱い太陽の光しか届かなくて人影も本当にまばらだった。向こうの大通りはそれでも賑やかだったが喧嘩してるのが見えるのか、こっちへ足を向ける人の姿は無かった。


 建物の影に夕闇が手を添えて夜の勢力が増していく。

 その陰りの中で掲げられた手のひらで舞い踊る赤の光は、鮮やかでよく映えた。だんだん強く色付いていく…



 見上げたニールさんの顔が…   強烈に楽しそうでした。


 こういうのが… 俺TUEEEEEE!! な、か・ん・じ。  で、正解でしょうか?

 


 ケリーさんの手も、既に剣の柄にかかってました。


 「待てや」


 おっさんの声が入って、なし崩し的に話し合いから何からが、だだだだだっと動いてケリーさんは金の入った小袋を手にしてチャリンと中を確認してた。


 「すくねぇな。ま、いい。これでこの件は互いに不問だ。そうだな?」

 「ああ、互いにな。仕込み話も無しだ。そっちもいいな?」

 「わかってるさ」



 ケリーさんとおっさんの取り決めで事態は収束した。


 「じゃあな」

 「ほら、いくぞ」

 「次は客で頼んまぁ」


 ニールさんの赤の光も途切れて消えた。

 俺は二人の間に挟まれて脱出します。店の兄ちゃんのぶすくれた顔に見送られて、その場を離れる事ができた。


 できた事に安堵した。すれば今度は、男の子が気になった。

 彼は嘘をついてない。積極的に庇ってくれたわけでもない。

 けど、彼が否定しなかったら俺の方は微妙というか不測の事態の続行で、店の方からすれば上手くいってた話じゃないか?

 あの子が殴られなければいいと思うし、証言してくれた礼をしたい気もするんだが… すれば逆にあの店の人になんかされそうな気もして。


 何もしない方があの子の為にも良いのか…? 俺の一言から始まった事なんだけど…



 「ん? ほら、早くしな」

 「置いてくぞ〜?」


 迷いが足を鈍らせたが、二人に促されて俺の足は前へと進む。後ろ髪を引かれる感じで一緒に大通りへと出た。




 「ノイ〜、ほんとに一人で黙って行ったらダメだろうが〜」

 「はい」

 「見えてた姿が見えなくなって驚いたんだぞ?」

 「ごめんです」


 道々、二人から説教食らいました。食らう立場にいました。


 「酷い奴に絡まれたら金捲き上げられるだけじゃなくて、下手すると騙くらかされてお前自身が奴隷に落とされる。そうなりゃ、助けるのも難しい。難しいと言うより助けてなんかやれん。必要がなけりゃ、あんなとこにうかうか近寄るんじゃないぞ」

 「はいぃ」

 「でもま、終わるまで名前を呼ばなかったからな。それは良い判断だ。自分の名前も言ってないだろうな?」


 しっかり頷いた。


 「バレるにしても、あんなとこで自分からわざわざ名を売る必要はない」

 「はい」

 「それに、あんなのは日常茶飯事だからな。小金で済ますのも常套手段だ。取り合い続けたら身が保たねぇよ」


 「ケリーさん、ニールさん。ありがとうです」


 二人が探す事無く大丈夫だろうと判断してた場合、俺は今頃どうなっていただろうか? あー、怖い。居なくなったと探して頂いて嬉しいです! 面倒な事になってると、見捨てられずに済んで大変感謝してますです、はい。




 まだ賑やかな大通り。

 魔力による光が灯ったり、松明で火が焚かれたり、油による光も灯ったりで明るかったが、何軒かの店は閉まってて歯抜けな感じだった。


 そのまま二人に引っ付いて一緒に店に入る。すこぶる良い匂いがしてました。


 「こっちだ」


 呼び声に顔を向ければ、フレッドさんがいた。


 はい、本日の夕食です。いきなり地獄から天国です!



 人の声がざわめく賑やかな店内。

 ビールジョッキなモンを運んでるウエイトレスさんを呼び止め、注文し、その際誰かとは言いませんが。

 言いませんが、裾にフリルがついたロングスカートにショートブーツ、エプロンドレスを着用してるウエイトレスさんのお尻をサッと撫でた。 …オサワリの犯罪者がココにいますよ〜?

 

 「きゃっ、止めて下さいな。もう」

 「触ったか?」


 可愛らしく口を尖らして、軽くなしてスルッと行かれた。慣れてらっしゃるようです。そして、一言で済ますとは!



 注文が出来上がるまでの間、俺の事件が披露された。

 話を聞いたフレッドさんから一言。


 「本当に大丈夫か、お前。何も無いとこで転けんじゃないのか?」


 憐れみというか、なんというか。

 そんな真剣に可哀想なもん見る目で言わんでください。さすがに転けたことはありません。



 三人が買った物の確認やなんかの情報交換をしている間、店内を見渡せば、それこそ絵で見た雰囲気。


 店を支える太い梁。照らすちょっと足りない光源。そこに影が生まれて陰影が踊る。

 漂う酒の香、煙草の煙、食べ物の美味しそうな腹を鳴らす匂いに会話が混ざって生まれる雑多な声。酒が入って時折飛ぶ陽気な声。厨房から聞こえる調理の音と注文に「おう」と答える声。「上がった。持ってけ」との威勢のいい声。テーブルと椅子も年期が入って艶光り。


 居酒屋で聞こえる内容と同じだけど、雰囲気が違う。


 ほんとに違う所にいるんだと。

 そして、助けてくれたから、今こうやって座っていられるんだと。



 「はうっ… 」


 口から息が零れれば、ため息です… 

 店舗前で見て呟いただけで、あんな状況に陥るなんて誰も思わねえよ。


 こういう時に当て嵌まるのは… 李下に冠を正すな だっただろうか? はあああ… あ。



 「は〜い、お待たせ〜」


 両手の二つの盆に料理の皿を乗せてウエイトレスさん登場。

 注文は任せたけど、肉がジュウジュウ音を立ててます。 肉ですか! 外しませんね!


 もう二回往復されてのご配達。


 「はい、これでご注文は全部です」


 テーブルいっぱいに並べられた料理の数々に涎が出ます。


 「いてぇ!!」

 「あ、引っかけちゃいました? ごめんなさぁ〜い」


 俺は見た…!

 きゃらりと笑って去ったウエイトレスさんは袖口のボタンが引っ掛かった振りして、お尻を触った某お人の髪の毛を、ブチッと数本引き抜いてった…


 ウエイトレスさん、かっこい〜。強いです。慣れてらしても、やはり怒ってらっしゃいました。…たがう事無く、ハゲますかね?


 肉食って、付け合わせの野菜食って、ピザっぽいの食って、パエリアみたいなの食った! 具が海産物じゃなかったが、炒飯とは違う。食った感覚がパエリアだ。飯ものあったぁぁ!!


 食ってた白米とは違いますが、良いです。町ご飯万歳!


 三人はアルコールを一杯引っかけてた。

 


 それと食いながら、ちょっと奴隷について。

 あの女の子は自分で自分を買い取る金の足しにしようと、あんな事をしたんだろうと。あの子の行動で金が店に入るんなら、それはあの子の稼ぎだ。買い取れなくても、待遇が少しはマシになるだろう。しかし、それを許し続けていれば、店の信用問題にもなる。あの子自身の評価も下がる。 …だから、仕込み話をするなって流れになったんだなぁ。

 あの子が常習犯かはさておき、何かの条件の期限が来そうで切羽詰まってしたのかもしれないなって話だった。

 足輪と首輪に違いがあるそうで、ないそうな。店が所持してる数が足りなきゃどっちでも、みたいな。


 一口に奴隷って言っても、なった時に条件があったりもするらしい。だから、説明はあるはずだが詳しい事は店で必ず聞き合わせる事だって。



 「それにしてもな。奴隷を持つのは確かに金持ちの象徴であるけどよ」

 「分かり易い夢の一つではあるな。だけど、今は無理だろ? ノイ、お前が女の奴隷連れて歩いてりゃ〜獲物が二匹だわ」

 「そうだよなぁ。それにさっきも見ただろ? 女には月に一度の障りが来る。腹が痛いと動けなくなってみろ? ほんとに動けんのは動けんぞ? 歩きでそれやられたら面倒いのなんのってまぁ〜」


 三人の俺を見る表情が痛いです。


 「して、ない!」 


   ドンッ!


 テーブルを叩いて抗議です。



 「無事で良かったなぁ」

 「やっぱ、カモられたか〜」

 「わかった、わかった」


 お言葉が微妙ですが、食事を美味しく再開します。

 


 「そうそう。ここの知り合いが奴隷の女に一目惚れしてなぁ。もろ好みだったんで、割りかし値が張ったんだが頑張って買い取ったんだとよ。惚れた弱みで色々許してたら、これの手癖が悪くてなぁ。ちょっとずつちょっとずつ物を隠してたんだと。

 さすがに売りまでは持って行けなかったらしいが、逆に用事はないかと訪ねて来た商売人に売り飛ばしてたってさ。

 まぁなぁ… そいつの細かい内情も聞かされりゃ、ナンな話だったんだがよ。

 買った奴隷が仕出かした後始末は買った奴がしないといけないからな。結局買い替えるって売り飛ばしたってさ」


 なんか、なんか… リアルが痛いんですけどぉ?


 「あのな、奴隷は数勘定の品と割り切る奴は割り切る。最悪な奴は最悪だ。奴隷持って変わる奴は、変わっちまう」

 「そんなもんの扱いは人それぞれ。経過が不透明過ぎれば、上からの介入もあるって話だけどな〜」

 「実状はあんまり聞かんぞ。だが、奴隷がいて確かに良い面もある。面倒くさい面もあるが。お前は友達に会いにいくんだろ? それまでちゃんと気をつけろよ」



 そうします…


 なんて言うのかさぁ… うー。ああ、うん。

 あそこで、もし、奴隷を買ったとするならば、それは 『俺が奴隷になるってことを受諾する』 にも通じるわけか。買うは買われるだ。立場が逆転する事も了承するって事だ。

 この世界に 『買ったから、なる』 なんて終わってるルールはないだろうし、単に俺の気持ちの問題なだけだろうけどさ。恩恵に対して自分にだけはリスクが無いと考えるのは幸せだけどね…


 はぁぁ…   俺は考え過ぎでしょうか?




 意識切り替えます。


 旅に必要な買い足す品を俺も再確認。あの騒動で買えてないから明日買わないと〜。



 飯食ったら、宿屋に帰還。夕食代は捲き上げた金を使用。

 帰る途中お一人様が遊んでくると解離されて行かれました。金のある大人は違います。興味は尽きんが、ダメだ。もう疲れた。俺は寝る。安眠プリーズ。


 うわあああ、服が煙草くせぇぇ…



 俺の異世界初の奴隷遭遇イベントは、 『どちらも選ばない』 スルーで確定です。


 シューレの街が最終目的地じゃないんだ。

 おねえさんはシューレの街にハージェストの居場所を知ってる人がいるから、その人を訪ねて行けって言ったんだよ。そっから、本格移動開始だって言ったんだ。

 ロープレなんだ。俺は今、自分クエスト遂行中なんだよ! 来たばっかしの低レベルプレイヤーにクエストの重複はできません。受け付けません!


  土産もって、菓子もって。

 ダチの家にちょっとの間お世話になろうって行くとこなのに。これからどこまで行かなきゃいけないのかわからん状態で最初っから散財できるかよ!!


 目的があるんだ。ご利用は計画的に、だ!




 だぁれがホイホイ罠に引っ掛かるかぁぁ!!   ……けっ!   …やって られ な、い。







 朝起きて、階下のトイレに降りて行ったら、宿屋の食堂で誰かさんはご機嫌良く朝ご飯を食べてらっしゃいました。朝帰りですかね、違いますかね。わー、かっこいー。



 本日の午前中に人に会いに行きます。その後、買い物予定です。

 シューレの方面に出発する馬車に便乗できないか、フレッドさんが調べてくれてたので確認に行きます。昨日知り合いのとこに行く時、ついでにと調べてくれてました。感謝です。もう、涙出るくらい手を掛けて貰ってますよ。

 

 着いた当初は初めて見る異世界の町に、ゆっくり見て回りたいな〜とも思ってた。金の件は忘れないけど期限付きの急ぎの旅じゃない。

 だから、どんな感じか見て回っても良いよな〜、なんて思ってた。

 改める。

 とっとと拠点に辿り着かねば! 何もかも、それからだ。 それからで十分だ!




 馬車は乗り合い馬車じゃなくて、ほんと便乗させてね〜って奴です。商売としても成り立ってるけど、ここは田舎なんで便乗の方も多いとか。

 明日の朝一番に出立する個人さんの馬車に便乗できます。シューレの方面に向かうのですが、途中下車になります。

 ご夫妻の方で、フレッドさんが話してくれたら「テーヌローの子かい?」って、話が通って金払ってokです。違うけど紹介があると違いますね、田舎は顔のようですよ。俺もテーヌローの顔を潰さないよう、気をつけたいと思います。



 買い物は自分で持てる量を考えるとアレもコレもと買えない。

 欲しいと思っても泣く泣く諦めた。さようなら、俺の座布団。いらっしゃい、晒し布くん。いざとなれば、晒し布くんで毛布様を包んでやるんだ。痛くなったら、俺の足も包むけどね。やっぱハンカチじゃね〜。




 ケリーさん達も明日の朝一で帰られるとの事でした。

 宿屋に一旦帰って荷を置き、夕食に行く前にお礼にアクセを差し上げようと出した。

 こういう時にこそ感謝の気持ちをですねぇ。使い切ったら補充できない品々ですが、こういう時にこそ、その価値があると…!



 「おい、大丈夫なのか?」

 「お前が無事に辿り着け」

 「そりゃ、嬉しいけどな〜 気持ちだけでいいんだぜ?」



 「「「  ああ。 今度来る事があったら、その時に土産を頼むわ。 はははは〜  」」」



 笑いながら拒否られた! 挙げ句、経済観念をもっと心配された! 三人が男前過ぎた! 在庫があると、絶対に言い出せなくなった!! 



 ショックの余り走りました…



 宿の直ぐ近くにある目を付けてた店にダッシュです。

 日持ちするクッキーの類いを種類を変えて購入した。見た目も美味しそうな奴を選ぶ。知ってる、あの三人も甘味は好き。

 買って差し出した。じいさんにもって渡したら、今度は遠慮なく受け取って貰えた。ああ、良かった〜。


 「有り難く食うぞ〜」

 「ああ、それは貰おう」

 「そんなに気にしなくて良いんだぞ?」


 店で味見に食べさせてくれたのが美味かったから、自分用にも買った。量を買ったのでオマケがついた♪



 それから皆で銭湯に行った。時間帯が良かったのか、人が少ない。

 濁り湯じゃない、ちょっと濁りかけちゃってるっぽいお湯にがっかりして、最後給湯口付近でがんがん掛け湯した。やっぱり風呂は幸せ。長風呂する口じゃなかったんだけど、次に何時入れるかと考えると堪能せねば。


 ほかほかで宿に帰って、食堂で夕食。この食堂のご飯も当たり。だから、この宿なんだろうか? 

 明日に備えてぐっすり寝た。今朝一番で、洗濯した衣服も乾いてて良かった。



 翌朝。

 三人と別れを告げ、ドーラちゃんとポーラちゃんとも別れを惜しみ、良いと遠慮したのに見送りを受け、ご夫妻によろしくと声をかけて下さり。


 俺はご夫妻の馬車に乗って、エッツの町を後にした。


 荷馬車から幌付き荷馬車に格上げです。荷馬車の後ろで三人に手を振って、遠く小さくなる姿を見てた。俺は順調に旅してる、ドナってない。


 けど、なんか泣きそうな感じですよ。  おかしいなぁ。


 きっと、また来るから。


 


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