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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
48/239

48 判断をぐるっと回して

 

 にーばしゃ〜に ゆーられ〜て まーちの〜 なかぁ♪ ぐるぐるまわって わっかんね♪



 はい、現在進行形で荷馬車に揺られてまーす。

 町中はテーヌローの村と違って賑やかです。人の数が違うから当然か〜。通常も賑やかだけど大市が立つ時は、もっと賑やかになるそうだ。近隣の村から人や荷がエッツの町に集まって、そっからシューレの街や他の所へと動いていくんだろな〜。


 町中には、木の家から煉瓦の家に、一見なんの素材なのか不明なご立派な家もある。 ん〜、統一感ないですが、財布のさじ加減でしょうかねぇ?

 店舗前には庇にテント張って日除けしてるとこもある。まぁ… 中世風な建物って言っとけば、一番簡単? なんかちぐはぐ〜な気もすっけどね。


 道路は地面そのまま。石畳じゃないよ。風が強かったら、土埃が立つかもな。

 しかし、今はそれでいい。石畳の凹凸が酷くて荷馬車が上下に揺れてみろ。確実に死んでしまうわ、俺のケツ様が!



 それから、町中走って角を曲がって、曲がりくねって〜。

 道順を覚えながら来たんだが、見分けができるかどうかが不安だ。何故なら、似たような店構えが多いからだ。わかりにくい…



 そして、荷馬車は一軒の店舗前で到着した。


 「よしよし、ドーラお疲れ」

 「よっ…と」


 ポーラちゃんからケリーさんが軽快に飛び降りる。

 店のドアを開ければ、取り付けられた呼び鈴が 『チリリンッ』 と鳴る。店に入らず、入り口で呼びかけた。



 「はいよ」


 その声に出て来たのは、恰幅の良いおっさんだった。


 「お、ケリーじゃないか。お前さんが来るのは久しぶりだな」

 「ええ、お久しぶりです。コルドさん」


 いつもの風景なんですね。ニールさんとフレッドさんとも軽く話して、次は俺の番です。


 「おや、初めて見る顔だね」

 「初めまして。ノイです」

 「こちらこそ、コルドの店にようこそ」

 

 笑顔で挨拶を交わして、話をしながら荷卸しが優先されました。村の商売と商品が優先です。


 

 「荷が着いた。下ろしを手伝ってくれ」

 「はーい」


 店の奥に声をかければ、人が出てくる。荷馬車を建物の裏に回して倉庫に搬入です。

 コルドさんのお店は角地にあって、俺が思っていたよりも大きかった。商売が上手くいっているのかは知らないけどね。


 荷卸しに商品と数を帳面記載しながらの、間違えてないかの検品作業に傷んでないかの確認作業。


 俺も手伝おうとはしたんだよ?

 でも、ケツ様を大事にしておきたいのと〜 あ〜… 俺、部外者なんだよね。検品とか確認作業に、その場限りの責任持たないよ君がやっても意味ないんだわ〜。

 軽い荷物を降ろす事はできるけどさ、重い荷物は本当に重たくて俺には無理。積み込む時に判明してるよ。

 俺が手伝えそうなのは、確認作業なんかの方だけど商品わかってない。何より、字が書けない… 読めない…


 忙しい時に、「それ、何?」とか聞けないって。


 横で見て聞いて覚える方が、まだ有意義でも今は邪魔。



 納入が終わったら、ケリーさん達が町の案内してくれるんで待ちます。だけど、最初に「ノイ、そっちに離れてな」って、言われた時点で終わってる。


 様子を見守っての待機です。皆さんの邪魔をしない事が俺のできる仕事です。 う〜わ〜、自分で言って痛い。



 わいわい言いながらの荷卸し作業に町中の喧騒。

 見たり聞いたりしてたら、町に着いたと実感する。同時にあっちと比較する。

 しても意味は無いとわかっていても、聞こえる喧騒が友達やあっちの建物を思い出す引き金になって、頭の中が勝手に比較する。


 だから、 目を閉じた。


 視覚を閉ざしたら、 距離を感じた。





 一人、離れている俺。

 できる事がなくて、一人、輪の中から外れて外にいる俺。





 …ケリーさん達にそんな意図は無いし、これは俺の思い込み。 

 あ、やだやだ。 

 こんな思考に落ちてるよ。自分でも、できるようになれば良いだけの話なのにな。 …ハージェストに早く会いたいね。




 

 …もし、おにいさんの世界に行ってたら。

 資金援助貰った後は一人頑張りだから、今と同じ状況にいたんだろうか? 今のこの見ているだけの状況より、 『向こうに行ってたなら』 もっと上手くやれたんだろうか?

 どっかの店に就職して、そこでずっと頑張って能力磨いて一人前になる? そんで金貯めて、いつか脱サラ? 上手くいかなかったら、職を転々?


 ……おじいさんの世界に行ったら、言葉の勉強から始めないと進まない。それと読み書きか。勉強に時間を掛けるなら、衣食住が大変になる。

 一般的に考えても、俺的に考えても、見知らぬ奴を家に住まわせて言葉と生活の面倒をみるなんてしない。俺自身には、そんな余力ない。


 俺の場合は、おじいさんが教えてくれるはずだけど… お孫さんと一緒に農作業して、他は… 魔法の勉強とか? 

 いや、待て俺。

 魔力が満ちるこの世界で俺には魔力が無い。そっちの方面は怪しい。そこは比較検討外だ。それに、お孫さんを付けてくれるとは言ったけど、家にずっと住んでいいとは言ってない。


 おじいさんの世界に行ったなら、おねえさんからの軍資金はない。おにいさんからも金はない。完全な無一文だ。

 おじいさんの手助けを有り難く思って助けて貰っても、ずっとは無理だろ。ゼロからの、違う、借りるとしたらマイナスからの出発… だよな〜。



 そんな事実よりも、俺の気持ちを優先して決めた事だけど。

 此処にしたから軍資金を貰った。他にも貰った。言葉は、ちょっとアレだけど話せる。読み書きは勉強するしかない。それはおにいさんの世界でも同じ事だ。


 友達がいる。

 その友達を頼って、貰った金で旅もできると考えたら十分だろ? あの時も、ざっと似たような事は思ったはずだ。


 その、はずだろ?









 外れて  一人。


 世界からも  外れてしまった。









 …なぁんて見事な被害妄想。

 自分残念。落ち着け、俺。単純に待ってるだけだ。自虐趣味はないぞ。




 「ノイ〜、こっち来い」


 あれ?と、思えば終わってた。荷馬車の中は片付けられて、手招きされてた。


 「ノイ、どうした? 疲れたか?」

 「顔が固まってんぞ?」


 「いだぁ!」


 ニールさん! 俺の両頬引っ張んの、やめいっ!


 「お、伸びる」

 「ははは」

 「待たせたな。ノイ、品を売るならコルドさんにも聞いてみるか?」


 

 ああ、ほら。

 被害妄想。自分ダメ意識過剰。思い込み禁止。普通状態だろ? 突っ立って、どーすんだか? 歩けっての。歩かねーと、ハージェストに会えねーっての。






 コルドさんの店に入った。



 さっき見た確認作業してた女の子が会釈するのに合わせて俺も会釈する。そして、横を通って皆と一緒に奥の部屋へと入る。



 商品が棚に所狭しと置かれた部屋だった。もっと言うなら、なんかの書類も山積みだった。そこにあるテーブルと椅子はでかかった。室内、妙な感じです。もしかして、商品置く場所なくて突っ込んだぁ?


 「お疲れさん。今、家内に茶を淹れてくれって頼んだからな」

 「や〜、助かります」

 「一息ついたら喉が渇きますね」

 

 働いてない俺は、ちょい微妙…


 「今回も荷が良かったよ」


 軽く世間話が続いた所で、コルドさんの奥さんがお茶と茶請けを持って来てくれた。



 奥さん、若っ!


 コルドさん、俺の目から見て三十代後半。奥さん、二十代前半っぽく見える。 うーわーあー! 年の差カップルだ!

 しかも、生後三ヶ月の赤ちゃんがいらっしゃいました。熱々ですかっ。


 「どうぞ、ごゆっくり」


 赤ちゃんの面倒を見る為に若奥さんは、輝く笑顔で部屋を下がっていかれました。最もですね。


 その事で、皆にやいのやいの言われた内容を総合すると。

 店を広げる為に頑張った結果、店は大きくなったが借入金も大きくなったと。その返済に奔走して大変頑張った。その為に結婚まで金が回らず遅くなったが、上手く奥さんを射止めた。

 そんな内容だった。


 「上手くやりやがってよ〜」 

 「まったくだ」


 会話が飛び交う飛び交う。笑っちゃう。

 でも、そん中で 『借金返せなかったら、奴隷落ち』 的な内容が聞き取れた。



 不明単語に首を捻りながら、出された茶請けを食う。


 美味かった。


 小さめの蒸しパンっぽいんだが、中にドライフルーツが入っていて自然な甘味がうま〜。これ、干し葡萄? あああ… 甘味と離れてたんで、ひっじょ〜に美味いです。三時のおやつにピッタリ。昼飯、携帯食ぼりぼりだったから、ほーんとうま〜。小腹が満たされる〜。


 一人に二つの蒸しパンを何故かフレッドさんが一つくれた。…そんなに飢えて見えただろうか?



 それから、フレッドさんが門での出来事を披露した。



 「「「「  ははははははは!!!  」」」」



 再び繰り広げられる馬鹿笑い! 机をバンバン叩くリアクション付き。

 

 「ノイ! 君はすごいな。あいつをその事でへこましたのか! さすがに誰も面と向かって言えんかったからなぁ! 可哀想な事ではあるんだが…  あるんだが〜  だはははは!」



 コルドさんからも妙な賛辞を頂いた。

 素直に喜べなかった… 門番の兄ちゃん、怒ってねーといいなぁ… まぁ、シューレに向かうなら別の門って話だから〜 いっか。



 もう一頻ひとしきり、その話で皆が笑って。

 それから、俺との商談。


 「ほう、飾り。うちは飾りは取り扱っていないんだ。是非見せて欲しいね」

 「はい。これです」


 エンナさんやマークスさん、他の皆さんに売ったはいいが安物の部類がほとんど。ここらで高めが売れると嬉しい。

 しかし、この町で最初の一袋分を売り切る事はできない。売れるかどうかを別にしても、ケリーさん達に怪しまれるのは困る。一気に持ってる全てのブツを現金化ってのもね〜。怪しまれない?



 女性用と男性用。女性用は華やか、男性用は渋い。

 おねえさんの私物だからか、圧倒的に女性用が多い。大半が購入しての所持品だと聞いたが自作品もあって、この時の為に少しずつ作ってたらしい。


 「…この時の為?」

 「備えあれば憂いなし!」


 なんつーかな返事が返ってきて、少し悩んだ…


 「作るのが楽しくなって、つい凝っちゃったのよ。ほほほほほ」


 おねえさんは趣味を増やしただけだろうか?





 上。

 宝石専門店に並ぶネックレスや、ブレスレット。イヤリングにピアス。リング。ブローチはカメオの物から真珠や珊瑚を誂えた物まで。


 中。

 百貨店やブランド店が取り扱うゴージャスな、本物の金じゃない品イミテーション・ゴールド。付けられてる宝石は本物でも、屑石に値すると思う。もしくは色ガラス? 銀細工シルバーアクセでもピンキリです。


 下。

 雑貨屋さんで売られるような鍍金品や南京玉ビーズの飾りはここ。ああ、プラスチックじゃないよ。この世界にプラはないようです。その他も言ってしまえば、ほんとに小物。質が下なんだよね。



 これが俺の仕分け。

 最初の一袋には入ってないけど、中と上かの判別に迷う品もある。鋼板か銅板に彫刻して純銀や金で象眼してる。金の中に模様が黒で浮かび上がって華麗の一言。箔押しでも表面処理済みでハゲ落ちない、らしい。でも、箔だから中だよな〜? 綺麗だし、デザインも格好良いんだけど。



 今回ハンカチの上に並べたのは、下の部類が十点。中のシルバー系と華やかイミテーションが十五点。上の本物指向が八点。合計三十三点。

 点数にしたら多いんだけどさ、上物と並べちゃうと安物はねー。

 小さな屑石が付いてるだけのピアスにデザインなんて関係ないよ。安物だよ。チェーンは伸ばすか、渦巻き状に置くだけ。目移り考えたら、数的にはこんな所じゃない?


 最初の時に全部見たいとエンナさんに言われて、売れるか心配になったもんだから〜。もう、ほとんど全部出して店開いた俺は馬鹿です… 


 ケリーさんの呆れたような顔が痛かった。


 はい、一袋ですが小袋じゃないもんで。

 家の中だったこともあったけど、エンナさんの巧みな言い方に〜 ついつい出しちゃったんだよね… はは。反省。


 要領の良い商売の仕方も学んでる、つもり。対面販売は大変です。特に品が品だから〜…

 



 テーブルに並べた品にコルドさんは、少しポカーンとした。

 品について短く説明する。その後、モードが切り替わったっぽい。


 「手に取っても?」

 「どうぞ」


 喜平のゴールドネックレスを見て、それと揃いのブレスレットを見て、緩いカーブが入った細いシルバーリングに色石が付いてるの見て、間隔あけて蜻蛉玉が並ぶネックレス取って、木の実と葉っぱを模した鼈甲のブローチ取って、鍍金仕様のゴールドチェーンに緑のビーズがアクセントなの取って、青系のビーズの中に橙色のビーズを配置して長さが違う二連で仕上がってるネックレス取って、白と桃色が混ざってる一色じゃない小さな丸い珊瑚が二つ揺れるイヤリング取って〜。


 他も手に取っては置きを繰り返す。皆で見ていたので万引きの可能性無し!



 「ちょいと失礼」


 席立ってドア開けて、廊下に向かって一言。


 「おーい! 鏡持ってこっち来てくれ〜」


 今度は赤ちゃんを抱えた奥さんが鏡を持って、再びご登場。


 「はい、鏡。どうし… まぁっ。素敵っ」


 奥さんの目が輝いた。

 その後はコルドさんと奥さんがウキウキと品定め。その間、俺達は赤ちゃんの相手してた。


 「おお、似てなくて良かったな」

 「全くだ。親父に似たらダメだぞ〜」

 「まーだ、ちっちぇな〜」


 俺の膝の上に赤ちゃんを乗せてくれた。

 あったかい。ほんと、体温高い。機嫌良く「だぁだぁ」言いながら、手を振り回す。元気だね。

 子供が好きとか特にないけど。赤ちゃんとか接触してないけど。でも、こんな小さな手とか触れたら大事にしないと、とは思う。

 なんせ、俺もコレだったんだろ? この状態から今に成長したんだろ? 記憶はないが、誰かがこんな風に俺に触れてくれたことも、きっとあったんだろ? 


 小さな指に触れたら、思いの外、強い力でギュッと握り返して来た。



 そこで、 ん? と思った。

 なんか… なんか、あれ? なんかわからんけど、なんか違う? ような?   んん?



 「この子は魔力を維持できるといいけどな」

 「少しでも使えれば違うからな〜」

 「ノイ、その子の魔力がわかるか? 赤ん坊の魔力はわかりやすいんだけどなぁ」



 魔力?


 改めて赤ちゃんみたけど…  なんか、あれ?   なんか〜 うーん… ?


 はて、

      ……さっぱり。



 最初思ったのは、なんだったのか。





 それで売れました。

 コルドさんは商売として仕入れるんじゃなくて、自分達の為のご購入になりました。

 結婚にお式はしたけど、奥さんへの贈り物までは手が回らなかったとかで大した物は上げられなかったって。一目見て、奥さんへのプレゼントと自分用に。ハンカチも一枚売れていきました。


 俺の懐が潤います。

 選んでいる最中は、きゃっきゃのうふふでしたね。お二人さん。



 ケリーさん達とは半金精算約束のようで、売れたら残りを支払うようです。長く持ちつ持たれつの関係で素敵ですが、俺の場合はツケは無理です。現金一括でお願いします。

 ケリーさん達への清算に、その他の予定からしたら予定外出費。商売として仕入れるには金が足りない。自分達用に購入したから貯金を使った。手持ちをゼロにする気はない。

 商売人としては仕入れて売りたいそうだが、お子さんも生まれて博打はしたくない。加えて取り扱った事のない分野。


 「来る事あったら、是非また売ってね」


 様々な観点を、ぽろぽろっとお話し下された。…話してくれたってより、単語繋ぎ合わせたらそう聞こえた。

 あの様子だとコルドさんのご自分用は金が足りなくなったら、質草になるか売り飛ばされるかも。お買い上げは上物なので大丈夫。ちゃんと売れるでしょう。

 

 あと目の保養にとケリーさんに促され、一つだけ入ってる高級品を見せた。


 「ほうっ……」


 若奥さんの悩ましいと言うより感嘆の吐息。


 「ね、着けて良い? 着けるだけ〜」


 お願いに頷いた。

 すっごく喜んでた。コルドさんも喜んでた。


 もちろん、返して頂きました。




 俺は金を手にした。 貧乏を脱却していきます!  即、買い物もします!!


 もしかしたら、もっと高値で売れたかもしれない。でも、ケリーさん達の紹介だし、いいかと思って。

 商売人としてはアウトな気がするが、シューレの街までの旅費としては十分でしょう。これ以上、金を持ち過ぎても今はヤバくね?


 ちなみに鍍金仕様の説明に、


 「なるほど、その説明で圧し折れたか」


 うんうん、と頷いてた…   あいた〜。



 コルドさんとこで雑貨と巾着袋買って金を回す。財布を二つに金を更に別分けした。



 元々は村の出って話だったし、金を浮かせるのにコルドさん家に泊まるのかもと考えてたが、赤ちゃんいるしね〜。

 コルドさんご夫妻と別れを告げて、今晩の宿に荷馬車で移動到着。


 「いらっしゃい」


 馴染みの宿の女将さんに、にっこりされた。


 食堂あって、荷馬車の預かりもあって、部屋の鍵もしっかりしてる良いお宿だそうです。到着後、二人はドーラちゃんとポーラちゃんのお世話です。共にお疲れ様でございます。


 ケリーさんと先に部屋に行った。

 約束してた薬代を支払います。


 「泊まる時は大部屋も良いが、金ができたし気をつけろよ」


 今後の注意を下さる本当に優しい皆さんです。



 上がって来た二人と一緒に四人で少し休憩したら〜  はい、町中へ GO!




 ウエストポーチだけの軽装です。

 多少荷物が気になるが、皆も大丈夫って置いて来たから安心してます。


 あっちの店見て、こっちの店見て、屋台からすっげ良い匂いがして〜〜 町中万歳!!


 皆の買い物に付き合います。まずは常識金額の把握に努めます。

 フレッドさんは知り合いに会いに行くからって荷物持って途中で別れた。…ハゲ話するんだろか?


 ケリーさんが品定めして、ニールさんが交渉する。俺は別の店見てたりと、あっちこっちキョロキョロと。品物ジロジロ、欲しい物を探します。掘り出し物はないでしょうか?


 二人から少し離れた所で細道を見つけて覗いた。


 そこで、奴隷を見ました。








 細道を少し入った先にある店の前に、鎖で足を繋がれた女の子に首を繋がれた男の子。

 女の子の身動きに鎖がジャラリと音を立てる。

 通行人はいるし、他の店舗もある。でも、その道は細道な所為か閑散としてた。店舗前に居る二人を見るのに、もう少し移動したら店の中に他の人影が見えた。


 「今日の表は二人か」

 「あそこの奴隷商は、あんまり好きになれないんだよな」


 前から来て、すれ違った人達の小声の会話。奴隷商って単語に当たりをつけて考えて、やっぱあの奴隷ですよね?


 見た二人は薄汚れた簡素な服に下向きの顔。視線は合いません。

 はい、漫画なんかでよく見かけるパターンです。リアルでほんとに見るとは思わなかった。

 これを突き進むなら、どっちかを買う。よくある方なら女の子の方を買って、 『俺の奴隷だぜ。やったー! 男の夢の一つをget〜!』 だろ?


 しかし、男の子の方は完全無表情だった。女の子の方は震えて歯を食い縛ってる顔だった。



 なんてゆーかこー… 


 ご購入を検討するとか、そんな気分に全くなりません。

 痛い雰囲気を感じてペットショップでウキウキ見るとか、そんなの感じられませんがな。これで感じれる方がおかしくない?


 女の子の奴隷を見て 『よし、ハーレム。奴隷買うぞー!!』 な気分に全くなれない俺は… 残念な奴なんだろうか?






 あそこで、あやめねーちゃんに言われた。


 「あのね、あーちゃん。葬式は葬式だけど火葬代はまた別なのよ。火葬するにも別にお金がかかるのよ」


 涙が滲む目を気持ち吊り上げて、見つめられながら言われました。


 「私に葬式なんかさせてぇ! 私より先に死んでぇぇっ!! 」


 怒られて、泣かれて。



 要するに、


 「弟のあーちゃんが私より先に死んでどうするのよぉっ! 女の子庇ったのは、えらいわ。よくやったわ、さすが私の弟よ。 でもね!! 自分が死んでぇ、どぉするのよぉぉ!! 」


 そう、泣かれた。

 大泣きされた。


 「もう二度とするんじゃないわ! 良いわね! わかったわね!! お返事はぁ!? 」



 とも、言われました。


 不可抗力だし、ねーちゃんが本当に話したかったのは金の話なんかじゃない。ねーちゃんだって…  うん、まぁね。要は痛い話だよ。



 でもさ、ほんと少し前の話なんだ。死が俺の隣にいたのは。


 俺はさぁ、生まれ変わったわけじゃないんだよね。生まれ変わったつもりもないし。ちゃんと覚えてるし?

 此処は俺の世界じゃなくて、知った人が誰もいない。だから、新しい自分として生まれ変わったんだ! 俺は此処で好きな様に生きるんだ!ってぇのも、悪くないとは思うよ?


 でもさ、俺はそんなご都合の良い切り分けできないんだよね。俺、世界が違うって事一つで、知る人がいないからって。


 そんな程度で自分をちゃっちゃと捨てられる程に上手くはできてないんだわ。




 俺は 乃井 梓 だよ。


 あやめねーちゃんの弟の 梓 だよ。




 ねーちゃんがしてくれたからだろうけど。だから、だろうけど。


 もし、俺がハージェストに会う前に死んだら無縁仏だろ? 会った後なら、少しは違う。はずだ。…といいんだけど。

 あ、ケリーさん達なら金かブツ出して、お願いしとけば葬式してくれるかもしれないな。



 …この奴隷の子買って、この子が死んだら誰がどうするの?

 俺だよね? そこら辺に放置していけるわけないじゃん? 葬式のやり方も不明だけど、俺が葬式を出さないといけないんだよね? もしくは、墓をなんとかするんだよね?


 そんな金ないよ。


 いや、貰ったもん使えばなんとかなるよ? きっと、充分を超える位の金あるよ。


 でも、俺も思うわけ。

 おねえさんから金を貰ったのは俺。旅費と当座のお金ってね。

 けど、おねえさんだって、できるならハージェストになんかしてやりたいと思っているはずで。

 ほんとに必要経費として会いに行くのに使い切ったら、ごめんで済ますけど。できればハージェストにも貰ったブツは分けたいと思ってる。


 ハージェストの経済事情を俺は知らない。

 そういった事も含めて、 『会って自分で、どんな奴かを判断しろ』 なわけよ。ほぼ同い年のダチ。なら、これから何かしらするなら、必要なのは金だろ?

 土産があると心証良いじゃん? もし、経済困窮してたら助かるよな? 何より、おねえさんが喜ぶだろうしさ〜。


 俺はヒーローじゃないし、この世界について知らなきゃいけない事ばかりで。

 今は拠点になるハージェストのとこに行く途中。郷に入っては郷に従えって言うし、それらを理解する方が先だろうしさぁぁぁ〜〜〜。



 …うだうだ繰り返したけど、要するに現実直視すると無理。躊躇います。その場の勢いで動けません。ちょっと金持ってるってだけで天狗になれません。自分で稼いだ金じゃないし。


 服装と様子を見て可哀想とは思う。けど、可哀想だからって一人助けるのに今の俺の財産は出せない。それに、奴隷って一人いるだけじゃない。はっきり商売になってる。理由があって、そうなってる。制度も、そうなった世界の歴史も把握してない。


 ああ… 助けるって言葉の使い方、間違ってない?



 考えれば考える程、頭の中で世界が回る。


 ………最初に見た時、似て非なる世界だと思った。

 他所から来た俺が自分の理論振りかざして通る? アウトじゃね? 弾かれるのは俺。よろしくお願いしますって、この世界にお願いしたのは俺。居場所を求めて此処にやって来たのは、俺。


 普通に、 『ひゃっほー、奴隷でハーレム〜♪』 も悪くないと思うけど。それはそれで有りだと思うけど。そんなことばっか考えてるわけじゃなし。



 リアルだと、ちょっと色々見方が染まれなくてさ。いつかは変わるかも?  …だけど、今はいいや。来たばっかの、この町だって把握してない。




 ぐーるぐーる考えて、とりあえず俺は奴隷と呼ばれる存在をカウントスルーする事にした。


 ハージェストに会うまでは見るだけでいいです。旅費と当座の金を奴隷に注ぎ込む気はありません。

 下手に買っても、命に対する責任なんて持てないですよ。買ったら生活の面倒見るの俺だろ? 食費も宿泊費も二倍。怪我をしたら治療費もいる。


 死が近くなかったら。姉にあそこで会わなかったら。姉とあんな話をしていなかったら。


 こんな風に考えなかったかもしれないけどね。普通にどれがいいだろ〜とか、便利に使えるのはどいつ? なんて探したんだろうか?



 しかし、今の俺には敷居が高い。

 俺が育てた一般常識の人権が壁を成す。思考は死んでない。今まで培って来た俺が居て、俺は死んでないと自己認識を新たにする。


 するんだが。

 現実と感情が割り切れそうで、割り切れなさそうな。割り切りたくないような〜… この世界の現実に慣れないといけないと考える反面、それでいいの?と反論する。


 結果、迷う。


 でも、迷ってもできる事ないよ?



 そんな自分自身に遣り切れなくて、どっかで納得し切れないでいる自分自身に謝った。



 「ごめ、ん」





 この一言が、どうしてこんな風に転がるんだろうか?







 

まいごのまいごのキティちゃん。あなたのプライドどこですか?

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