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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
47/239

47 正しい混乱と苦悩からなる新知識

また、ちょっと超えた。


 

 

 星が瞬く夜空に水気を含まぬ乾いた風。吹き抜ければ涼より冷たい。


 天空から眺めれば大地は黒々と横たわる。

 その黒さに樹々が深みをもたせている大地で、星々の瞬きに応えるとても小さな小さな反射鏡。

 脇では二つの白い光が手を取り合う。白の光に挟まれて赤い火が舞い踊り、黒の中で、それらがポツンと浮かび上がってる。



 泉の傍には男が一人、不寝の番を務めていた。

 彼は焚き火に小枝を突き入れて風を送り、火勢を殺さぬように気を配っている。白の光源の一つは簡易テントの斜め脇で、もう一つは荷車の御者台に置かれた洋灯から放たれている。


 その光を少し離れた樹々の間から幾つもの目が見ていた。


 そして、忍び寄る。

 その中でも巨体を誇るモノが己を鼓舞するが如く力強い咆哮を上げ、火の脇に立つ男へと襲いかかった。



 グガァァァァアアアアアア!!!

 


 「 っ……! 出やがった!」



 その一言を合図としたものか。

 樹々が揺すられ、次々に光の元へ飛び出してくる!



 「うげ!  おい、悠長に寝てんな!! 起きやがれ!!」




  ドドンッ!!  ドンッ!  ドンッ!    ドドドンンンッ……!


 

 ヒヒーン…!   ブルルッ!

                    ギャッ!






 見張り番のニールさんの声に大きな音。馬の嘶きに、複数の唸り声に叫び声。

 それらが一気にざわめきとなって押し寄せ、音に空気が振動して、パッと目が覚めた! 否が応でも目が覚めた!!


 「ああっ!?」

 「夜襲か!」



 一声叫んで、毛布を勢いよく跳ね上げて二人がテントから飛び出していく!

 その二人を追って、俺もテントから出る! 旅の間、借りてる短刀を引っ掴む時間だけ二人から遅れた。



 正面の焚き火から見えた周囲に獣がいた。


 オランウータンみたいな奴で形状は間違いなく猿だった。でかいのと、でかいのと、でかいのと、ちょっと小粒な奴まで。ずらずら居やがる。

 そいつらが剥き出すがっちりした牙にヤバい爪。

 襲って来たのは狼なんかじゃなくて猿だった。しかも、大体が大猿。あの猿… でかさで俺とタメ張ってない?



 「ノイ! テントから出るんじゃねーぞ!」

 「お前が出たら、かばえんぞ!!」



 猿のでかさに目と口を開けて硬直してた。その声にハッとして我に返る! 


 「はい! 出ない!!」



 大声で返事をして、テントの入り口で屈み込む。短刀の柄と鞘を握り締めた。


 俺が出たら邪魔でしかない。だからと言って、テントの中に引っ込むこともしたくない。経過不明で、より心臓がばくばくするわぁ!



  ドンッ!!     

              ギャンッ!!


 

 再びの衝撃に空気が揺れる! 


 猿の悲鳴に視線を飛ばせば、暗い中、どうなってんのか。当たった衝撃が光のプリズムを生み出して、白と黄色の二色の輝きが波紋を広げて空中に飛び散った。


 「結界石をいてるから大丈夫だ! 絶対に出んじゃねーぞぉ!」

 「分かったな! 出るなよ!!」


 「はいぃ!」



 でも、そっから出てるケリーさん達は無事なんですかぁぁ!? さっきの光も驚きだけど、あの猿達は完璧肉食系に見えますが!!



 興奮している猿の剥き出しの口から泡が飛び、よだれが垂れる。べちょお〜っとしてる。


 あれ、めっちゃ触れたくねぇぇ!!



 「こいつら、こんなとこで出るかよぉ」

 「跳ねるなってんだ。めんどくせぇ」



 ブォンッ… !


 フレッドさんが片手で振るった得物が重い風切り音を唸らせた。



 焚き火の火に、用心を重ねて二ヵ所に置いた洋灯の白い光。

 光源はこの三つ。この光が届かない場所は暗い。閉ざされる視界は一番危険だ。


 そんな中で怒鳴り合いながら、ケリーさんとフレッドさんは猿を撃退してた。


 ケリーさんは長剣、フレッドさんは斧で。それぞれリーチと得物の長さを生かしつつ、猿を退治してた。


 退治。聞こえは良い。

 剣で猿の腕が切り飛ぶの見えた。斧が猿の腹にぶち込まれるの見た。完全流血の事態。

 でも、油断したら二人が猿の爪と牙にやられる。猿なんかに、しがみ付かれたら終わりだろ? あの猿達でかいよ! 引き剥がす前に爪が食い込み、牙が突き立てば? あんな牙に喉元噛み付かれたら死ぬだろ!? 助かるのかよ!?


 二人とも必要以上の深追いはしない。常にテントに背を向けてる。そこに結界があるってんなら、背後からは狙われないってことだよな。俺には見分けがつかんけど!



 ………見張り番してたニールさんは?


 左右を確認しても見当たらないことに真っ青になった時、力強いドーラちゃんの嘶きが聞こえた。複数回続く嘶きに足踏みの音でポーラちゃんもわかった。




  グシャッ…!


 暗い見えない中で想像したくもない潰れた音だけが聞こえた。



 「あ〜、やべ。 やっべ〜」


 焚き火の木を松明にして持つ、軽い口調のニールさんがいた。


 ニールさん、ご無事でしたかぁぁぁ!!



 「ドーラもポーラも無事だ。そいじゃ、火ぃつけんぜぇ?」


 ……へ?



 松明を猿にぶん投げる。

 右手を握り、目を瞑ったニールさんを庇う形でケリーさんとフレッドさんが得物を振るって応戦し続ける。その間も猿のギャアギャア鳴く威嚇の声は途切れない。



 ギャン!!



 俺の後方で猿の悲鳴が上がり、テントを越えて白と黄色の煌めきが頭上に見えた!

 振り返っても、テントの内部に変化はない。しかし、テントで隠れて見えないだけで真後ろに猿がいると思うと怖ぇぇ!


 猿が結界に激突して、ドンッ!と音が響けば、二色の光がパッと闇夜に広がる。

 闇夜の中に浮かぶ光の煌めき。幻想的で凄く綺麗。余韻を残して、ゆっくり消えるから短時間の光源にもなる。

 猿の威嚇と流血の事態に三人の安否を考える必要がなかったら、もっといい。



 目を瞑る横顔が見えた。

 カッと見開いたニールさんが、勢いよく下から上へと振り上げる動作で握ってた右手を振った。


 「そぉら! イッちまえっ!!」



 …動作としては左下から右上への打ち水の要領。柄杓に水を汲んで思いっきり空へとぶち撒いた感じ。


 但し、撒かれたのは赤い光。

 火の粉の様に闇夜を美しく飾って… 舞い上がり切った所で直線で猿に飛んだ。狙い違わず、寸分の狂いなくって表現ぴったりに猿に飛んでった。



 ギャアアアアアアアア!!!     ギャッ!  ギャイ、ギャア!


 

 更に闇夜をつんざく、猿達の金切り声がヤバい!! 死に瀕するその声は、聞こえるだけでも震えが来た。来たが、俺が代わりになりたくねぇ!



 猿達は途切れることなくギャアギャア、ギャアギャア叫び続けて地面を転がりのたうち回り、上手く泉に飛び込んだのか、バシャン!と水が跳ねる音もした。

 それでも、どこまでいっても何をしても、ニールさんが放った赤の光は消えなかった。赤の光は猿から離れなかった。


 暗い中で動き続けるその赤が、凶暴に輝いていた。



 赤い力で猿を焼いた。 生きたまま、焼いていった… 



 ギャアギャア叫ぶ声と藻掻いて地面を蹴って這いずる音は、次第に小さくなり、聞こえなくなって… 最後ゴトッと体が横倒しになって終わった。


 どれもこれも同じ様になって、事切れて終わった。



 周辺には髪が焼けるっていうか… 猿の毛が焼けてるんだろう鼻を突く異臭が漂い…


 そこをちょっと強い風が吹き抜けて、異臭が飛んだ。



 そしたら、なんというか… 








 動物性たんぱく質が焼ける匂いが充満した。



 最後火達磨そのものと化して死んでいった恐ろしい事実の中に、  地獄絵図のようなその中で、  変に美味しそ〜な匂いが混じった。




  !! ? 



 俺の脳みそは視覚が認識して焼け死ぬ恐怖を脳裏に刻む一方で、嗅覚が捉えたニオイに刺激を受けた。


 目の前の現実とたんぱく質が焼ける美味しそうな匂い。過去に匂いと共に味蕾が記憶した味を思い出し、俺の脳は美味なる匂いであると喜んだ。


 酸鼻極まる光景の中、俺の脳は正しく混乱した。





 「お〜、良い感じで焼けた、焼けた〜。 はっはー」



 かっる〜いニールさんのお声が混乱に拍車をかけた。

  

 「始めぼうぼう、中ぱっぱ〜あっと。体毛と表皮を焼いてから、次にじこ〜っとな♪ 頭につきゃあ、ほぼ決まんだけどよ。俺じゃあ、一気に全身ってわけにゃいかねーからさ〜。逃げきられても手当のできねぇ獣じゃ身が保たねぇかんな。その場でなくとも確実に仕留められる方向にしてんだよ。

 今回は調整が割合上手くいったなぁ。同じ結果にしても、くっせー臭いばっかじゃ嫌だろ〜? ちっとは変えねーと。同じよーに見えても技術だぜ!! こーゆーのこそ実践あるのみだよなぁ。 さ〜て、もう一回飛ばしとくか」



 『大成功!』


 これを表したお顔で腕組みして、にんまり笑ってるニールさんがいた。

 

 「臭いの始末もしとかねーとよ〜」


 手を払う仕草をしたら風が吹き抜けて、籠もった熱と臭いを飛ばしていった。

 臭いの元がなくなったわけじゃないから、完全には消えない。それでも、風が吹き抜けた後はスッキリした。


 

 「おー、ドーラとポーラの様子見てくるからよ」

 「分かった。フレッド、そっちは頼む。ニール、石の確認したら一周してくるから任せる」

 「りょーか〜い」


 あっさり二手に別れてった。



 「あー、疲れた〜。ノイ〜、茶ぁ淹れて〜」


 「は、  はいっ!」


 ニールさんのお言葉に脳内混乱を放り投げ、作り置きしてた茶を淹れる為にコップを取りに走ったよ!  そうだ、お疲れ様です!



 「くはあっ。生き返るわ〜」


 差し出したまだ温い茶をニールさんは、ぐびぃっと飲んだ。


 「結構やったからな〜。今晩はもうねぇだろうから心配すんなよ」


 にかっと笑うニールさんは、カッコ良かった。

 どっかチャラけた感じの人だと思っていたが、やるときゃやりますの人だった。んで、やっぱりこれって魔法使い系の人ですよねぇぇ! 初めて見たけど、すっげぇ!! 


 周囲がアレな状況だけど、いや、アレから目を背けたい所為か俺の脳はそっちにチェンジした。


 「ノイの洋灯ランプが役に立ったよ。やっぱ光源が多いと助かる。町についたら、魔石買って自分でも使えるようにしないとな」

 「はい」


 俺は役に立たなかったが、俺が頂いて来た洋灯は活躍した。良かった!

 


 「ん? なんだ? あー、あの手の猿は見たことないのか?」

 「小さいの 見た」

 「なる。ノイは種類が違うのなら知ってんだな。猿は猿でも、でかさが違えばびびるよな〜。ノイ、その袋取って」

 「これ?」

 「そ、それ」


 「あの猿も普通なら山の奥にいるんだけどな〜。ハグレが固まったか、それとも成長して群れから離れた奴らが固まって移動してたかってとこだろ。食いもんがない時期じゃねーけどなぁ」



 茶と一緒に携帯用食料の一つ、別名・堅焼き菓子をボリボリ食いながら、ニールさんは話す。


 「何度も試したんだけどよ、あの猿の毛皮は臭くて使えねーの。どんだけやっても駄目。けど、牙と爪は使えるからろうとしたら、その二つ。あとは要らね。あれが出たら、俺は効率よく焼く事に決めてる。他のもアレだけどよ、猿は油断できねぇ。あの猿は腕の稼動域が広い分、厄介だ。燃やすに限る。 …匂いは実に悪くないが肉は硬くて不味くて食えたもんじゃねぇ」


 既に肉は試食済みだった。

 実に残念な様子で非常に不味いと書かれた顔で教えてくれた。


 そして、匂いに戸惑った事と異臭から先日の手伝いの話をした。


 「ああ… ノイはあの洗礼を受けたのか。僅かな滞在時間だというのに… 良かったなぁ、経験が増えたなぁ」



 互いに引き攣る冷や汗の出る空笑いをした。


 先日の二度としたくない手伝いは脂の精製です。

 なんかの動物の皮を剥ぎ、肉とその皮下脂肪を鍋で煮て、煮て、煮詰める作業です。スルッと剥けてる皮がそのまんまで残ってて完全な脱皮が形状を示してた。皮なだけでペロッてるから余計に怖かった。なんせ… まんまのナマ皮ですよ? 脱皮っつっても蛇じゃないから、肉付いてますよ。煮てれば肉と脂肪、分離してくけど…ね。


 村の端での作業の意味もよくわかりました。異臭を飛び越えた臭激による強襲です。

 あまりの異臭に目が痛くなる前に吐き気がしました。吐く前に気が遠くなりました。倒れたら助からないので倒れる気はありません。何もしない内から全面降伏です。即時撤退したかったのですが、不可能でした。

 顔面防臭マスクの絶対の必要性を説きます。風下にいれば死ねます。動物性脂でもアレは吐き気しかしませんでした…


 あの脂で石鹸なんて、 考えられねぇ…   精製中に俺が違う世界にイってしまう。


 

 「ノイ、あれは地獄の行軍より恐ろしい作業だ。血を見なくても地獄に行ける。辛い時にはあの作業を思い出せ。大抵なんでも立ち向かえる」



 「 はははははは… 」

 「 あ、あは、あはははははは… 」



 頷けるが、頷きたくない話に二人で乾いた笑いを上げた…


 「あ、ノイは薬に何買った? あれは万能薬だ。塗って良し、飲んで良し、混ぜて良しだ。臭いは無視しろ。油だから乾燥防止にも使える。今回の荷に同じ奴があるが、思い出にも要らんか?」



 ばんのーやく?


 え? そんな大層なもんだったの!? 俺、そんなんの手伝いに携わってたの!? ばんのーやくって、どっかのお偉い学者とか如何にもな先生が作るもんじゃないの!?



 傷薬に腹痛、下痢止めは買った。リップクリームは見当たらなかったし、解熱薬は抜かってる。…正直怪しいが万能薬と言うのなら! 持っときたい!


 代金後払いで一瓶購入約束した。


 「ああ、何にでも効くぞ。ただなぁ… 薬効成分とか言われたら知らん。昔から作る薬だ。それと… アレ飲んでると体質が変わってくるんだろうな〜、多分。  なんせ、弱い薬は飲んでも効かんなるからな。はははははー」


 え?


 「しかし、全く病気をしなくなるってぇわけじゃないからな。手元にある薬が効かなくなったら、最悪だぁな〜。あーはははは。ま、その前に体が良くなんだろ」


 なんか、ものごっつ怖い話をしたんじゃないですか!?


 「常習性とか依存性とか、そんなんあるわけないけどなー。あの臭いに常習性が起きるかよ。起こったら異常だって〜の。はっはっは〜」



 笑うニールさんに何かを見た!



 「「  あははははははは  」」



 二人で笑った。とりあえず、笑った。笑いの種類が違ってても笑った。


  

 笑う内に話が獣の話に戻った。


 「ノイ、あの猿は獣だが獣の中でも魔力を帯びた魔獣がいる。魔獣でも強いものは恐ろしく強い。一人での行動は出来るだけ慎めよ、お前が山で無事だったのは幸運なんだぞ」


 そう言って俺の頭をポンポン軽く叩いた。


 …あそこは安全ルートって聞いてたけど、心配と常識を頂けて感謝します。


 「はい。気を、つけます。ニールさん、強いね」



 魔力はそこそこしかないし、連戦になったらダメだって。使う方向性が違うくらいで三人ともそこそこだって、手ぇ振ってケラケラ笑いながら言った。



 「しっかし、猿にやられました〜。じゃ、帰れねぇよ」


 言った顔はマジもんだった。


 「村の財産パチって逃げるのもヤバいが、あーんな猿にやられて失いました。なんつったらも〜、最後何言われて言い触らされるか。全方位に話が回りきって居られるかっての! そっちの方がもっとヤバくて恐ろしすぎるわ」


 そう言ったニールさんの顔は心底震えて憂える恐怖を呼ぶヤバいマジ顔だった。 


 俺、今の戦闘でもヤバいと思って、怖いと思ってブルッたってのに… 現実って、現実って… なんつーかな… 


 「おかわり」


 催促されて茶、注ぎながらそう思った。


 「お、食ってんのか。ノイ、俺にもくれよ」

 「はい、お疲れで、す」


 見回りから帰って来た二人に茶を淹れる。堅焼き菓子を二人もボリボリ食ってた。二人に作り置きした冷やになりかけの温い茶を渡して思う。


 魔力使ったら腹減ったって… 燃費としては、どーなん、それ? 



 ニールさんとケリーさんはテントに入って就寝。フレッドさんと焚き火を囲んで見張りの交代。俺はフレッドさんが寝ないように居眠り防止対策。俺は昼間に荷台で寝ればいい。


 焚き火の火加減を見たり寝ないよう立って、周囲を確認しながらフレッドさんと小声で話す。


 「魔力、どん、な感じ?」


 返答により判明したのは、体の中にあるもん引っ張り出す感じで使うから、使えば普通に疲れる。腹が減るだった。体力とは違うみたいだけど、同じなんかな〜?


 学校に通って勉強したことはない。独学、又は周囲の大人のやり方見て覚えた。学校で習った人は使うのが上手。基礎になる部分が感覚でわかるんなら応用問題なんだろか? やり方は人それぞれだそうで、ニールさんも自己修得って言ってた。



 「ノイは洋灯ランプが点けられなかったんだろ? じゃあ、やっぱり魔力はないな。点くか、点かないかが有るか無いかの判別で、光の強さや照らす範囲の広さが質や量になる。俺達なら自前の魔力で維持できるが、ノイは魔石を使わないとな。魔石もピンキリだから買う時は注意するんだぞ」


 残念極まりない現実だった… 

 どっかで立派な水晶体に触れるとかゆー必要性なんか、どっこにもなかったよ… 灯り一つで終了だよ。わーい。



 三人は魔力をじゅつというで形で使えた。ここは魔術が発展した世界だろうか? それともこの洋灯のように魔工学が発達した世界なんだろうか?


 「それにしても良い洋灯ランプだよな。普通のなら注ぎ込む量が決まってるから、こうまで物指しにはならんのだけどな。容量がでかけりゃ、使い込む量もでかくなるもんが多い。こいつは小さい上に調整が、きっちり組まれて作られている。こんなに良いのは村じゃ誰も持ってないぞ。大事に使えよ」



 今の言葉もそうだけど、荷改めの時に出したこの洋灯。持って来た事を謝罪しようとした時、誉められた。


 「良い洋灯ランプ持ってるな」


 言葉を理解した時点で黙りました。訂正すべきか迷い、再び口を開こうとした時には話は進んでました。なので、そのまま通してしまいました。




 …………俺、泥棒しちゃった。 が、正解だろうか? 

 ケリーさんが後からこっそり教えてくれた。俺の居た納屋の位置や状況から考えて、会った人達は良くない連中だろうと。お前は囮に使われたかもなって。それ聞いて、頭の中、痛くなった。


 ………………あの晩、あの女の人は、「この洋灯ランプを使うと良いわ」 そう言って俺の元に置いて出て行った。あの笑顔の総てが嘘だったとも思えないけど。



 ……はい、大事に使います。 ありがとう。 ご冥福と無事をお祈りして。   もう、考えない。 俺のモンです。ありがと〜う。



 ちなみに、あの玉も読めてない手紙らしきもんも、タイミングを外して言っておりません。

 色石が取り出せない事態に考えを改めて、貴重品内ポケットに入れ直した事が仇となり、取り出せなくなりまして… アレは俺の脳内で、どうしよう品になってしまいました。

 でも、皆さん紛失物はないって言ったから、村の物じゃない。アレは誰のものだろうか? お祈りした皆さんの物なら… 忘れよっかな〜…







 明け方になって、見え始めた周囲は。 

 ………………見て気持ちがいいもんじゃなかったです。非常によろしくないです。ゲロッパしそうです。



 俺は朝飯を作る方に回り、泉の傍で這い上がった姿勢のお肉を発見し、発見場所から真逆の位置で水質を目視して水を汲んで逃走した! 

 報告は忘れない。後は任せます! 煮沸だ、煮沸!!

 でも、恐ろしかったんで食事用には俺の水筒の水をこっそり使った。あの水、まだいけます。別の意味で驚異、なんで保つんだ?


 朝飯食って、泉を後にする。

 さらばだ、お肉。硬くて丈夫な火に焼け焦げなかった爪と牙だけが、戦利品として積み込まれた。残念、猿の爪と牙に需要は高くないそうだ。





 そして、今日は三日目。

 荷馬車に乗って動き出したら、ケツ様が痛みを思い出された。 …さぁいてぇぇ。


 俺は睡眠不足にケツ様の嘆きでやられそう。

 寝てるフレッドさんはいい。良く寝れるよな。



 出発から四時間は経過したでしょうか? 小休止が入った。俺、助かる。



 以降、休み無しで町まで直行。皆で携帯食料ボリボリ食った。



 野越え山越え谷越えて〜♪は、嘘・大げさ・紛らわしい。なんだけど。そんな心境を乗り越えて、やあっっと! エッツの町はっけーん。


 到着です。






 エッツの町の入り口には門がある。

 門番さんがいらっしゃる。そして、門番さんの駐在所もあった。町に入場する為の税金のお支払いもあった。ふ。


 

 門前に立っている門番さんと顔なじみらしく、『や』と手を挙げてる。フレッドさんは荷馬車を降りて、さっさと駐在所に入って行った。

 その間に俺達が来たのとは別の道から、ガラガラ音を立てて、似たような荷馬車がやって来た。その荷馬車の御者さんは門番さんと大声で挨拶したけど、止まることなく進んで行った。もちろん町に入るから、スピードは落ちてるけどね。この町の人なんだろうか?


 「ノイ〜」


 フレッドさんに呼ばれて、手招きされる。荷物を持って荷馬車から降りようとして転けかける。…締まらねぇったら。俺の運動神経どこいったよ?


 駐在所の中は結構広い。そこに別の門番の兄ちゃんがいた。

 この町にようこそから何しに来た?の質問があった。皆と一緒に来て、隣にフレッドさんが居てくれるお蔭か不審者扱いはない。


 シューレの街に行きたい旨と、旅費稼ぎに品を売りたい。そんで、今日は泊まりたい。可能なら少し滞在したいと返事をする。


 兄ちゃんは、ふんふん聞きながら、俺の様子から荷物をざっと目視確認してた。その後、用紙に書き付けしてった。


 「何を売るんだ?」


 ポーチから財布を引っ張り出し、中の一つを取って見せた。

 出したのは、所謂メッキ塗装された品。この世界にも上塗りっていうか、塗装技術はある。それを鍍金めっきと呼ぶかは不明。


 俺は、この世界で流通してない物は一切渡されていない。換金物は特に注意された品。ちょっと特別なリュックにポーチ、水筒は俺のアイデンティティの為にも手放す気はない。




 「…これは本物か?」


 少し目を眇めて、低い声で言った兄ちゃんに俺はどう説明しようか困った。単語がわからん。


 「違う。それ、こする、ダメ。おちる、ダメ。ええっと…   時間、色、下がる」


 兄ちゃんが、ん? みたいな顔して、説明の不十分さに唸る。メッキ塗装が剥がれるってーのは、なんて言えば…


 「本物、違う。 こする。むける。おちる。はげる。  はげる。はげる。はげる」


 

 門番の兄ちゃんが手に取って見ている品を指差しながら、俺はわかりやすく、はげると連呼した。



 「だはははは!」


 突如として、笑い声が発生した。

 振り向けば、フレッドさんが腹を抱えてヒーヒー笑ってるし。


 はぁ? なんで?


 門番の兄ちゃんを振り返れば、どっか引き攣った顔でフレッドさん見てた。その後、ゆっくりした動作で左手を持ち上げ額を押えた。


 二人の行動の不明さに不安になる。心配になって首を傾げて兄ちゃんの顔を伺った。


 目が合う。

 即座に首を振られて、目を逸らされた。



 は?


 ん? んん〜?  ん・ん・ん〜〜〜?




 よーく、よく見れば。

 俺から横向きになった兄ちゃんの頭髪は。



 門番の兄ちゃんは室内だが門番の制服であろう帽子を着用している。パリッと制服を着こなしている。

 さっき、正面から見た時は帽子から前髪は出ていなかった。現在の横向きでも前髪が見えなかった。尚且つ、側頭部の髪は… なんか、なんか、な〜ん〜か〜ぁ〜…


 どうやら兄ちゃんの前髪は非情なまでに自然後退ナチュラル バックしているものと思われる。



 俺の目から見ても、年齢的には二十代前半と思われる門番の兄ちゃんの頭髪は… 薄い。


 門番の兄ちゃんは若ハゲだった。

 かっぱさんではなくて、額から後退が始まり、まぁるぅ〜く失われていくタイプのようだった。

 








 fight! 

 門番が現れた!!



 梓は門番に職務上の質問を受けた。


 梓は質問に単語で答えた。


 梓の答えた単語は門番の兄ちゃんの心を圧し折り、精神力と生命力を削り取った!


 見物人フレッドさんは馬鹿笑いした!

 門番の精神力は更に削り取られて、顔を覆って項垂れた。


 立ち上がれない!




 俺、win!!






 脳内で遊んでも、俺は兄ちゃんを笑えなかった。

 いつの間にか額から顔全体を覆っていた微かに震える指の間から覗いた目は、目は…


 昨夜の猿の襲撃にも匹敵する程に恐怖を呼び起こし、苦悩と悲哀を誘った…

 


 その後なんとか立ち直ったが、どっかで魂が抜けてそうな兄ちゃんに金を支払い釣りを貰い。フレッドさんに確認して貰って駐在所を後にした。



 再び荷馬車に乗り込んだ。

 フレッドさんがニヤニヤしながら二人に、さっきの話をしてた。二人も盛大に吹いた。


 「わはははは!」

 「ノイ! お前すげえよ!」


 振り向くニールさんから賞賛のお声を頂き、三人の爆笑を聞き、俺は動き出した荷馬車から遠ざかる駐在所に向かって、心の中で手を合わせる。

 

 『触れてはならない箇所に触れました、ごめんなさい。そんな気さらさらなかったんです』


 声に出さず謝罪した。


 だってさー、あの場でわざわざ謝ったら、追い打ちかけるようなもんだろ? 違う? 

 絶対、あの兄ちゃんギリギリ振り返って、「なんでもない。気にするな」とか言ってくれそう。けど、きっと顔はヤバい。 …落ち込んでるだろーなー、ごめーん。





 荷馬車で初めての町中を走る。

 町への興味は尽きないが、俺の思考はさっきの一件から別の思考点へと飛んだ。




 ……ハージェスト、ハゲじゃないよな?


 これから会うダチが若ハゲだったら、どうしよう?


 おねえさん。

 ハージェストは金髪だと言ったけど、ハゲてるとかそんな話はしなかったもんな。ないとは思うが、十円ハゲとかあったら… どーしよう〜?




 ハージェストに会うのが楽しみなようで怖いような。そして変な期待感も。

 俺の中で作成するハージェストの人物像が果てしなく不明確になった出来事でもあった。 



 

 

かっぱかな? かっぱじゃないよ、x〜xだよ♪ うしろじゃないよ、まぁえだよ♪



ケリー、フレッド、ニール。

全員常に短刀、乃至は小刀を所持してます。

今回ケリーは長剣ですが、ま〜鉈の方が上手いかも。フレッドは木樵もしてるんで斧。ニールはあっち系なんですが、長剣も挿してます。杖とか持ってないです。

ニールも山の男なんで二人に比べ体力が劣る事はありません。しかし、梓談。ニールはチャラい(笑)

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