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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
46/239

46 町へ行きます

 

 あれから今日で三日目です。本日、出立です。


 その間、色々してました。二日目には二度としたくない手伝いも体験しました…


 商売もしました。

 あの日の午後、しっかりしろと布団から起きて、じいさんに許可の必要性を尋ねたら纏め役のマークスさんに話が飛び、翌日の午前中にマークスさんとこで売る事が決まりました。

 翌日、ケリーさんに連れられてマークスさんちに行って、安物をメインに決めた数だけ並べました。

 南京玉ビーズの飾りや銀細工シルバーアクセです。銀貨があるんで銀細工シルバーアクセが安物かと言えば、ちょい微妙な。 ……銀貨だよな!? 白銅貨じゃないよな!? 


 それらをおねえさんの刺繍入りのハンカチの上に並べた。

 ハンカチは結構な枚数くれてて、そんなに要らないな〜と思っていたのは間違いでした。露天売りなら台はともかく、見映えがいるわ。エンナさんの時に直置きは失敗だと思ったよ。


 「ん? これは男物か」


 マークスさんが指輪を取って嵌めたら、ぴったりだった。ちなみにケリーさんにはサイズが合わなかった。



 「「「  ……………………   」」」



 パチパチパチパチパチパチパチ。


 「合う」

 

 笑顔と拍手で持ち上げて、目線で買ってくれと要求した。


 デザインリング、お似合いですよ!


 「う、うお… 」


 迷っている所を持ち上げます。


 お買い時です! 是非、どうぞ!



 はい、売れました! 唸りながらも、お買い上げ。

 マークスさん、あざ〜〜〜〜〜〜っす! や〜、決めんの早くて助かるわ〜。



 それから、おばさまとお姉さま方が来られて、華やかで賑やかにお買い上げ。

 敷いてたハンカチも売れました。刺繍が大変好評で手本にするとか。…俺も綺麗な刺繍と思ってはいましたが、お手本として売れるとは〜。


 お蔭で通貨は大筋理解した。端数的に不足と思ったら値切りか付け足しの要求ですね。了解。




 それで町に荷を卸しに行くのに乗っけてもらう。

 ケリーさんとフレッドさん。三人で荷馬車に積み込む。


 商品は乾燥させた薬草や、そのまんまで生薬として使われる植物なんかです。

 生薬として卸すのは根っこの部分が多くて、しかも土付きの方が保ちが良いって事で土を払わないから重量が増す… 根っこも割り合い大きいから重い。

 乾燥させた方は軽いけど、こんなの少量ずつ持っていっても大した金になんないんだと。逆に、少しだからってんで値切られるって。

 希少なのは高く売れて当然だけど、やっぱり希少で数が無い。

 薬を作る方も手間暇考えると、ある程度はどさ〜っと作っておく方が楽だって。常備薬っぽいね。


 ケリーさん達も纏め出しにしてるから軽くても嵩張かさばる…

 既に薬としてできた品から、他にも細々したもんまで。根野菜系も積みますし、燻製もです。


 燻製を見て俺は思った。

 灰で石鹸。薫香チップの灰と、かまどの焚き付けの灰。同じ灰だが、灰の種類は考えなくていいのか? とかさ。


 そして、二度としたくないお手伝いブツも大事なんだと…  一度の体験で十分です。




 ところでさ、人に頼んで自分は行かないから、売り上げ誤摩化してもバレないよね? そんなことないのかな?

 考えたが内輪の人間ばっかでそれやっちゃったら即、村八分。ぼっちにされる。いるのに、ぼっちってツラいよ。あ〜、やだやだ。


 卸しに行く先は決まっていて、そこの経営者も元々この村の出身らしい。ほーんと内々で固まってるよ。

 普通に露天出しして売りもするけど、大事な値の張るもんは店に卸すのが定石っぽい? いや、契約済みって事か?


 内々が多いなら… そこで貴金属の売却は大丈夫だろうか? 

 皆に見せてない分を売ったら俺が売ったってバレねぇ? 最後、情報回って嘘ついたって、なるだろうか? …犯罪行為したわけじゃないけどさ。

 自衛手段は当然としておけば大丈夫か? やばいかなぁ… なーんかバレそうな気がするよ。提示した分だけでいいか。それでも十分なはずだ。 


 うーん、見極めがわからん。わかる奴に聞くのが一番。 …ハージェスト、ヘルプ! って思っても隣にいない、あーあ。


 しかし、簡単な日常生活の類いは理解した。他の詳しい事はハージェストに聞けば、なんとかなるだろ。あんまり墓穴掘るような事は聞きたくない。…今更感もする。



 晴れて不審者を脱却できた俺は一般人。

 町に行ける。便乗だから、お手伝いはしましょう。好意乗車なんで無賃です。お客様ではありません。でも、金を払っても乗る荷馬車は変わらんでしょう…

 

 幌の無い荷馬車です。現在、村に一台だけある幌付き荷馬車は修理中だそうです。

 直射日光を避けるために、使い込まれた厚手の布を掛ける。防水用シートじゃない。単に毛布っぽい。元は毛布使用だったと思われるが、現在完全に雑巾に格下げ状態。でも、大活躍中。最後の最後まで、お勤めご苦労様です。

 俺も、こんな風に使える奴になりた… くないなぁ。こんなボロ雑巾になるまで使い込まれるってどうよ? そこそこでいいよ、俺は。



 昨日の内に、おばさまやエンナさんには、さよなら言った。じいさんには今朝きっちり礼言った。ああ、じいさんの名前はアントンで、おばさまはハンナね。


 乗車賃はいらないって言ってくれたけど、移動中の食料が不安。だから、昨日聞いた時点でお願いしといた。その代金と、お世話になった気持ちで銀細工シルバーアクセを一つ渡した。そんで、時間に余裕できたらまた来るよ、な内容を告げた。


 「おお、余裕できたら来るといいぞ。無理はするんじゃないぞ」


 じいさん、励ましてくれた。けど、あの笑いはなんだかよくわかんねー… 嫌な笑いじゃないんだけどさぁ… なんかな〜?





 出立時に紐付きの麦わら帽子を貰った。畑仕事で使う奴で、ちょっと新品っぽいの。でも、麦わら帽子は麦わら帽子。ほんとの麦藁か知らんけど、センス良いとか悪いとかない。端的に言えば、格好良くはない。


 「日射しが辛くなったら面倒だからな」


 気遣いの好意に頭を下げた。 …俺なら、上げる前に気付けるだろうか? 


 落ち着いて余裕ができたら、ほんとにまた来ようと思った。



 そうして、俺は最初の村になるテーヌローの村を朝一番に荷馬車で揺られて出発した。 …ドナドナじゃないぞ。






 荷馬車を曳いてくれるのは、お馬さんです。

 このお馬さんも、またでかい。某ラのつく王さんがお乗りだった黒いお馬さまのよーに、でかい。目の前の子は茶色だけど、足が太い。腿の筋肉すげぇ。正面から見たら威風堂々。茶王号とでも言うべきだろうか? でも、そういう子が他にも居たから、品種だよな。


 …ここ馬肉って、あるんだろうか?  ダメだ、思考止めろ!



 お名前はドーラちゃんでした。女の子です。間違えてごめんね、ドーラちゃん。よろしくお願いします。

 もう一頭、一緒に行く子も女の子。そっちはポーラちゃんだった。ドーラちゃんよか小さめのお馬さんでした。


 荷物もあるから、猛スピードで走ることはない。けど、俺が思うより速度はやっ! ドーラちゃん、すごいよ。一頭引きだよ! 大きくて力強いから一歩も大きい。ぽんぽん、跳ねるわけじゃないけど尻にくる。振動がばっちりくる。


 なんせ、舗装道路じゃないしぃぃ!!

 はい、よくあるパターンですね! 荷馬車にサスペンションは、ないんじゃないでしょうかねぇぇ!!


 座り心地ダメ過ぎます! 座布団代わりに毛布様の出番ですかね!? 汚れそうで嫌ですが!! 板敷きで毛布様が、ささくれ立ちそうで非常に嫌なんですが!!



 持ってく荷物は縄で括って荷台と固定してるけど、途中で転がったりしないかの見張りも兼ねてます。座るスペースが、そこにしかないというのも正しい。



 男四人旅。字にしたら残念。

 俺とケリーさんと朝一緒に積み込みしたフレッドさんと、ニールさんの男四人で荷を卸しに参ります。

 昨日の顔合わせでは一人、女の人でした。ですが急遽、ニールさんに交代した。女の人だと、ほんと何かあった時に対処が遅れたら危険だってことで。俺があまりにも役に立たないもんだから…


 

 普通に刃物持たされて、腕がどれだけ立つかやれって言われても… 一応戦力の確認されました。なんもできんで、お荷物に決定。


 つまり、俺=お荷物=役立たず。

 

 もしなんかあって、初動対応が遅れて女の人が怪我して、それが俺の所為だったら? 女の人に一生傷跡が残ったりしたら? 

 始めから要らん危険性は回避して当たり前。村の男が村の女に気を使って当たり前。俺も賛成。

 やんなきゃやられるとしたら、一応やるだろーけど? 落ち着いて冷静にできるかなんて、そん時じゃないとわからないよ。

 


 痛くもないはずの背中に熱を感じて思考を閉じる。閉じた目蓋の裏に血抜きの血が浮かぶ。浮かんだその血が、俺の背中からも滴る気がした。



 無理でも何でも。 

 指を動かし、動いたままに手のひらを強く握り締め、別の事を考えた。





 テーヌローの村の皆は優しかった。あ、違う。今も継続中。

 俺が降りた場所は、はっきりしないけど山の名前はテヌ山。 …まっすぐ一本道を降りて来たのに場所が不明なのがアレだけど。

 すぐ隣に大滝が流れる、もっと大きな山がある。地元の皆は大滝がある方とかって呼び分けてるけど、基本全体テヌ山でいいらしい。連山なんだと思うがアバウトだよな… 

 でも、考えてみたら地元でもメジャーな山以外、俺も名前知らないや。ってか、近所に見えてたあの山… 名前あったんかな? 必要性なかったから知らないままだ。


 大滝から流れる水は、村に流れる山水とは別の方角に流れてる。その水は川になって、ちょーっと遠くに位置する湖を形成してるのに一役買ってるって言ってた。

 どっちかって言えば、大滝がある方の山がメジャー。観光する人がいるのか不明だけど、そりゃ何も無い山と見応えする大滝がある山なら、俺も滝がある方に登るわ。


 どっちの水も澄んでる美味しい水で飲用可。水が良いから植物の育成も良い。薬草もすくすく育つ。

 テーヌローの村はテヌ山の麓にある田舎の村で、村全体で薬草作って売ってる薬草村だった。…そりゃ、薬草だけじゃないけどさ。薬草村とか言ったら、ゲーム感覚で良い感じです。

 

 じいさんが最初に出してくれた黒茶も薬草茶。疲労回復を促す効果があるそうだ。

 最初から、じいさん優しかったんだね。



 「あんな苦茶を好んで飲むのは、味覚が落ちた年寄りだけよ!」


 しかし、娘であるハンナおばさまが、こう力説したから俺はそれに賛同する。 あれ、苦過ぎ!



 この辺りは水は綺麗、山はすごい。空気も清澄。風光明媚で素敵だけど他なーんも無い、田舎。見所って大滝くらい? 観光資源とすれば乏しくて、所謂、貧乏…



 この地の領主が変わったのが、七年くらい前なのかなぁ? 

 それ以前の領主は代行だったらしい。単語が不明で妙によくわからなかったけど、領主が変わったのは間違いない。

 新しい領主様になってから、いろーんな事に指図が入り始めて、交代当初はものすごく不安になったって。


 そんな中で指図の一つに薬草や香草の栽培が推奨されて、それが良い具合に安定軌道に乗ったとか。村としても潤い始めて現在、成功に繋がりつつある。そんなトコが少しずつ増えてるらしい。

 それまでは食料系が普通にメインだったけど、高値取引にまではいかないらしい。土地の水捌けとか気候で植物も合う、合わないがあって一口に栽培と言っても適した植物が見つかるまでは大変だったと。今もそうみたい。

 他が違うとは言わないけど、農業の実践は大変だね。それにテーヌローの村は山の麓で日の入りとか早いみたいな。


 他にも領主様の手で見たことなかった魔具とか、ちょっとずつ見る機会が増えて、生活が少しずつ豊かに変わってきて生活水準上がってるって。

 ここでも納税義務はあるようです。だけど、今は安定軌道を確実にしたいから半額免除らしい。その間に自分達も財産を頑張って貯めようって、全員で努力してて生産性の向上を計って、やる気上昇中。すげー。


 定住に対しての納税義務なら、俺もそういった事を考えないと駄目だろうか… 税金で利便性が回るんなら、しないといけないんだろな… 

 俺が暮らす場所はハージェストのいるトコにするつもりだけど、そこでの納税義務ってどんな感じなんだろ? 場所によって変わるのかなぁ? 免除あるんだろか? 節税とか聞くけど、俺は実際に記載書類書いて提出した事ないし… やぁっぱ、ハージェスト、ヘルプ!




 それにしても領主って、すげー。

 でも、ここに住んでないんだと。別の場所に住んでて時折やってくる。今は領主さんに代行を命じられたイラエス男爵って人が来て領内を治めてる。


 この男爵さんが領主さんに報告して、あれこれ便宜を図り回してる。

 男爵さんが内情を把握して回してるから良くなっている。領主さんじゃ、ここまで出来なかったんじゃねーかって意見があるらしい。

 現場を歩いて実状を調べたそうだから、人気もあるようで。領主さんはどーでも、代行の男爵さんには、ずっと居て欲しいと思っている人は多いらしい。


 ここの領主さんは? そう聞けば、小さな子は男爵さんの名前を答えるってさ。


 間違ってないけど、ある意味不穏な話じゃね? コレ。 この人、人気出過ぎて領主さんに嫌われね?



 男爵さんは家族の人と一緒に領主館の一角に住まいをもらって、そこで差配を振るってお勤め中。その所為もあるんだろうけど。

 話を聞いて、単語を推測しまくって、そこまでや〜〜っとこさ理解できた時、俺は転勤とか派遣とか社宅とか思ったよ。


 裏切ったりとか不祥事の際は本人だけじゃなくて、一族郎党なんたらかんたら〜って話も聞いた。わざと起こした責任問題は、ものごっつ怖いようです。

 なんたらかんたら〜って教えてくれた時、身振り(ジェスチャー)が入った。親指を人差し指で弾きながら、首の前をシャッと横切らせた。 それって普通にアレだよね? …怖ぇ。


 さっき思った不穏な内容は、男爵さんにしてみれば、保身に関わる恐ろしく嫌な話かもしれないと思った… けど、お勤めして成果を上げないとマズいんだろうしなぁ。


 この男爵さんについては、も〜ちょっと知りたい。

 そこに言葉の壁がなかなか見事に立ち塞がるよ。どどーんだよ。俺、もっと頑張りましょう。話を聞き間違えとかしてないように〜っと。

 でもこれで男爵さんの後任を狙う人が居たら、サスペンス劇場だよな?



 一番最初に領主がいると聞いた時、はーっと思った。 

 そっちの形態ですか。それなら畑耕して生産上げて、金儲けて〜って考えてた。ゲームの手順で。


 けど、領地内には複数の村があって街もある。しかも、男爵を部下として使ってて自分は他所に住む。

 ここの領主様って、アレ?  一国一城の主っての? 昔あった、藩のお殿様っぽいんだろうか。それとも直参旗本とか? アレはどっかに自分の領地持ってたけど、将軍に仕えてたから江戸から許可無く出られなかった。だから、自分トコの領民と触れ合う機会なかったはずだ。 ここって参勤交代とかあるんだろか? 


 …単に田舎暮らしが嫌なだけだったり? いや、他の仕事持ってたり?


 じいさんは一口に貴族って言ってたけど、常識として知っとく事が山のようにありそう… 貴族かぁ… 俺的には変なのに関わりたくない。


 


 でもま今、荷馬車は町に向かって進んでる。

 エルト・シューレ伯爵領のテーヌロー村から一番近いエッツって町に向かってる。現在の地名がわからないのは痛いやね〜。


 『降りた所の一番大きな街に行きなさい』


 コレがおねえさんからの一番目の指示。だから、まずはこの領内で一番大きなシューレの街が目的地。


 街のご飯はどんなんだろう? エッツでのご飯も楽しみです。







  昨夜は簡易テントを張っての野宿でした。

 野営の為の宿営地は決まってたから手慣れたもんだった。移動距離も三人の頭の中には、きっちり入ってて心配するような事はなかった。楽です。この三人にしたら、庭みたいなもんか。

 それでも武器は絶対に手放さない。安全保障があるわけじゃない。夜には獣の遠吠えを聞いた。ほんと微かで空耳かと思ったら、「距離的に大丈夫だろう」って。 うひぃ!だよ。


 獣に魔獣。盗賊なんかも出るらしい。

 ここ暫く凄惨を極めるような話を聞かないから良い事だって。俺にとっても有り難い話。…それでも微妙な話。



 今日は村を出て二日目なんです。

 朝に出発して、昼ご飯休憩して、現在午後三時を回った頃でしょうか?

 時計がないからわからんけど、尻に来る振動で俺の思考は飛んだ。もう何もかも飛んだ…

 オートバイのツーリングで立ち乗りしてる人の気分を味わっています。ほんと同じかわからんけど。町までまだ結構あるってのに! マジ、俺の尻の皮、大丈夫だろうな!? 



 青い空、白い雲。午後過ぎの暑いとまでいかない陽気。天気は上々。見渡すのどかな田園風景と、広がる緑の樹々にそびえ立つ山々。


 そんな中を荷馬車は走る。ゴスゴス走る。


 走る風が気持ちいい。

 しかし、ケツが痛い。 痛い、痛い、痛い、痛い、痛いって! 振動が直にケツに響く! もろ痛い!


 昨日は、まぁ良かった。まだ、そんなん気にもしなかった。普通に風景見て、道を覚えようとした。揺れるけど気持ち悪くなるほど揺れるわけじゃない。風も吹く。

 だけど、荷台は普通に堅い。クッションない。走る荷馬車の上で運動とかできない。そんなん無理無理。必然的に座りっぱ。御者台にいる二人との間は荷物が山で壁を作るが、過積載ではないらしい。普段通りの積み。


 話しかけてくれるし、答えはするけど二人の顔は見えない… 後ろに流れる風景ばっか見てたら、酔いそうですよ。前は荷物だし、斜め前方か横しか見れん… 

 座る場所交代して〜、俺も御者台の方に座りたい〜、とも思うけどさ。三人とも体格良いからこのスペースにずっと居るのは俺より無理ってか、まず入り切らないな。

 

 三人はローテーション組んで上手に動いている。一人がお馬さん(小)のポーラちゃんに乗って周囲の確認をする。一人が御者を担当する。最後の一人は御者の横に座って次の番まで休憩。

 ポーラちゃんに乗ってる時は、みんな俺の様子を見に回って来てくれて、ちょっと話しかけてくれる。ほんと優しくて嬉しいです。長く話してたら舌噛みそうです。

 そんで荷台の俺を気遣って、ゆっくり行ってくれてるんだ… この速度でも。結構早いと思うんだが… んで、ゆっくりな代わりに休憩があんまりない… 結果、やっぱり座りっぱ。



 なんか、もう。ケツがじんじんする…!

 なんか、痺れがキレる前のじわぁ〜っとした感覚が尻全体に広がってる感じ。そっから、ケツが痛いってか、ケツの穴がいてぇってか…! そこに、じこ〜っとした熱があって、じんじんし出すんだよ!!


 何度も座る体勢を変えて足を組み替えて、ちょっとは動くんだけど何の効果も出ない!


 う〜、い〜た〜い〜… 


 こんなにケツに来るとは! 考えたこともなかったよ! うう、早く次の休憩地点につかないかなぁ… 泣きそう。



 馬車に揺られながら 『早く着いて』 と願って青い空を、ぼ〜っと見てたらTVのCMを思い出した。

 女の子二人だったか、男二人のパターンもあったか。どっちも良い感じ〜って言ってた。


 あれを試したいと思った。

 TVを見た時は、ぴんと来なくて見流したあのCM。


 今こそ、欲しいです。

 ボラ◯ノール軟膏さん! あれを、ちゅ〜っと注入したら、この痛みは薄れるんでしょうか!?

 やっぱ、これ、痔の始めになるんだろうか!? 痔ですかね? 痔ですかね? 切れてないから切れ痔じゃないよね? じゃあこれなに? 

 このままだと、俺、痔になっちゃうんだろうかぁぁあああっ!! い〜た〜い〜っっ!! 軟膏じゃなくて、座薬でもいいから、この痛いの誰か止めてよー!



 あ〜〜、 降・り・た・いっ…!

  

 降りたら全部解決する。痛みからは、きっと解放される。

 でも、一人降りて歩いて行くとしたら日数かかる。荷馬車で三日は、かかるんだぜ!? 荷馬車で三日なら歩いて何日だよ! 俺の歩く速度で何日だよ!? 足裏の豆だって治りかけ。体重の掛け方間違えたら、まだちょっと痛いんですけどぉ!?


 その間、一人で飯作って野宿だよ? 調理道具ないし食品乏しいし、毛布だけで寝ろってか? 雨降っても雨具ねーよ。

 当面は晴れが続くだろうし、この時期ならひどい雨の心配はいらない。逆にこの所、雨が降らなくて良くないって言った。だから、速度優先の幌無し荷馬車で行けるって事なんだけど。


 考えるだけで、げっそりする。我慢するしかない…!



 荷馬車の荷台で知った現実は、もう、もんのすごく嫌だった。


 お尻痛いって、なにそれ? 薬局行って薬あると思う? ってか、おじさんじゃなくて若い女の子だったら、何て説明すんの? 俺、恥ずかしくて言えないよ! 


 そんで、  悪化するんだろうか? 



 ハ、ハージェストに話したら、薬買って来てくれるかな…? 薬あるのかなぁぁ… 

 うあああ! 俺が買いに行くの躊躇うなら、ハージェストだって普通に買いに行きたくないに決まってるじゃねーかっ!!


 あああああ! もう嫌だ、考えたくない。  一時的な事を祈る………!! 





 

 「今日はここで休むぞ」


 やっと… やっと荷馬車が止まった。荷台から降りる。ふらつきかけた自分が悲しい。


 「周囲の確認してくっからよ。 もう少しだけ頑張ってくれな、ドーラ。見回り済んだら飯だからな〜」



 颯爽とドーラちゃんに乗って、フレッドさんはニールさんと違う方向に駆けていった。


 …いつか俺もドーラちゃんみたく、でかいお馬さんに乗る機会あるんだろうか? 一人であんな風に颯爽と乗り熟せるんだろうか?

 

 かっこいい。

 すっげ、かっこいい。乗ってみたい。

 そりゃ、やっぱりね〜。機会があったら、そういう事はしてみたい! かっこよく乗りたい! 


 でも、今は流す。ケツが死ねそう。

 今やったら間違いなく死んでしまう。俺のケツ様が。


 あ、そうだよ。ケリーさんに聞きゃあいいじゃんか! ちょうどってか、残ってんのケリーさんだしさぁ!





 二日目の晩も簡易テントを張っての野宿です。


 使い熟せていない言葉の壁が、俺の何かを削ぎ落としていくようだ… もう、考えたくねぇ…



 「あ?」


 ケリーさんは何度か聞き直して、それはもうなんつーか… 可哀想なもんみる顔した。それで俺に寄越して下さったお言葉は。


 「血流が滞ってるんだろうな。そっちの薬はない。皮が剥けてるんじゃないだろ? とりあえず、ゆっくりさすっとけ。いや、冷やす方がいいな。今晩は仰向けで寝んようにな」


 以上でした。

 一生懸命、尻押えたり色々身振り(ジェスチャー)を交えて、聞いた成果がこれだけ。…ツラい。痛くて普通に、仰向けで寝れるわけないですよ!


 どこの藪医者ぁ!と思ったけど、ケリーさん医者じゃないし。


 とりあえず、夕食の手伝いにぎちぎち動いた。血流良くなれ〜。



 泉が湧いてるトコだったから、宿営地に選ばれるんだろーね。深水は俺の腰辺り。広さは子供用ビニールプールよりは大きい。泉としての総水量は多くないようですが、ちゃんと湧いてます。


 水汲みして湯を沸かして煮沸殺菌〜。それから鍋でスープを作る。

 燻製肉に干した野菜。干し野菜でも人参ぽいのは乾燥で凝縮されてて噛むと甘かった。燻製肉から塩分が出るから胡椒を追加。美味しいけど、ちょっと物足りない味。でも、こういうもんだと割り切った。食えるだけ、まし。…座ると痛いから立ち食いした。


 再度、鍋と薬缶で湯を沸かしながら、後片付け。

 薬缶に茶っ葉突っ込んで一晩置く。これは明日飲む冷や茶にする分。

 鍋は今晩行水する分。一人ずつ交代でするんだけど、泉の水は冷たい。夜になって気温下がるし。最後に小さな手桶にぬるま湯作って締めて終了。




 「ひぇ… !」


 ケツ様を水に浸けたら、冷たさに震えたけど落ち着いた。熱もってたんだろーか?  しかし、昨日はなかったから、さっぱりする。


 テントに入って、毛布に包まり普通に横向いて寝た。 横になったら、しんどさが体にズシィッと来る。ほんとにツラいわ。


 鼾がうるさいから、早く寝るに限る。

 








 その夜、襲撃を受けた。




 


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