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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
45/239

45 不審者時間の終了です

 

 今朝は外から聞こえる話し声で目が覚めた。


 眠い頭を振って起きたら、ケリーさんのご登場。



 「お。起きてたか。よしよし」

 「おはよー… ござい、ます」


 「鳥が帰った。昼過ぎには山狩り組が帰ってくるぞ」

 「おかえ、り です?」


 帰ってくるのが早いのか、遅いのか? ケリーさんの顔が、なーんかキツい?



 起きて、顔洗って、朝ご飯食べまして。

 その後は帰ってくる人達の為の準備の手伝いをします。まず離れの家の掃除です。今回は確認に行った人達との話を帰還後、ソコで行うそうですので掃除からです。…ついでの大掃除ですか?


 「ノイ、外のかまどに火を入れるから鍋に水を汲んでくれ」

 「はーい」


 境界線の不明な敷地の庭ですよ。


 屋外に簡易のかまどが二つもできてた。そこにある大鍋に水を入れろです。綺麗なバケツってか桶で鍋への汲み入れは初めてですよ、ちょっとしんどかった… 


 家に水道は通ってる。水道管や排水管と気付けなかった管ですが。で、外に分水栓もあるわけ。そこからの運びだから、しんどい言うほどの事じゃないんだよな。

 けど、なんでかしんどい… 俺、こんなに疲れやすかった? そんなはずないのになぁ… 家ん中の掃除が堪えてたり? 水を変えながら、ひたすら雑巾掛けしてました。隅は埃が溜まってました。ほんとにね。ふぃ〜。

 


 「ん、よしよし。良い感じに溜まったな」


 薪をまじで山と抱えてきた、ケリーさんとバトンタッチ。


 湯を沸かすのは、なんでだろうと思った。

 風呂屋はあるけど一日中沸かしてるようじゃないから、帰ってくる皆の行水用かと考えた。


 そうこうしてたら、山狩りに行かれた方の奥様と思われるおばさま&お姉さま方が、お見えになられてご挨拶。



 昼ご飯、万歳。

 汲んだ水で昼ご飯の炊き出しが始まります。やったね!


 分水栓のとこで野菜を洗ってお運び。女性陣が来られた途端に賑やかです。次から次へと話しかけてくれます。調理において包丁やナイフには触れませんでした、もちろんです。

 そんで、昼ご飯を作る手伝いで現地の知識を手に入れる。…手に入れてるはずだ。


 くつくつと鍋の中で食材が煮えていくのを見るのは、大変素晴らしいです。



 その後、山から声が聞こえ始め、足音が近づいて物を引き摺る音と一緒に皆が帰ってきた。



 「おー、帰ったぞ〜」

 「お帰りなさい、あなた。怪我はない?」


 奥様方がそれぞれの旦那さんを、お迎えして熱い抱擁されてました。全員じゃなかったけどね。あー、あつい。あつい。あっつ〜い。俺、関係ねー。



 「おう、途中でこいつと遭遇してな。仕留めてきた」

 「予定外だったが、なかなか良い成果だ」


 総勢十五人で山狩りに行ってた皆が口々に自慢する。ほんと良い顔。


 でかい猪だった。

 細かく言えば違うかも知れないが、見た目が猪で山で仕留めて来たわけだから猪でいいだろ。


 こんなん仕留めて来るんだから、かっこいい。獲物見てたら、すげぇと思って興奮する!


 けど、やれって言われたら恐すぎるわ。何事も手順を追いたいですね… いきなりの実践は、ご遠慮します。


 

 「どうじゃった?」

 「ああ、まぁ、…なんだ。話すことはあんだけどよ、飯食ってからにしよや」


 微妙な苦笑い。周囲の女性陣をさっと見回す目が、じいさんと会話して順番の昼ご飯と武器の洗い流し等が優先された。

 自分に関するから注意して、その表情を見ていた。そこに俺に対する問題は感じられなかったから良いのかな?

 


 手桶に水を入れ、取り置かれてあった湯と混ぜて、ぬるま湯を作ります。行水用です。水じゃなくて、ぬるま湯にする所に愛情が込められているんでしょう。

 皆、手慣れていて野菜入れて持って来た桶が活躍してた。いつも通りって感じの日常だった。雑用を「ノイ」「ノイ」呼ばれて手伝った。居場所がなくて突っ立ってるよか、よっぽど良いけど変に忙しいわ!


 帰ってきた皆さん優先で、まだ昼ご飯に有り付けない… ああ、美味しそうな匂いが鍋から漂ってる〜。



 しかし、イベントは進んで猪の解体ショーが始まった。あ、違う。解体前の血抜きショーが行われたんだ。

 やり方を知らんのだろと、見て知っとけよと、皆が優しさを前面に押し出して教えてくれる。



 そして、俺は抜かれていく血の匂いをもろに嗅ぐはめになり、その血に、色に、匂いにーー   酔って、血の気が下がって、へにゃった。



 泣く。

 うあああああ、気持ち悪い…   吐く。    目眩がした。



 「どうした!」

 「おい、大丈夫か!? 何かあったか?」


 皆さんが駆け寄ってくれた。


 「血。  気持ち、わる… 」


 呟いて返した俺の言葉に、へにゃってる俺でもわかる。    生易しい空気が流れた。



 「あ、問題ないわね〜」

 「しばらく休んどきゃええわ」

 「びっくりしたけど良かったわー」

 「あらあら、血を見て倒れたの? この子、街の子じゃないの〜?」

 「色んな意味で戦力にならんな、こりゃ」


 かなり言われてたけど反論起きません。起きれません。戦力外通告でいいです。ちょっと自分でも悲しく情けないけど、もういい。戦力外にしておいて下さい。食べたかったご飯も要らないです。


 「ほら、掴まれ」


 一人の方が肩を貸してくれて、なんとか部屋に辿り着く。

 ばったり寝床に倒れて、布団掛けてもらって、へにょーんと伸びた。 意識終わった。

 







 離れにあたる隣の家で八人ほどの男達が昼飯を前に車座になっていた。履いてた長靴ちょうかを脱いでの直座り。まさに様相は集会所である。

 既に口にしている者もいる。椀に盛られた羹をメインに、パンや軽く摘める惣菜が盛られた皿がランチョンマットや盆の上に並べられている。

 

 「様子はどうよ?」

 「あかんわ。完全伸びとるわ」

 「血ぃ見て倒れたってか? 使いもんにならねぇな〜」

 「ありゃ、街の子だろー? 街の子でも、できる奴はできるだろーけどよぉ」


 どこかで呆れるような、情けなげな気配が漂う。


 「ま、それはいい。おいといてだ。どうだった?」

 「あ〜、そのことだがよ。家ん中は確かに人が使ってた形跡がある」


 その一言から全員の顔つきが引き締まった。


 「適当な数が居たか、よく使ってたかだな。一人や二人が使ってたとしても、出入り口の雑草があそこまで踏み固められてりゃなぁ」

 「時期が違うが前回登った時と比べりゃ、よーわかる。草の茂りが違う」

 「生い茂るこの時期に、おかしいっての」

 「だけどよ、足跡が人じゃねぇのもあった。獣の足跡でよ」

 「居た奴が何してたかも問題だがな。優先するのは獣のようだ」


 「ああ?」


 山狩りに出ていた者の言葉に、留守居組が訝しがる。


 「ノイ、だったな。あれの言葉が正しけりゃ、納屋に住み着いてたのは羊の類いだろう。おとなしく撫でられたって言ってただろ?」

 「撫でれる程に人慣れしてるって事だ。あんな所にとも思うが、存外そいつらの家畜かもしれん」

 「しかしなぁ、ちっと離れた場所にな。血痕があってよ。なんや、やり合った跡があんだよ」

 「そん跡が問題なんだわ」


 思い出せば、しかめっ面になった山狩り組が話を続けた。


 「血痕が獣に襲われた人のもんだとしたら、ほっとけん」

 「家の方を任す奴以外は、いつも通り組みで手分けして探しに出たんだけどよ」

 「だいたいの場所を選んで、そこにいなかったら終わりだとな」


 そこで一息いれて、一人が茶を喫した。他の者も止めていた昼飯を再び口にする。咀嚼嚥下してから、嫌そうに続きを話しだした。



 「結構探しても見つからんかったんでな。もう終わるか思った時に、おら、あそこん崖っぷち思い出したんだよ」

 「あそこ…? ああ、あの途中で突然ぶった切れとる見通しもへったくれもねぇ崖か」

 「おうよ、あそこん下に人が倒れとるんだわ。何度か呼んだが返事がねぇ」

 「遅かったか思ったが、回り道で降りたんだ」



 そこで、行った連中全員が顔を顰めた。


 「身体中突き刺されまくったか、穴ぁ開けて死んどったわ」

 「また、この穴がでかくてよぉ」

 「ツラが潰れとってよ。岩で割れた上に踏まれでもしたか、判別もつかん。ああなったら、どこのどいつか面も割れんわ」

 「しかも、だ。内蔵から何から柔いとこは食われてやがる」

 「乾いた血痕がこびりつくばっかで、身元が割れるようなもんが一切ない」


 「…そいつは獣じゃすまねぇんじゃねーのかぁ? 魔獣の口か? 跡はどうなってた」


 見交わす八人の顔が実に嫌なツラになっていた。


 「その痕跡がイマイチなんだよ。全員で探ったんだけどな」

 「探った上でわからん。だから、魔獣じゃなく腹空かせた単なる獣かもしれん」

 「周囲にはそれらしい気配が何も残ってねぇ。見せしめみてぇなあの死体がなけりゃ、普段の山と変わらねーんだよ」


 話す者の忌々し気な舌打ち、唸る声音に心情が強く籠もっている。


 「ノイってのに、もう一度確認するのがいいだろ」

 「もとより山腹が目安だがよ。ちっとの間は山に登らんと警戒するべきだな」

 「ああ、用心に越した事はない。魔獣の可能性も捨て切れん。ハグレの一匹ならともかく、群れなら冗談じゃねぇ。そういう意味では、よく無事で降りて連絡をしてくれた」


 留守居組の顔が渋面を作り、山狩り組もこれからの展望にため息が出るような顔だ。


 「ところで、そいつが言うには朝起きたら誰も居なくなっていたんだろ?」

 「居たのは大人だけだと言っていた。夜襲にガキだけ残して退治に出たか?」

 「夜中に家離れて深追いする馬鹿いるかよ。 死ぬだけだぜ? 明け方か?」

 「あ〜、疲れて寝て、起きた時には居なかったと言ってたからな」

 「時間帯は、どうにもはっきりしねぇなぁ…」


 「一人、納屋で寝たと言ってたがなぁ… 幾らなんでも、ガキをあそこに一人で寝させるかぁ?」

 「家畜が居りゃぁ、そっち襲うもんだぜ?」

 「それで当たりなら、あの坊主は囮だな」

 「どんな奴らか知らんが、身内でもない迷子のガキなら死んだ所で、てめぇの腹は痛くねぇ…」


 居合わせた大人達に、本当に嫌な思考が頭を過る。


 「納屋にいた羊の類いも置いといて構わんだろ。家畜と坊主は無事だったと」

 「ああ、連れて来たんじゃなくても、餌さえあれば飼い慣らしは可能だ。今の時期は悪くない」


 「死んでた奴らが、明確に潰されたとすれば」

 「そこに居た奴らだけが目当てだったとみる。そうなれば、そいつらは魔獣の怨みを買ってたな」

 「魔獣でも恐ろしく賢い奴らは必要以上に手は出さねぇ。そういう意味でも厄介だが、それなら他への被害は薄いはず」

 「近辺にその類いに到る魔獣はいなかったはずだ。怨みで追いかけて来たんなら、楽観はならねぇ」

 「しかし、そういった奴らは怨みが晴れりゃ留まらないのが多いよな」


 「それにしても居たはずの家畜は一匹も居なかった。一晩中、灯りをつけていたが帰って来なかった以上、待っても無駄だな。一部は仕留められて持って行かれただろうな」 

 「家畜としては惜しい。増やす良い機会だったのによ」



 見てきた現状から考えられる事を口々に出して検討する。

 


 「あのガキ、どっから来たと思う?」

 「途中までは大人に送ってもらったと言っていた」

 「それなら、やっぱりあっちの大滝に通じる方の細道から来たんだろうよ」

 「いやな。あっちに通じてる方の道には形跡はないが、横の外れに小さく跡があんだわ」


 「さ迷ってたようだし、ガキ一人の足ならはっきり残らん」

 「ガキなら外れも歩くか。いや、外れたから無事でいられたのかもな」

 「どっちもどっちだな」


 あーあ、とした風情で言った先に問題が浮上した。

 

 「で、あの坊主にだな… お前を置いてった奴らは獣に踏み潰された挙げ句、食い荒らされて顔の判別もつかんが、この事態に心当たりあるかと誰が聞くよ?」


 各々、目を逸らしヌルく思考を飛ばす。


 「血抜きの血ぃ見て倒れたぞ」

 「あー、美談に聞こえる風に言い替えりゃ良くねぇ?」

 「変に教えんでもいいんじゃねぇかぁ?」

 「結局、はっきりしねぇんだしよ。死んだことは変わらん」

 「あの坊主からしたら、置いてけぼりだろ?」

 「俺らからしたら、魔獣の情報を持って来たわけだ」

 「はっきり言っちゃぁ可哀想だが、魔力が無い上に強くもないしな。もう一度、前後聞き直して辻褄が合わんのじゃなかったら良しとするか?」



 身元保証人は居ない、怪しくもある。だが、旅回りの人間は普通にいる。本来なら歓迎する方向だ。



 「ああ、そっちのことなんだがよ。金は持ってないんだが、ちょーっと金の価値もズレてると言うか、金目に対して変に鷹揚としていると言うか〜〜  ともかくブツはある。それも値が張る奴だ」


 今度は山狩り組が、ああ?と首を捻る。


 「行く前に話した飾りの類いでよ。良いもん持ってる。街で売れば良い値で売れるって奴だ。特に飛び抜けたもんが一つある。だけどよ、そん中で二つ毛色が違うブツがあったんだわ」

 「ん? そりゃ、最初に改めた時か?」

 「ああ、お前も見ただろ? そん時はわからなかったんだけどよ。後で、もう一度見せてもらったんだわ」

 「へぇ。なんだったんだ?」


 「なんとも無い作りだったけどよ。それが癖モンだ。ありゃ、魔具だ。何の為の魔具かはわからんかったがよ。金出して買おうとしたら、目ん玉飛び出るぐれーの良い品だ。そんなもんは普通なら非常事態に使うもんじゃねーか?」


 「「「 はああ? 」」」

 

 「店じゃないから、じっくり見れてよ。以前に、店で冷やかしに見たのと変わらん。さすがに俺もそこら辺は間違えたくないぜ。あん時は誰がこんなモン買うんだって思ったぞ。なぁ?」

 「あー、値に目ぇ引ん剥いたアレか… 領主が変わったおかげで、その類いを目にする機会が増えたしな。そこら辺は有り難い話だ。紛い物掴まされんで済む。ほんっと領主様々だぜ」


 「なんじゃそら。 無一文じゃなくて、がっつり金持ちかぁ?」

 「おいおい、やめてくれよ。 …あの坊主、訳ありなんか?」


 「あんな、見る奴が見たらわかるたっけえもん、俺らが売り捌こうとすれば足がつく。危ねぇ橋渡る類いの奴らの手に渡るんじゃなきゃー、あの坊主の足取りは探す方からすれば掴めねぇか?」

 「そういうもんを持っていると俺らに見せることで安全を確保してるってか?」

 「考えすぎじゃないか? 気がつかなかったら意味ねぇだろ?」

 「気がついたわけじゃねーか」

 「あー、 いやまぁ… そうだけどよー」

 「魔力の無いガキが、高価な魔具を持ってる」

 「最初に言やーいいもんを黙ってんだ、ますます訳ありじゃねーかぁ?」


 「でよ。これは何の類いになるんだ?って聞いたらよ、焦って売り物じゃなかったって下げちまった」

 「保身はしてんじゃねーか」

 「魔具の方向性がわからんのがミソだな… 」


 「それも疑ったがよ、魔具に使った痕跡はない」

 「あの坊主に魔力がない以上、自己補充は無理だな」

 「……残滓はなかったぜ。あれだけ俺らで探ったんだからよ」


 

 

 「そうそう、それと飾りをエンナのお嬢に売って金にした。そいつを元村長のじいさんに宿泊費と風呂代として支払い済みだ」



 「ケリー、そういうことは早よ言えや」


 思案にくれていた顔を上げ、発された言葉に残る全員が頷いた。言った奴の隣に居たら、スパーンと頭を叩かれただろう。


 取り纏めている男が額を押えながら、話を進める。


 「女達は見立てに何と言ってた?」

 「干してた服も着てる服も、目立つもんじゃないが仕立ての良い上物だってよ」

 「逆に仕立てが良いから、目に付くとさ」

 「あ〜、嫌がらずに手伝って良い子だが、荒れてもなけりゃ節くれ立ってもない農作業に携わる手じゃないと」

 「あの服は誰かの下がり物じゃない、と断言したぞ」

 

 「それとなぁ」

 「なんだ、ケリー」

 「いやなぁ。 接していて、後ろ暗いとこや物怖じするとこが全く無いんだわ。昨日、朝飯食った後に話したらよ、毛布を借りた事と家捜ししたって謝ってきた。ちょっと、ビクついてはいたけどな。卑しさも狡っ辛い所も無い。所持してるもんに俺らの物はなかっただろ? なんか無くなってたか?」

 「薪が減ってる気がしたくらいだ。元々、あそこに金目のもんは無い」

 「一つだけ別に置かれてたあの毛布か」


 「あの坊主は関係なさそうだな」

 「なぁ、ケリー。改めた時のあの毛布。上物だって思わなかったか?」

 「あれかぁ… 小さいが俺らの使ってるもんとは物が違うと思ったな」


 取り纏め役の男が茶を飲みながら、指折り数えて要約する。


 「金目のモン持ってて仕立ての良い服を着てる。持ってるのは上物や魔具の類い。後ろ暗いとこがなくて、何も取ってないのに家捜ししたと謝ってくる。手にした金を宿泊費と支払った」


 「それと… 足裏に豆は作る。体力がない。血を見て倒れた。女達の総意は危険性は薄い、以上か?」



 男達は視線を交わした後、おもむろに頷く。


 「金が総てじゃない。そして、総てにする気もない。 しかしまぁ、金払ったんなら客人にならぁな」

 「まだ、ブツは残ってるわけだろ?」

 「ああ、かみさん連中も喜びそうなブツがな。払いは一切渋らんかった」

 「行く宛はあるようだしよ」

 「ダチのとこ行くだったな」

 「どんなダチなんだか」

 「名前の聞き取りしてんだろ?」

 「とりあえず、次に街に行く時に一緒に送ってってやるか」


 「もう、こりゃ再度の確認におかしなとこがなきゃ、あの坊主はそれで良し」

 「旅人が獣に襲われかけたのも、よくある話だ」


 「死んでた奴らについては、どうするよ?」

 「あの場に埋めたしな」

 「身元不明者としての記述は残す、異存ないな?」


 「問題は魔獣かどうかって事の方だな」

 「ああ、そっちが当たりなら厄介だ。居着かれてもな。その詰めをする方が重要だ」

 「間違いであるなら、それで十分」

 「最終は連絡を入れるが、見極めの日数なんぞについてだな……」

 「見極めがつきゃあ、近隣への連絡も入れねぇと」

 「その際の役割分担がだな……」

 「いや、近隣でも同じ事がなかったか確認を先にするか? ついでに死んでた奴らについてもだ。立ち寄りがあれば、そこら辺からも…」

 

 議題は魔獣に対する用心の内容と対処、そこにかかる負担等についての取り決めへと移っていった。

 


 このようにして、梓はへたれた事が吉と出た。

 へたれて寝ている内に身の保証を得ていった。半分はへたれ具合を本気で心配した大人の配慮で、もう半分は厄介事なら遠慮するというものでもあるが。




 実情は羊もどき達の仕業で正解だ。

 しかし、 『人間の分際で』 等と宣う連中が本当の意味で手掛かりを残すはずもない。証明する為の手段に確証がどこにもない。これが現状である。


 けれど、梓の呼び声が聞こえたならば、彼らは駆けて来るだろう。

 『水が飲める、水が飲める、水が飲めるぞ〜♪』 と、 『ちゃんとやってますからぁ!』 の、二つの心意気で必ずや梓の元に馳せ参じる事だろう。

 そして、 『坊ちゃん、お待たせしやした!』 そう、弾む声で言う事だろう。








 「あ… れ?  うぇ」


 起きた直後に嫌な映像を思い出した。

 ここを切ったら、どばどば血が出るから切らんようにと言われ、せんでいいのに切ったらこうなると実演してくれた。


 生きてないから勢いよく迸るとかなかったけど、死んで間が無い所為か、だーっと出た。んで、受ける桶にびちょん、ぴちょん溜まってった。

 視覚的暴力に臭いが加味されて、ナマの実感が湧いた。


 目が釘付けになったっていうか… 命を頂くわけだから、ちゃんと見て覚えないとって考えて見てた。切った断面から流れる血に覗く筋肉細胞、脂肪分みたいなのにごわつく毛は血で固まる。


 臭いから何から強烈に来て、ふらっと来た。



 平気だと思ってた。頭の中では理解してた。

 蛙の解剖とかあったし? 解剖中に逃げかけたけど(逃げたけど)。血の映像とかもTVで見ないわけじゃないし? 刑事ドラマじゃ〜、よく血がパタパタ垂れるしさ〜。

 それを目の前で、毛皮付きに臭い付きの現物でのナマ本番をやられると… 俺は平気じゃなかったってだけだ。心積りもなかったけど。


 はぁ。

 

 ちょっと、鬱入りそうです。しっかりしろよ、俺…




 「お、起きたか。もう平気か?」

 「はい、起きた」


  ついさっき見知った人に連れられて行ったら、皆さんお揃いでいらっしゃる。一斉に見ないで欲しいのですが。

 

 「俺が今回の纏め役のマークスだ。調子が良くなって何よりだが、お前もう少し鍛えた方か良いかもな」


 のっけからの一撃が痛い。

 いえ、心配した言葉なのは、その表情でよくわかるんですが… 今それを言われると、その気がなくてもボコられた感がします…



 そして、再度の質問。

 延々と答える、幼児語で。つか、単語。


 時間にして三十分は超えたはずだ。似たようで違う質問。けど、最終同じじゃないの? 違う? …警察での取り調べって、こんな感じでしょうか?

 

 その中で、「家畜はどうなった?」の、質問があった。


 それ、羊もどき達だよな。

 幾ら俺でも、人語を解してそうな羊もどきに乗って山から降りてきました〜。なんてメルヘンファンタジーすぎることは言わない。

 ゲーム思考で回せばアレだけど。確か、その中でもあったじゃないか? 人に乱獲されて、ひっそり生き延びているアレな貴重種を助けようイベントとか。仲良くなろうイベントとか。  あ〜、ゲームに時間注ぎ込んで睡眠削ってたあいつだったら、なんか違ったんだろうか?



 泉の件もある。家畜と言った以上、見つかったら食われる可能性もある。

 降りる時は居た。でも、その後は知らない路線で黙っといた。 …バレませんように〜。

 

 常識の把握を危ぶんだから、用心に言わなかったけど正解だ! 



 「わかった。よく無事に辿り着いてくれた。テーヌローの村へようこそ、ノイ」


 マークスさんの大人の(おっさんの、とは言いません)笑顔と言葉で、微不審者さよーなら〜♪



 「ありがとう、です」

 「昼飯、まだだったな」



 食事タイム入りました。


 食い物を目の前にすると微妙だが、体力回復には食わないと。頂ける事に感謝しないと。


 頑張って食べた。食ってたら、美味い。食える。…肉の旨味が美味しいです。

 食べ終わって、お茶を飲んでる時に俺を置いていった人達と思われる数人の死体があったと聞かされた。確証が無いが、角を持つ魔獣の仕業ではないか疑っていると言われた。


 「角を持つ奴は見なかったんだな?」


 言われる内容を必死で理解して、黙って頷いた。


 「死体の損傷が激しくてな。もう、その場で埋めて来た」


 死体を見てない。でも、もう会うことの無い 『死』 という単語だけが耳にこびりついた。




 人の顔。羊もどき達。角のある魔獣。  魔獣だって、まじでファンタジー。 

 羊もどきに角なんて無かった。朝に大人の羊もどきはいなかった。  もしかして、追い払ってくれてた?

 一夜限りの人達の顔。  やっぱ、魔力が満ちる世界って… そうなんだ。 


 もう、会うことはない。始めからすれ違っただけの、この世界で最初に出会った人達。  歩んだ薄暗い道は  死出の道と等しく。引いてくれた手は暖かかった。


 さっき見た、血の色は。

 断面から滑って流れて、溜まっていく赤。

 桶から外れて飛んで落ちた血は、地面に吸われて黒くなった。


 色は変わる。


 赤から黒へと変わって、同じものでも違うものになっていった。





 「お前が言ってた人数分は見つからなかった。魔獣の仕業も疑うが、どんな奴らか不明だ。…別の見方をすればな、魔獣よりも人の方が面倒でよ。見せ掛けた仲間割れかもしれん。お前が気に病む必要はないからな」


 

 半分聞き流しながら頷いて、ぐらぁ〜っと。

 食ったもんが胃の中で、 『おう、どうするよ?』 と胃壁を叩いてる気がする。


 すいません。

 俺、自分でもあんま気付かなかったけど、耐性高くなかったみたいです。


 布団に逆戻りした。




 「……美談の作り話にしといた方が良かったかぁ?」

 「………いや、あれでいいだろ。死体の実状言ったわけじゃねぇし。いつか、耐性がつくさ」

 「そうそう、経験こそ大事だろ。たぶん… 」

 「いいとこの坊ちゃんかねぇ?」

 「要らん詮索をする気はねぇけどよ。大丈夫か? あれ」




        「「「 はあぁぁぁ 」」」


 顔を合わせた大人達は色んな意味から、眉根を寄せて重い息を吐いた。




 色々言いたいが、言い過ぎてもいけない。そんなんじゃ駄目だろうと叱りつけるのも簡単だ。

 だが、先を読み、それこそ大人の力量で計らねばならない。こちら側が計っておかねばならないのだ。その子の為に言ったとて、後から来る意味の読めない苦情に無体は全面的に遠慮する。


 他人様の子に強く言えない、叱れない。どこまで言っていいもんか、言うとすれば励ましだけか。




 悩む大人達の顔があった。





田舎で、こっそり。田舎だから、こっそり。  な〜んて、む〜りー。 村人こそ村内における情報通信速度に伝達網は高いでしょう。なんせ娯楽無いから。黙りませんよ。 大人がヨッてタカッてのチェックです。


sakeが飲めるの歌。 依存性は怖いですな。


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