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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
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44 お留守番なう

  

 起きたら皆さん、とっくに起きてた。

 山狩り組は夜明け過ぎに行かれたそうです。その時、起こそうとはしたらしい。起きる事なくぐーすか、ぐーすか寝こけてました。可哀想だと放置されたっぽい。


 「山ん中で、さ迷ってたんなら疲れてたんだろ」


 そう言ってくれたのは昨夜、肉の争奪戦を一緒にしたケリーさんだった。

 ケリーさんに山狩りに行かなかったんだねと話しかけたら、「お前の見張りだ」と切り返された。初めて気づいた事実に固まったら、「やっぱり気がついてなかったか」と哀れみの眼差しで言われてへこんだ…


 へこみつつも朝ご飯は頂いた。


 パンと軽めのスープにサラダっぽいのに、ゆで卵付き。冷めてるけど文句ありません。


 なんの卵かも知りませんが頂きます。食べつつ、じいさんの姿がないから聞けば畑仕事に行かれたってさ。うん、俺ゆーっくりしてたようです。


 食べ終わって、後片付け。

 その後ケリーさんに風呂とか日常生活排水バージョンについてお伺いをした。

 俺もトイレ(大)の後はどうしてんの?とか女の子には聞けないね。男の人で良かったよ。 『ああ?』 みたいな顔されても流したよ。必要な事を聞くのは同性に限る。


 聞くが単語のぶつ切りでしかないのが自分でも残念。



 ここは山から水が流れているから水には困ってない。

 この家の水道として引いてる水も山水。濾過してんのか不安になったが、山の水なら水筒に汲んだ水と同じじゃね? 安全保障の項目範囲内に入っている。 …はずだ、きっと。


 「山に分け入って水源を探そうとしたんだけどよ。どーやっても途中でわからんなるんだ。近辺の山には大滝があるからな。その水脈が、こっちでも顔を出してんだと思うが見つからん。肝心な場所が不明なのは残念なんだがな」


 ケリーさんが、ため息ついて言った単語の所々が不明。しかし、なんとなく理解できる。話せないのが微妙なとこ。


 で、水の元って聞こえた単語に、あそこじゃね?と思い浮かんだが黙っといた。


 あそこは人が気軽に踏み入っていい場所じゃないと思うんだよ、俺も。

 地元の人が探して見つからないんなら、やっぱりそういった場所だろ? 見つからなくても、それで何か困ってるわけじゃないんだ。ほっとこう。 



 それより一番肝心な風呂だが、風呂屋が! 公衆浴場があった! 

 個人経営じゃなくて、村営っぽい? それとも共同経営っての? とにかくラッキー!! 今晩入れるって〜♪ それ以外は自宅で湯を沸かしての桶で行水か、山水で直洗いか。個人宅に湯船は無いようですね。


 今晩が楽しみです。


 その後はケリーさんに言われて手伝いした。

 本当はその前に服を洗いたかったが、晩に風呂いってからでないと俺が汚い… 数無い着替えの服が汚れるわ。風呂で一緒に服も洗おう。


 確認に尋ねれば、頻繁にしたらアレだが今回は構わんだろうって有り難い言葉。や〜り〜。


 手伝いは、あっち持って、こっち取って、そっち行って、ヘイヘイ♪

 手伝いながら、ここってどこ? いまっていつ? お金ってどんなの〜?とか聞いた。


 「はぁぁ? なんで、わから…  ああ、山さ迷ってたか。金って、お前… まさか、交換で済ませてきたのか? 嘘だろう?」


 変な感じで呆れられた。ついでに疑いの目で、ものごっつい見られた気がする。


 なので、全回避する。


 俺が知ってるのと違ってたら困る!と訴え、誤摩化されたら泣く!と見上げ、騙されない為にも教えて下さい!な、内容を単語で真っ向勝負で頼んだ。


 手を合わせ、顔をきっちり上げてお願いした。


 どっかの仏像を拝む様に、お〜し〜え〜て〜く〜だ〜さ〜い〜〜と、お願いした。目力も込めて願ってみたが、したことなかった以上効果は不明。 …柏手打ったら雰囲気でたかなぁ? あ? …違う、仏像に柏手打つわけない。なに考えてんだ、俺? 仏像には礼だ、礼。



 自分で言うのも、ほんっとアレだが何が功を奏したのか。手伝いながらの質問形式だったのが、変更されてケリーさん主催の俺の勉強会が開幕した。


 …こんなのをハージェストに教えて貰えれば助かったんだけどなぁ。




 ケリーさんの手持ちの金で価値を知る。

 細かい価値が違う気がする。しかも、十進法じゃありませんよ。硬貨ばっかで雰囲気が実にあれだけど、ジャラジャラジャラジャラ重くない? やだなぁ。お金に替える貴金属もジャラジャラっだってーのに。いや、違う! 十進法じゃないから、硬貨が少なくてすむんだ!



 …うう、どう考えても価値が微妙に不明です。

 今、俺が手にした硬貨が円にして百円玉だったとする。そっからリンゴが一個買えるとしても、それは国内だからだろ? その国の物価で、その価値だろ? 外国行ったらリンゴ一個じゃなくて三個買えるかもしれないじゃん? TV番組でタレントが外国行って「安い〜」って言って喜んでたのは、その国の物価指数を知らないからだって人が言ってた。だから、日々為替レートが動いてるわけだしさぁ…


 脳内価格計算に戸惑って、なんかポカしそうな俺。俺の場合は変に換算計算しない方がいいのかなぁ…? まんま、これはどの位で買えるもんって覚えた方がましぃ? 

 …ああ、そっか。 …なんだ。 下手に円換算しなくても、もう一生困らないんじゃねぇか、俺は。  する方が馬鹿か、価値覚えろだな。


 …ショウヒにゼイは、要りませんよね?




 手にした硬貨で、これで何買える?っぽい事をお尋ねする。


 「お前、相場がわかってない」


 首を振り振り、ふぅっと息吐きながら言われた。そして、教えて貰った金額計算をうっかり間違えた。



 「なんで間違える!」  「てっ!」


 ペシッと軽く頭をはたかれた。


 算数も数学も、ちゃんとしてましたから! できますから! 単に初めて見る外国硬貨と、その計算式にちょっとボケただけですって! 俺は即座理解じゃなくて、噛み締めて理解の口だから!! ついでに、単語の理解にも頭回してますからぁ!



 表情がほんとーに、 『ダメだ、こいつ』 と言ってるのが痛いが仕方ない。自分でも、どーしてあんなん間違えたと痛いが仕方ない。


 「えへっ」


 笑って流した。

 ああもう、それ以外逃げる方法がわからん! 笑って流すじゃなくて、怒って拗ねる方がいいのか!? …嫌だ。俺そんなんしたくねー。それをしても良いのは女の子だ。しかし、相手によればそれもアウトだ。こいつ馬鹿って目でしか見られねーよ。



 参考に昨日見せた飾りの相場金額を聞いてみる。


 「そりゃ、物にもよるだろ?」


 ポーチから飾り止め(ブローチ)を一つ取り出して、コレなら幾らで売るのか幾らで買うのか、聞いてみた。


 小さな花をあしらった可愛らしい飾り止め(ブローチ)


 「ん〜、飾りは俺もよくわからんが、この辺りの町では見ない類いで出来も良い。…なら、少し高めでも売れるかもな。俺の商売で売るなら〜、こんくらいか? しかし、買うならこの程度か」

 

 気分がのったのか、割合本気で考えて教えてくれた。


 ケリーさん、すっげぇいい人!


 ブツがこの先増えることはない。なくなったら終了。過剰在庫無し。うん、安売りと投げ売りはしない。

 ケリーさんが言った金額は、おねえさんが「売るなら、この位かしらね?」と前もって教えてくれた金額よりも高めだった。やっぱし、相場良く知らないとダメか… ってか場所にもよるんだろうなぁ。

 高く売るなら街だよな。買い手がいなきゃ叩かれる。人が多い方が売れる機会も多くて高値でも売れるんだろうし、初めっから高額の貴金属の換金は街だしさぁぁ。 


 だー、早くハージェストに会って拠点決めないと! ハージェスト、こっちに来てくんないかなぁ〜って、どー考えても無理だな。俺がココに居ること知らないんだからなぁ…



 飾り止め(ブローチ)を仕舞い、深々とお礼を言い、手伝いを再開。

 

 手伝う合間合間に、今度は発音練習。


 「お前の発音、ちょっとおかしいんだよ」


 言われたんで、そっから延々と。

 なーんでか上手く言えないんだよ… 耳では怪しいけど一応聞き取れてるんだよ! 怪しいけど。それを発声しようと意識したら舌が上手に回らないんだよ! むしろナニその発音って感じなんだよ! 誰か、わかってくんない? この心境。


 ああ、もうなんか疲れた… 


 自分でも 『あれ〜?』 と思うけど、なんかやけに疲れる。




 「体力ないな」


 その一言で全終了した。撃沈する。辛過ぎる。


 とっくに昼を回って、お腹すいたな〜と思う。

 もしや、昼ご飯は無しだろうか? もしかして、一日二食?と脳内で嘆く頃、じいさんが帰って来た。昨日のおばさまと女の人が一緒だった。女の人は、お孫さんだった。年は俺より少し上だろう。


 しかし、しかし、だが、しかし。 彼女は俺より、でかかった。


 いや、それがマイナスになるとかじゃなくて。

 なんていうか、その〜、あんま考えないようにしてたけどさ。ここの人達は体格良いんだよなぁ… つかさー、骨格からして違うってぇの? 根本の骨の太さ自体が違うみたいな感じがさぁ…


 魔力があるって事や使えるって事は、最初から何か違うんだろうか? 

 生まれた時から魔力が満ちる世界に生きている人達と、魔力とは無縁な世界で生まれて生きてきた俺。…なんていうの、そりゃ、俺もちょっとアレっぽいのできるよ〜になったけど。


 けど、 …だけどさ。

 いや、アレもすっごく驚いたし、ある意味興奮したけどさ。


 人体の基礎そのものが始めっから… 違ってたら。 俺、ここでやっていける? 最初に立つスタートラインそのものが、めっちゃ違う感じがしてくるのは… なんで、だろ…………



 異世界って、異世界って… 


 自分が生きていた世界と違う世界。

 魔力と聞いてトキメいた。漫画やゲームで見ていた世界を思い浮かべた。そっからよくあるパターンだって思い浮かべた。現在平穏な、ある意味全く変わらない光景に疑う気持ちも湧かなかった。

 この短期間、何もなかったから問題はないと思っていただけで、何かあっても本当の意味では俺は気付く事すらできなくて理解がつかないんじゃ…


 異なるから、あっても根源に気付けない。




 怖い、    気がした。












 はい、思考・終了。

 考えても、答えのでない怖い思考は問答無用で閉じる事にした。


 ご飯食べれてる・水飲めてる・息してる・動けてる。おーるおっけー。


 しゅうりょう〜っと。


 

 おばさまと彼女は昼ご飯をお持ちであった。にこやかに彼女と自己紹介をしあってご挨拶。お手持ちのご飯に無い尻尾を振って愛想を振ってみました。



 昼ご飯を食べていれば、じいさんが一人で渋い顔してた。食べ終わった後、孫の彼女に俺の事について話してた。


 要約すると。

 身元不明の人間で安全性が確保されてない、山狩りが終わってから〜 みたいな話が俺の目の前で繰り広げられてた…


  

 ドンッ!!


 「おじいちゃん! あたしも、それっくらいわかってるわよ。 だから、お母さんと来たんだし、ケリーさんだって居るじゃない! そんなことじゃなくて、あたしは単に見て確認したいのよ! こんなものは早くするのが一番なの! 後からなんて言って、同じ様な事考えた他の人が取ってったら終わりじゃない!」



 彼女は机を拳で叩き、ギッとした表情で俺を振り向いた。


 そのお顔に、びびりますが?

 俺の引きに気付いてんのか、無視してんのか、コロッと変わったウキウキ笑顔で彼女は言った。



 「お母さんが見た。すっごく可愛かったっていう飾り見せて」

 「ほら、昨日の品で丸い飾りがついたのあったじゃない」




 …お客様ですか!? もしかして、売れちゃいますか!?


 いそいそとブツを取り出して机の上に並べた。



 おねえさんに一番最初に使えと言われた一袋分。降りる先は山の中。人に会うのは山の麓。田舎の人。金持ちがいないとは言わないが、確率は低いと言い切った。

 高級品を出しても釣りはない。高級過ぎても良くはない。手頃に買えるとすれば、この辺り。そんな説明と一緒に包んでくれた品々だ。それでも、一つだけ高級品が入ってる。一目で高いと区別がつく。他の品と一緒にあるから余計に引き立つ。

 いざと言う時の身の保証、何かの担保にもできるでしょうと。最初の分には一つだけ。至れり尽くせりです。

       



 でも、じいさんちに泊まってるんだから宿泊費とか請求されたら物々交換? それなら現金収入無理かなぁ… 最終の支払いは、この現物以外ないからな。


 じいさんとケリーさんを完全にそっちのけで、おばさまと彼女は賑やかに、が〜っちりと品定めに入った。


 じいさんの家にあった手鏡を持ってきて品を充てがい、ちょっと澄まし顔で鏡を見る。髪をアップにしたりと自分に似合っているか、何度も確認している。鏡を見る目がウキウキと楽しんでいるけど、選ぶ姿勢は真剣だ。


 「持ってる服に合わすなら、こっちじゃない?」

 「ん〜、形や雰囲気はこっちの方が好みなんだけど〜」



 おばさまのご意見に、こうお答えになられる。


 女性のおしゃれに対する関心は異世界でも変わらないらしい。女性の買い物は時間がかかると聞きますが、姉も長かったですが、それも変わらないようです。

 うーん、パワフルです。すごいです。素晴らしいです。その勢いで売れて欲しいな〜、俺の懐あっためて。

 


 ついさっき、ケリーさんとした勉強が間髪入れずに実践に移って生かされそうです!


 そして、彼女が時間をかけて選び抜いた四点の飾りを前に彼女と俺の間で金額の単語だけが飛び交い、飾りを持ち、下ろしと時間をかけ、顔色を伺い、どう高値で売り上げようか値切ろうかと二人でやり合った。


 単語の俺に高度な話術は使えない。

 基本の表情押しと身振り手振り(ジェスチャー)だ! 合わせて彼女も身振り手振り(ジェスチャー)だ! 気分上がる!


 それを三人の大人が口出しせずに苦笑も含めて見ていてくれた。でも、最後におばさまから、お声が入りましたけどね。





 「じゃあ、これで手を打ちましょう!」


 当方の飾りをお買い求め下さり、ありがとうございま〜す。

 

 二つ売れました。上物の下と中物の部類が売れました。

 さすがと言うべきでしょうか? あれっだけ試して安物にも目をくれつつ選んだのは上物ですよ。お目が高いですねぇ。 


 …しっかし、時間かかったな〜。 はぁ。 宝飾品で、ある程度値が張るって考えたら当然か? でも、次からは数減らして出すべきぃ? 万引きされんの嫌だしよ〜。でも、好みじゃなけりゃ買わないだろうし… うーん。



 それはさておき現金収入ですよ。


 手にした金を、にまーっと見た。


 異世界に来て初めての、全く働いていない、本来の自分の持ち物でもない品で手に入れた俺の大事な大事な現金です。思考がダメな気がするのは気のせいだ。



 「良かったなぁ」


 ケリーさんが、その言葉と共に頭をグリグリ撫でてくれた。完全なガキ扱いにも何も申しません。売れた方が嬉しいです。


 大事な大事なお金様ですが、記念に取っとく事はできません。


 使わねば。まず、宿泊費と風呂代で消えるな。即座に飛び立つお金様が寂しい。

 その場で、じいさんを振り返り、宿泊費と風呂代が幾らになるか聞いた。好意があったら甘えたいな〜とも思ったが、金がある以上けじめは要るだろ? 微不審者脱却を果たさねば。 


 はい、じいさんの心証が上がったっぽいですよ。…孫の出した金が右から左へと自分の懐に流れて来るのも一因だったり?


 おばさまと彼女は夕食の作り置きをしてくれた後、帰っていかれた。


 うん、まったね〜。

 心証上がっても、俺まだ微不審者続行中だからね〜。ご飯とお金様ありがと〜う。また来てね〜。もう一つ名残惜し気に見てたから、お財布の中味と相談して、また来てね〜。

 いろんな意味で潤いってイイね〜。




 俺が行く所にはケリーさんが漏れ無くついて来る。トイレ以外、俺に一人で行くべき場所は無い。逆にケリーさんに俺が引っ付いてついていく。これが正しい。

 俺の情報収集源はケリーさんとじいさんだから、間違っても逃走なんてしないよ。必要性ないしさ。不審者の疑いが晴れるまで、ちゃんと大人しくいます。




 そして、ついに待ちに待った待望の風呂です! 一応、微不審者だから外に出ていいのか思ったから聞いた。


 「お前を取り押さえるのに苦労が要るかよ」


 言葉と同時に、ぐっ!とケリーさんの太い腕が俺の首にかかり、絞められなかったけど、しっかりと回されて固定された。


 「な?」


 身動き取れなかった。腕が首に回った後も、なんもできません。反応速度が違いすぎ…


 ケリーさんを見上げれば、俺を見下ろす目とぶつかる。

 その目が、ほらな? 苦労なんてないだろ?と、笑ってた。ムカついた。


 「くっ… こ、の!」

 「お、やるかぁ?」


 楽しそうな口調に再びムカつく。


 「こ こん… の!」


 そんで腕を外そうとした。 外れなかった… 粘って引き剥がそうと根性出したが全くダメだった。苦笑されて、無駄レッテル貼られた。


 あー… へこむ。



 じいさんの家から歩いて、ほてほてと。

 着替えを持って歩いて行けば、見えなかっただけで民家はございました。

 ケリーさんと一緒に風呂屋まで道歩きながら、あれなに? それなに?聞きながら行けば、やっぱり有り難い発音練習。



 風呂に行けば他の人に出会って当たり前。それでも、あんまり人とは会わん方がいいだろうと。仕舞いの時間帯の方が込むから、早く行くって事になった。

 んで、早めに行ったけど一番風呂を望む方々はすでに入ってらした… 人払いとかないですね。来る時も途中で他の人を見かけましたよ。不審者にしては待遇イイですか?



 スーパー銭湯とかとは全く違う。関係ない。普通に風呂。でかい木の浴槽。

 入って浴槽を見て俺は思った。 


 木工職人すげぇ! 職人レベル半端なく高っ! 檜かどうかはわからんけど、総檜風呂と考えたら、コレすげぇぇ!!



 「お、ケリー。そいつが連絡があったやつか?」

 「ああ、そうだ」


 風呂屋での社交は活発だ。居る人居る人、みーんな顔見知りらしい。

 

 「ノイ、こっち来い」

 「はーい」


 ケリーさんに促されて居合わせた人達に挨拶した。

 来た当初にした自己紹介で、ここでは名前と姓が逆だってのがわかった。その時に違うって説明もなんとかした。通じたはずだ。通じてなかったら残念。


 名前呼びの方が基本らしいが、発音としてはノイの方が簡単だし俺の呼び名はノイで定着した。つか、ノイの方をお願いした。

 仲良かったダチ以外からは乃井で呼ばれてたしさ。突然の名前呼びって慣れんです。まぁ、アクセントが微妙に違うけど、そんなん気にしない。俺の発音もおかしい言われてる。  …あ〜、あいつ元気かなぁ。


 



 ふ〜ぅ、極楽〜。ほんと〜に風呂っていいわー。 風呂文化万歳。

 体洗って、頭洗って、服洗って、服絞って。湯船に浸かって、くつろぎターイム。垢がぼろぼろ落ちた今は至福のひと時。湯の中で手を回せば、温流が生まれて体に当たって良い感じ〜 はぁぁ。



 湯船の外で体を洗っている人達を見る。


 固形じゃない、液体の石鹸でご〜しごし。共同の備え付けの石鹸がありました。全く同じような石鹸じゃなかったけどね。何で出来てんだろう? 


 あんなの自分で一から作れ、なんて言われてもね。


 自分で〜石鹸を〜作るには〜、脂となんちゃらと〜。

 作る時には劇物だから取り扱い注意の薬局買いの品がいるんだよね〜? その劇物は、なーんになるんでしたっけ〜? 固形物にする場合と液体にする場合は同じモンじゃダメなはず〜。


 そんな劇物が手に入るとは思わんから灰を使うわけだ。

 だが、灰から石鹸を作ると一口に言っても都合良く方法覚えてるわけねーだろが。趣味ないのに劇物購入して家で石鹸なんか作るかよ。売ってる石鹸あるのに。


 灰は燃えかす。燃え残りの炭や不純物が混じってる。良い物作るなら不純物は取り除く。灰は風に舞う。水に溶かせば濾過時間。漢字で灰汁あくと書くが水じゃなくて湯じゃねーの? 煮立てんの? 手間と暇。

 脂も精製済みがあるだろうか? 植物性じゃなくて動物性ならにおいそう。魚油はくさいって聞いた。臭いに釣られて「ごちになります」って、なんか来そうじゃね?


 灰汁に脂を加える時のタイミング。適切な分量に維持する温度は。どれだけ混ぜたら完成と思える色になる? それ手作業だよな? 本当に灰汁と脂だけで完成すると思えない。自然乾燥で石鹸になる最適の時間はどんだけかかる?


 チラッと考えるだけでも、問題はまだまだ存在する。

 そういうの作って一儲け? ご冗談。金を出して買えるなら俺は断然金を出す。後で買えるのか聞いてみよ。



 金儲け。仕事かぁ…

 商売でも流通じゃなくて生産系って道具や原材料とかで、かなり前金いるんじゃね? 作成に日数いるなら、その間の生活も… 売り物は試作確認いるよなぁ? そしたら今度は付加価値? 


 うーん、うーん、自前だけでオッケーな仕事の方が… 



 湯船に浸かって、ぼーっと考えるが本気で考える気がないから名案とか特にナンも浮かばない。


 そんなことよか、目の前で体を洗ってる皆の体格がほんっと〜に良い… ちくしょう、羨ましい。ガキじゃないけど体格でガキ扱いされても仕方ないのか… あー。 


 この大浴場に入った時に俺はタオルで前を隠した。

 ケリーさんは手に持っただけで別に隠しもしなかった。他の人も特に隠しもしなかった。隠せよ。ここに隠す文化はないのか? それとも、隠す意味も無い程に、知り合いしか居ないのか?

 否が応でも目に入るナニのでかさに目を背けた。ガン見する気は全くないが、見えれば見てしまう。まじまじと。風呂場で訪れた実に嫌な衝撃だった。


 どっかのセンセイが、風呂での語りは胸襟を開くとか言ってたけど、それをプラマイしても嫌な衝撃だった。



 「ノイは小さいなぁ」

 

 ……はいはい、はいはい。

 今のご発言の主旨はナンですかね? 俺の体格ですか? それともナニの話ですか!? どっちですかいねぇ!?

 俺が、ガキ体格で、皆様に、なんか、問題、がっ!?  これから大きくは… 多分なれねーよっ! 年が年だからな! がぁあああ!  けっ! 


 威嚇したら笑われた。


 ちくしょううう!! 泣いてやる! 俺のくつろぎモード返せぇぇ!!



 桶に湯を汲んで、ざばっとかけてやったわ。



 「お、ありがとな」


 間違えて終わったけどな…   水にすりゃあ、良かったんだ。ちっ。





 じいさん家に帰って、「どうした?」と聞いてくれるじいさんに訴えた。


 「うわはははははは」


 笑われた。盛大に笑って、風呂に行かれた… ふ。こんなもんさ…



 じいさんが帰って来てから、昨夜と同じく三人で飯を囲む。


 そうそう。ここで俺は「いただきます」と飯を食う。…単語しゃべりでも不正確だから、単純に「食べる」とか言ってんだが。


 じいさんは、ちょっと瞑目する。ケリーさんは手を膝の上において会釈するような感じ。どっちも祈ってる様で、形だけの様な… 熱心な気はしない。けど、形式はする。昼間、おばさまと彼女も似た感じでしてた。


 やり方は、それぞれ。

 だから、俺は俺のやり方でやっても頷かれるだけで異端とは見做されない。変に浮き上がらない。良かった、セーフだよ。異端とハブられんのは勘弁。





 昨日と同じマットレスで寝る。


 そんで、今日一日を振り返る。


 聞いて色々わかった。ご飯食べれたし、風呂にも行った。売れて金も手にした。微不審者脱却できたら問題ない。きっと…



 思う。

 これから会いに行くハージェストも、やっぱ… でかいんだろか? 

 ハージェスト… ハージェストは俺の事を笑わねぇよなぁぁ…  しかし、 『ちび』 とか言いやがったら、蹴ってやろうと決めて寝た。



 

灰で石鹸。

知識なし資料なし。そこから個人で商売としても売れる品を短時間で目指すなら勇者だと思うのですよ。




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