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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
42/239

42 物知りさんは飛び跳ねる

 

 大人の羊もどき達は、跳ねる足取りで意気軒昂と帰還する。


 『坊ちゃん、ただいま帰りやしたぜ!』

 『目は覚めましたか?』


 『ばっちり仕留めてきやしたからね!』

 『もう、安全ですぜ!』

 『仕留めた後、他の奴らも追っかけてやしたから、ちーっと時間食っちまって』

 『あと、腹減って朝飯食ってたもんで』


 『俺らも途中で二手に別れていたんですがねぇ』

 『あーんな奴らに、水を下さった大事な坊ちゃんを触れさせやしませんよ!』

 『お前ら〜、あの後なんかあったか?』


 『なんにもなかったよ!』 x 五。



 なんか、大人と子供の間で会話してる雰囲気だった。やっぱ、群れの家族なんだ。

 …あやめ姉ちゃん、俺も頑張るからね!!




 今は羊もどき達しかいない。

 ほってかれる事に痛さを感じても、話す相手はいない。


 どんな事でも区切りをつけるのは大事な事だと思う。だけど、人に話すのは難しい。誰でも良いわけじゃない。でも、こいつらは羊もどき。なら、丁度良い。黙って聞いてくれる。



 「あのね、俺これから麓の村に行くから。そっから街に行って友達探すんだ。 ……俺ね、この世界とは違う所から来たんだよ。自分じゃ来れないから、送ってもらったんだ。

 だから、もう自分じゃココから元の世界には帰れない。……帰れたとしても元の世界で生きていられるか不明でさ。…多分、無理なんだよね。難しい。俺の頭で考えても条件が厳しい。


 送ってくれたスゴい人達がね、友達がいるって教えてくれたんだ。顔も知らないけど、縁があるって。会ったら向こうが絶対わかるから大丈夫って、言ってくれたし。だから、ココへ来たんだ。すぐに会えるかわからないけど、楽しみに会いに行くんだ」


 言って大きく伸びをして、うん、なんかすっきり。声に出すって大事。

 

 ハージェストに会いに行こう。





 『なんと!! 正式でいらしたのですか!?』

 『違う世界……?  なにそれ、おいしいの?』

 『違うと思ったら〜〜! やっぱり、あの水は源泉ですかいっ!?』

 『初めてみた〜!』

 『う・ま・い・わけだぁぁぁ!!』

 『一生の運、使い果たしたぁ!? でも、惜しくねぇぇえっ!!』

 『ね〜、世界ってな〜にー?』




 もたらされた驚愕の新事実に衝撃を受け、顎を大きくカパッっと開けて羊もどき達は一斉に目を交わす。まだ分かってない子供は置いといて、大人たちは頷き合う。

 自分達もす〜っかり忘れ切っていたが、話された内容に奥深く眠っていた知識が揺さぶられ脳髄を激烈ヒット。脳内でチカチカ信号が発されて、さっさと行動しろと命令を下す。そして何より、てめぇの舌が現実を囁く。

 長老は、 『必ずや!』 とか言ってるし。


 ーー我ら自身の為にも、麓までお送りせねば!



 

 『坊ちゃん、我らが下までお送りします!』

 『街までご一緒する事はできませんが、麓までなら』

 『目につき難い所を通ります。構わないでしょう?』

 『あ、そうそう。奴らからの分捕り品もありやすよ!』

 『ううん、もっと丁寧に漁っとくべきだったか?』



 なんか急にそわそわし始めたけど、どうしたのかなぁ? こいつら。



 ジャラジャラ、ジャ! カチャン、ガチャ! ジャララン!!


 

 ………なんか、すごくいい音がした。

 どうやったのか不明だけど、羊もどき達の足元にブツが転がってた。


 ………………そのもっこもこの毛皮の中ってどうなってんの? 収納スーペスあんの? てか、お前ら。……羊もどきじゃなかったりぃ?


 

 『 追求しちゃダメだよ 』


 脳内で、「探求心を忘れるな!」と告げる声に、「総てを知る必要性がどこに?」とせめぐ思考。その合間を縫って、優しい天の声が聞こえた気がしたから… はい、スルー。


 ここ、異世界。人の言葉は話してない。 ……だから、羊もどきでイイんだよね〜 生温く。



 「貰って良いの?」


 くれるって顔に聞いたら頷いた。どうするよ、意思の疎通できてんよー。


 「ええと… ありがとう〜」


 もう自分に優しく考えて、再びブツ達を詰めた。



 軽いお昼ご飯にして、水飲んで。


 確認に水筒を振ったが、大きな水音もしない。中蓋も開けて再確認。満杯状態。

 昨日の夜、根野菜のシチュー貰うまでの三日間の水分は水筒の水だけだった。こいつらにも一杯分だけど水を上げた。


 この水筒にも魔力で軽量化を掛けておくからねって、してくれた。スチール製っぽい水筒。縫い取りはできないから、指でなんか描いてた。

 

 「泉の水は良い水だから、汲めるだけ汲んで行きなさい」


 おねえさんの教えに暫く待つつもりでいて、花冠編むのに夢中になってた。

 この水筒どんだけ水入ったんだろうか? 俺が持てる程度でないと持ち上げられなくなるから…  いやそれより、腐らない… よなぁ? いや、でも時間は流れるし…  うーむ、水の質に期待しよう。

 あれ…? 俺の色石いつ取り出せるんだ? まぁ… いっか。確かに入れたんだ。



 余裕がありまくりと判断し直した。貰ったお礼もかねて、今日は皆にしっかり一杯ずつ。


 「ンメェェ!」 「メェェ!!」 「メメメェェ… 」


 羊の狂喜乱舞って初めて見た。感極まってる風なのもいるし。そんなに嬉しいんだ。…まさかだが、お前ら酔っぱらうなよ?



 借りてた毛布は畳んでお返しする。自分の毛布も畳む。ああ、日干しってイイネ。


 「一晩お世話になりました。待てないので行きます。ありがとうございました。それと… 洋灯ランプ下さい」


 出発準備を整えた後、誰もいない家に向かってお辞儀した。



 乱舞が落ち着いた羊もどき達が送ってくれる感じ。背中のれってポーズする。恐る恐る大人のでかい羊もどきに跨がってみた。

 しっかりした体躯に厚い毛が良いクッション材だった。でも、手綱とかないし。掴むとこが無いから、毛を掴んだけど痛くないといいな。



 とっことっこ歩いてくれる。あー、なんか楽〜。

 楽な移動が有り難い。気持ちに余裕が出る。嬉しさから、にこにこして周りを見てたら歩みが変わった。



 歩み(とっことっこ)から、小走り(とことこ)に変わった。小走り(とことこ)から、駆け足(ととと)になった。駆け足(ととと)から、疾走(どどど)になって… 


 最後、疾走(どどど)から、疾駆(だだだっ)に変わった!



 うひぃぃぃ!!

 

 ふ・風圧。風圧がっ! すげ、すげえんだけど! ちょっ、ちょっとま… 振動も結構来るってぇ!



 でも。

 それでも、走る風は気持ちよかった。耳元で風がビュンビュン言ってる。

 どんどん前に進んでいく感じが気持ちよかった。俺を真ん中にして周りにみーんながいるから、ほんと群れ成して突き進むって感じがすごかった!



 ボスッ!


 「うわぉっ!」


 一回藪の中に突っ込んだ。


 羊もどきの背に、さっと身を伏せる。

 なんかもう、毛を握り締める手は固まった感じだけど、すごくてすごくて気持ちよかった!!


 そんで、最後の最後が大舞台だった。


 先頭の子がポーンとジャンプ。続いて俺を乗せてくれてる子もジャ〜ンプ。

 視界が開けて周囲が見渡せて、山の上で遠くに見えた街がまた見えた。 ああ、街だ。村から街へ、あそこに行くんだ。そう、思った。


 その後、衝撃が来なかった。

 あれ?と、下を見たら大地が遠かった。素晴らしく遠かった。崖、飛んでた。みんなして、崖、飛んでた。

 下見た高さに、くらっと来た。


 前に感じてた風圧が下からの吹き上げる風に変わる。



 ヒュウウウウウッ ……



 この風圧が自然の法則に従って空気抵抗やら何からで俺の体を押し上げる。


 ふわっ… 


 羊もどきから少しだけ俺の体が宙に浮く。エレベーターの乗降時にくる、僅かなあの浮遊感にも似ていた… 瞬間的で決定的な滞空時間に俺の頭の中の何かが青褪めていく。



 「う、 うわぁあああああ!!!」



 思考より何より、しがみついたよ! 必死で羊もどきの体に 『がしっ!』 と、しがみついたさ!! 足で挟んだよ! 血の気が引くわ!


 羊もどきの体に引っ付いて上を見た。

 ら、後に続いてたみんなの姿があった。ポーンと飛んだ瞬間の四つ足に腹が見えた。


 下からのアングルって、それはそれでありだね〜。お腹柔らかそ〜う。



 なんて思って気を逸らしたら、どんっ!と衝撃が来て、今度は体が前に持っていかれる!



 「だぁぁあああああ!!!」



 もっぺん叫んで、しがみついた!

 再びの浮遊感に、足場を蹴っただけかと理解した。その後、数回の衝撃後に大地に到着した。



 ああ、………怖かった。

 いやさ、最初みた光景とかすごかったよ。でもさ、心構えなかったんだよね? 飛ぶなんて考えもしなかったんだ。わかってたら違ってたと思うんだ。もっと楽しめたかも知れないよ?

 でも、安全ベルトなしで、いきなりはキツいと思うんだ!! 俺がへたれてるのは、おかしくない!



 安定している羊もどきの背に跨がったまま、飛んできた崖を見上げた。高かった。心拍数が急上昇してのドッキドキ。走ってない息がゼイゼイと口から漏れてます。


 高い青空に、なんだか笑えてきた。

 羊もどき達のおかげで笑えた。異世界到着四日目にして、本当に腹の底から笑う事ができた。人じゃない所も笑える。


 

 「あは、ははは。あはははは!   あ〜、ありがとう」


 笑って笑って、そう、言った。



 『ん? 坊ちゃん。今のお気に召しましたかい?』

 『楽しかったのなら、もっかい飛びやしょうか?』

 『いや〜、やっぱり起伏に富んだルートを選んで良かったなぁ。坊ちゃん、喜んでるよ!』

 『ああ、わざわざ遠回りした甲斐があったな!』

 『成功だ!』


 『やっぱり、面白い方がいいよねー』

 『ねー。 またしようね』



 羊もどきはサービス精神が旺盛であった。







 そこから道があった。踏み固められた通り道。


 「あの道かな」


 こっちを見てるけど、そこから皆は動かなかった。

 ここで、お別れ。

 寂しいけど、俺は山の中では生きていけない。一緒に来て欲しくもあるけど、それは無理。面倒見られない。自分だけで手一杯。


 「ありがとう。俺は乃井 梓だよ。また会えるといいね」

 

 遅ればせながらの名前を名乗って、乗せてくれた子を抱きしめて皆を見て別れを告げた。

 道を歩き出して、二回振り返った。二回ともそこにいた。それに、一声上げてくれた。嬉しくなって木立の間から手を振って、笑って「さよなら、ありがとう」 またね。


 さぁ、今度こそ、人との交流だ!

 そして、ココはどこだ!だ。異世界だって事はイイから、普通に現在地はどこですか?だ!













 『『『『 坊ちゃん、行ってらっしゃいやし!  気ぃつけなすってぇぇぇ!! 』』』』



 さよならと、手を振られるお姿に我らは皆で声を揃えて送り出し申し上げた。


 



 『行かれたな』

 『ああ、行かれた』

 『手を振って、笑って行かれた』

 『嬉しそうだった』


 『あやつらが何をしてるか、覗き見に来て正解だった』

 『待て、来てなかったら、もっと早くお会いできたんじゃないか?』

 『何にせよ、気付けて良かった』

 『ああ、全くだ。移動してたら、気付くのが遅れていた事だろう』



 『我らは水を頂戴した』

 『我らは、お送りした』

 『あの馬鹿共を退治した』

 「我らには不要な、だが、邪魔にならん物もお渡しできた』

 『我らに笑って行かれた』


 『我らは、ヨイことをした』







   『 そう。 我らは、善いことしたー(呪われなーいっ)!! ちゃんとしましたぁぁ(ですよねー)!!! 』





 とある崖下にて、立場的には真実崖っぷちに立っていた羊もどき達の大合唱(申請)が行われた。














 この世界には魔力が満ちている。満ちる魔力は人や獣、動植物に恩恵を与えている。

 そして、人の名付けから魔鳥や魔獣と呼び合わされた。では、その範疇に収まらないものは、どう呼ばれるか?


 魔物である。


 人の知り得る範囲において、その正体が定かならざらぬモノ。それが魔物と呼ばれる。


 どのようにして、何の為に存在するのか不明なモノ。しかし、何の為にというのであれば、それは全てに符合しそうなものなのだが。


 かつては、の物。はざまの物。

 とも、呼ばれたと言うが、人の世の時の流れに従いて最早それは定かではない話だ。























 余談。

 羊もどき達との出会い(イベント)は正面玄関を通るとほぼ発生。泉の水(・・・)を所持していれば好感度は鰻登り。

 また世界に数少ない玄関には、必ず水が完備されているので、その地にあっては様々な違う水待ちの子が居たりします。


 源泉垂れ流しの… いえ、源泉掛け流し… もとい、源泉の湧き水を汲む事が許されるのは正面玄関を通る者への特典です。通過者の為にあるので通過者であれば汲める回数制限などありません。どこの玄関でも汲む事は可能。


 水は流れ落ちます。合わせて濃度も落ちていきます。

 原っぱ内が、源泉十割の甘露水。

 原っぱから先の狭い指定範囲で流れる水が七割甘露水。

 範囲外から山の中腹に到れば五割五分となり、中腹から麓までで二割に落ち、麓に到って流れて行けば普通の水です。最も上等に部類する美味しい水です。

 


 

 羊もどき達のように水待ちの子達は、指定範囲外からの甘露水から飲むことが可能ですが、その先の指定範囲内に入る事はできません。なので当然、原っぱには入れません。

 道に迷った魔力の使えない邪気の意図を持たない者だけが七割の甘露水を汲む事ができ、たま〜の幸運にそれにありつけます。ありつけたら、道案内したりして友好を計ったり計らなかったり。


 ただ。水待ちの子らも移動はします。億万に一つの素晴らしいクリティカルを、かっ飛ばすと泉の水を所持していても水待ちの子には遭遇しません。

 生きて生活して遊び心もありますので、水だけで生きられる種で石頭がっちがちの動かない子でないと絶対はありません。ですが、そんな子ほど居る事に拘って目的を忘れる残念な傾向が見受けられます。

 水待ちの子らは泉の番人ではなく、泉には番人そのものが存在しません。番人の必要性がないからです。

 



 

つまり、奴らは羊の皮をカブッた な・ん・と・や・ら〜


…………………………  イ ヒ  ッ 





 ↑  いひっ = 化ける 


紙面にしたら読みやすいですが、即座に読めた方、元ネタご存知か頭が柔軟ですね。


41+42 今回は一話を分割しました。

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